【完結】オリジナル魔法少女育成計画 罠罠罠   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。今回は視点移動がかなり激しめです。1話で視点移動を過度に使うのはどうかなぁって気もしましたが、まぁ1回だけならいいかなってことにします。何事にも例外はあるものなのです。



29.想定外なことばかり

 

 

 ☆ぽむらちゃん

 

 一部の天井がぶち抜かれ、雨の降り注ぐアーケード商店街にて。星井ミクの召喚した巨大な流れ星と、ムイムイが設置した巨壁に挟まれ、為すすべもなく潰されてしまったぽむらちゃんは吐血とともに、その場に力なく倒れる。

 

 

「いぇーい! 大勝利ぃ!」

「やったの! ミクたち勝てたの! 一時はどうなるかと思ったの!」

「皆、よくやってくれたのだ」

 

 うつ伏せに倒れたぽむらちゃんの意識が遠のく中、ぽむらちゃんの両眼に映ったのは、勝利のハイタッチをするなのだ先輩、星井ミク、ムイムイの姿。

 

 

「……ふぅ。しかし、さすがに立っているのはきついのだ。意識も朦朧としてきたのだ」

「あ、そうだったの! なのさんの怪我を治療しないといけないの!」

「ミクちゃんはなのちゃんの手当てをしててよ。その間に、ムイムイが何か治療に役立ちそうなのを召喚するからぁ」

 

 ひとしきり勝利を喜んだ3名。だが、此度の戦闘で深手を負ったなのだ先輩がその場に尻もちをついたのを機に、星井ミクとムイムイはなのだ先輩の治療に意識を向け始める。

 

 

(……ダメ。こんなの、ダメだぴょん。悪は、悪は絶対に滅びないとダメなんだぴょん)

 

 3人の悪の魔法少女が、あんなにも平和そうな顔をしている。安堵の表情をしている。奴らは、多くの人間を虐殺した極悪魔法少女なのに。なのに今、悪はのうのうと生き延びて、正義が敗北の死を迎えようとしている。そんなこと、許されない。認められない。

 

 

(動け、私の手……)

 

 ぽむらちゃんは手の中にビー玉サイズのボムを4つ、生成する。そして、ロクに動こうとしない右手を、悪の殲滅を望む強硬な意思の力で動かし、3つのボムを宙へ軽く投げ上げる。そして、3つのボムの背後にもう1つのボムを放り、爆発させた。ボムを吹っ飛ばす対象に定めたために、背後のボムの爆発に煽られた3つのボムは、ぐんぐん速度を上げて悪の魔法少女3人に迫る。

 

 

(吹っ飛べぇ……!)

 

 ぽむらちゃんは悪の魔法少女たちをギロリと憎悪の眼差しで凝視しながら念を込める。最後の力を振り絞って繰り出したぽむらちゃんの攻撃が当たることを心から祈る。

 

 

「なぁ!?」

 

 はたして、ぽむらちゃんの祈りは天に通じた。ボムが目と鼻の先にまで迫ってようやく、ぽむらちゃんがまだ死んでいないことになのだ先輩が気づくも、時すでに遅し。3つのボムはそれぞれ爆発し、なのだ先輩を。星井ミクを。ムイムイを。盛大に吹っ飛ばす。威力をこれでもかと高めた超強力なぽむらちゃんのボムの爆風により、悪の魔法少女3名は為すすべもなく吹っ飛ばされ、瞬く間にぽむらちゃんの視界外へと消え去った。

 

 今ので悪を滅ぼせただろうか。きちんと殺せただろうか。できることなら確かめに行きたかったが、ぽむらちゃんの体は、意識はもう限界だった。正義がこんな惨めな負け方をするなんて。ぽむらちゃんはまだまだ未熟な己への後悔を胸に抱き、そして。ぽむらちゃんは事切れた。

 

 

 

 ☆なのだ先輩

 

 

「……ぐ」

 

 なのだ先輩は己の体に絡みつき、徐々に威力を強めていく痛みに耐えかねて、目を覚ます。頭にどっさりと何かがのしかかっているような感覚を覚え、軽く頭を下に振ると、ボロボロのコンクリートブロックがドサッと地面に落ちた。

 

 

「こ、こは?」

 

 擦り切れた声で疑問を口にするとともに、なのだ先輩は目だけで周囲を見やる。見た所、なのだ先輩は今、廃墟にいるようだ。なのだ先輩の背後の半壊した3階建てのビルの豪雨に打たれる様が何とももの悲しさを醸成している。

 

 

(くそッ、また奴にやられた……!)

 

 と、ここで。意識を失う前に、ぽむらちゃんのボムで盛大に吹っ飛ばされたことを思い出したなのだ先輩はギリリと歯噛みする。前に、廃ビルで今後の方針を定める話し合いをしていた時も、今回も、ぽむらちゃんに不意を突かれた。出し抜かれた。なのだ先輩の中で、ぽむらちゃんを確実に仕留めそこなった悔しさがどんどん膨張の一途をたどっていく。

 

 

「ッ!」

(立って歩くのは、厳しいか?)

 

 しかし、今は強い感情で我を忘れている場合ではない。より周囲の状況を確かめるべく、立ち上がるなのだ先輩だが、直後に全身に激痛が走り、なのだ先輩は己の肩を両腕で抱いて痛みが過ぎ去るまでただ耐え抜く。EFBとぽむらちゃんの魔法で深く傷ついたなのだ先輩の体はもう、限界スレスレにまで差し掛かっているのだ。その後、一旦痛みが耐えきれる程度にまで収まった時。動くべきか、留まるべきかとなのだ先輩が考えていると、ポタポタと上から何か液体が滴り落ちているような音の存在に気づいた。

 

 なのだ先輩は上を見上げて、絶句した。茶髪のゆるふわパーマな髪型の女子高生の頭が、廃墟ゆえに剥き出しになっていた鉄骨に突き刺さっていたのだ。腹部にも鉄骨が突き刺さっているために地面に落ちることなく壁に磔になったままの女子高生の、グワッと見開かれた両眼が、死に際がいかに激痛に満ち満ちていたかを物語っている。

 

 女子高生の真下に形成された血の水たまりは赤く、新鮮だ。この女子高生が殺されたのはそう昔のことではないはずだ。となると、あたしがここに吹っ飛ばされたことを鑑みて。ミクか、ムイムイが死んだ可能性が高い。

 

 

(まぁ、他の魔法少女の死体の可能性もあるがな)

「ぅ……」

 

 常人なら痛みに耐えかねて、とっくに気絶するなり発狂するなりしそうなほどの深手を抱えながらも、それでもしっかりとなのだ先輩は思考を続けていく。と、その時。かすかなうめき声が、付近の瓦礫の山の中から聞こえてきた。誰かが、いる。なのだ先輩が瓦礫を速やかに掘り進むと、瓦礫の中の空洞にて、露出の多いへそ出し宇宙服が特徴的な星井ミクが、全身に打撲痕を刻み、頭からタラリと血を流す姿があった。

 

 

(ならば、あそこの鉄骨に突き刺さっているのはムイムイか……)

「ミク、ミク。しっかりするのだ」

「……ぁえ? なの、さん?」

 

 なのだ先輩が星井ミクの体を揺すり、声を掛けると、星井ミクは寝ぼけ眼でなのだ先輩を見上げる。どうやらまだ星井ミクの意識は覚醒しきっていないようだ。

 

 

「いたぞ! 化け物だ!」

「え?」

 

 と、ここで。なのだ先輩の背後から、男性の野太い声が轟いた。なのだ先輩が驚愕とともに目だけで背後に視線を向けると、迷彩服にアサルトライフルを装備した、自衛隊5名が今にもなのだ先輩にアサルトライフルの照準を定めようとしていた。

 

 

(なぜ、なぜだ!? どうしてここに自衛隊がいる!? いかなる生命体の通過を許さない結界がR市の境界に張られているんじゃなかったのか!? まさか、フォーが盗み取った情報にウソが混じっていたと? それこそあり得ない! サンタマリアの力で強化されたフォーの魔法による諜報活動を読んでガセ情報を流せるわけ――いや、そうか。そもそもあの追っ手の魔法少女4名にはコットンの魔法による洗脳が入っているから、コットンが設定した過去、信条を元に動くわけだ。つまり、結界なんてものはウソで、追っ手の魔法少女たちはコットンの魔法で結界があるものと思い込まされていたのか。はは、何だ。結界なんてものはそもそもなかったのか)

 

 なぜ、R市に16名の魔法少女以外の人間がいるのか。なのだ先輩の脳内は一時パニックに陥るも、すぐにあり得る展開に思い至り、今の今まですっかり踊らされていた己を自嘲する。

 

 

「なの、さん? 顔怖いの。どうしたの?」

 

 なのだ先輩の背後で、今にも自衛隊5名が一斉射撃に移ろうとしている。そんな中。未だに意識が朦朧としている星井ミクがコテンと首を傾けてなのだ先輩に問いかける。ここで、なのだ先輩は決めた。己の選択を。あたしの体はもう、治療できる段階をとっくに超越している。もう、おそらくあたしの死は避けられない。確定的だ。ならば、やることは1つだ。

 

 

「ミク、静かにしているのだ」

「え?」

「……君だけでも、生き残るのだ」

 

 なのだ先輩は星井ミクに一言メッセージを残すと、困惑中の星井ミクを己の魔法で10センチサイズに縮めた上で、先ほど星井ミクを見つけ出した瓦礫の山の中の空洞へと、小さくなった星井ミクを戻し入れる。幸い、自衛隊はあたしの背後から現れた。ミクの存在に気づいていない可能性は十分考慮できる。先ほどの第一声も、「いたぞ! 化け物だ!」で、「化け物ども」とは叫んでいなかった。なら。ミクだけでも、守れるはずだ。

 

 

「撃てぇえええええええ!!」

 

 直後、自衛隊の隊長格から号令がかかり、アサルトライフルの連射音が廃墟に立て続けに反響する。なのだ先輩の体には次々と穴が開き、それでも自衛隊の発砲は止まらない。しっかりとオーバーキルしきらないことには化け物を殺した確証を得られないと言わんばかりに自衛隊のアサルトライフルから射出される弾丸が、なのだ先輩の体をどんどん穴だらけに変えていく。

 

 銃弾が体を貫く度に、なのだ先輩の視界が明滅を繰り返し、全身を焼き焦がす激痛に絶叫しようとして、しかし血を多分に含んだ咳を吐くことしかできない。今まさに、惨殺されようとしている当事者たるなのだ先輩の脳裏には、前世の己の死に際の姿が想起されていた。

 

 

(あぁ、前世でなぜ虚しさを感じながら死ぬこととなったのか、わかった。前世のあたしには、何も残ってなかった。やりたい放題好き放題に暴れ回った悪行は残るけど、あたしの思いを、思想を受け継がせられる次世代が、次を任せられる者が、託せる者がいなかったんだ。だから、足りなかった。その孤独が、虚しさの正体だったんだ。でも、今は残せる。ミクを残せる。あたしが命を賭して守ったミクが今後、生きているだけで、あたしが守った甲斐を残せる。あたしの爪痕を、次に、未来に残せる。あぁ、これだ。これだったんだ!)

 

 なのだ先輩は歓喜していた。今になってようやく、最上の幸せに到達するために欠かせない要素の正体に辿り着けたからだ。前世では安穏とした寿命の死で、痛みはなかった。今世では寿命にまるで届かず、銃弾にハチの巣にされる激痛の果ての死だ。だけど、間違いなく幸せな今世の最期をなのだ先輩は少しでも味わい尽くすために、ゆっくりと目を瞑る。

 

 

(はてさて。もしも来世にも記憶を持ち越せたのなら、その時はもう一度善人をやるか、悪人に返り咲いてみるか、どうしたものか。孤独でさえなければ幸せになれるとわかった以上、どっちに走ってもいいわけだ。己の本能に忠実に生きるなら悪人一択だが、全力で善人のフリをするのもやりがいがある。やれやれ、どちらも捨てがたいな――)

 

 そう、考えを巡らせていた所で。なのだ先輩の死を決定づける凶弾が、なのだ先輩の心臓を貫き通す。なのだ先輩はコフッと血を吐き出し、うつ伏せに倒れる。意識を手放したなのだ先輩の最期は、銃弾の弾幕を喰らったにしては、随分と安らかな顔をしていた。

 

 

 

 ☆星井ミク

 

 

「なの、さん?」

 

 なのだ先輩の体を次々と銃弾が貫いていく。そのような残酷な光景が目の前で展開されたために、ただいま10センチサイズな星井ミクはただただなのだ先輩を呆然と見上げていた。眠気なんてとっくに吹っ飛んでいる。意識なんて既に覚醒している。

 

 星井ミクの視線の先で。なのだ先輩が吐血し、倒れ伏す。今の星井ミクが手乗りサイズゆえになのだ先輩が地面に倒れた衝撃による揺れでバランスを崩しかける。が、星井ミクにはそんな些事なんてどうでもよかった。なぜ、どうして。なのだ先輩がこんなにも理不尽に撃たれまくっているのか。星井ミクの頭には疑問がぐるぐるうずまいていた。

 

 が、現状把握の追いつかない星井ミクのことなど知ったことかと、盤面は動く。血まみれの、貫通銃創まみれのなのだ先輩が変身前の姿に戻る。変身前のなのだ先輩は。見るからに小柄で。幼げな顔つきは。小学生だとすぐにわかった。きっと、なのだ先輩は命の危機から私を庇ってくれた。つまり、こんな小さな、小学生に守られたのだ、私は。

 

 

「あ、あああ……!」

「む、声がしたぞ! まだ近くに化け物が潜んでいるのか!?」

 

 後悔。絶望。罪悪感。無念。様々な負の感情でごちゃごちゃになった星井ミクはもう動かないなのだ先輩、もとい小森菜乃を前にボロボロ涙を流し、悲愴に満ちた叫び声を轟かせる。星井ミクの声に気づいた自衛隊5名が臨戦態勢を維持する中、対する星井ミクもまた、聞こえてきた男性の声から自衛隊の存在に気づいた。

 

 

「ぁぁあああああああああああああ!!」

(あいつらが、あいつらがなのさんを! なのさんをなのさんをなのさんをなのさんをなのさんをぉおおおおおおおおおおおおおおお!!)

 

 瞬間、星井ミクの中でひしめく負の感情の内、憎しみが一気に存在感を増した。星井ミクは瓦礫の中から外へと飛び出す。そして、雄叫びのままに星井ミクは周囲一帯に次々と巨大な流れ星を落としていく。アサルトライフルごときで巨大な流れ星を撃ち砕けるわけもなく。自衛隊5名はあっという間に巨大な流れ星に潰され、圧死した。

 

 

「返せ! 返して! なのさんを返せぇええええええええ!」

 

 が、それでも星井ミクの暴走は止まらない。星井ミクの気は収まらない。憎しみのままに自衛隊5名を魔法で潰し終えた星井ミクは周囲に大量の流れ星を落とし続ける。まるでお気に入りの玩具を捨てられて泣きわめく幼子のように。ひたすらにもう取り戻せないものを欲して、星井ミクは周囲に徹底的な破壊をまき散らし続ける。

 

 

「……」

 

 星井ミクが魔法による破壊活動をやめた時。周囲はすっかり荒廃していた。残っている建物なんて、どこにもない。ただ、瓦礫と流れ星の集合体が周囲一帯に広がっているのみだ。そして。ただ、ぽつりと。瓦礫の山を足場にして、星井ミクが立っているだけだ。

 

 

「なのさんのいない世界に、価値なんてないの……」

 

 振り切れた破壊衝動の反動か、すっかり気分が沈鬱になった星井ミクは、頭上に流れ星を召喚する。星井ミクは、己の頭目がけて落下を開始する流れ星をただぼんやりと見上げる。今の星井ミクはなのだ先輩の魔法がかかったままで、10センチサイズのままだ。ゆえに、大して大きくない流れ星でも、簡単に命を終わらせることができる。これで、私も死ぬ。死後の世界がどうなっているかはわからないけれど。

 

 

(なのさんに会えたらいいな……)

 

 星井ミクの泣き腫らした瞳から、改めてツゥと一筋の涙が頬を伝う中。

 己の魔法で衝動的に自殺を実行しようとする星井ミクは、ここで気を失った。

 首筋に(・・・)強烈な衝撃を喰らい、星井ミクの意識は闇へと誘われた。

 

 

 

 ☆コットン

 

「ごめ、んね……」

 

 ショッピングモール前の路上にて。コットンの木刀で左目を、脳を勢いよく貫かれたミラクルシャインは最期にかすれた声でコットンへの謝罪を残し、バシャンと地面に倒れ伏す。直後。ミラクルシャインの変身が解け、血まみれの後藤光希へと切り替わる。

 

 

「え、え?」

 

 だが。ミラクルシャインの贖罪の提案への拒否を、ミラクルシャインにトドメを刺すという態度で示したはずのコットンは困惑していた。なぜなら、コットンにミラクルシャインを殺すつもりがなかったからだ。ミラクルシャインの説得に感化されたコットンは、ミラクルシャインの手を取って、早まってとんでもない過ちを犯してしまった償いをする旨を宣言するつもりだったのだ。自分なりに、ミラクルシャインと一緒に、贖罪を始めるつもりだったのだ。

 

 なのに、コットンの木刀はミラクルシャインの左目を貫き、ミラクルシャインを絶命に至らしめている。なんだ、これは。どうして、僕はミラクルさんを殺し――。

 

 

「あらあら。派手にやりましたわね」

「ファソラ、さん?」

「いいですわね、コットンさん。今の貴女、極上の呆然顔ですわよ。やはり、貴女は優秀な素材でしたわね。わたくしの目に狂いはありませんでしたわ」

「何を、言ってるのです?」

「わかりませんか? でしたら、種明かしを始めましょう」

 

 パチパチパチとの拍手とともに、コットンの背後からファソラの声がかかる。コットンはミラクルシャインを自らの手で殺害した衝撃から抜け出せないままファソラを見上げると、対するファソラは大層嬉しそうに言葉を続ける。ファソラの意図がわからない。その旨を正直に口にすると、ファソラは得意げな面持ちで言葉を紡いだ。

 

 

「この度、この世の偽善者な魔法少女を全員漏れなく絶望させて無残に殺そうと、コットンさんが決意した原点、動機。それは、ミラクルシャインさんに中途半端に救われたせいで、コットンさんのみが助かり、家族が全員死んだ上に、ミラクルシャインさんがそのことに一切気に病んでいないこと、でしたわね。ええ、ええ。確かにこれはコットンさんがミラクルシャインさんを始めとした偽善者な魔法少女を恨むには十分な悲劇でしょう。もしもわたくしが家族思いの正常な女の子なら、きっとコットンさんと似たような心境に至ったことでしょう。……ですが、よく考えてみてください。全ての偽善者な魔法少女を皆殺しにしようと思えるほどに重い過去ではないと、元々猟奇的嗜好もないのに偽善者な魔法少女の大量殺戮に走るにはいささか動機が足りないと、思いませんか?」

「ッ!? ま、さか……」

 

 ファソラはにんまり笑顔をキープしたまま、コットンに問いかける。今、このタイミングで。ミラクルさんを殺してしまった後で。ファソラがにやけ面を前面に押し出しているのは、なぜなのか。そこまで考えた所で、コットンは気づいた。最悪の可能性に、たどり着いてしまった。

 

 

「あらあら。理解が早くて助かりますわ。そう、その通りですわ。わたくしの魔法で、貴女の復讐心を増幅させたのですよ。ミラクルシャインさんを筆頭とした偽善者な魔法少女を殺したい、この世から消し去りたいと思いつつも、精神異常者でないがゆえに、実践にはとても踏み切れなかったコットンさんの背中を押すための魔法の音楽を少々、わたくしが奏でてあげたのですわ」

「そん、な……」

 

 ファソラの告白により発覚した衝撃的な事実に、コットンは呆然と目を見開いていた。己のミラクルシャインへの、偽善者な魔法少女への復讐心は、本物だと思っていた。でも、実際は違った。実際の憎しみは、復讐心は、実際に偽善者な魔法少女の殲滅を企み、実行するほど強大なものではなかった。ファソラの魔法により無理やり増幅された、偽りの感情だったのだ。

 

 

「ついでに、今さっきも同じ系統の音楽を奏でさせていただきましたわ。だって、せっかくコットンさんがミラクルシャインさんを殺せる絶好のシチュエーションが巡ってきたのに、コットンさんがあっさりミラクルシャインさんに説得されて魔法少女殺戮活動をやめようとしちゃうんですもの。人間、初志貫徹が一番かと思いましたので、改めてわたくしの魔法の音楽で貴女の復讐心を一時的に膨れ上がらせて、貴女が衝動的にミラクルシャインさんを殺す手助けをさせていただきましたわ。雨の環境音に極力似せたわたくしの音楽は、心地よかったでしょう?」

「……ファソラ」

「ふふふ。今、どんな気持ちでして、コットンさん? ミラクルシャインさんを殺した感想は? 殺意を抱きつつも、何だかんだ尊敬していたミラクルシャインさんを自分の手で容赦なく殺した感想は? ねぇ、今どんな気持ちなんですの? 詳細を、委細を、わたくしに語り尽くしていただけませんか?」

 

 コットンの呼吸が荒くなる。真実をうまく呑み込めない。動悸が酷く激しい。が、そのようなコットンの体調や精神状態など知ったものかとファソラはさらなる種明かしを行う。ファソラから目線を逸らし、改めて左目を貫かれて絶命したミラクルシャインを見つめる。わざとか、素なのか。ファソラがコットンを存分に煽りにかかる中。コットンの心の主導権を一気に握ったのは、ファソラへの憤りだった。

 

 

「ファソラァァアアアアアアアアアアアアアアア!!」

「あぁ、いい顔。激情をむき出しにした憤怒の表情も素敵ですわ。でも――所詮、貴女はこんなものですわ」

 

 コットンは憎きファソラを即刻殺すべく、木刀を固く握りしめてファソラへと駆ける。一方。ファソラは憤るコットンの表情を恍惚として眺めていたが、直後。冷たい眼差しとともに、ファソラは己の発言を通して魔法を行使した。

 

 

「ッ!? あ……ぁ、あ……!」

 

 刹那。コットンは、ファソラへの戦意を失い、膝をつく。大切なものを、取り零してしまった喪失感が突如としてコットンの心奥からあふれ出し、コットンの心にがんじがらめに絡みつく。愛していた家族、敬意を抱いていたミラクルシャイン。でも、もう会えない。話せない。喜怒哀楽を共有できない。コットンの心を悲しみの青が覆い尽くす。言葉が、出てこない。表現できない。ファソラの魔法で、喪失感に伴う悲しみや絶望感を増幅させられたコットンは、戦闘不能に陥った。

 

 

「悲しいでしょう? 辛いでしょう? 楽に、なりたくありませんか?」

「楽、に?」

「ええ。そのための武器を、コットンさんは持っているでしょう? ほら」

「あ……」

 

 ボロボロと涙の粒を零し続けるコットンにファソラは柔和な笑みを浮かべ、指でそれを指し示す。ファソラの視線を追ったコットンの両眼に、未だ握ったままの木刀が映った。ミラクルシャインにトドメを刺した凶器が、視界に映し出された。

 

 そうだ、その手があった。どうしてこんなに悲しい思いをしないといけないんだ。楽になれる道があるのなら、選ぶべきだ。……死のう。死んで、家族に会って、あの幸せな日々を取り戻すんだ。ミラクルさんにも会って、僕のやってしまったことを謝るんだ。

 

 

「ごめん、なさい」

 

 コットンは木刀の切っ先を己の左目に向ける。さっきはこれでミラクルさんを殺せたんだ。目ごと脳を潰せば、死ねるはずだ。コットンは誰に向けるでもない謝罪をその場に残す。ニマニマとした表情でファソラがコットンの様子を見守る中。コットンが自殺に踏み切ろうとした、その時。

 

 

「が、ふ!?」

「……え?」

 

 ファソラの背中をグサリと何かが深々と貫いた。ファソラが困惑のままに真下に視線を向けると、腹部から血の滴る槍の穂先が突き出ていた。困惑しているのはコットンも同様だった。なぜなら。ファソラに奇襲を行った正体が、この場に存在するはずのない者だったからだ。

 

 

「な、ぜ……貴女が…ぁ…!?」

「……」

 

 完全に虚をつかれたファソラもまた、背後に視線を向けたことで己の体を突き刺した者の正体を知り、驚愕に目を見開く。が、奇襲を成功させた当の本人は沈黙するのみだ。

 

 

「……ラスト、さん!?」

 

 現れたのは。ぽむらちゃんに殺されたはずのラストエンゲージだった。

 なぜか見た目はすっかり様変わりしているが、それでも変わらぬ雰囲気を携えたラストエンゲージは、目だけで人を殺せるのではないかと錯覚するほどの鋭い眼差しをファソラに注いでいた。

 

 

 

 

■ミラクルシャイン:ぴかぴかに光り輝くよ【DEAD】

■コットン:ウソをホントと思い込ませられるよ

■メトロノーム:願い事がたまーに叶うよ【DEAD】

■サンタマリア:他人に力を貸与できるよ【DEAD】

■メタ☆モン:誰にでも自在に変身できるよ【DEAD】

■ユウキ:ハートからビームを打ち出せるよ【DEAD】

■なのだ先輩:手乗りサイズにできるよ【DEAD】

■星井ミク:キュートな流れ星を落とせるよ

■フォーチュンテラー:すぐ先の未来が見えるよ【DEAD】

■ムイムイ:イメージを現実に具現化できるよ【DEAD】

■ファソラ:あらゆる音楽を自在に奏でられるよ

■ラストエンゲージ:第二形態に移行できるよ【DEAD】→【RESURRECTION】

■EFB:解けない氷を生成できるよ【DEAD】

■ルディウェイ:あっち向いてホイで絶対に勝てるよ【DEAD】

■スウィーツ:水をチョコに変えられるよ【DEAD】

■ぽむらちゃん:対象を吹っ飛ばす魔法のボムを生み出せるよ【DEAD】

 

 ――残り4人――

 

 




絶望「【RESURRECTION】だと!? その発想はなかった」
ふぁもにか「この手の作品で早めに死んだキャラが後々復活するのはよくあること」

次回【30.踊らされた咎人の決断】
※次回更新は12月8日です。

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