【完結】オリジナル魔法少女育成計画 罠罠罠   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。今回のサブタイトルはこの作品の中で一番バッチリ決まってると個人的に感じている今日この頃。やっぱり深夜テンション×お酒のコンボは素晴らしいアイディアを脳内に生み出す手段の1つとして有効ですね! ええ! とまぁ、そんなわけで今回はミラクルシャイン&コットンサイドのお話をどうぞ。



28.たった1人の、私の特別

 

 

 ☆ミラクルシャイン

 

「……ふざけるな。ふざけるなふざけるなふざけるな! 偽善者のくせに、いつまでも気取ってんじゃねぇよ! 取り繕ってないで、とっとと醜い本心を曝け出せよ!」

 

 ショッピングモール1階のエントランスにて。ミラクルシャインと相対するコットンは激昂している。いつもの、どんな時でも取り乱すことのなかったコットンが激情を顕わにしている。これが、コットンちゃんの闇。私が気づけなかった、隠されたコットンちゃんの一面だ。

 

 

「今すぐ貴女の両耳をちぎり取れば、貴女を襲った悲劇がなかったことになるのです! そうですよね、ミラクルシャイン!」

「……」

 

 コットンは魔法を行使する。『ウソをホントと思い込ませる』魔法を用い、ミラクルシャインを自傷に走らせようとする。が、ミラクルシャインにコットンの魔法は通じない。サンタマリアの働きかけにより強制的に心を光り輝かせられて以降、常時心がぴかぴかに光っている状態なままのミラクルシャインには、心に作用するあらゆる魔法が全く効かないのだ。

 

 

「本当に僕の魔法が通じなくなっているのですね。一体、何をしたのです?」

「……サンタマリアのおかげかも」

「え?」

「コットンちゃんに魔法をかけられたって気づく直前にサンタマリアの声がしたんだよ。『騙されちゃダメ』って。もしかしたら、サンタマリアが私に力を貸してくれた影響で、私にコットンちゃんの魔法が効かなくなってるのかもね」

「そうですか。……余計なことをしやがって」

 

 コットンの問いに対し、ミラクルシャインは心当たりを正直に口にする。一方のコットンはミラクルシャインの洗脳の邪魔をしたサンタマリアへの憎しみを募らせる。だが、既に死亡済みのサンタマリアへの憎しみに意識を向けていても仕方ないと、気持ちを切り替える。

 

 

「貴女に魔法が通じないのなら、こうするまでです」

「コットンちゃん?」

「僕は強い。誰よりも強い。近接戦において体術と木刀術を極めた僕に匹敵する魔法少女なんて存在しない。そうですよね?」

 

 コットンは己に淡々と言い聞かせる。直後、コットンの雰囲気がガラリと変わった。魔法少女特有の戦闘力と精神面の強さに乖離が見られるがゆえの、弱そうで強いファンタジーな雰囲気から、最強の座に登りつめた妙齢の剣豪を想起させるほどの鋭い雰囲気へと。

 

 

「――ここで死ね、偽善者筆頭!」

 

 まさか。コットンちゃんは魔法で自分自身を洗脳したのか。己を最強の魔法少女であると勘違いさせることで、戦闘力の大幅なドーピングを図ったのか。自分を洗脳したんじゃ、後々勘違いを解けなくなるのに。そこまでして私を殺したいのか。ミラクルシャインがコットンの執念にゴクリと唾を呑む中、コットンは剣呑な双眸でミラクルシャインを睨みつけ、即座に距離を詰めてきた。

 

 

(速いッ!)

 

 コットンの繰り出す木刀の迅速の突きに、ミラクルシャインは後ろに逃げたくなる衝動をどうにかねじ伏せ、その場にしゃがみ込むことで回避する。その後。ミラクルシャインの頭上を突き抜ける木刀を確認しつつ、ミラクルシャインがコットンの腹部へと金色の杖の石突を叩きつけようとする。が、その前に。コットンが木刀の軌道を無理やりねじ曲げ、直下のミラクルシャインの頭目がけて木刀を振り下ろしてきた。

 

 

「がッ!?」

 

 後頭部を突き抜ける、重く、激しい木刀の一撃。ミラクルシャインの視界に火花が散る。が、ここで倒れ伏せていては、コットンちゃんを止められない。ミラクルシャインはとっさに己の体全体から暴力的な光を発し、あまりの眩しさに追撃をやめて目を瞑るコットンをよそに、ミラクルシャインは立ち上がってすぐさま後退した。

 

 

(模擬戦の時とはまるで動きのキレが違う。これが思い込みの力……!)

「敵に回すと厄介なのです、その魔法。……でも、僕は最強の魔法少女ですから。目に頼らずとも、貴女を殺すことなど造作もないのです!」

 

 今、判断を誤っていたら、間違いなく殺されていた。その事実を前にミラクルシャインはコットンが大幅に強くなったことを身をもって認識する。一方、コットンはさらに己に魔法を行使する。さらに己を勘違いさせる。結果、コットンは目をつむったまま、しかしまるで見えているかのようにミラクルシャイン目がけて接敵した。

 

 風を切って迫りくるコットンの木刀。その上段からの振り下ろしに、ミラクルシャインはコットンの木刀の腹に杖の支柱を押し当てることで木刀の軌跡をミラクルシャインの頭部からズラす。結果、コットンはミラクルシャインに隙を晒す形となったが、ミラクルシャインはコットンにカウンターを仕掛けず、一歩引いた。直後、さっきまでミラクルシャインのいた場所に、コットンが振り下ろす最中の木刀を強引に横薙ぎに切り替えて振るってくる。

 

 そう、今のコットンは己を最強だと勘違いしている。それゆえに己の思い通りに木刀を振るえる。己の望みに沿うように体を無理やり動かしにかかれる。ゆえに、いくらコットンが隙を晒そうとも、ミラクルシャインからは今のコットンをうかつに攻撃できない。そのようなことをすれば先の後頭部を殴りつけられた時の二の舞にしかならないのだから。

 

 

「ほらほら、どうしました! さっきの威勢はどこにいったのです! 僕を止めるとかキメ顔決めてたくせに逃げてばっかりとか、さすがの偽善者っぷりですねぇ!」

 

 コットンは息巻く。防戦一方なミラクルシャインに苛立ちを募らせ、煽りにかかる。が、ミラクルシャインに返事をする余裕なんてものはない。あたかも暴風雨のように苛烈なコットンの木刀のラッシュを必死にかわし、防ぎ、弾き。しかしそれでもかわしきれない攻撃は一定数存在し。ミラクルシャインの全身に確実に打撲痕が刻まれていく。

 

 

(このままじゃ押し負ける! どこかで攻めに転じないといけないけど……)

「吹っ飛べッ!」

「ッッ!?」

 

 段々と体が言うことを聞かなくなる。体の動きは鈍くなる一方だ。ミラクルシャインがコットンに勝つための光明を見出すためにガンガン思考を加速させていく。だが、ミラクルシャインの隙をすぐさま察知したコットンが木刀でミラクルシャインの横腹を殴り飛ばす。全くもってコットンの攻撃に対応できなかったミラクルシャインは派手に吹っ飛ばされる。ショッピングモールの出入り口たる自動ドアをぶち破り、豪雨の降りしきる外へとミラクルシャインの体は放り出される。

 

 

「ゲホッ、ゴホッケホ!」

 

 グワングワンと揺れる視界の端に、鬼気迫った表情で全速力で近づくコットンの姿が映し出される。ミラクルシャインは急いで立ち上がろうとして、その場に吐血する。発作が止まらず、ミラクルシャインは地面に四つん這いのまま、動けない。

 

 

「これでぇぇえええええトドメなのです!」

 

 ミラクルシャインの命を刈り取る絶好の好機が訪れたことに、コットンは雄叫びとともにミラクルシャインに渾身の木刀を振り落とそうとする。が、木刀がミラクルシャインの頭蓋を叩き潰すことはなかった。ポロリと。コットンの右手から木刀が零れ落ちたのだ。

 

 

「へ? なん、僕は最強なのに、こんな凡ミス――カフッ!?」

 

 コットンは目を開き、地面を滑り転がる木刀を一瞬だけ呆然と眺めた後、己のミスを大いに恥じながらも木刀を回収しようとする。が、その時。コットンも血を吐いた。ミラクルシャインの攻撃を一度も喰らっていないはずなのに、どうして。信じられない現象にわけがわからないまま、コットンは口から滴り落ちる血を羽織の右袖で拭う。その時、ミラクルシャインは目撃した。コットンの右腕からも、ツツッと血が滴っているのを。

 

 

(そっか!)

 

 ミラクルシャインはコットンがいつの間にか体にダメージを負っている理由に気づいた。コットンは魔法で己を近接戦最強だと思い込んだ上で、無理に体を動かして戦っている。しかしそれでは、例え魔法少女の身体能力があれど、体が理想についていけていないのだ。コットンが考える最強の魔法少女の動きを実践すればするほど、実際には近接戦最強でないコットンの体はどんどん傷ついていくのだ。

 

 このままでは、コットンちゃんの体は壊れていく。短期戦で勝負を決めなければ、コットンちゃんを止める前に、コットンちゃんが自壊し、手遅れになりかねない。カウンターを恐れて攻撃を躊躇している場合ではない。覚悟を、決めないと。

 

 

「はぁあああ!」

 

 ミラクルシャインは気合いの力で一息に立ち上がると、ちょうど木刀を拾い終えたコットンへと突撃する。何の小細工もなしに、正面から。ミラクルシャインは雄叫びとともにコットンの元へと一心に駆ける。

 

 

「遅いのです」

「あ、ぐ!?」

 

 そんな何の考えなしのミラクルシャインの突撃に対応できないコットンではない。コットンは目を閉じつつ木刀を振るい、一瞬の内にミラクルシャインの頭に5連撃を叩き込む。コットンの右腕からブシャッと、血があふれ出る一方。ミラクルシャインは、集中的に頭を殴られたがために、上下左右の感覚を見失い、脳を焼き切らんばかりの強烈な激痛に苛まれていた。だが、ミラクルシャインは倒れない。その場に踏ん張り、さらにコットンへと一歩踏み出す。

 

 

「えッ!?」

(そこぉ!)

 

 コットンの想定の埒外な事態に、コットンの閉ざされた両眼が驚きに見開かれる。その瞬間を、ミラクルシャインは待っていた。ミラクルシャインは頭部からダラダラ流れる血に手のひらを押し当てて一定量の血を手のひらに確保すると、コットンへ向けて手を振るう。結果、コットンの目の周辺がミラクルシャインの血の色にべったりと染まり、コットンの目の中にもミラクルシャインの血の一部が付着することとなった。

 

 

「いッ!?」

「……」

 

 目をほとばしる痛みにコットンは思わず目を閉じる。コットンの目からあふれる涙がミラクルシャインの血を洗い流す前に。ミラクルシャインは己の魔法で血を盛大に光り輝かせ、コットンの両眼に光の暴力を浴びせた。ミラクルシャインは己の体の一部のみをぴかぴかに光り輝かすこともできる。血だってれっきとした、ミラクルシャインを構成する一部である。なお、この時。ミラクルシャインは黙っていた。今までは『ミラクルフラッシュ』との技名を叫んでいたが、母殺害の際にも使用した技名を口にする気にはなれなかったのだ。

 

 

「あがああああああ!?」

 

 目に直接ついた血を光らされたことで、光の暴力を防ぐ手段のないコットンは、それでもまぶたを閉じ、両目に両手を当てて絶叫する。一刻も早く、視界に白色の猛威を振るう強烈な光を消し去りたいあまりに、コットンは地面に倒れ込んでじたばたと暴れ回る。今の内にコットンちゃんを倒さないと。ミラクルシャインがコットンへの追撃を試みた、その時。

 

 

「……ぇ?」

 

 偶然にも、ミラクルシャインは気づいた。コットンの真横に高くそびえる高層ビルの上階が、ドゴッと崩れ落ち始めているのを。これまでの、VRMMOの世界だと思い込んだ上でのミラクルシャインたちの破壊活動や一向にやむ気配のない記録的なゲリラ豪雨の影響により、高層ビルの耐久度が限界を超えたのだろう。その、ビルの上階を構成していた一塊が、落ちてくる。重力を味方につけて、下へ、下へ。そして。コットンにのみ雨が降らなくなる。コットンのいる地点が影になる。ビルの一塊は、間違いなくコットンの元へと落ちようとしている。

 

 あんな巨大な塊に押し潰されたら、まず死ぬだろう。例え簡単には死なない魔法少女の身体スペックだろうと、人間の足で踏み潰されるアリのように、圧死は免れないだろう。このままじゃコットンちゃんが死ぬ。でも、ビルの一塊の落ちるスピードは存外、速い。間に合うか。間に合わなければ、私もまた、死ぬ。潰されて、死ぬ。

 

 

「……ッ! コットンちゃん!」

 

 脳裏に、ビルに潰される瞬間の未来の自分が焼き付き、ミラクルシャインは思わず逡巡した。が、ためらったのはほんの一瞬だけだった。ミラクルシャインは弾かれたように駆け出した。現在は一時的に失明中なために自身に迫る死の脅威に気づけないコットンへと一直線に駆け、手を伸ばす。いける、まだ間に合う。間に合え、間に合え。ミラクルシャインは必死に念じながら、渾身の走りでコットンとの距離を詰めていく。

 

 

「ぇあ!?」

 

 はたして、コットンがビルの一塊に潰される前に、ミラクルシャインは仰向けで両目を押さえてもがくコットンの元に辿り着いた。ミラクルシャインはコットンの背中に両手を滑り込ませてすくい上げる。そして、急に体を持ち上げられたコットンが素っ頓狂な悲鳴を漏らす中。お姫さま抱っこにしたコットンを、ミラクルシャインは落ちるビルの一塊の範囲外へと投げ飛ばした。

 

 続けて、ミラクルシャインもビルの一塊の落下範囲から逃れようとする。が、ここで。上へとチラッと視線を向けたミラクルシャインは、悟った。あぁ、これは間に合わない。ミラクルシャインがせめてもの抵抗として、少しでも己に降りかかるビルの一塊の量を減らそうと、杖をビルの一塊へと振るうも、刹那。ミラクルシャインの体をビルの一塊が勢いよく押し潰す。ブチャッと、新鮮な肉を鈍器で叩き潰したような音が響く。

 

 ちょうど、この直前。ミラクルシャインの光り輝く魔法により己の視力を奪われていたコットンの両眼に現実世界の光景が映し出される。ビルの一塊から離れる形でミラクルシャインに投擲された最中のコットンは、見た。今にもビルの一塊に埋もれつつあるミラクルシャインがコットンへと安堵の笑みを浮かべる姿を。コットンは理解した。ミラクルシャインは己の命が潰える可能性を踏まえてなお、コットンを助けたのだと。

 

 

「は? はぁぁ!?」

 

 ビルの一塊が地面に到達したことで、周囲一帯がズズンと上下に揺れる。が、コットンは揺れによりバランスを崩し、転びそうになるのを厭わずに、ビルの一塊の落下地点へと歩を進める。信じられない。こんなことがあっていいはずがない。そのような驚愕の表情を如実に顕わにしながら、コットンはビルの一塊へと接近する。当のビルの一塊の隙間からは、血があふれ出ている。

 

 

「ミラクルシャイン。貴女、何をやって……!? どうして? どうして!? どうして!?」

 

 コットンはビルの一塊の瓦礫を次々と掴んでは、背後に放り投げていく。瓦礫を何度も掻き分け、放り投げていると、ようやくミラクルシャインの手が見える。ミラクルシャインの手はコットンの声に反応し、ピクリと動いている。ミラクルシャインはまだ生きている。コットンはより速やかに瓦礫の撤去に臨んだ。

 

 

「う、ぅ……」

 

 コットンがミラクルシャインを下敷きにするビルの一塊の瓦礫をあらかた排除し、ミラクルシャインをビルの一塊から引きずり出した時。ミラクルシャインは相当な深手を負っていた。腹部には鉄のポールが突き刺さり、両足は完全にビルという凶器によりちぎれている。そんな、見るだけで非常に痛々しい姿のミラクルシャインは、か細いうめき声を零すのみだ。だが、致命傷ではない。出血多量で死ぬ可能性もなさそうだ。

 

 

「……どうして、どうして僕を助けたのです!? こうなるかもってわかってましたよね!? なのに、どうして!? 僕なんて、僕のことなんて、偽善者な魔法少女らしく、自分の命惜しさに見捨てればよかったのに!」

「……」

「どうして、どうして、ですか? 僕は貴女が嫌いなのです。憎いのです。憎くて、苦しませたくて、殺したくて、だから貴女に大量殺人をさせて、家族を殺させて、絶望させて。これほどのことを仕掛けて、今だって貴女を殺す気満々で戦ってたのに、どうして僕を助けようなんて発想が出てくるのですか? わからない、わからないのです!」

 

 コットンはとにかく脳裏に浮かぶ疑問をミラクルシャインへと喚き散らす。コットンの考える偽善者の行動パターンにしっかり当てはまっていたはずのミラクルシャインが、真の正義を心に宿す魔法少女の特徴たる自己犠牲をしてまで敵のはずのコットンを救ったという事実に、コットンは大いに混乱していた。一方のミラクルシャインは沈黙する。残った両脚やポールの刺さった腹部が訴える激痛に意識を奪われないように気をつけつつ、静かに、コットンの言い分に耳を傾ける。

 

 

「……そんなの、決まってるよ。コットンちゃんは私の初めての友達だもん。他の人とは違う、たった1人の、私の特別。助けるに決まってるよ。例えコットンちゃんが私を憎く思っていても、殺意を抱いていても、私のコットンちゃんを愛おしく思う気持ちに変わりはないんだ」

「え?」

「私さ、もうほとんど何もなくなっちゃったんだ。後藤光希が嫌いで、正義の魔法少女:ミラクルシャインに逃げた。でも、ミラクルシャインの状態で私はお母さんを、たった1人の家族を殺しちゃった。後藤光希には友達なんていないし、西田中学校の生徒も皆殺しちゃった。でもね、こんなどうしようもなく手遅れな私にも、まだ残ってるものがあるんだよ。……コットンちゃん、君だよ。私にとって、君は君が思っている以上に特別で大切な友達なんだ。だからコットンちゃんが苦しんでいるのなら助けになりたいし、命の危険が迫っているのなら救いたいし、間違った道を突き進んでいるのなら、正しい道を指し示したいと思ってる」

「……」

 

 ミラクルシャインは語る。己の本心を。コットンに対して抱いている気持ちを。例えコットンのミラクルシャインへの態度が偽物だとわかっても、それでもコットンが大事だとの気持ちをまっすぐに伝える。大怪我を負ってなお、ミラクルシャインが心を整理し、紛れもない本心を言語化できているのは、常時心がぴかぴかに光っているがために、負の感情を排した強靭な精神状態が維持されているからだ。対するコットンは当惑の声を顕わにした後、沈黙する。ミラクルシャインの言葉をしかと受け止めてくれているようだ。

 

 

「私が間違えたせいでコットンちゃんを犯罪に走らせてしまった。家族を、たくさんのR市の人たちを殺しちゃって、もう過去に戻って全てをなかったことにはできない。けど、さ。それでも、コットンちゃん。……今からでもやり直そうよ。償おうよ。私たちの罪は消えないし、どれだけ罰を受けても足りないことを私たちはやっちゃったけど。もう手遅れだけど。でも、手遅れだからって何もしないのは違うよ、きっと。だから、私たちにやれる贖罪を、いっぱいやろう。封印刑や死を受け入れるんじゃなくて、私たちのやり方で、罪と向き合おう。……ねぇ。一緒にやろうよ、コットンちゃん。2人ならきっと、罪の重さに押し潰されずに最後まで頑張れるから」

「ミラクル、さん……」

 

 ミラクルシャインの真摯な提案に、コットンの両眼が動揺に揺れる。さっきまでは憎々しげに『ミラクルシャイン』と呼び捨てにしていたコットンが今は以前までの『ミラクルさん』呼びに戻っていることからも、コットンがこのまま偽善者な魔法少女殺戮に邁進するか、ここで取りやめて己の犯した過ちに向き合うかの究極の2択を前に、すぐに決断できずに迷いに迷っている心境を察知できる。

 

 

「……」

 

 ミラクルシャインはさらなる説得をコットンに試みなかった。もう、言葉は尽くした。私の拙い脳みそで考えられるだけの、精一杯の説得をコットンちゃんに施した。後は、コットンちゃんの決断を待つのみだ。それに、何となく確信があった。今のコットンちゃんなら、偽善者な魔法少女殺しをやめてくれると。コットンちゃんの本質を、隠されていた一面を看破できなかった私の確信の信憑性なんてたかが知れている。でも、それでも。優しくて、しっかり者のコットンちゃんなら。きっと。

 

 

「僕は、僕は……」

 

 コットンが震え声で言葉を紡ぐ。ミラクルシャインの両眼を見据え、コットンは己の下した決断を、おもむろに告白し始める。ミラクルシャインはコットンの言葉の続きを促すように、うなずく。直後。ミラクルシャインの頭に衝撃がほとばしった。

 

 

「え?」

 

 まるで脳にマグマを流し込まれたかのような、脳が焼け落ちてしまうかのような激痛がミラクルシャインの全身を駆け巡る。何が起こったのか。その答えはミラクルシャインの右目に映し出されていた。コットンの右手には木刀が握られていた。木刀はミラクルシャインの右目のすぐ隣に向けて突き出されていた。ミラクルシャインは理解した。コットンがミラクルシャインの左目を、その奥に控える脳を、貫いたことに。ミラクルシャインの贖罪の提案に対するコットンの答えはNOだった。ミラクルシャインの説得は、届かなかった。

 

 コットンちゃんを止められなかった。私は、ミラクルシャインはコットンちゃんに許されなかった。コットンちゃんを止めるって決意したのに。コットンちゃんの心を救うって覚悟を決めたのに。なのに。私の、力不足のせいで。コットンちゃんへの説得は失敗した。

 

 このような結果になった以上、コットンちゃんは今後も犯罪を犯し続ける。ファソラさんと共謀して、偽善者な魔法少女を苦しませた後に殺す。そんな凶行を続けていく。私が後藤光希だったから。正義の魔法少女になりきれなかったから。ミラクルシャインが後藤光希の延長線でしかなかったから。ミラクルシャインの本質が、どうしようもなくダメダメな後藤光希のままだったから。今後も悲劇は続く。コットンちゃんとファソラさんとで、新たな悲劇が量産され続ける。

 

 

「ごめ、んね……」

 

 コポリと、左目から鮮血が断続的にあふれ出る中。ミラクルシャインはコットンへの謝罪を残して、力なく地面に体を預ける。コットンちゃんは私の初めての、たった1人の、特別な友達だった。だから、止めたかった。救いたかった。だが、私の救済は失敗した。もしも。この場にいたのが、コットンちゃんと対峙していたのが、私じゃなかったら。私みたいな正義を履き違えたまがいものの偽善者じゃなくて、本物の正義を心に宿す正真正銘の魔法少女なら、コットンちゃんを救えたのかな。そんな自己否定に満ちた自らへの問いかけを最後に、ミラクルシャインの意識はプツリと、闇に消え去った。

 

 

 嫌いな後藤光希からの逃避先としての魔法少女に己の理想を投影していたミラクルシャイン。

 もう光り輝くことのない彼女の表情は、大切な友達を救えなかった悔恨に満ち満ちていた。

 

 

 

 

■ミラクルシャイン:ぴかぴかに光り輝くよ【DEAD】

■コットン:ウソをホントと思い込ませられるよ

■メトロノーム:願い事がたまーに叶うよ【DEAD】

■サンタマリア:他人に力を貸与できるよ【DEAD】

■メタ☆モン:誰にでも自在に変身できるよ【DEAD】

■ユウキ:ハートからビームを打ち出せるよ【DEAD】

■なのだ先輩:手乗りサイズにできるよ

■星井ミク:キュートな流れ星を落とせるよ

■フォーチュンテラー:すぐ先の未来が見えるよ【DEAD】

■ムイムイ:イメージを現実に具現化できるよ

■ファソラ:あらゆる音楽を自在に奏でられるよ

■ラストエンゲージ:第二形態に移行できるよ【DEAD】

■EFB:解けない氷を生成できるよ

■ルディウェイ:あっち向いてホイで絶対に勝てるよ【DEAD】

■スウィーツ:水をチョコに変えられるよ【DEAD】

■ぽむらちゃん:対象を吹っ飛ばす魔法のボムを生み出せるよ

 

 ――残り7人――

 

 




絶望「おっと、ミラクルシャインが死んじゃった。この作品の主人公ポジションっぽかったからミラクルシャインだけは何だかんだで生き残ると思ってたのに」
ふぁもにか「安易なメタ読みを引き連れて魔法少女育成計画を閲覧すると、今の貴方のようにまさかの展開に度肝を抜かれるものです。これが魔法少女育成計画の洗礼なのです」

次回【29.想定外なことばかり】
※次回更新は12月3日です。

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