【完結】オリジナル魔法少女育成計画 罠罠罠   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。前回、魔法少女11名が散り散りに分断されたので、今回からはまだスポットライトを当てていない魔法少女たちの視点を積極的に採用できるようになりました。『視点がコロコロ変わる』タグはここからの展開を見据えてのことだったのです。



19.子供の遊びは強制参加

 

 

 ☆サンタマリア

 

 加聖莉愛(かせいりあ)はとにかくアクティブな性格をしていた。

 いつも体を動かしていないと気が済まない。誰かとワイワイ話していないと気が済まない。

 非常に活発的で、笑顔も絶やさない。そんな莉愛はどのコミュニティにおいても愛され、ムードメーカーとしての役割を十全に果たしてきた。

 

 そんな莉愛には同い年の幼なじみがいる。赤坂(あきら)。走るのが大好きな男の子だ。

 加聖家と赤坂家が隣同士だったために知り合った莉愛と晶はすぐに意気投合した。

 毎日のようにかけっこで競争し合い、勝敗をひたすら積み上げていった。晶との交流を重ねる内、真摯に走りに打ち込む晶のカッコよさに、莉愛は自然と心惹かれていった。

 

 転機が訪れたのは、莉愛と晶が小学6年生の時だ。

 加聖家と赤坂家の家族全員が一緒に登山をすることになったのだ。

 だが、その道中で。莉愛は興味本位で晶を連れて山道から離れたことで迷子になってしまった。

 そして。つい足を滑らした莉愛を庇った晶がそのまま崖から落ちてしまったのだ。

 

 晶は重傷だったが、幸いにも命を取り留めた。

 が、この怪我のせいで、晶の両足は麻痺してしまった。

 莉愛のせいじゃないと、慣れない車椅子に苦戦しつつも、晶は朗らかに笑う。

 だから、いつものように笑顔でいてくれと晶が微笑みかける。

 

 だが、晶が本当は落ち込んでいることを莉愛はよくわかっていた。

 あんなに走るのが大好きで。一生懸命打ち込んでいたのに。いきなり走ることを取り上げられたのだ。落ち込まないわけがない。晶の頼みに応じて笑うなんて、とてもできそうになかった。

 

 私が軽率だったせいで、晶が走れなくなった。私のせいで。私のせいで。

 そんな沈鬱とした思いを抱えながら、莉愛は中学生になった。

 晶から走ることを奪って以降、莉愛は以前のような活発さを控えるようになった。

 莉愛の行いが、一挙手一投足が、晶の一件のように、回り回って他の誰かを不幸に突き落とすのではないかと莉愛の心が怯えていたのだ。

 

 スマホのアプリゲームの魔法少女育成計画にのめり込んだのはちょうどこの時期だ。

 ゲームの中では莉愛が何をやろうと、他の人が不幸にはならない。ゆえに、莉愛は安心してゲームを楽しんでいた。そんなある日、莉愛は偶然にも本物の魔法少女に、サンタマリアになることができた。サンタマリアの魔法は『他人に力を貸与できる』というもの。この魔法を使えると知った時、もしかしてと、サンタマリアの胸が高鳴った。

 

 早速、サンタマリアはわらにもすがる思いで、晶に魔法を使用した。

 すると、晶の両足の麻痺は1か月をかけて奇跡的に回復した。

 晶は再び走れるようになった。しかも、麻痺する前よりも格段に早く、風を切るように走れるようになった。中学2年生となった今、晶は陸上部のエースだ。サンタマリアが晶への力の貸与をやめても、晶の足の速さは変わらない。サンタマリアが魔法で与える力は、対象者の潜在能力を引き出す類いのものなのだろう。

 

 まさしく奇跡だった。

 現代医学でどうしようもなかった晶の足の麻痺を、魔法はいともたやすく完治してみせた。

 再び走ることに全力傾倒できるようになった晶の両眼はキラキラと輝いている。

 晶への負い目が解消された莉愛は、活発的な性質を前面に出して笑えるようになった。

 

 魔法のおかげで、莉愛と晶は幸せを取り戻した。ハッピーエンドだ。

 なのに。魔法のせいで、莉愛と晶は再びバッドエンドに突き落とされた。

 何せ、サンタマリアは。VRMMOな魔法少女育成計画のα版のチュートリアルで。

 骸骨だと思い込んで、サンタマリアの両親と、晶を盾で潰し殺したのだから。

 

 

「いっつつ……ここどこッスか?」

 

 R市の廃ビル5階に放り込まれたゴムボールの爆発により、遥か遠くへと吹っ飛ばされたサンタマリアの体はコンクリート壁の建物の壁を突き破って周囲の物を盛大に巻き込んだ所でようやく止まる。サンタマリアが頭から垂れ落ちる血を修道女服なコスチュームの袖で拭いながら周囲を見渡す。秀麗なステンドグラス。シャンデリア。木製の長椅子。説教台。どうやらここはスタンダードな礼拝堂のようだ。

 

 

(はぇぇ、荘厳って感じで、綺麗ッス! って、そうじゃないッス! 敵に奇襲されて、バラバラに分断されてしまったッス! 早く皆と合流しない、と……)

 

 慌てて礼拝堂の外へ駆け出そうとした、サンタマリアの足がピタリと止まる。脳裏には、何度も何度も両親と晶を殺害した映像が上映されている。

 

 

(そもそも、なんで戦わないといけないッスか? もう、お父さんもお母さんも、晶も、もういないのに。私が殺したのに。生きるために、敵と戦う必要ってどこにあるッスか?)

 

 死にたくないから戦う。痛い思いをしたくないから戦う。その気持ちはよくわかる。

 でも、必死に戦って、生き延びても、その先に希望はない。ただ虚無が待つのみだ。

 追っ手の魔法少女を撃退した所で、R市の人々を大量に殺した事実は消えない。

 自らの手で殺してしまった両親と晶は戻ってこない。

 なら。なら――死にたくないと抗った所で、意味なんてないのではないか。

 

 

「やぁあああああああああ!」

「ッ!? 何事ッスか!?」

 

 サンタマリアの心にどす黒い絶望がまとわりつきかけた時。礼拝堂のステンドグラスの破砕音と少女の悲鳴がサンタマリアの耳をつんざく。サンタマリアがビクッと肩を震わせつつ、音源へと目を向けると、黒のゴスロリ服姿の魔法少女ことメトロノームが礼拝堂の中へと頭から勢いよく墜落する瞬間を偶然目撃することとなった。

 

 

「ぅう、あ……」

「メ、メトロノーム!? しっかりするッス!」

 

 体のあちこちに突き刺さったステンドグラスの欠片がメトロノームの痛々しさに拍車をかける中。小さくうめき声を漏らすメトロノームの元にサンタマリアは駆け寄り、メトロノームの体を起こす。サンタマリアのハキハキとした声のおかげでどうにか意識を失わずに覚醒できたメトロノームは周囲を一瞥し、サンタマリアに問いかける。

 

 

「……こ、ここここ、どこ? そそそそれに、さっきの爆発は一体?」

「礼拝堂みたいッス。あの爆発は敵の魔法少女のものだと思ってるッス。……多分、あの魔法少女たちは私たちを散り散りに分断して、1人ずつ確実に殺すつもりッス」

「ひ、ひぅぅ」

 

 サンタマリアがメトロノームの純粋な問いに丁寧に回答すると、メトロノームはなのだ先輩の言う『相当な手練れの魔法少女たち』が全力で自分の命を狙ってきているという現状にブルリと体を恐怖に震わせる。

 

 

「誰かと合流できるならそれが一番だけど、敵と直接戦えないメトロノームが下手に動くのは危険ッス。この礼拝堂でどこか隠れ場所を見つけて、そこに潜伏するのがオススメッス」

「た、たたた確かに! じゃあ、一緒に隠れよう! どど、どどこがいいかなぁ。ててて敵をやり過ごすなら、相手が全く想像できないような隠れ場所がいいよね、サンタマリアさん。……サンタマリアさん?」

「……」

 

 サンタマリアが怯えるのみのメトロノームに行動指針をプレゼントすると、メトロノームはサンタマリアに賛同し、瓦礫だらけの礼拝堂のどこに隠れるべきかを模索し始める。サンタマリアはメトロノームに返事をしなかった。サンタマリアとともに潜伏するものと思い込んでいるメトロノームに、サンタマリアはただただ沈黙した。

 

 

「ササ、サンタマリアさん?」

「私は、いいッス。このままここにいるッス」

「……ぇ、え? な、ななななに、言ってるの? かか隠れないと、見つかって、殺されちゃうよ!」

「そうかもッスね」

「そそそうかも、じゃないよ! どどどうして!? はッ! まさか自首するつもりじゃ――」

「――私はもう、メトロノームみたいに頑張って生きたいって思えないッス。さすがに無抵抗で殺されるつもりはないから、追っ手と出くわしたら本気で戦うけど、例えそこで死んでも、家族や晶に会えるならアリかなって。むしろ、そうなってほしいッス。……だから、メトロノーム。ここでお別れッス」

 

 沈黙を貫くサンタマリアにメトロノームが不安そうに名前を呼びかけると。サンタマリアはメトロノームと一緒に隠れないとの己の意思を示した。サンタマリアの身を案じるメトロノームにサンタマリアは淡白に返事をする。サンタマリアの心境がまるで理解できず、メトロノームがサンタマリアの自首の可能性に言及した所で、サンタマリアはポツリと、己の胸の内を吐露した。メトロノームよりも遥かに弱々しい声色で、サンタマリアは静かに本心をさらけ出し、メトロノームの前から姿を消そうとする。

 

 

「……いや」

「え?」

「いや、いや、いやぁ!」

「メトロノーム、わがまま言わないでほしいッス。私のことは放って、1人で頑張るッス」

「いいいいやだ! わわわ別れたくない! ササササンタマリアさんがいなくなったら辛くて、悲しいよ! いいいやだ、いやだよ! あああ諦めないでよ! わわわわ私と一緒に生きて、もっと色んなことしようよぉ……!」

「……メトロノーム」

 

 が、メトロノームはサンタマリアを引き留めるようにサンタマリアの腕を掴み、否定の言葉を口にした。まさかの反応にサンタマリアが硬直する中、メトロノームは己の感情を叫び続ける。サンタマリアが優しくメトロノームを諭そうとするも、当のメトロノームは首をブンブン左右に振りながら、涙をボロボロと零しながら必死にサンタマリアを説得しようとする。こうも頑固な態度を取られては、どう言葉をかければいいのか、サンタマリアにはわからない。

 

 

「あ! そ、そそそうだ! わた、私に良い方法があるよ! ささささっきミラクルシャインさんとなのさんが喧嘩してる時に思いついたんだ! わわわ私が願えばいいんだ! 『わわわ私たちの意識を1週間前に移して』って! そそそそうすれば、私たちが人をいっぱい殺すより前の時間軸の自分に戻れるから、過去を改変してこの悲劇をなかったことにできるきゃも!」

「あ……」

 

 そして。続けてサンタマリアが紡いだ発言内容に、サンタマリアは目を見開く。確かに、メトロノームの魔法は規格外だ。今のサンタマリアたちの記憶を1週間前の自分たちに埋め込むこともできるはずだ。過去のサンタマリアたちに今の悲劇を伝えて、悲劇を未然に防ぐように動いてもらえば。両親が、晶が。生き返るのではないか。死なずに済むのではないか。

 

 

「凄い、凄いッス! 名案ッスよ、メトロノーム! もうそれ願ってるッスか?」

「えと、今願い始めてる所だよ! ほほほ他にも『私たちがゲームと勘違いをしていっぱい人殺しをしてしまった原因を私たちに教えて』とも願い続けてるよ!」

 

 すっかり生きる希望をなくしていたサンタマリアの心に光が戻る。サンタマリアは心からメトロノームの案を褒め称えつつ、もう既に願い続けているかをメトロノームに尋ね、メトロノームは首肯した。メトロノームはサンタマリアと同じパーティーとして行動する中で、願い事を2回叶えている。頻度こそ多くはないが、これまでメトロノームはここぞという所でいつも願いを叶えてきた。望みはあるはずだ。希望を抱いてもいいはずだ。

 

 

「そうッスか! なら、私の力をメトロノームに貸すッス! 後は、願いが叶うまで潜伏しきれたら私たちの完全勝利ッス! やるッスよ、メトロノーム! こんな惨劇、なかったことにするッス! 嫌な夢だったね、って笑い合えるようにするッス!」

「うん! よよよかった、サンタマリアさんが元気になってくれた……」

 

 サンタマリアは興奮のままにメトロノームに己の力を貸与して願いが叶う確率を上昇させた上で、己の意気込みを声高に語る。しかと元の活発さを取り戻したサンタマリアの様子にメトロノームはホッと安堵のため息を吐く。だが、その時。

 

 

「えー、何それ? 要は己の贖いようのない罪を消し飛ばそうってわけ? 君たち、あれだけ散々楽しそうに虐殺しまくってたくせに、今さらになって己の蛮行をなかったことにしようってわけ? そんな横暴、許されないよ☆ 裁かれない罪なんて、あたしは認めない☆」

 

 第三者が水を差した。声の聞こえた礼拝堂の入り口へとサンタマリアが振り向くと、水色のスモックに青色のスカート、黄色い帽子といった園児服の魔法少女が不愉快そうに顔を歪めていた。

 

 

(あの服装、追っ手ッス! 名前は確か、ルディウェイ!)

「ひぇ!? も、ももももう来たの!? どど、どうして!?」

「そりゃ、あれだけ大きい声で騒いでたら誰でもわかるよ☆ だって今、R市には16人の魔法少女しかいないしね☆ あ、1人は殺したから15人か☆ とにかく、捜し回る手間を省いてくれてありがとう☆ そして2人まとめて死んじゃえよ!」

 

 サンタマリアがフォーチュンテラーが未来視から盗み取った情報を冷静に思い出し、メトロノームが目に見えて動揺する中。対するルディウェイはやれやれと手のひらを広げてサンタマリアたちを発見できた理由を伝える。その後、ルディウェイは拡声器を右手に装備し、サンタマリアたちにありったけの殺意の眼光をぶつけた。

 

 

「させないッス!」

「がッ!?」

 

 あの拡声器で何かをするつもりだ。サンタマリアは即座に足元の瓦礫をルディウェイへと蹴り飛ばす。サンタマリアが10個ほどの瓦礫を一斉に蹴り飛ばしたため、全てを回避しきれなかったルディウェイの顔面に大きめの瓦礫が命中した。

 

 

「お、ラッキー、じゃないッス! メトロノーム、ここは私に任せて逃げるッス!」

「え、でででも! サンタマリアさんを置いて逃げるなんて――」

「メトロノームは私たちの希望ッス! いいから逃げるッス!」

「ぴにゃあああ!?」

 

 思わぬ好機を前に、サンタマリアはメトロノームをルディウェイから逃がそうとする。メトロノームは仲間を見捨てられないと反対するが、サンタマリアはメトロノームの意見を聞き入れずにメトロノームの尻を渾身の力で蹴り飛ばした。結果、メトロノームは既に割れているステンドグラスを通過する形で、礼拝堂の外へと吹っ飛ばされた。

 

 

「うぅ、痛いなぁ☆ 結構機転が利くんだね、君☆」

「んー、体を動かすのが好きだからッスかね?」

「んなこと聞いてないってば☆」

 

 赤く腫れる鼻柱を抑えながらますます殺気を深めるルディウェイに、サンタマリアはとぼけた口調で返答する。メトロノームが礼拝堂に戻ってくる気配はない。サンタマリアの意図を理解して、逃げてくれたのだろう。これで、もしもサンタマリアがここでルディウェイに敗れ、殺されたとしても。過去を改変さえすれば復活できるという希望を残すことができたわけだ。

 

 

「1人逃がしちゃったけど、まぁいいか☆ この代償は高くつくよぉ!」

「遅いッス!」

「ちょッ、ああ! 拡声器がッ!?」

「行かせてなるものかッス!」

「げふッ!?」

 

 ルディウェイは肺に空気をたくさん取り込み、拡声器を口元に寄せる。が、その隙にルディウェイとの距離を詰めたサンタマリアが拡声器目がけて盾を振るうと、ルディウェイの手から拡声器が離れ、カラカラと礼拝堂の床を滑っていった。慌てて拡声器を手元に取り戻そうとするルディウェイの腹部をサンタマリアが盾で殴り飛ばすも、当のサンタマリアは違和感を抱いていた。

 

 

(このルディウェイって奴、隙だらけッス。これ、本当に手練れの魔法少女ッスか?)

 

 なのだ先輩の推察が間違っているとは考えにくい。でも、それならどうして戦闘向きでない魔法を抱えるサンタマリアがこうもルディウェイを圧倒できているのだろうか。一向に拭えない疑問をそのままに、苦しそうにお腹を押さえるルディウェイにサンタマリアが追撃を加えるべくルディウェイとの距離を詰めようとした時。ルディウェイの口角がつり上がっているのをサンタマリアの両眼が捉えた。そのルディウェイのしたり顔は『拡声器がないとあたしが魔法を使えないと思った? 残念、フェイクでした☆』と如実に語っていた。

 

 

(これ、ヤバいッス……!)

 

 ルディウェイはこれ見よがしに拡声器を装備していたことから、ルディウェイの魔法は拡声器がないと使用できないものだとサンタマリアは思い込んでいた。その勘違いを、ルディウェイは誘ったのだ。だが、サンタマリアはもう止まれない。こうなったら、ルディウェイが魔法を使う前に連撃でルディウェイを仕留めるしかない。サンタマリアは己の限界を振り切った速さでルディウェイに切迫するも、残念ながらルディウェイの魔法行使の方が早かった。

 

 

(くッ、これは終わったッスか!?)

「――あっち向いてホイ☆」

 

 サンタマリアが命の危機を悟る一方。ルディウェイは人差し指でピッと左を差しつつ、軽快な口調で一言、口にする。結果、サンタマリアの顔が右に90度、グルンと無理やり向けられた。ただ、それだけだった。

 

 

「……へ? なに、これ?」

「なにって、あたしの魔法☆」

「はぁ?」

「説明しよう☆ あたしの魔法は『あっち向いてホイで絶対に勝てる』魔法☆ 相手がどれだけ幸運の申し子だろうと、あっち向いてホイの世界大会覇者だろうと、あたしがあっち向いてホイに負けることはない☆ そんな夢のような、最強の魔法なのだよ☆」

 

 サンタマリアが改めてルディウェイに向き直りつつ困惑を顕わにすると、ルディウェイはケロッとした様子で種明かしをする。当惑するサンタマリアを置き去りに自信満々に己の魔法を説明したルディウェイはエッヘンと胸を張る。

 

 

(……こんなのが、手練れ? いやいや、そんなわけないッス。あっち向いてホイに絶対に勝てる魔法ってことはルディウェイが指差した方向を見ることから逃れられないってことッス。確かに、戦闘中によそ見をしないといけないのは厄介だけど、それだけッス。これなら、この程度なら、私1人でも何とかなるッス!)

「あ、今あたしの魔法をしょぼいって思ったね? 顔見ればわかるよ☆ でも、そんなに舐めてていいのかなぁ?」

「しょぼいのは事実ッス!」

「んじゃ、試してみようか☆ あっち向いてホイ☆」

「こんなの、すぐに前を向けば問題ないッス! いつまでもお前の遊びに付き合ってられないッスよ!」

(メトロノームのことも気になるし、もし万が一、これが手練れの魔法少女なら、私は今時間稼ぎをされているかもッス! だから、ここで決めるッス!)

 

 サンタマリアの心境を読み取ってニコリと笑いかけるルディウェイに、サンタマリアはルディウェイの魔法への印象を正直にぶつけつつ、ルディウェイ目がけて駆け出す。その際、ルディウェイが人差し指で左を差したため、サンタマリアの顔が90度右に向けられるも、サンタマリアはすぐさま正面を見据え直し、ルディウェイに盾のタックルをお見舞いしようとする。早くルディウェイを倒して、メトロノームとの合流を狙っていたからだ。

 

 

「あっち向いてホイ☆」

『あっち向いてホイ☆』

 

 だが、その瞬間。ピッと人差し指で左を指し示すルディウェイの声が二重に響いた。ルディウェイの右手には、これ見よがしにボイスレコーダーが握られていた。直後、サンタマリアの首が、否応なしにゴキュッと180度回転した。

 

 

「あ、が!?」

(い、いいいい!? なん、で!? 首が、いきなり真後ろに回って――痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い! 早く、首を戻さないと!)

「やめた方がいいよ? あれだけ勢いよく首を180度回転させちゃったんだもの☆ 普通の人間なら即死モノ、君が辛うじて生きているのは魔法少女だから☆ でも、ここで下手に力技で元に戻そうものなら、首の大切な骨が全部完全に折れちゃって即死だよぉ☆」

「そん、な……!」

「そんじゃ、おかわりタイムだね☆ 苦しそうだし、ここらでトドメを刺してあげるよ」

 

 自分の首が真後ろを向いている。その怪奇現象にサンタマリアが怯え、急いで首を正面に戻そうと顔に両手を添えるも、ここでルディウェイが忠告を投げかけてくる。首を戻せない。サンタマリアの顔が蒼白に染まると同時に、ルディウェイが暗い笑みを携え、おもむろに人差し指で左を差した。その動作は、サンタマリアにとって死刑宣告と同義だった。

 

 

「あっち向いて――」

「ッ!!」

 

 その時。ルディウェイが全てを言い終える前に、サンタマリアは魔法少女の一般人離れした両腕の筋力をフルに活用し、渾身の力を込めた両手のひらで、己の両耳を叩いた。爆弾なんて比にならないほどのとてつもない音の暴力がサンタマリアの耳を襲う。サンタマリアが手のひらで耳に押し込んだ空気は爆音とともに耳の機関を破壊していく。鼓膜を破り、中耳、内耳に至るまで凶暴な衝撃が伝播し、コポリとサンタマリアの耳から血が零れ出す。

 

 サンタマリアはルディウェイの魔法の発動条件が『指で特定の方向を指すこと』かつ『あっち向いてホイとの言葉を対象者に聞かせること』だと判断した。ゆえに、耳を聞こえなくすれば、ルディウェイの魔法から逃れられると、サンタマリアは窮地の中で閃いたのだ。

 

 

「へぇ、耳を潰したんだ☆ 君は本当に機転が利くね、でも甘い☆」

 

 が、ルディウェイの笑みが曇ることはない。蜘蛛の巣にかかり、逃れようと必死にもがく蝶を観察する蜘蛛のように、サンタマリアのあがきを愉快そうに鑑賞する。サンタマリアにルディウェイの声はもう聞こえない。だが、ルディウェイの顔から。目から。唇の動きから。彼女が何を語っているかは自然と理解できた。理解できてしまった。

 

 

「子供の遊びは強制参加☆ 例え耳が聞こえなくても、あたしの魔法からは逃れられない☆」

「ぇ、あ!?」

 

 耳を潰してもなお、ルディウェイの魔法は効く。その残酷な現実にサンタマリアの心は為すすべもなく絶望の底へと堕ちていく。もう、サンタマリアにはどうしようもない。首が真後ろに向いた状態で、ルディウェイが『あっち向いてホイ』と言う前に的確に距離を詰めて、一撃で殺すなんて不可能なのだから。

 

 

「はい、あっち向いてホイ☆」

 

 ルディウェイがピンと人差し指で左を示して、何ともなさそうに一言、口にする。結果、サンタマリアの首はさらに右に90度曲がり、総計して右に270度、強制的に首を回転させられたサンタマリアの首からバキャと、絶対に鳴ってはいけなさそうな破砕音が響いたことを、もはや音を認識できないサンタマリアは、それでも直感した。

 

 刹那。サンタマリアの体がグラリと傾き、力なくうつ伏せに倒れ、瞬く間にサンタマリアの意識は闇に塗り潰されていく。が、その一瞬の間で。サンタマリアは時間が非常に引き延ばされるような不思議な感覚を覚えていた。

 

 

 これは、もうダメッスね。私の死は確定ッス。もっと、警戒して戦えばよかったッス。

 でも、メトロノームは生きているッス。メトロノームさえ生きているなら、希望は残ってるッス。ここで私が頑張った甲斐もあるものッス。

 

 首がほぼねじ切られた己の体の状態を第三者の目線から眺めているような、奇妙な体感の中。サンタマリアはメトロノームに後を任せようとした、その時。ふと、疑念が湧いた。

 

 

 ――もしも、メトロノームが内通者だったら?

 

 そうッス。『今まであたしたちが内通者の存在に気づけなかった時点で、内通者は巧妙に正体を隠す技術を持ち合わせているのだ』となのさんは言っていたッス。もしも、メトロノームのあのビクビクとした小動物な性格が仮面だったら。偽りの性格だったら。巧妙に正体を隠す内通者の人物像とピッタリじゃないッスか?

 

 もしも、メトロノームが内通者だったら。

 内通者は私たち11人を売って自分だけは助かろうとしているッス。

 なら、『私たちの意識を1週間前に移して』なんて願い事、叶えようしないのではないッスか。

 いや、それよりもメトロノームに貸し与えた力を悪用されかねないッス。

 例えば、『バラバラにはぐれた皆の居場所を教えて』と願われて、それが叶ったら。

 散り散りに吹っ飛ばされた皆の居場所を密告され放題になってしまうッス。

 

 ダメッス。疑念を払拭できない以上、もうメトロノームに力を与えられないッス。

 ならば、誰なら少なくとも内通者ではないと言えるッスか?

 誰になら、私は己の魔法を信じて託せるッスか?

 

 

 …………決めたッス。後は、任せたッス。

 

 サンタマリアは最終的に、メトロノームからとある魔法少女へと力の貸与先を変更した。時間にしてほんの一刻で。最期に為すべきことを為したサンタマリアの意識は闇に呑み込まれた。

 

 

 力を与えることで相手の潜在能力を開花させてきた魔法少女、サンタマリア。

 だが、彼女が己の可能性を引き出して人生を謳歌することは、もうない。

 

 

 

『魔法少女以外誰もいない、ボロボロに崩れ去ったR市全域にて。罪なき市民を容赦なく虐殺した悪の魔法少女と、正義の炎を胸に宿す将来有望な魔法少女とのガチンコバトル。果たして勝利の女神はどちらに微笑むのか!?

 

○正義の魔法少女:残り4名

■EFB

■ルディウェイ

■スウィーツ

■ぽむらちゃん

 

○悪の魔法少女:残り10名

■ミラクルシャイン

■コットン

■メトロノーム

■サンタマリア【DEAD】

■メタ☆モン【DEAD】

■ユウキ

■なのだ先輩

■星井ミク

■フォーチュンテラー

■ムイムイ

■ファソラ

■ラストエンゲージ

 

○履歴

20■■/09/12 13:16 ルディウェイさんがサンタマリアさんを殺しました!

20■■/09/12 12:24 スウィーツさんがメタ☆モンさんを殺しました!』

 

 




絶望「ついに2人目の魔法少女をサイドDに引き込めたぜ!」
ふぁもにか「メタ☆モンとサンタマリアならあの世でもわいわいはしゃげることでしょう」

次回【20.一寸先は奈落のみ】
※次回更新は10月19日です。

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