【完結】オリジナル魔法少女育成計画 罠罠罠   作:ふぁもにか

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Q.オリジナルの魔法少女育成計画を執筆する際に最も必要な要素は何ですか?
A.いっぱい時間をかけて設定を煮詰めた、愛着あるオリ魔法少女たちを次々と死なせる覚悟

 どうも、ふぁもにかです。無事それなりにいい感じの企業の内定を取れた記念で新連載に踏み切りました。この作品はオリジナルの魔法少女たちに魔法少女育成計画っぽいことをしてもらうという内容です。基本、序盤はrestartっぽいノリでほのぼのと進行し、後々はオリジナルな展開で殺伐と進行する予定です。魔法少女育成計画が原作なので、もちろん死者も出ます。じゃんじゃん死人が出ます。覚悟して、読みましょう。

※作者は魔法少女育成計画のアニメとrestart上下巻を読んでいるだけのにわかです。感想とかでlimited以降のネタバレをされると盛大にショックを受けるかもしませんので、どうか配慮をよろしくお願いいたします。



第1章 テスターの皆さまへ
1.唐突な始まり


 

 

 ☆ミラクルシャイン

 

 後藤光希(みつき)はR市立西田中学校に通う中学2先生の女子にして、魔法少女である。

 そう、魔法少女だ。様々な漫画や小説、アニメの随所で活躍するあの魔法少女だ。

 頭がおかしくなったわけじゃない。厨二病に目覚めたわけでもない。

 変身すれば、身体能力はオリンピック選手を軽く上回るし、固有の魔法も使用できる。

 後藤光希は本当に魔法少女なのだ。

 

 光希にとって魔法少女は憧れの象徴である。魔法少女には色々なタイプがある。

 正体を隠しつつ故郷の平和を守ったり。魔法少女の仲間と結託してわかりやすい悪に立ち向かったり。絶望的な状況下で、それでも希望を捨てずに抗ったり。立場は違えど、どの魔法少女も己の正義を果たすために頑張るものだ。その己の信念を貫く生き様に、光希は憧れた。

 

 光希は現実ではダメダメな女の子である。

 両親に、光り輝く希望を皆に示せるような、朗らかな女の子になってほしいとの願いの下に名前を与えられたにもかからわず、光希は何をやっても中々上手くいかない人間だった。

 勉強は学校の授業についていくのがやっとで、真面目に勉強しているのにいつも赤点スレスレという体たらく。運動も下手でこけたりバテたり溺れたりは当たり前だし、愛嬌を振りまいて友達を作ろうにも、そばかすだらけの見目麗しくない顔がクラスメイトに与える第一印象の影響で失敗する。結果、光希の友達は本だけだ。

 

 どうして私はこうも鈍臭いのか。頑張っているのに結果が伴わないのか。

 理由がわからないことが息苦しく、自殺や他殺で人生を終わらせて来世の自分に後を託したいと考えたこともある。完全に、『光希』に名前負けしている女の子なのだ。

 

 ゆえに、スマホの完全無課金ソーシャルゲームである『魔法少女育成計画』を介して、たまたま己が魔法少女となれた時、光希はとにかく嬉しかった。何せ、現実では鈍臭くて情けない後藤光希が、魔法のおかげでミラクルシャインという、煌びやかな美少女に変化できるのだ。

 ミラクルシャインに変身している間は見た目に負い目を感じなくていい。魔法少女の身体スペックは、ビルからビルへと飛び渡れたり、走行中の車を追い抜けたり、拳でコンクリート壁をぶち破れたりと規格外だから、運動の得手不得手に関係なく爽快に体を動かせる。そして、同じ魔法少女の友達もできる。その上、固有の魔法が使えるのだ。まさに何でもありだ。まるで物語の中の主人公になったかのようだ。

 

 光希の魔法は己を光り輝かせるというもの。現実ではダメダメな自分を見られたくなくて目立たないように生活していたが、美少女なミラクルシャインの間だけでもとことん目立っていたかったのだ。輝くことで、自分こそが世界の中心なのだと錯覚していたかったのだ。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 今現在、光希はミラクルシャインへと変身し、夜のR市の見回りをしていた。電柱を足場に華麗にジャンプしつつ、眼下で何か怪しげなことが起こっていないか視線を配る。魔法少女のスペックなら、暗がりでもしかと見通すことができるのだ。

 

 魔法少女は力を与えられた見返りに、善行を積んでマジカルキャンディを集めることを魔法の国から求められる。善行に応じてマジカルフォンに蓄積されるマジカルキャンディが何かに使えるわけではないが、光希はそれでも毎日ミラクルシャインに変身し、夜のR市を駆けていた。現実の後藤光希が嫌いなため、少しでも長い時間を正義に燃える魔法少女:ミラクルシャインとして過ごしたかったのだ。要は現実逃避だ。

 

 

「おっと、不審者発見」

 

 ミラクルシャインの金色の瞳が路地裏の2名の人物を捉える。1人は9歳ぐらいの女の子。もう1人は20歳ぐらいの男性。男性はカッターナイフをこれ見よがしに女の子に見せつけ、怖がる女の子を路地裏の行き止まりまで誘導しているようだ。強盗。強姦。殺害。何を考えているかはわからないが、明らかにこれから女の子に危害を加えようとしている。

 

 

(まぁ怖いよね。助けないと)

 

 ミラクルシャインは正義の魔法少女。今の状況はうってつけだ。

 ミラクルシャインは足に軽く力を込めて跳躍する。クルリと優雅に一回転しつつ、女の子と男性の間に入るように着地した。電柱は15メートルの高さだったが、飛び降りた所で魔法少女は怪我をしない。魔法少女に現代社会の常識は当てはまらないのだ。

 

 

「R市の希望を摘まんとする悪よ! 希望の光はこのミラクルシャインが守る!」

 

 着地と同時にビシッと男性を指差し、高らかにミラクルシャインは宣言する。金髪に金眼で、膝を覆うか覆わないかな長さのドレスもまた金色に統一された美少女というひたすらに非現実的な存在がいきなり現れたことで、男性も女の子もポカーンと固まっている。

 

 

「眩しくなるから目を閉じててね」

「……」

「できるかな?」

「あ、はい。お姉ちゃん」

「よし、いい子だね」

 

 ミラクルシャインは背後の女の子に顔だけ向けて、お願いをする。最初は呆然としていた女の子が顔を赤らめながらコクコクと首肯し、ギューと目を瞑ったのを確認したミラクルシャインはパチッとウインクを女の子にプレゼントし、再び前を向いた。

 

 

「お、お前、誰だよ? 俺とこの子の邪魔、すんなよぉぉおおおおおお!」

 

 男性はミラクルシャインという未知に無謀にも立ち向かってくる。よほど背後の女の子に思い入れがあるようだ。しかし、この男性の思い通りを許してはならない。悪をくじくのもまた、正義の魔法少女の役目なのだ。

 

 

「ミラクルフラッシュ!」

「ぎゃああああ!? 目がぁぁああああああ!」

 

 ミラクルシャインの掛け声とともにミラクルシャインの体が強烈な光を放つ。薄暗い路地裏に目が慣れていた男性にミラクルフラッシュは効果抜群だったらしく、男性は悲鳴とともに背中からコンクリートな地面に倒れ、両手で目を覆っている。

 

 

「今の内に逃げよっか」

「え?」

 

 今の内に女の子を連れて撤退しよう。ミラクルシャインは困惑する女の子をお姫さま抱っこにしてぴょーんと、隣の3階建てのビルの屋上へと跳ぶ。ミラクルシャインは正義の魔法少女だ。しかし、ミラクルシャインは悪を滅ぼすことよりも悪の脅威にさらされている誰かを守り助けることを重視しているため、男性に追撃はしなかった。

 

 

「わぁぁ……!」

「君のおうちまで送るよ。どこに行けばいいか、教えてよ」

「は、はい! えっと、あっちの公園を超えて――」

 

 ミラクルシャインがビルから電柱へと飛び移り、電柱間をジャンプで移動する中。女の子は先ほどの男性への恐怖を忘れて感動の声を上げる。ミラクルシャインが女の子の家の方向を尋ねると、我に返ったらしい女の子が興奮冷めやらぬ口調で家の場所を伝え始める。

 

 そうして。女の子のナビゲートの元、ミラクルシャインが駆けること5分。女の子の家の前に着地したミラクルシャインは女の子の体を起こしつつ地面にゆっくり下ろす。

 

 

「もう大丈夫かな?」

「はい! ありがとう、お姉ちゃん!」

「どういたしまして。これからは夜道に気をつけるんだよ」

 

 ミラクルシャインはペコリと頭を下げて感謝の気持ちを告げる女の子にヒラヒラと手を振ると、一息にジャンプし、夜闇に身を投げて姿を消す。再び電柱の上に跳躍し、女の子の家から少し距離を取った後。ミラクルシャインはマジカルフォンを取り出し、マジカルキャンディが増えていることを確認する。

 

 

(はぁぁぁ! 魔法少女、最高!)

 

 ミラクルシャインは己の体を抱きしめて恍惚に浸っていた。本当に魔法少女は最高だ。もしも今の場面に後藤光希が遭遇したらどうか。男性のカッターナイフに怯え、震えるだけで何もできない姿が容易に想像できる。無力でどうしようもない後藤光希のことだ。警察に通報せず、女の子を守ろうと男性に飛びつかず、ただ男性の凶行を見ていたことだろう。

 

 でも、ミラクルシャインは違う。男性への攻撃を最小限に留めつつ、女の子をきちんと救うことができた。物語の主人公のように、カッコかわいい活躍ができた。ミラクルシャインは、後藤光希にできないことを全部体現してくれる。嬉しくないわけがなかった。幸せだった。

 

 多幸感に満たされたままR市の見回りを完全に終えた後、ミラクルシャインは2階の窓から自室に帰る。そして、ミラクルシャインの変身を解いて後藤光希に戻ると、パパッとパジャマに着替えて布団に潜り込んだ。

 

 

「おやすみなさーい」

 

 今日はいい夢を見られそうだ。光希は口元をほころばせた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「んー」

 

 翌朝の午前8時。土曜日ゆえに目覚ましをセットしていない光希は自然と目を覚まし、体を起こして背筋を伸ばす。布団から抜け出し、顔を洗おうと1階の洗面所を目指して階段を下りていると。ピンポーンと、インターホンが鳴った。

 

 

(誰かの郵便物が来たのかな? それとも何かの勧誘?)

 

 光希がリビングのディスプレイから玄関の映像を見ると、小さめの段ボール箱を抱えた女性の緑の作業服で覆われた上半身が映し出されていた。どうやら宅配便が来ているようだ。

 

 

(お母さんが何か頼んだのかな?)

 

 お母さんは夜の仕事に励んでいるため、午前中は熟睡している。まだ顔を洗っていないしパジャマのままだけど、光希が受け取るしかないだろう。光希はリビングから印鑑を回収すると、パタパタと玄関へ向かい、ドアを開ける。

 

 

「ちわーす、宅配便でーす!」

 

 緑色の帽子を目深に被った女性が快活に己の来訪を告げた瞬間。

 光希の世界が一瞬にして切り替わった。光希の目の前から宅配業者の姿は消え、代わりに青々とした草原が広がっていた。

 

 

「え、え?」

 

 思わず瞠目し、キョロキョロと己の周囲に視線を配ると、己の背後にポツンと存在する廃墟に気づいた。が、それ以外は何もない。草原と、廃墟しかない。わけがわからない。光希が呆然と立ち尽くていると、ふと足元の割れたガラスの破片が視界に入った。

 

 

「え、どゆこと!?」

 

 そのガラスが光希でなく、ミラクルシャインを映していることに光希はさらに混乱した。

 いきなり景色がガラリと変わり、いつの間にやらミラクルシャインに変身している。

 ミラクルシャインと化した光希の混乱が収まるのは、少し時間が経過した後のことだった。

 

 




絶望「出番? 出番? (o*´∇`)o」
ふぁもにか「まだですー」

次回【2.チュートリアルと説明】
※次回更新は7月7日です。

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