【完結】オリジナル魔法少女育成計画 罠罠罠   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。正直、もうちょっとカッコいい、センスのあるサブタイトルを用意したかったのですが、私の低クオリティな頭脳ではこれが限界でした。後々、いい感じのサブタイトルを思いついたら変更するかもなので、どうかご了承くださいませ。



18.必ずしも敵は待ってくれない

 

 

 ☆なのだ先輩

 

「内、通者?」

 

 サンタマリアの力を借りて魔法を強化し、ミラクルシャインたちを襲撃したスウィーツたちの動向を安全圏から探っていたフォーチュンテラーの発言に、なのだ先輩は思わず目を見開いた。可能性として想定していないわけではなかった。だが、まさか本当に身内にスウィーツたちと繋がりを持つ魔法少女がいるとは思わなかったからだ。

 

 

「内通者? 何それ? そんなの、いるわけ……」

「で、でも、西田中学校にいることは密告されたんやって。やからウチらを奇襲できたって。このビルのことはまだ密告されてへんみたいやけど」

「……誰? 誰なの? 誰が内通者なの? 誰がメタ☆モンの殺害に加担したの? 隠してないで答えてよ、ねぇ? ねぇねぇねぇ? 聞こえてるの? ねぇ!」

「そ、そんなん、わからへん。会話に名前が出てこなかったから……」

 

 内通者の存在なんて信じたくないとばかりに否定しようとするミラクルシャインに、フォーチュンテラーは西田中学校での奇襲が内通者の手引きによるものだと明かす。すると、ユウキが反応した。メタ☆モン殺害に間接的に関与した内通者の名前を吐かせようと、ユウキがフォーチュンテラーに詰め寄り胸倉を掴むも、フォーチュンテラーからはユウキの期待に添わない回答しか出てこなかった。結果、ユウキは「そう」と残念そうに呟き、フォーチュンテラーから少し離れた床にペタンと体育座りをした。

 

 

「……内通者、本当にいるの? 怪しい挙動は誰もしてなかったかと……」

「だが、内通者の存在は間違いないと言えるのだ」

「どうしてなの? 相手がわざとウソの情報を掴ませてきた、って可能性はないの?」

「ないのだ。仮にあの魔法少女たちが内通者を通して事前にあたしたちの魔法の情報を知っていたとしても、サンタマリアの魔法で強化されたフォーの魔法で他人の未来を見られるようになるとまでは把握不可能なのだ。何せ、あたしたちですら実際に試すまで知らない情報だったのだ。だから、フォーが拾った情報にウソはないのだ」

「……じゃあ、ムイムイたちを売ってる内通者が本当にいるんだぁ。誰かなぁ?」

 

 ミラクルシャインとは違い、ラストエンゲージが自分の目から見た皆の動きから内通者に懐疑的な見解を示すと、なのだ先輩が即座に否定する。その理由を星井ミクが尋ねると、なのだ先輩は淡々と内通者がいると断定する理由を提示する。結果、なのだ先輩の論に正当性を見出したムイムイが皆に疑いの眼差しを向け始めたことを契機に、廃ビル5階の空気が険悪なものへと変貌していく。疑心暗鬼の波が徐々に皆に伝播していく。

 

 この状況は、非常によろしくない。集団の結束に必要な要素は、互いが互いを思いやり、信用して、手と手を取り合おうとする個々の意思がしっかりと存在していることだ。互いを大切に思えるからこそ集団は集団でしかなし得ない立派な成果を残せるのだ。だが、結束できない、互いが互いを信じられない集団は足の引っ張り合いが発生するのみで、いっそ個人で活動した方が成果を残せるほどの体たらくになってしまう。そのような纏まれない集団の末路は、わかりきっている。

 

 

「だが、今は内通者のことなど捨て置くのだ」

「あらあら。どうしてですか? 内通者の好き勝手を許容するつもりですか?」

「今まであたしたちが内通者の存在に気づけなかった時点で、内通者は巧妙に正体を隠す技術を持ち合わせているのだ。そのような強者探しに躍起になった所で、内通者に辿り着けず、無実の者に内通者の冤罪を被せる可能性が高いのだ。今のあたしたちに魔女裁判をやっている暇などないのだ。今は、急いであたしたちの身の振り方を決めないといけないのだ」

「……なのさんが内通者だから、内通者の話題を避けてるのではないのです?」

「疑うのは自由なのだ。内通者かもしれないあたしに話の主導権を握られたくなければ、誰かが立候補するのだ。その者とあたしの2人が中心となって、状況整理を進めていくのだ」

 

 集団を瓦解させないためには、内通者の話題をここで打ち切るのが一番だとの判断の下でのなのだ先輩の発言に、ファソラが少々強めの口調でなのだ先輩に問いかける。なのだ先輩が内通者を正確に見つけ出せない可能性を理由にすると、コットンがなのだ先輩に疑いをかけてきたが、なのだ先輩はあくまで平然と言葉を紡ぐ。

 

 

(内通者。この言葉には常に後ろ暗い印象がついて回る。日陰でこそこそと蠢いているような印象だ。ゆえに、あたしがいつもと同様に堂々とした態度を崩さなければ、こそこそしてそうな内通者の人物像があたしと合致しなくなり、疑いが晴れやすくなるはずだ)

「「「……」」」

「いないようなら、あたしが舵取りをするのだ。あたしの話の論理展開がおかしいと思えば、いつでも指摘してほしいのだ」

 

 結果、なのだ先輩の思惑通り、コットンは話の主導権確保に立候補しない形でなのだ先輩への疑いを取り下げ、他の面々もなのだ先輩が主体となって話を進めることを黙認した。皆、思いっきり目立った立ち位置にいるなのだ先輩はさすがに内通者でないだろうと判断したのだ。これで状況整理を円滑に進めやすくなった。なのだ先輩は謙虚な言葉も含めつつ、少々足早に話を進めていく。

 

 

「あ、あああああの? いいい今、こんなこと聞くのは間違ってるかもだけど、ふ、ふふふふ封印刑って、なに?」

「それ、私も気になってたッス。大体予想はできるけど、知ってる人がいたら教えてほしいッス」

「ふむ。少し長くなるが、いいのだ?」

 

 と、ここで。メトロノームが涙目で震えながらもフォーチュンテラーが盗み取った内容から『封印刑』という聞きなじみのない言葉に反応して皆に問いを投げかける。メトロノームにサンタマリアが便乗した所で、封印刑関係の知識を既に保有しているなのだ先輩が皆に確認を取る。結果、誰もなのだ先輩に反対しなかったため。なのだ先輩は封印刑関係の知識を簡潔に披露し始めた。

 

 

「では話すのだ。罪を犯した魔法少女は基本、魔法の国が裁く決まりなのだ。魔法を知らない一般人ではほぼ魔法少女の犯罪に気づけないためなのだ。そして魔法の国の刑罰は、軽い順に更生専門魔法少女の下での再訓練、魔法少女に関するすべての記憶を抹消した上での社会への放逐、そして魔法刑務所に収監して封印刑の3種なのだ。魔法の国は人道的見地から死刑を廃止しているから、封印刑が最高刑となるのだ。で、封印された魔法少女の体は歳を取ることはなく、万が一にも魔法少女が封印を内部から破らないようにまともな思考能力を奪われた状態で、未来永劫を過ごすのだ。……要するに、不老不死状態で終身刑を受けさせられるようなものなのだ」

「……それ、死刑よりも酷いんじゃないかな?」

「その通りなのだ。人道的見地(笑)なのだ。とはいえ、よほどむごたらしい犯罪に手を染めなければ、封印刑とは縁がないのが普通なのだ」

「そんなヤバい封印刑を、魔法の国はムイムイたちに与えようとしてるんだねぇ」

 

 なのだ先輩の簡潔な説明にミラクルシャインが頬を引きつらせて封印刑の残酷さに言及する。なのだ先輩が滅多なことでは魔法少女が封印刑に処されないことを主張すると、ムイムイがフォーチュンテラーが盗み聞いた内容から、自分たちが封印刑に相当するほどの残虐な行いに手を染めてしまった事実をポツリと呟いた。

 

 

「……でも、あのスウィーツって魔法少女はメタ☆モンを殺した」

「あの襲ってきた魔法少女たちは、R市の住民を殺戮した、極悪魔法少女なあたしたちが封印されるだけで済み、結果的に生き続けること自体が許せない、ということなのだろう。封印刑に処された魔法少女の内、便利で優秀な魔法を持つ者は、汚れ仕事などの対処のために時折、封印を解かれ、人間社会や魔法の国を闊歩できるのだからな」

 

 他方。ユウキは自分たちを襲撃してきた魔法少女がメタ☆モンを躊躇なく殺害したことをドスの多分に含まれた口調で口にすると、なのだ先輩は現状推測しうる可能性の内、よりあり得る展開を提示する。そして。皆が現状を大体理解したとしたなのだ先輩は、なるべく早めに現状把握の先にやっておきたかった話題に踏み込んだ。

 

 

「……さて。現状、あたしたちの取る選択肢は大ざっぱに、逃げるか、戦うか、自首するかの3択なのだ。だが、逃げるのは難しいのだ。フォーが掴んだ情報から察するに、あたしたちがR市の外へ逃げないように結界が張られているようなのだからな。つまり、逃げる道を選ぶなら、R市のどこかに潜伏することになるが……内通者の密告がある以上、潜伏は悪手なのだ」

「では、どうするのです?」

「残るは戦うか、自首するかなのだ。とはいえ、あたしたちを殺す気満々な連中に自首した所で、結末はわかりきったものなのだ」

「ま、殺されるの。容易に想像がつくの。下手したら『殺された人たちの痛みを知れ!』って感じで拷問紛いのこともされかねないの」

 

 なのだ先輩は今の状況で自分たちが選択できる3つの道を隠さず提示する。その際、なのだ先輩が逃げる道が実現困難な根拠を口にすると、コットンがなのだ先輩の発言の続きを促す。なのだ先輩が逃げる以外の選択肢を述べるも、皆がより殺されずに済みそうな選択肢は1つしかないと、星井ミクが沈鬱な表情で呟いた。

 

 

「その上で聞くが、自首を望む者はいるのだ?」

「……さすがにいないかと。皆、死にたくないのは一緒だし……」

「いや、それでも少しはいるかもと思ってな。良心の呵責から、例え殺されるのだとしても、それがR市の住民を殺戮した報いなら受け入れようと考える者がいてもおかしくはないのだが…………ふむ、いなさそうなのだ」

 

 なのだ先輩の問いかけに誰もが黙り、ラストエンゲージが自首狙いの者がいなさそうだとの感覚を伝えると、なのだ先輩は自首を望む魔法少女の存在を脳裏に残しつつも、次の話題へと進む。結局、自首を視野に入れている者は誰1人として、現れなかった。当然だ。人は誰しも死にたくないものだ。あたしのように前世の存在でも確信していなければ、誰かに殺されたくないと願うのは何ら不思議のないことなのだ。

 

 

「R市から逃げられず、襲ってきた魔法少女たちの手により命を奪われたくない。となると、あたしたちに残された選択肢はあの魔法少女たちと戦い、勝つしかないのだ。当然、相手があたしたちを殺す気なら、あたしたちもあの連中を殺す気で対処するしかないのだ」

「え、ええええ? 殺す?」

「当たり前やけど、気は進まへんなぁ」

「……ごめんなさい。でも、それには賛同できないよ。なのさん」

 

 なのだ先輩が襲撃を仕掛けてきた魔法少女を返り討ちにして、殺すとの方面へと議論を展開させようとすると、メトロノームが困惑し、フォーチュンテラーが躊躇し、ミラクルシャインがなのだ先輩に真っ向から反対の意見を表明した。

 

 

「なぜなのだ? 相手はあたしたちを本気で殺す気で活動しているのだ。ならば、返り討ちにすることは間違いじゃないのだ。それに、魔法の国はR市で凄惨な犯罪行為をやらかしたあたしたち12人の拘束に、人員を4人しか派遣していないのだ。これは追っ手の魔法少女4人が相当な手練れであることを意味するのだ。ゆえに、どうにか追っ手を殺さないよう手加減を視野に入れてしまっては、そのままあたしたちの死に繋がりかねないのだ」

「それでもダメだよ! だって、それじゃあ私たちは本当に殺人鬼になっちゃう。今までは洗脳されてたから、私たちはまだ明確に殺す意思を持って人殺しをしてないけど、でもあの魔法少女たちを殺したら、私たちは自分の意思に従って、殺そうって覚悟を抱いて、正しいことをしようとしている魔法少女を殺すことになっちゃう。本当の人殺しをしてしまったら、もう退けなくなる! 手遅れになる! そんなのはダメだよ!」

 

 なのだ先輩の問いかけに、ミラクルシャインは必死に反論する。襲撃してきた魔法少女たちを保身を理由に殺してしまえば、後々の後悔の種になってしまう。今まではVRMMOの世界だと勘違いした上での無自覚な人殺しだったため意識的に悪を働いたわけではないが、もしも追っ手の魔法少女たちを殺したら本当に悪の魔法少女になってしまう。そう、ミラクルシャインは考えたのだ。

 

 

「ミラクルシャイン。あたしたちは既に人殺しなのだ。大量殺人鬼で、とっくに手遅れなのだ。今さら人殺しを忌避した所でもう意味はないのだ。それなら、ここは倫理観には目を瞑り、少しでもあたしたちが生き残れるように、殺す気で戦うべきなのではないか? それとも、ミラクルシャインはあたしたちが死ぬ確率が増えようとも、それでも敵を思いやって手加減をするべきだと?」

「違う! そうとは言ってない! お願いだから曲解しないでよ! 戦い方だって色々あるよね? 皆の知恵と魔法を活用すれば例え追っ手の魔法少女がベテランでも、上手く罠にでもかけて戦闘不能にできるはず! とにかく、殺すのはダメ! やるとしても最後の手段にしないと、例え追っ手を全員殺して生き延びれたとしても、心が壊れる人が生まれちゃう! なのさんの考えを認めるわけにはいかないよ!」

 

 なのだ先輩は集団で団結して、外から飛来する脅威を撃ち滅ぼすことを狙っている。そのため、正義を、一般的な倫理観を持ち出してなのだ先輩を非難するミラクルシャインは厄介な存在だ。それゆえ、なのだ先輩はミラクルシャインを説き伏せにかかる。全てはなのだ先輩が善人として、洗脳の後に手遅れな惨状を引き起こしてしまった魔法少女たちを少しでも救済するためだ。しかし、ミラクルシャインは折れない。己の信じる正義の旗印のもとに、自分たちを殺すべく襲撃してきた魔法少女たちを殺さずに済む道に可能性を見出していく。

 

 と、その時。なのだ先輩たちがいるR市の廃ビル5階に、窓から何かが放り込まれた。それはピンク色のゴムボールだった。その数、5個。そのゴムボールは、うさみみ帽子の魔法少女が、星井ミクの流れ星や、ムイムイのロケット弾をあらぬ方向へ吹っ飛ばす際に使用していたものだった。

 

 

(しまった……!)

 

 なのだ先輩は油断していた。フォーチュンテラーの未来視の結果より。襲撃者たちが自分たちの居場所を把握していないものと想定していた。だが、違ったのだ。フォーチュンテラーが未来視を行うより早く、内通者は既になのだ先輩たちの潜伏場所を密告し終えていたのだ。それゆえ、なのだ先輩たちのいる廃ビル5階にゴムボール型の破裂物が投入されている。

 

 

(ちぃッ、さっさと別の場所へ移動するべきだったのだ!)

 

 深く後悔するなのだ先輩のことなど知ったことかと、ゴムボールが破裂する。直後、ゴムボールを中心に魔法少女の身体能力をもってしてもまるで抗えないほどの風が発生する。結果、なのだ先輩たちは抵抗できないままに爆風の力で散り散りに吹っ飛ばされた。

 

 

(くそッ、分断された! 最悪だ……!)

 

 いくつかの廃ビルの壁をぶち破りながら、最終的にR市の公園に墜落したなのだ先輩は血まみれの体に鞭を打って、立ち上がる。その心は、後悔で満たされていた。善人として、前世を経験した者として、理不尽な展開に巻き込まれた少女たちを導こうと動いた所でこの体たらくだ。なのだ先輩が嘆きたくなるのも尤もだ。

 

 

(集団を形成していたあたしたちを分断したということは、あたしたちを襲撃してきた魔法少女たちはあたしたちの各個撃破を狙っているということなのだ。ならば、すぐにでも合流せねばならない、のだが……)

 

 なのだ先輩はマジカルフォンを介して他の魔法少女と通信しようとして、やめる。なぜなら、なのだ先輩から連絡しようとした結果のメールが、電話の着信音が。連絡を受け取った相手の致命傷になり得るからだ。

 

 連絡先の安否を考慮するなら、マジカルフォンで自分から連絡するわけにはいかない。

 結局は足で稼いで、運を味方に多くの面々と合流するしかない。面倒な展開になった。なのだ先輩が顔を歪ませていると、ふとマジカルフォンのホーム画面に表示されている内容が目についた。

 

 

『魔法少女以外誰もいない、ボロボロに崩れ去ったR市全域にて。罪なき市民を容赦なく虐殺した悪の魔法少女と、正義の炎を胸に宿す将来有望な魔法少女とのガチンコバトル。果たして勝利の女神はどちらに微笑むのか!?

 

○正義の魔法少女:残り4名

■EFB

■ルディウェイ

■スウィーツ

■ぽむらちゃん

 

○悪の魔法少女:残り11名

■ミラクルシャイン

■コットン

■メトロノーム

■サンタマリア

■メタ☆モン【DEAD】

■ユウキ

■なのだ先輩

■星井ミク

■フォーチュンテラー

■ムイムイ

■ファソラ

■ラストエンゲージ

 

○履歴

20■■/09/12 12:24 スウィーツさんがメタ☆モンさんを殺しました!』

 

 

「……させないのだ。思いどおりは許さないのだ」

 

 まるでゲーム感覚だ。あたしたちの生死を、何者かが安全圏から見つめている。その関係性を悟り、不愉快に眉を潜めたなのだ先輩は公園を後にする。テスター業務を共にした面々の無事をひたすらに祈りながら、なのだ先輩は1人、公園から駆け出る。内通者か、襲ってきた魔法少女か、魔法の国か、また別の利害を持つ存在か。誰とも知らぬ存在の思い通りに事が運ぶことを阻止するべく、なのだ先輩は単身、動き出した。

 

 

 ☆ミラクルシャイン

 

 ゴムボールの爆発により、派手に吹っ飛ばされたミラクルシャインはどこかの建物に背中から突き破った。結果、建物内のベッドに盛大に背中をぶつけ、ベッドの跳ね返りで建物の天井に正面からぶつかり、最終的に床に背中を打ちつけた。これが普通の一般人なら背骨の骨折は固かっただろう。だが、ミラクルシャインは魔法少女だ。「いっっっったぁぁぁい!」とソプラノボイスで絶叫するだけで済むのである。

 

 

「あいたたた。ここ、どこ……?」

 

 ミラクルシャインは勢い任せに起き上がって周囲を見渡し、そしてすぐに気づいた。ここが、自室だと。天井に人型の穴が開き、周囲にミラクルシャインの好きな本が散乱し、壁にはミラクルシャインの好きな作品のキャラのポスターがでかでかと張られ。机にはミラクルシャインが5年前から欠かさず付けている日記帳が存在感を示している。ここは、間違いなくミラクルシャインの、後藤光希が普段暮らしている自室だった。

 

 

「……」

 

 ミラクルシャインは沈黙のままに自室を出る。向かう先は自宅の2階と1階とを繋ぐ階段だ。階段を下りた先に、死体があった。お母さんの死体だ。頭から鈍器で潰されたお母さんの亡骸は非常にグロテスクだ。そんな、グロいお母さんの死体が階段付近に放置されている。腐った肉の臭いが、腐臭が自宅の1階に蔓延している。

 

 私がお母さん殺したのは2日以上も前だ。さすがにそれだけ時間があれば、普通ならお母さんの亡骸は誰かに発見され、しかるべき機関できちんと解剖等の処置が為されているはずだ。しかし、お母さんの死体は自宅に残ったままだ。きっと私たち魔法少女がR市の住民を殺しまくっていたためにR市全体が恐慌状態に陥り、今まで誰もお母さんの死体に気づけないまま、今を迎えているのだろう。

 

 

「……ごめん、なさい」

 

 もう動くことのない、乾いた血で覆われた母親を前に、ミラクルシャインはボロボロ涙を零しながら謝罪する。お母さんは、お父さんと離婚した後、女手1つで後藤光希を育ててくれた人だった。お母さんは夜の仕事に従事していた。その夜の仕事についてお母さんは何も話してくれなかったが、きっと女のプライドを傷つけるような、プライドを安売りするような、仕事だったのだろう。それでも、光希のためにお母さんは頑張ってくれたのだ。自意識過剰かもしれないけど、でもお母さんは私のためという理由も含めて、仕事を頑張ってくれていたはずなのだ。

 

 なのに、そんな優しくて、頼もしくて、素敵で、誇れるお母さんを私は殺した。正義の魔法少女であるはずのミラクルシャインの手によって、光希の母は殺された。洗脳されていただなんて理由にならない。私は取り返しのつかない犯罪に手を染めてしまったのだ。

 

 さっき。ミラクルシャインはなのだ先輩の意見に強硬に反対した。追っ手の魔法少女を殺す気で対応するべきだとのなのだ先輩の主張に、ミラクルシャインは洗脳されてない状況で殺す意思を胸に人殺しを実行してしまえば手遅れになるとの弱い理屈で、軟弱な理由付けで否定した。

 

 ……本当はわかっていた。もう、手遅れだって。

 でも、それでも。後藤光希にとって、ミラクルシャインは正義の魔法少女だった。

 嫌いで嫌いで仕方ない光希の逃避先で。理想の投影先で。希望の象徴だった。

 正義の魔法少女という看板を、肩書きを壊したくなかった。だから、なのだ先輩に反対した。正気の状態で人を殺すことは、正義の魔法少女:ミラクルシャインの完全否定になってしまうから。

 後藤光希を否定して。ミラクルシャインまでも否定したら。

 私には、何が残るのか。何も残らなくなる。私という存在にぽっかり穴が開く。

 それが、怖くて、おぞましくて、だからこそなのだ先輩に食ってかかった。

 

 だが。もうとっくに手遅れなのだ。

 ミラクルシャインがR市の住民を大量虐殺した事実は揺るがない。

 もはや、ミラクルシャインは正義の魔法少女ではない。

 正義とは程遠い、ただの凶悪犯罪者だ。

 

 

「……」

 

 ミラクルシャインは、母の亡骸を前に、ただ立ち尽くすことしかできなかった。

 

 




絶望「女の子が精神的にメチャクチャ追い詰められるのって、イイヨネ?」
ふぁもにか1号「ワカル」
ふぁもにか2号「ワカリカネル」
ふぁもにか3号「ワカラナクモナイ」

次回【19.子供の遊びは強制参加】
※次回更新は10月14日です。

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