【完結】オリジナル魔法少女育成計画 罠罠罠   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。現状、本編は33話ぐらいで終わるのではと推測中なので、この辺が物語の折り返しとなります。なのに、本編が半分も進んだのに、未だに生き残りの魔法少女が15人もいるという事実。くッ、ほのぼの展開と銘打っていた第1~2章にもキャラの死亡イベントを忍ばせておくべきでしたか……!



17.暗躍する影

 

 

 ☆フォーチュンテラー

 

 バラ色で順風満帆な人生を歩む上で必要な要素は何か。その問いに、四雀野(しすずの)てらは先見力が答えだと確信している。それは非凡な才能で未来を予知して行動を選択し続けてきた両親と2人の兄を見て、てらが悟った事実だ。

 

 将来を見据える力にさえ長けていれば。中間や期末テスト、そして入試や各種資格試験で良い結果を残し放題。友達になりたい相手の地雷を踏むことなく交流を深め放題。対戦型のスポーツで相手の一手先を読んで裏をかき放題。宝くじだって当て放題。発展を続けていて、今後50年は衰退しなさそうな産業から安定的な就職先を選び放題。確実に幸福に至れる結婚相手も選び放題。我が身に命の危険が迫っても避け放題。仮に避けられなくても事前の準備の上で立ち向かい放題。先見力が優れていれば優れているほど、勝ち組人生が手招きしているわけだ。

 

 だが、てらは凡人だった。家族と比べて、才能が劣っていた。

 同年代と比べればてらは優秀だ。しかし、家族の領域に、高みにてらは届いていなかった。

 家族は気にするなと言う。てらがてらなりの方法で人生を充実させればそれが一番だと言う。

 しかし、てらは不満だった。てらも家族と同じ景色を見たかった。同じ立場でいたかった。

 

 そのような欲求を抱え、いくら努力しても、非凡な上に努力も一切欠かさない家族との距離は広がる一方だ。その状況にてらがふてくされ、スマホアプリのゲームである魔法少女育成計画で時間を浪費させていた頃、てらは本物の魔法少女に、フォーチュンテラーになることができた。

 そして、己の未来を見られる魔法を使えるようになった。

 

 てらは歓喜した。凡人のてらに通常の手段では家族の実力に追いつくことはできない。

 だけど、家族には魔法がなく、てらにだけ魔法が使える。このアドバンテージは大きい。

 この魔法を、魔法少女を極めれば、家族に追いつくことができる。

 そう確信したてらは、フォーチュンテラーとして熱心に魔法少女の善行活動に取り組んだ。

 

 フォーチュンテラーの『すぐ先の未来が見える』魔法は、3秒だけまでしか作動しなかった。

 しかし、てらはがっかりしなかった。3秒もあれば、暴走して突っ込んでくる車から、工事現場の上から落ちてくる鉄パイプから、偶然てらに狙いを定めた通り魔から、あらゆる危険からとっさに我が身を守ることができるからだ。

 加えて、魔法は使えば使うほど己の性格や魔法の使い方に応じて強化できるからだ。

 きっと魔法には使えば使うほど蓄積される、ゲームの熟練度のようなものがあるのだろう。

 習熟度を一定の値にまで溜めれば、デフォルトの3秒から未来を覗ける時間を延ばすことができるはずだ。それさえわかっていれば、てらの魔法にいくら期待を抱いても失望にはなり得ない。

 

 毎日毎日しっかり魔法少女を頑張って、いっぱい魔法を使って。

 3分先。3時間先。3日先。3ヶ月先。3年先の未来をも、見れるようにしよう。そして。

 てらだけが獲得できる未来の知識を上手く運用して、家族と同じ土俵に辿り着いて見せる。

 

 そのような志の元、てらが魔法少女として活動し続けること1週間。

 フォーチュンテラーは突如として、VRMMOな魔法少女育成計画の世界へと召喚させられた。そこでマスコットキャラクターの小人からのテスターの依頼を速攻で引き受けた。

 モンスターの跋扈するVR世界でなら、己の魔法を活用する機会は多いはず。

 てらに、魔法の強化に大いに活用できる絶好の機会を逃すなんて選択肢はなかった。

 

 なのに。それなのに。VR空間は虚構だった。VR空間なんてどこにもなかった。

 フォーチュンテラーは戦えない魔法少女ゆえに他の魔法少女と比べてモンスターをほぼ殺していないが、それでもチュートリアルの骸骨4体は、武器の水晶玉で頑張って殴り殺した。そう、てらが敬愛していた両親と、2人の兄をフォーチュンテラーは容赦なく殺したのだ。

 

 

「や、ひゃ、ちがッ、私、そんな、そんなわけ! 違う違う! あり得ない、違う! ウソだ、こんなの! いや、いやぁああああああああ!!」

「……うぅ」

「うあ、ウソッス! こんなのウソッス! 夢、そうッス! 夢に違いないッス!」

「あ、あぅぅぅぅぅ」

「やっぱり、メタ☆モンは殺されたんだ。それに、わたしの家族も、もう……」

「ミク。人間を食べちゃった、の? うぷ、ぇええぅぅ」

「えと、これドッキリぃ? ムイムイたちを騙す企画を魔法の国が企画したのかなぁ? さすがに趣味が悪いよねぇ、うん」

「…………」

 

 ミラクルシャインが錯乱して叫び。コットンが顔を真っ青にしつつ、それでも叫ばないだけの理性の欠片を残し。サンタマリアが懸命に夢だと己に言い聞かせ。メトロノームが絶望のあまりに今の己の心境を言語化する方法まで忘却し。ユウキは声色こそ冷静だが、万能薬の効果で『メタ☆モンは生きている』とのコットンのウソに気づいたこともあり、両眼から光が消え去り。星井ミクは人肉や人間の血を堪能していた事実に胃からものがせり上がってくる感覚を覚え、先ほどなのだ先輩が水を飲み干し空にしたピッチャーに嘔吐し。ムイムイが衝撃的な真実を受け入れずに済むご都合展開を求め。ラストエンゲージはただただ絶句している。廃ビル5階は阿鼻叫喚の様相で、すっかり秩序は崩壊している。

 

 

「ウチ、行かなきゃ。行かなきゃ……」

「待て、どこに行くのだ?」

「離して。ウチは、行くんや。家に帰って、家族の顔を見て、この悪い夢から覚めるんや」

「この状況で単独行動はいたずらに死亡率を上げるだけなのだ! 逸るのはダメなのだ、フォー!」

「いやや! ウチは帰る! ウチはパパもママも直人お兄ちゃんも恭平お兄ちゃんも殺ってへん! 皆生きとる! あんな映像、ウソっぱちや! それを確認しないと気が済まんのやぁあああ!」

 

 そんな中。フォーチュンテラーは1人、廃ビル5階の出口へと足を運ぶ。うわ言を繰り返すフォーチュンテラーの腕をなのだ先輩が力強く掴んで部屋に引き戻すが、フォーチュンテラーは構わずに廃ビルから出ようとする。今すぐにでも家族の元気な姿を見たいがために、フォーチュンテラーはなのだ先輩の説得を聞き入れずに喚き散らす。

 

 と、その時。廃ビル内にフルートの音色が浸透し始める。フォーチュンテラーが音の出所に視線を向けると、ファソラがフルートを構えて魔法の音楽を奏でていた。すると、自宅に帰ることにしかリソースを割けていなかったフォーチュンテラーの思考回路が落ち着きを取り戻す。だが、ファソラの音楽はフォーチュンテラーの心を落ち着けるような類いの音楽ではなかった。混乱する心を無理やり組み伏せ、拘束衣で身動きを封じられたかのような、強烈な窮屈さと不快さが、フォーチュンテラーの心をじわっと蝕んだ。周囲を一瞥すると、ついさっきまで平静を失っていた面々は理性こそ取り戻しているが、一様に渋面を浮かべている。

 

 

「皆さん、少しは冷静さを取り戻せたでしょうか?」

「その点は大丈夫だろうが、もう少しマシな音楽は奏でてくれないのか? あたしたちの心に巣食う絶望感を少しでも意識せずに済むような類いの音楽がほしい所なのだが」

「……ごめんなさい、なのさん。わたくしの音楽の性質は一定度、わたしが今現在抱く心情と連動していますの。わたくし自身が今、恐怖や絶望に押し潰されそうな状況では、この程度の、皆さまを正気に呼び戻す程度のクオリティの音楽が限界ですの」

「いや、それならいいのだ。無理を言ってすまないのだ。理性的に会話ができる程度の精神状態であれば、きっと何とかなるのだ」

 

 音楽を止めてフルートを仕舞ったファソラになのだ先輩が渋い表情とともによりよい音楽を要求するも、ファソラは精神が不安定な現状では大した音楽を奏でられないことを理由になのだ先輩に頭を下げる。一方のなのだ先輩はファソラに無茶ぶりしていたことを陳謝した後、フォーチュンテラーたちに向けて語りかける。

 

 

「皆の様子から一目瞭然なのだが、一応聞くのだ。皆も今、似たような映像を見たのだ? その、VR世界だと思い込んで、家族を、多くのR市の人を殺害し、R市を壊す映像を」

「「「……」」」

「沈黙は肯定と解釈するのだ。あと、もう1点。ビルの屋上に着地した辺りであたしの記憶がごっそりなくなっているのだが、何があったか知っている者はいないのだ?」

「……あ、それは、なのさんたちが急におかしくなっちゃったんだよ。まるで覚せい剤でも使ったみたいになっちゃって。雨で人をおかしくする魔法みたいなものを使われたんじゃないかって思ったから、正気のままだった私とコットンちゃんとムイムイでビルの中に皆を運んで、ムイムイの魔法で万能薬を召喚してもらって、それで皆の症状を治したの」

「ふむ、そうだったのか。助かったよ、ミラクルシャイン、コットン、ムイムイ」

 

 なのだ先輩の問いかけに誰もが口をつぐむ。言いたくないのだ。己がVR世界での出来事と勘違いして、家族やR市の住民を当然のように、嬉々として殺してきたという事実を。そのような皆の心境をしかと理解しているなのだ先輩は沈黙を肯定と捉え、さらなる質問を飛ばす。すると、ミラクルシャインが弱々しい声で簡潔になのだ先輩の欠けた記憶の補完をすると、なのだ先輩は大変な状況下でそれでも適切な行動を選択してくれたミラクルシャインたち3名に感謝した。

 

 

「さて。色々とイレギュラーが発生して遅れてしまったが、改めて状況整理を行うのだ。今の内に決めないといけないことは多いのだ」

「え? じょ、状況整理? そ、そそそそんなこと呑気に話し合ってる場合なの!? だ、だだだって、私たち! ああああんなにいっぱい人を! 人を!」

「なら、思考放棄して発狂すれば、欲求を実現する術を知らない赤ちゃんみたく泣き叫んでいれば、事態は好転するのか? いいや、間違いなく悪化の一途をたどるのみなのだ。現状、あたしたちを取り巻く環境は最悪に近いのだ。だが、何もしなければもっと悲惨な未来が待っているのだ。だからこそ。さらに最悪の底へあたしたちが向かわないように、今ここで状況整理を行い、道筋を、活路を見出す必要があるのだ。少しでもマシな未来を希求し、考えることを諦めてはならないのだ。それがわからないメトロノームじゃないのだ」

「……うぅぅ」

 

 あくまで淡々と話を進めようとするなのだ先輩にメトロノームが非難の声色で反対するも、続けて放たれたなのだ先輩の正論に反論できず、口ごもる。その隙に、なのだ先輩は早口に話を進める。フォーチュンテラーは毅然とした態度を崩さないなのだ先輩をただただ見つめる。どうしてなのさんは混乱や動揺の色を見せずにいられるのか。フォーチュンテラーは不思議でならなかった。

 

 

「しかし、状況整理しようにも、あたしたちには情報が足りないのだ。特に、あの襲ってきた魔法少女たちの情報が不足しているのだ。大方、あの魔法少女たちは、家族や家族に類する大切な者やR市の住民を大量殺戮したあたしたちの凶行を止めるべく魔法の国から派遣された魔法少女なのだ。でも、別の組織の思惑で動いているかもしれない以上、断定はできないのだ。だから、情報がほしいのだ。それも、なるべくあたしたちがリスクを負わない形でなのだ。そこで、フォーの魔法に今、あたしは可能性を見出しているのだ」

「……え? ウチの、魔法に?」

「フォーの魔法は数秒先の自分の未来を覗けるというものなのだ。サンタマリアの力を譲渡してこの魔法を強化すれば、他人の未来も、あの魔法少女たちの未来をも覗けるようになるのではとあたしは期待しているのだ。他人の数秒先の未来を覗けることは、当の他人の今現在の動向をノーリスクで把握できると同義なのだ。……だから、サンタマリア。フォーに力を貸してほしいのだ」

「あ、うん。いいッスけど……」

「フォー。自分以外の未来視もできるか、試してほしいのだ」

「……やって、みる」

 

 なのだ先輩から期待を寄せていたことが想定外だったフォーチュンテラーがきょとんとする中。なのだ先輩の求めに、覇気のない声で応じたサンタマリアがフォーチュンテラーに力を貸与してくる。その後、なのだ先輩に求められるがまま、フォーチュンテラーは己の魔法を行使した。人に指示されたことを盲目的に実行することで、脳裏に焼き付いた己の家族殺しのシーンを少しでも忘れたかったからだ。

 

 フォーチュンテラーが魔法で未来を覗く際、俯瞰視点か一人称視点かを選択できる。しかし、視覚でしか未来を捉えられず。目で見た未来しかわからない。つまり、未来で体感した音や触感などは現在の自分にフィードバックできないのだ。が、フォーチュンテラーが試しになのだ先輩の未来を覗かんと魔法を行使した結果、実際に3秒先のなのだ先輩の様子を俯瞰や一人称視点で確かめられただけでなく、未来のなのだ先輩の息遣いの音まで聞き取ることができた。

 

 

「うん、できる。ウチ以外の未来も見える。音も、聞こえる」

「じゃあ、さっきあたしたちを襲ってきた魔法少女たちの未来はどうなのだ?」

 

 フォーチュンテラーは、今度はメタ☆モンを殺した青髪碧眼の魔法少女ことスウィーツの未来を覗きにかかる。結果、スウィーツの数秒先の未来をも見ることができた。どうやらサンタマリアの力で強化されたフォーチュンテラーの魔法は、一度見たことのあるだけの対象の未来視も可能なものとしているらしい。

 

 

「……あ、できた。できへんと思ってたのに」

「よし、フォー。あの魔法少女たちの情報を少しでも多く抜き取るのだ。あたしたちの記憶とその情報を総合的に踏まえた上で、今後のあたしたちの身の振り方を考えるのだ」

「わかった」

 

 サンタマリアの魔法の力に感心していると、なのだ先輩が心なしか嬉しそうにフォーチュンテラーに指示を与えてくる。フォーチュンテラーは軽く返事をして、スウィーツの数秒先の未来を俯瞰視点から本格的に観察し始める。

 

 スウィーツはコンクリート製の広々とした建物の中にいた。損傷具合からして、工場跡だろうか。スウィーツは、さっき西田中学校に姿を現した、水色のスモック、青色のスカート、黄色い帽子といった幼稚園児な衣装の魔法少女&ピンクと白のカシュクール・ワンピースにうさみみ帽子の魔法少女と、青を基調とした軍服と軍帽を着こなす魔法少女と、輪になって会話をしていた。

 

 

「ねぇねぇ、ルディウェイ! どうしてさっきあの魔法少女どもを見逃したのさ! せっかく動揺している所を一網打尽でミンチ祭りにして精肉業者へ(´・ω・`)出荷よーのコンボができたってのにさぁ! あの判断は常識的にあり得ないって!」

「金属バットで死肉にビート刻んでた奴に常識を語られるとか複雑だなぁ☆ あのまま後を追ってたらヤバかったって、絶対☆ 何せ、冷静に戦況を見極めて皆に指示を出す司令塔がきちんと機能してたからね☆ 連携の取れない集団はただの烏合の衆だから殲滅も簡単だけど、統率の取れた魔法少女軍団に数の面で不利なあたしたちが深追いするのは返り討ちの被害しか生まないって☆ そうだよね、ぽむらちゃん? EFB?」

「そうだぴょん、スウィーツ! いくら徒党を組んでたとはいえ、相手は大した怪我もなしに警察官もヤクザも自衛隊も在日米軍も殺せるぐらいには強いんだから、慢心は禁物ぴょん!」

「それに、R市の境界線上にきちんと結界を張っている。時間制限がなく、いかなる生命体の通過も許さない強力な結界がある以上、奴らに雲隠れなんて不可能だ。今逃がした所で何の問題もあるまい。というか、そもそも貴様が俺たちとタイミングを合わせずに、1人で先走って西田中に飛ばなければ3,4人ぐらいは殺れたんだぞ。自分の失態を棚に上げて仕事仲間を非難するとは、いいご身分じゃないか、スウィーツ」

「え、ぇぇぇええ! 皆、酷いよぉ! スウィーツはただ、皆とバンドを組んで筋肉とマフラーでブイブイいわせて世界征服したいだけなのにぃ! スウィーツをいじめちゃイヤぁああ!」

 

 スウィーツがぷんすかと幼稚園児な衣装のルディウェイに詰め寄ると、当のルディウェイはなのだ先輩という司令塔の脅威を理由に追撃を取りやめたと返答する。そのルディウェイを、ピンクと白のカシュクール・ワンピースにうさみみ帽子な衣装のぽむらちゃんが援護し、青を基調とした軍服と軍帽な衣装のEFBがスウィーツを責めると、スウィーツは大げさに泣き出し、支離滅裂な言い訳を口にする。

 

 

「おっと、ごめんねぇスウィーツ☆ ちょっと言いすぎたね☆ 君の言ってることは異次元すぎてまるでわけがわからないけど、君の気持ちはフィーリングで何となくわかるからさ☆ だからほら、泣きやもうっか☆」

「あ、うん!」

「あれ? 待って☆ もしかして泣きマネ?」

「スウィーツがこの程度で泣くような繊細な奴なわけがない。証明終了」

「ちょッ、EFB!?」

 

 わんわん泣くスウィーツをルディウェイが抱き止め、背中をさすって落ち着かせようとするも、当のスウィーツはケロッとした笑顔でルディウェイを見つめる。そのことにルディウェイがスウィーツに騙されたと悟ると、EFBがそっけない口調でスウィーツをけなし、スウィーツが心外だとばかりに抗議の声を上げた。

 

 

「それにしても、本当に殺しちゃって良かったぴょん? 魔法の国からは全員封印刑にするから拘束&連行しろって話だったけど?」

「誰があんな腑抜けた命令に従うか。R市を和気あいあいと滅ぼしたあのキチガイ連中は世界の害だ。生かそうものなら間違いなく世界の毒となり、この世を蝕み多大な損害を生むだろう。ならば、ここで1人残らず仕留めるのが最善だ。上司に命令されたからといって、俺たちが倫理的に誤ったことをやっていい道理はない。なに、上には魔法少女どもが封印刑を嫌がって全員自害したとでも申告すればいい」

「そっか。なら私も心機一転、ノリノリで奴らを地獄へ突き落とすぴょん!」

 

 騒ぐスウィーツをよそに、ぽむらちゃんがEFBに魔法の国からの指示に反して良かったのかと尋ねると、EFBは社会通念に則り、大量殺人鬼の魔法少女たちはもれなく殺すべきだとの論を展開する。ぽむらちゃんもEFBの回答に満足したのか、フォーチュンテラーたちの皆殺しへのやる気をみなぎらせる。

 

 

「とにかく仕切り直しだ、手はず通りに行くぞ!」

「待つぴょん! まだ話すことはあるぴょん!」

「……内通者のことか?」

「うん。正解ぴょん。何者かに洗脳されていたとはいえ、一般人を大量虐殺してしまったことを酷く後悔していて、自分なりに贖罪をしたいと考えている。でも、封印刑や死刑では贖罪ができないため、他の魔法少女の居場所や魔法をバラして私たちの魔法少女殺害に協力する代わりに、己の減刑を要求してきて、EFBは要求を受け入れたけど……内通者のこと、信じるぴょん?」

(へ? 内通者? ……なんや、それ?)

 

 EFBが皆に出撃の声を力強く発するも、ぽむらちゃんが待ったをかける。薄々ぽむらちゃんの懸念を察していたEFBの問いに、ぽむらちゃんははつらつとしたテンションを抑えて、EFBの考えを探りに入った。その『内通者』の言葉に、スウィーツの未来を介して彼女たちの話を盗み聞きしているフォーチュンテラーが思わず固まる中も、話は進んでいく。

 

 

「別に信じていいでしょ☆ あの魔法少女たちが西田中学校にいるって告発は正しかったし☆」

「でもでもぉ、疑いたくなる気持ちは超わかるぜ、ぽむらちゃん! だって、あの居場所の告発、『こいつ、直接脳内に……!』ってノリで頭にテレパシー的な何かでユー・ガット・メールされてきたもんね!」

「内通者の2重スパイを疑ってるのか?」

「うん。私たちの信用を得て、私たちの元に潜り込んで、情報を奴らに流そうとしてるんじゃってどうしても思っちゃうぴょん」

 

 ルディウェイが内通者の密告がウソでなかったことを理由に内通者に肯定的な見解を示し、スウィーツがぽむらちゃんと同様に内通者に疑いを抱く中。EFBの問いかけにぽむらちゃんは己の疑り深さを少し情けなく思いながらも正直に心情を吐露する。

 

 

「ぽむら、その懸念は杞憂だ。俺は別に盲目的に信用したわけじゃないからな。だが現状、内通者の情報は有用だ。それは西田中学校の件が証明している。ならば思う存分、利用するまでだ。……要するに、内通者が2重スパイの可能性も一応頭の片隅に置き、内通者が提供する情報がすべて正しいとは限らないと肝に銘じておく、今はその程度でよかろう。内通者の動きがきな臭くなれば、その時に改めて疑えばいい」

「うん、わかったぴょん」

「ところでさ、その内通者の処遇はどうするの? さくっとこんがり殺しちゃうの? 殺さないの? 個人的には内通者にはアリさん気分で精力的に働いてもらった後で、『お前は減刑すると約束したな? あれはウソだ』とキルしちゃってもいいかなぁって気分なんだけど」

「内通者だけは生かすさ。直接脳内に言葉を届ける手段を持っている以上、密かに俺たちの動向を探る手段をも所持していると容易に推測できる。下手に俺たちが内通者をも殺そうと画策すれば、それこそ内通者を2重スパイに変化させかねないからな。……さて、話すことはもうなかろう。時間は有限だ。さっさと終わらせるぞ。皆殺しだ」

 

 EFBの思考開示に、ぽむらちゃんはEFBが内通者を信じ切ったわけではないと知り、ホッと安堵する。他方、スウィーツは内通者の命の扱いについて己の意見も交えつつEFBに尋ねるも、EFBは内通者だけは殺さないとの固い意思を表出させる。その後、EFBの号令により、4名の魔法少女は解散し、工場跡から立ち去った。

 

 

「……」

 

 相変わらず、フォーチュンテラーはスウィーツの未来視を続けている。フォーチュンテラーからは既に、スウィーツたちの動向を未来視で真剣に追い続ける意思は消え去っていた。内通者の存在を知ってしまったからだ。内通者は自分たち11人の中に紛れていて。今も、自分だけが生き残るために、残る10人の命を差し出そうとしている。自分を除く10名の中に、そのような狡猾な意思を潜めて、表向きは怯えたり混乱したりな態度を演じている者がいる。それが、フォーチュンテラーには怖くてならなかった。

 

 

「フォー、どうなのだ? 情報は掴めたか?」

「えっと、ウチらを襲おうとしとる魔法少女は全員で4人。名前は軍服を着とるのがEFB、園児服を着とるのがルディウェイ、水色のドレスを着とるのがスウィーツ、うさみみ帽子を被っとるのがぽむらちゃん。魔法の詳細はわからへん。そんで、R市でいっぱい人を殺したウチらを封印刑ってのにしようと4人を魔法の国が派遣したみたいやけど、4人は魔法の国の意思に反してウチらを殺す気満々や。で、ウチらが逃げないように、R市の境界線には時間無制限かついかなる生命体も通過させへん結界が張られてるみたいやから、R市から脱出するのは難しそうや。そんで、4人は今、4手にわかれてどっかに向かっとる。あと、それで、その……ウチらの中に、内通者がおるって……ウチらに紛れて、ウチらの位置情報や魔法を教える見返りに、自分だけは殺さないでってお願いを聞いてもらってる人がいるって……」

 

 頃合いを見計らった上でのなのだ先輩の催促に、フォーチュンテラーは内通者について話すべきか伏せるべきか迷いつつも、結局は正直に話すことに決めて言葉を紡ぐ。が、瞬間。空気が凍った。フォーチュンテラーは肌で感じた。同じ境遇に貶められた被害者仲間という皆の意識の結束が崩壊し、裏切り者の紛れた信用できない団体へと変貌したことが、目に見えてわかった。

 

 あぁ、失敗や。言うべきやなかった。

 フォーチュンテラーは己の選択を心から後悔した。

 

 




絶望「ふっはっくらえ! ふっはっくらえ!⊂( ・∀・) 彡」
ふぁもにか「入念な準備運動をしている。実際コワイ!」

次回【18.必ずしも敵は待ってくれない】
※次回更新は10月9日です。

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