【完結】オリジナル魔法少女育成計画 罠罠罠   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。前回は第3章に入って早速死者が発生しましたね。最初の死者はメタ☆モンでしたが、皆さんの予想は当たりましたか? 今後も第3章では続々と死者が生まれますので、くれぐれも覚悟の上で閲覧してくださいませ。



15.不安定な逃走劇

 

 

 ☆ユウキ

 

 物心ついた頃から既に、鮫島悠希(さめしまゆうき)は、後のメタ☆モンこと目谷文歌と友達で。いつもいつも当然のように文歌に守られていた。別にお姫さまでも何でもない一般人なのに、悠希が辛いと思ったあらゆることから文歌が守ってくれた。

 

 なんで文歌がここまでわたしに尽くしてくれるのかはわからない。

 文歌に尋ねても、何も答えてくれない。だけど、どうやらわたしの忘れてしまった小さい時に文歌に何かをしてしまったことまでは判明した。

 

 

「悠希が幸せなら、わたしも幸せだから。それでいいんだ」

 

 文歌は笑う。わたしを守るためにクラスメイトを邪険に扱った結果、ほとんどのクラスメイトに嫌われてしまった文歌は何ともなさそうにわたしに笑みを浮かべる。

 わたしは、そんな強い文歌に甘えていた。頼っていた。依存していた。

 強い文歌の背中に隠れて、下心を隠しきれないまま急接近する男子から、好きな男子の注目を奪ってしまったからか、わたしに聞こえるような声量で陰口を浴びせる女子から、逃げてきた。

 嫌なことは、全部文歌に投げ出してきた。

 

 このままじゃダメだと、ずっと思っていた。だけど、中々変われなかった。

 弱虫で、小心者なわたしは変わる勇気を中々抱けなかった。

 それでも。じっくり覚悟を決めて。高校生を機に、わたしは変わり始めた。

 わたし一人でも、文歌の力を借りずとも、きちんと自己主張をして。

 嫌なことはちゃんと嫌だと言って。わたしに合った人間関係を構築できるように頑張った。

 

 全ては文歌に幸せになってもらうためだ。

 文歌に依存したままじゃ、文歌を幸せにできない。

 わたしを守るために、文歌は敵をいっぱい作って孤立してしまうから。

 わたしだけ幸せじゃ、意味がない。文歌にも幸せになってほしい。

 

 そして、文歌と対等でいたい。ただ守られるだけの存在でいたくない。

 守って、守られて。互いに支え合う。親友なんだから、文歌とはそんな関係でありたい。

 なのに。

 

 

「メタ☆モン。怖いよ……」

「……大丈夫だよ。何があってもユウキは絶対に守るから」

 

 メタ☆モンに極力頼らないと決めたのに。対等でいたいと決意したはずなのに。

 VRMMO版の魔法少女育成計画のテスターを終え、すっかり崩壊したR市を目の当たりにして。西田中学校の校庭で残虐極まりない大量の死体を直視してしまい。なるべく表に出さないと決めていた弱気な部分があふれ出し、わたしは震え声でメタ☆モンの袖を掴む。

 

 ダメなのに。怖いのは、気味が悪いのは、メタ☆モンだって一緒なはずなのに。

 さっきまでメタ☆モンは大量の死体を前に今にも吐きそうにしていたのに。

 メタ☆モンに泣き言を、弱音を漏らす機会をわたしは奪ってしまった。

 わたしは、変われないのだろうか。いつまでもメタ☆モンに依存するだけの存在なのか。

 強烈な自己嫌悪に、思考が何も纏まらなくなりつつあった。その時。

 

 

「ユウキ、危ない!」

 

 いきなり、メタ☆モンがユウキを突き飛ばしてきた。ユウキがバランスを崩して尻餅をつく中。メタ☆モンの行動の意図を知るべくユウキが顔を上げると。

 

 

「あはぁ! 無様に体液まき散らして、しーんじゃえ!」

「お前、いきなり何を――」

 

 いつの間に現れたのか、ふんわりとしたボリュームあふれる水色のドレスを着た、青髪碧眼の魔法少女がメタ☆モンの腕を力強く掴んでいた。メタ☆モンが青髪の魔法少女の唐突な動きに抗議しようとした瞬間、メタ☆モンがゴフッと黒く粘性のある液体を吐き出した。

 

 

「え?」

 

 ユウキが絶句する間にも、メタ☆モンはガクガクと体を痙攣させながらさらに口から黒い液体の塊を吐いて、力なく黒い液体まみれの地面にビチャッと倒れる。そして。メタ☆モンと目が合ったのを最後に、メタ☆モンは変身前の目谷文歌に戻っていた。

 

 

「文、歌?」

 

 ユウキが呆然と文歌の名を呼ぶが、当の文歌は何も反応しない。文歌を起点として黒い液体が円状に広がるのみだ。血の臭いに黒い液体の甘ったるさが混じり、気持ち悪い空気を醸成する中。ユウキの頭の中ではとある情報が声高に存在感を顕わにしていた。魔法少女が意図せず変身を解く時。あり得るのは基本的に、気絶した時か、死亡した時だ。

 

 

「ウソ、だよね……?」

 

 最悪の事態が脳裏によぎり、ユウキが倒れる文歌の元に向かうべく、力の入らない手を支えに何とか立ち上がり、フラフラとした足取りで文歌に近づこうとした時。青髪の魔法少女が文歌の頭に金属バットを振り下ろした。

 

 

「せっかくだから死体蹴りドーン! ひゃあ、グッロテッスクゥー!」

「……は?」

 

 魔法少女の筋力で力いっぱい振り下ろされた金属バットにより、文歌の頭がグシャッと音を立てて潰れる。青髪の魔法少女は何がおかしいのか、文歌の潰れた頭を見て、ケタケタ笑う。訳がわからない。こいつは、一体何をしているのか。ユウキの理解の範疇を平然と飛び越える青髪の魔法少女の残虐行為に、思わずユウキの頭は真っ白になった。

 

 

「あ、どーも、どーも皆さん! スウィーツのステージにようこそ! 自己紹介するね! ドラム担当のスウィーツだよ! 明るく激しい音楽が得意だからじゃんじゃん聴いてってねぇ! ヘイ、ヘイヘーイ!」

 

 ユウキと同様に、誰もが青髪の魔法少女の狂気に言葉を失う中。ユウキたちの注目を一身に浴びていることに気づいた青髪の魔法少女――スウィーツ――は金属バットでメタ☆モンの顔面を何度も何度も殴りつけながら明らかにズレた自己紹介をする。

 

 スウィーツが話す間にも、何度も金属バットで顔を殴られた文歌の体から黒い液体が飛び散り、折れた歯が吹っ飛び、文歌の顔に原形がなくなっていく。

 

 

「むー、ダメだなぁ。こいつじゃあんまり良い音がならないよぉ。スウィーツの華麗なドラムさばきを見せつけて拍手喝采雨あられの予定だったのに。むむむ、現実とは非情であるな」

「――お前ぇええええええええええええ!!」

 

 ユウキの目の前で文歌が砕けていく。崩れていく。その様を見て、ユウキは理解した。メタ☆モンは、文歌は死んだ。スウィーツに殺された。その時、ユウキの中ですり減っていた理性が壊れた。ユウキはハートのトランプを胸ポケットから取り出し、スウィーツに向けて青白いビームを放つ。ユウキの怒りの咆哮とともに放たれたビームを、スウィーツはユウキに視線を向けていないにもかかわらずあっさりと回避してみせた。

 

 

「おっと、危ない危ない。正義の魔法少女に不意打ちとか、あんた魔法少女の皮を被った忍者じゃね? ってか、見た感じ中々に強そうな攻撃だね。ロマンも上々。ほむ、やっぱそっちを先に殺すべきだったか。こりゃ実績解除は難しいかにゃあ?」

「ふざっけるなぁあああ!」

「あ、これはバーサーカーですわ。女子力かなぐり捨ててますわ」

 

 ユウキはスウィーツへと駆け出す。いくらビームを放っても一向にスウィーツに命中しないことが我慢ならなかったのだ。一方のスウィーツは素なのか敢えてなのか、ユウキを舐め腐ったような態度を維持しながらビームを次々とかわしていく。

 

 

「んぎ!?」

「近づいたらアカン! 援軍が空から来る!」

 

 が、ここで。ユウキは左腕を引っ張られ、スウィーツと無理やり距離を離される。予想だにしない展開にユウキがバッと背後を振り向くと、フォーチュンテラーが必死の形相で警告を飛ばしてきた。が、今のユウキにとっては迷惑でしかない。

 

 ユウキが無言でフォーチュンテラーの手を振り払おうとした直後。校庭に再び轟音が響き、地面が上下に激しく揺れ始める。一度校庭での揺れを経験したためか、今度はユウキたちが転ばずに済む中。轟音の起点に、2人の少女が着地していた。

 

 

「スウィーツ、フライングしすぎだって☆ ちゃんとあたしたちの分も残してる?」

「爆弾で長距離移動って初めてだったけど……やや! 安全装置なしのジェットコースターって感じで超楽しいぴょん! スリルはワクワクを増幅させる最高のスパイスぴょん!」

 

 1人は水色のスモック、青色のスカート、黄色い帽子といった幼稚園児な衣装で着飾り、もう1人はピンクと白を織り交ぜたカシュクール・ワンピースにうさみみ帽子を着用しており、2人が空から轟音を響かせて登場したにもかかわらず足にダメージを受けていない様子や、スウィーツに気さくに話しかける姿、そして二次元の中にしかいなさそうなほどに可愛い容姿から、2人もまた魔法少女であると簡単に推察できた。

 

 

「皆、ここは退くのだ!」

「……あらあら。退くのですか? ここは数の利であの魔法少女たちを倒して事情を聞き出し、状況を把握した方がいいのではありませんか?」

「それじゃあダメなのだ! これで増援が終わったとは限らないし、敵の実力が未知数なのだ! 敵の情報が少なすぎる今戦ったら、あたしたちのさらなる犠牲を覚悟しなければならないのだ! だから、撤退しかないのだ!」

 

 と、ここで。これまで怒涛の展開のラッシュにどうすればいいかわからず硬直するミラクルシャインたちに向けて、なのだ先輩が撤退の指示を出す。ファソラがなのだ先輩に異論を出すも、なのだ先輩は自分たちの安全を最優先にするため、ファソラの考えを退ける。

 

 

「ムイムイ、ミク、ユウキ! 遠距離からあの3人の足止めを頼むのだ!」

「あ、あぃ!」

「わかったの!」

「は?」

 

 その上で、なのだ先輩は遠距離攻撃のできるムイムイと星井ミクとユウキに、敵の魔法少女3名への牽制をお願いする。なのだ先輩の力強い声にハッと我に返ったムイムイがロケットランチャーを手元に召喚し、星井ミクが敵の魔法少女3名に大量の流れ星を落とし始める。だが、ユウキはなのだ先輩の指示に拒否反応を示した。

 

 

「私にそんな攻撃、効かないぴょーん!」

 

 ムイムイのロケット弾に、星井ミクの流れ星の雨に向けて。うさみみ帽子の魔法少女がどこからか取り出したたくさんのピンク色のゴムボールを一斉にばら撒くと、ゴムボールがバーンと盛大な音とともに弾け、あらぬ方向へロケット弾や流れ星を弾き飛ばしていく。それでも構わずにムイムイと星井ミクは攻撃を続けるも、今のままでは敵の魔法少女3名から確実に逃げられるだけの足止めが困難なのは想像に難くないだろう。

 

 

「何言ってるの、なのさん? 逃げる? やだよ。あそこにメタ☆モンの仇がいるのにすごすご背中を見せて逃げろとか論外でしょ。わたしは逃げないから。もうリーダーじゃないくせに勝手に命令しないでよ」

「落ち着くのだ、ユウキ! 激情に身を任せて特攻しても自滅するだけなのだ!」

「ウザいよ、なのさん。邪魔、死んで」

 

 そんな中。ユウキは幽鬼のごとき形相でなのだ先輩に視線を向け、淡々と言葉を紡ぐ。ユウキに正気を取り戻してもらうべく、なのだ先輩が言葉を畳みかけるも、スウィーツを殺す気満々な己を妨害しようとするなのだ先輩そのものが煩わしくなったユウキは、なのだ先輩を消し飛ばす気でビームを放った。しかし、背後に誰もいないことを確認した上でなのだ先輩が魔法で体を10センチほどの手乗りサイズに縮めたため、ビームは空を切るのみだった。

 

 

「ユ、ユユユユユユウキさん!? なななな何やってるの!?」

「気でも狂ったッスか、ユウキ!? なのさんは仲間ッスよ!」

「……完全に暴走してるのだ。これは、一度気絶させるしかないのだ」

「なに? 小さくなることしかできないくせに、わたしに勝てる気でいるんだ。へぇ、へぇー」

 

 ユウキが味方のなのだ先輩に殺意を込めて攻撃したことにメトロノームが怯え、サンタマリアが度肝を抜かれ、元のサイズに戻ったなのだ先輩が冷静に短剣を構える中、当のユウキはなのだ先輩を何としてでも殺す方向で思考が定まりつつあった。さらになのだ先輩の魔法があまり攻撃的でないにもかかわらず、単独でユウキを止めようとしていること自体に、格下だと見下されていると解釈した結果、ユウキの声はどんどん底冷えしたものとなっていく。

 

 

「ユウキさん! メタ☆モンさんはまだ生きてるのです!」

「……え? コットン、さん?」

 

 ユウキとなのだ先輩との戦いが勃発しようとした、その時。コットンがユウキに衝撃発言をぶつけてきた。あまりに想定の埒外なコットンの発言に、ユウキの中のなのだ先輩への怒りはいともたやすく吹っ飛ばされた。

 

 

「ですが、メタ☆モンさんは生命の危機に瀕してるのです! ユウキさんがあの魔法少女たちから一度逃げることで、初めてメタ☆モンさんは死を回避できるのです! 今ここで撤退しなければメタ☆モンさんは確実に死ぬのです! そうですよね?」

「アッハイ」

 

 コットンの主張は驚くほど滑らかにユウキの心にスルリと入り、すぐさま疑いようのない事実として定着した。そうだ。そうだよ。メタ☆モンはまだ死んでなんかいない。体から黒い液体の塊を吐き出そうと、何回金属バットで顔を殴られようと、魔法少女は死なない。そんなの常識じゃないか。危ない。わたしが選択を誤ってあの魔法少女たちから逃げまいとしたせいで、メタ☆モンを殺す所だった。今まで散々助けてもらっておいて、わたしからメタ☆モンを殺すなんて絶対に許されないことだ。今後は気をつけないと。

 

 

「……ごめんなさい、なのさん。わたしも加勢するよ!」

「よろしくなのだ」

 

 ユウキはバツが悪そうになのだ先輩に謝罪した後、己もまたムイムイと星井ミクが担当する敵の魔法少女3名の足止め役に加わり、トランプからハート型のビームを放出する。だが、物体とは別原理の現象であるビームでさえも、うさみみ帽子の魔法少女のゴムボールの破裂に伴う爆発により、ビームの軌道をあらぬ方向へとねじ曲げられる。

 

 

「コットン、助かったのだ」

「どういたしまして。……ユウキさんには後でいっぱい謝らないとなのです」

 

 ウソをホントと思い込ませる魔法でユウキにメタ☆モンが生きていると勘違いさせることでユウキに正気を取り戻させたコットンになのだ先輩が感謝するも、当のコットンは残酷なウソでユウキを騙したことへの罪悪感から、素直に感謝を受け取れない。

 

 

「皆、耳を塞いで!」

「……え、耳……?」

「いいから耳を塞いで!」

 

 と、ここで。ミラクルシャインが敵の魔法少女3名の元へと勢いよく駆けながら、皆に耳を塞ぐよう要請する。ミラクルシャインの突然の指示の意図がわからず、ラストエンゲージが代表してミラクルシャインに困惑の旨を伝えるも、ミラクルシャインは敢えて同じ指示を連呼するのみだ。

 

 

(ミラクルシャインさん、何を考えて……)

「いくよ! これが本気のミラクルサウンドボム!」

(あ、まさか!)

 

 ユウキもまたミラクルシャインの狙いがわからずにいたが、ミラクルシャインがサンダードラゴンとの戦闘時と似たセリフを叫んだことでようやく意図を把握したユウキは、耳を両手で塞ぎつつ、ギュッと目を閉じた。

 

 

「あっははは! バカじゃん、お前! 周りに警告したら何するかバレバレ――ぎゃああああ!?」

「技名が全てを物語って――ぴょん!?」

「みゃああああああ☆!?」

 

 一方、ミラクルシャインの言動から爆音を用いた攻撃を仕掛けてくるものと推測したスウィーツたち3名の魔法少女もまた耳をしっかり塞ぎつつ、ミラクルシャインを煽りにかかる。だが、直後。ミラクルシャインを起点として校庭一帯を襲ったのは爆音でなく、下手に直視すれば失明してしまうのではないかと錯覚してしまうほどに強烈で暴力的な光だった。どうやらユウキの予想通り、ミラクルシャインはスウィーツたち3名の魔法少女に今から音で攻撃を仕掛けると勘違いさせた上で不意を突く目的だったようだ。

 

 

「皆、察してくれてありがとう! もう目ぇ開けていいよ!」

「あれだけ『耳』、『耳』って強調してたんや、さすがにわかるわ」

「ああううう、めめめ目が、目が痛いよぉ……」

「……ま、何事にも例外はある。当然やな」

「あ、ごめんね。メトロノームちゃん」

 

 敵の魔法少女3名の悶絶ボイスが校庭に轟く中。見事に不意打ちに成功したミラクルシャインは皆が空気を読んでくれたことに感謝する。フォーチュンテラーがやれやれと手を広げて皆がしっかり察したことにどや顔を浮かべていると、ここで両手で目を押さえてボロボロ涙を零すメトロノームの姿が視界に入った。ミラクルシャインの意図を読んで対応しきれなかった魔法少女の存在にフォーチュンテラーは目を逸らし、ミラクルシャインはぺこぺこ頭を下げた。

 

 

「今がチャンスなの! サンタマリア、ミクに力を貸すの!」

「了解ッス!」

「皆! 流れ星に掴まるの!」

「メトロノームちゃん! 私の背中に!」

「あ、あああありがとう!」

 

 一方。星井ミクは今こそが撤退の好機として、サンタマリアから力を借りる。そして、星井ミクは足元から直径2メートルの金平糖型の流れ星を12個出すと、角の部分にしっかり掴まるように要請する。と、ここで。ただいま失明中のメトロノームに流れ星の角に掴まって空中を飛ぶのは精神的負担が大きいだろうと考えたミラクルシャインはメトロノームをおんぶすることにし、メトロノームはミラクルシャインの配慮に感謝を告げる。

 

 

「逃がさないぴょん!」

 

 と、ここで。まだ強烈な光のせいで視力が回復していないにもかかわらず。うさみみ帽子の魔法少女がユウキたちの方向へと的確にゴムボールを投げ飛ばしてくる。ゴムボールとの距離が遠い内にユウキがビームでゴムボールを破壊しようとするも、それより早くムイムイがゴムボールとユウキたちの間に厚いコンクリート壁を召喚する。

 

 

「ちょッ、なに召喚してるの!? あの壁がわたしたちの方へ吹っ飛んで来たら――」

「――ムイムイの勘があってるなら、これで大丈夫ぅ」

 

 ユウキはゴムボールの破裂に伴う爆発とともにコンクリート壁がユウキたちを巻き込むようにして吹っ飛んでくるかもしれないと顔を青ざめるも、ムイムイはゴムボール型の爆弾に何らかの法則を見出したらしく、平然としている。結局、ゴムボールはコンクリート壁にぶつかって爆発したが、コンクリート壁はピクリとも動かなかった。

 

 

「皆、掴まったのだ! ミク!」

「わかったの! 飛ばすから覚悟するの!」

 

 なのだ先輩が皆がちゃんと流れ星の角にしかと掴まったことを目視で確認して星井ミクに伝えると、星井ミクの発言を機に流れ星が一斉に空へと飛び立つ。

 

 星井ミクが虚空より生み出す流れ星はその性質を自在に決められるが、一度流れ星を出すと途中で流れ星のスピードを変更することはできない。だが、その欠点はサンタマリアから力を借り、星井ミクの魔法が強化されることにより解消される。そのため、星井ミクは流れ星のスピードを限りなくゼロにしてその場にとどめ、皆がしっかり流れ星を掴んだ後で流れ星のスピードを跳ね上げる形で、校庭から早々に皆を離脱させた。

 

 

「あらあらぁあああああああ!?」

「わわわわわわわ!?」

「ひぇええええええええッス!?」

 

 ファソラやメトロノーム、サンタマリアといった一部の魔法少女たちがうっかり流れ星から手を離せば死亡間違いなしな高さを猛スピードで飛んでいるというシチュエーションに恐怖を感じて悲鳴を上げるも、星井ミクは一切流れ星のスピードを落とさずに飛ばし続ける。だが、数分後。ぽつぽつと雨が降り始め、瞬く間にバケツをひっくり返したような豪雨になると、星井ミクは崩壊した建物群の中で比較的原形を保っている廃ビルに流れ星を落とし、皆を廃ビルの屋上に着地させた。

 

 

「えっと、もっと遠くまで逃げないの?」

「そうしたいのは山々だけど、こんな酷い豪雨じゃ、手を滑らせて流れ星から落ちる人がいてもおかしくないの。ごめんなさい、なのさん」

「いや、これだけ距離を離せば立て直しには十分なのだ。とにかく、ビルの中で雨宿りしつつ、状況整理をするのだ」

 

 てっきりまだまだ西田中学校から離れるものと想定していたユウキが星井ミクに素直に尋ねると、星井ミクは天候悪化により安全を確保した上での逃走ができなくなったとの理由を告げ、なのだ先輩に謝った。が、なのだ先輩としてはメタ☆モン以外のさらなる犠牲が生じることなく戦線離脱できただけでも十分に及第点だったため、星井ミクの活躍を褒めつつ、廃ビル内でしばし時を過ごすことを提案する。

 

 かくして、VRMMO版の魔法少女育成計画のテスターとの共通項を持つ11名の魔法少女は、なぜか自分たちに殺意を持つ3名の魔法少女からの逃走に成功するのだった。

 

 




絶望「ついに、ついに我が世の春がやってまいりました! 実況は私、絶望がお送りいたします。さて、解説のふぁもにかさん。これからどんな展開になると思いますか?」
ふぁもにか「君がはしゃぎ過ぎなければあっという間に全滅、なんてことにはならずに、適度な絶望を皆さんが味わうことになると思いますよ?」

次回【16.狂気と正気の境界線】
※次回更新は9月29日です。

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