【完結】オリジナル魔法少女育成計画 罠罠罠   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。今回から第3章に入ります。起承転結の『転』に差し掛かったため、今までのほのぼのが跡形もなく消え去り、鬱やら絶望やらといった、魔法少女育成計画らしい雰囲気が跳梁跋扈し始めます。ほのぼの展開だけでいいよ、皆が痛み苦しむ姿なんて見たくないんだ、って方々はここで閲覧をやめましょう。ふぁもにかさんとの約束です。



第3章 残虐な正義と被害者面な悪
14.絶望の萌芽


 

 

 ☆メタ☆モン

 

 目谷文歌(めたにあやか)は物心ついた頃から既にヒーローに憧れていた。

 文歌は魔法少女より、悪を挫き、弱きを救う。そんな強い正義のヒーローに憧れていた。

 魔法少女は戦う時にイマイチ迫力に欠けるし、戦ってない時は性根が弱々しいケースが多く、好みじゃない。だが、ヒーローは純粋にカッコいい。正統派で皆から愛されるヒーローの活躍には心躍るものがある。そのため、文歌はヒーローになることをずっと夢見続けてきた。

 

 ゆえに、文歌は自身が女であることが非常に残念だった。

 何せ、テレビ画面の向こう側で活躍するヒーローは、男ばかりだからだ。

 女のヒーローもいないことはないが、まず数が少ない。その上、何か弱点を抱えていることが多く、なんだかんだでヒロインポジションに収まりやすい。

 文歌にとって、そんな軟弱者はヒーローじゃないのだ。

 ヒーローは精神も肉体もともに強くなければ話にならない。

 強さが。悪を吹き飛ばす圧倒的な強さがなければ、正義は全うできない。何かを救えない。

 弱いヒーローはヒーローに値しないのだ。

 

 ヒーローは男にしかなれないのか。

 いつも文歌の脳裏によぎり、その度に文歌は女の体を呪っていた。

 

 転機が訪れたのは、幼稚園児の時。いつものように文歌が男友達に混ざってヒーローごっこをしていると、園庭の隅で3人の男の子に囲まれてうずくまっている女の子がふと視界に入った。その女の子が泣いていることに気づいた瞬間、文歌はすぐさま女の子と3人の男の子の間に立った。そして、突然の乱入者に戸惑う男の子たちを前に、文歌は憧れのヒーローのように、毅然とした態度で、「この子に手を出すつもりなら、わたしが相手だ!」と言い放ったのだ。

 

 男の子たちは文歌に手を出さなかった。

 予想外の展開に、とにかくオロオロしているだけだった。

 結局、一連の騒ぎは園長先生が文歌たちの元に駆け寄り、お互いに「ごめんなさい」をするという形で収まった。文歌的には、女の子を泣かせた悪に頭を下げたくなかったが、園長先生を怒らせた時の怖さを身にしみて知っているため、渋々頭を下げた。

 

 本当は、女の子を泣かせた悪の男の子を倒したかった。

 が、文歌には力がないため園長先生に逆らえず、終ぞ男の子たちを倒して正義を全うできなかった。やっぱり女だとヒーローになれないのだろうか。文歌の心に暗い影が差す。

 日頃から外で遊んでいるから体力はある。運動神経も良い方だ。文歌にはまだまだ力がない。

 悪を、敵を倒せない。文歌は弱い。もしも文歌が男だったら。男だったら。男だったら。

 

 文歌の気持ちが憂鬱に侵食されゆく中。園児服の裾をキュッと誰かが引っ張ってきた。文歌が振り向くと、もう片方の手でゴシゴシと涙を拭い終えた女の子が、文歌に笑いかけてきたのだ。

 

 

「助けてくれて、ありがとう!」

 

 これが、目谷文歌と後の魔法少女ユウキこと鮫島悠希との出会いだった。

 そして。この瞬間から、文歌の夢は変わった。

 ヒーローになりたいのは相変わらずだが、万人を救えるだけに強大な力を持った完全無欠なヒーローは目指さなくなった。女でも、力や運動神経に突出したものがなくても、ヒーローになれるということを悠希が教えてくれた。だから、これからはあらゆる障害から悠希だけは絶対に守るヒーローになりたいと文歌は夢見るようになった。それだけ、悠希の存在は、あの時の悠希の笑顔は、文歌にとって価値あるものだったのだ。

 

 その後。文歌と悠希は一緒に行動するようになった。

 5歳から16歳まで、実に12年間もだ。その間、文歌は積極的に悠希と一緒に遊んで、時間をかけて知り合いから友達へ、友達から親友へと関係を深めていった。

 

 悠希は非常に外見が整っている。性格も他者を尊重し、お淑やかだ。そして、気が弱い。

 悠希と仲を深めたいと色んな男子が寄る度に、怯える悠希のために文歌は男子を乱暴に追い払った。男子にやたら好かれる悠希を妬み、悠希に聞こえるように陰口を行う女子が現れる度に、相手を尊重し、表では笑って心で泣く悠希のために、文歌は女子を物理で脅して、陰湿な遊びの標的に悠希が定められないようにした。

 

 代わりに文歌が小学校、中学校で嫌われ者となったが、文歌には何も堪えなかった。

 悠希のヒーロー。そのポジションさえ変わらないのであれば、何でもよかった。

 

 高校生になってからは、いつまでも文歌に頼るわけにはいかないと、悠希は弱気な性格の克服に挑戦し始めた。結果、悠希は随分と自己主張できるようになった。弱気な性格は鳴りを潜め、文歌の助けが必要となる場面は減っていった。

 

 寂しい気持ちも少しはあったが、文歌の根幹は変わらない。

 悠希がピンチになった際にヒーローとして助けるだけだ。

 

 気持ちは何も変わらない。熱心にプレイを続ける悠希につられてスマホアプリの魔法少女育成計画に取り組んだ結果、悠希と一緒に本物の魔法少女になってからも。文歌の覚悟は、心根は変わらない。魔法少女になったことで、超人的な身体能力や非常識な魔法が手に入った以上、圧倒的な力で正義を執行する完全無欠なヒーローへの道が開かれたが、それでも文歌は、自分と同等の身体能力と強力な魔法を手にして強くなった悠希を守るのみだ。

 

 そのような考えを抱えていたからだろうか。

 突如、バーチャル世界に転送され、VRMMO版の魔法少女育成計画のテスターをしてほしいとマスコットキャラクターに頼まれた時、文歌の心に魔が差した。

 悠希のヒーローでいたかった。が、最近はヒーローらしく活躍できる機会に乏しかった。

 ならば。悠希がピンチになりやすい状況に悠希を誘導すればいいのではないかと思い至った。

 

 だからこそ。文歌はメタ☆モンとしてテスターに参加の意思を示した。メタ☆モンは他の魔法少女が自己紹介やパーティー作りを提案する前にいち早く探検を始めようとした。メタ☆モンは少人数パーティーで行動したいと主張した。魔王のような強力な敵の存在に期待した。巨大な木のボスにも、ラスボスにも果敢に挑む意思を示した。

 ヒーローらしく、悠希を救える機会に恵まれそうだったからだ。

 

 が、結局。機会にはそこまで恵まれなかった。巨大な木のボスの時は1回悠希を庇えたが、状況が状況だったので、格別なご褒美である、ユウキの『ありがとう』との感謝の言葉と笑顔はもらえていない。

 

 文歌は少しだけ残念だった。悠希のヒーローとして、欲求不満だった。

 同時に、文歌は自分の二重基準っぷりに戸惑っていた。悠希を救うのは、悠希に幸せになってほしいから。そのはずだ。なのに、他方では悠希のピンチを心待ちにしている自分がいる。結局、自分は悠希にどうなってもらいたいのだろうか。

 

 

「楽しかったね、メタ☆モン」

「そうだねぇ。ホント良い機会に恵まれたよ」

 

 マスコットの小人の最後の説明が終わり、今にもバーチャル世界から元の居場所への転送が始まろうとする頃。ユウキがメタ☆モンに笑いかける。メタ☆モンもニッコリ笑顔で悠希に応じる。己の心に対する戸惑いから一度、目を逸らしながら。

 

 これからは、再び日常に戻る。悠希が少したくましくなった影響で、あまりヒーローとして活躍できない日常に戻る。そこに寂しさを感じるのは、間違っているだろうか。

 

 

 表では笑って、内心では悶々としていると、メタ☆モンの景色が切り替わる。

 が、メタ☆モンの視界に広がっていたのは。現代日本とは思えないほどに荒れ果てた都市だった。見渡す限り、多くの建物がズタボロに倒壊しており、人気も全くない。

 まるで人類の文明が滅んだのではないかと錯覚してしまうような異質な光景だった。

 

 

(おかしい)

 

 メタ☆モンがバーチャル世界に転送される前にいた場所は、MM市にあるメタ☆モン宅の玄関だ。宅配便を受け取ろうとドアを開け、宅配業者の元気な声を聴いたのを最後に、バーチャル世界に放り込まれた。ならば、今メタ☆モンはMM市にいないといけないはずだ。何せ、マスコットが『皆さまを現実世界に還す際は、皆さまがこのバーチャル世界に入る前に皆さまがいた場所にそれぞれ転送する段取りとなっております』と言っていたのだから。

 

 

「……ここ、どこ……?」

「まるで世紀末ッスねぇ。今にもモヒカン連中がヒャッハーしてきそうな雰囲気ッス」

「幽霊やゾンビが徘徊していそうな荒廃っぷりなのです」

「何や何や? 転送の際に何かバグったんか!? 異世界にでも飛ばされたんか!?」

 

 ラストエンゲージがコテンと首を傾げ、サンタマリアとコットンがキョロキョロと周囲を見渡し、素直な印象を口にする。一方、フォーチュンテラーは周囲に広がる異様な光景を前にしても相変わらずの平常運転っぷりを見せる。

 

 

「って、皆! コスチュームが血まみれになってるよ!」

 

 と、ここで。ミラクルシャインが顔を青ざめてメタ☆モンたちに指摘してくる。言われてメタ☆モンが己の着用している紫と白を基調としたセーラー服を見やると、真っ赤な血がべったりと染みついていた。途端に血の強烈な鉄の臭いが鼻を突き、不快感からメタ☆モンは眉を潜める。

 

 

「え、いつの間に凄く汚れてるの!?」

「ひ、ひぇ!? ち、ちちちちち血が、こんなにぃ!?」

「落ち着いて、メトロノーム。よしよし」

「あらあら。これは一体どういうことでしょうか?」

「わからないけど、今はとにかく一度変身を解除して、変身し直すのが一番っしょ。それでコスチュームを綺麗にできるし」

 

 星井ミクが血に染まったコスチュームに目を丸くし、メトロノームが目に見えて動揺を顕わにし、ユウキがひとまず慣れた口調でメトロノームの狼狽を落ち着けにかかり、ファソラが不安そうな様子で頭にクエスチョンマークを浮かべる中。メタ☆モンは皆に一度元の姿に戻ってから改めて変身することを提案する。

 

 

「へ、そうなのぉ?」

「うん、ほら」

 

 ムイムイがゆったり口調で驚きを表現する中、メタ☆モンは実際に皆の前で一瞬だけ変身を解き、すぐに変身し直し、血のついていないコスチュームを見せる。魔法少女は正体を一般人に知られてはいけないため、事前に周囲に人気がないことを再確認した上での変身である。

 

 

「おお! ホントだぁ! なんでぇ?」

「清潔じゃない魔法少女なんて魔法少女らしくないっしょ? だから変身ごとに汚れのリセットされたコスチュームを着られる仕様になってるってわけ。ほら、皆もちゃっちゃと着替えてよ」

 

 血がさっぱり消え去ったメタ☆モンのセーラー服を見て興奮気味の声を上げるムイムイにメタ☆モンは軽く理由を説明した後、皆にも再変身を要請する。いつまでも濃厚な血の臭いを嗅いでいたくなかったからだ。メタ☆モンの要請を断る理由はないため、他の魔法少女たちも同様の方法で速やかにコスチュームの血を消し去った。

 

 

「助かったのだ、メタ☆モン。すっきりしたのだ」

「どういたしまして、と――」

 

 なのだ先輩のお礼を受け止めつつ、メタ☆モンが周囲を注意深く見渡していると、ふと『R駅北』と記された看板のくっついている、折れ曲がった信号を発見した。

 

 

「ここ、R市みたいだね。そこの信号に書いてあるよ」

「え、R市!? 私の住んでる所なの、ここ!? でも、なんでこんなに荒廃してるんだろ?」

 

 メタ☆モンが信号を指差して皆に伝えると、ミラクルシャインが大いに反応する。どうやらR市はミラクルシャインが普段暮らしている場所のようだ。だが、ミラクルシャインの戸惑いからして、街の崩壊っぷりは異常事態のようだ。

 

 

「一体ミラクルさんの故郷に何が起こったのです?」

「え、R市は元々街全体が終末世界を再現した映画村ってノリじゃないんか?」

「映画村って……R市はもっと普通の街だよ」

「わたしたちがバーチャル世界に行っていたわずかな間に何か自然災害でも起こったのかな? 地震、津波、火災、隕石……色々ありそうだけど」

「隕石ぃ? ……あ」

「ミクじゃないの。ミクはこんな酷いことしないの。それに隕石ならもっと地面が抉れてるはずなの」

 

 コットンの疑問に、イマイチ異常さを把握できていないフォーチュンテラーがズレた可能性を提示するも、ミラクルシャインが苦笑ながらに否定する。その後、ユウキが自然災害の線から推測を口にすると、ムイムイが突如わざとらしく悟ったような表情を浮かべて星井ミクに視線を注ぐ。対する星井ミクはため息混じりにムイムイから向けられる疑惑(笑)を速やかに解消した。

 

 

「とにかく、近くを探索しないことには始まらないのだ」

「そうだね。皆、行こう」

(あ、こんな所に封筒があるじゃん。中身は何だろう?)

 

 なのだ先輩の呼びかけに、ミラクルシャインが応じる中。メタ☆モンはふと、己の足元に白い封筒が置かれていることに気づいた。宛名にデカデカと『メタ☆モン様』と記されている封筒を興味のままに拾い上げ、中身を取り出すと、札束がメタ☆モンの手に握られていた。

 

 

「メタ☆モン? どうしたの?」

「いや、下に落ちてる封筒の中に大金が入ってたんだけど」

 

 なのだ先輩たちの後を追わないメタ☆モンを気にかけたユウキの問いかけに、メタ☆モンは札束と空の封筒を見せながら答える。下を改めてみると、他にも11封の封筒が散乱していた。また、札束を1枚1枚めくって金額を数えた所、25万円だった。

 

 

「25万円あるね」

「え、お金!? ちょっ、皆! こっちに来て!」

 

 メタ☆モンが札束の金額を伝えるのと同時にユウキはその場を離れようとする魔法少女たちを呼び戻す。そうして、皆の封筒の中身を確かめた所、どれも25万円の札束が入っていることが判明した。

 

 

「な、なななな何のお金、かな?」

「……テスターを行ったわたしたちへの報酬かと……」

「あらあら。こんな雑な形で支払われるんですわね。危うく見逃す所でしたわ」

 

 メトロノームが不気味そうに札束の端をつまんで見つめていると、ラストエンゲージが己の心当たりを告げる。封筒に魔法少女名が書かれていることや、25万円との金額から、ラストエンゲージの考えが正しいとの結論に至ったファソラは不審そうに封筒を見つめる。

 

 マジカルキャンディはラスボスのサンダードラゴンを倒したことで計3万個になった。現実世界に戻る前にマジカルフォンを介してきちんとマジカルキャンディを12等分して分配したため、テスター業務への報酬であるマジカルキャンディの数×100円=300万円が、1人当たり25万円として割り当てられたということだろう。

 

 

「わーい! やったー! ……って、本当は喜びたい所なんだけど」

「さすがに素直にはしゃげる気分じゃないかなぁ」

「ここにはもう他に何もなさそうだし、別の場所を探索するのだ」

 

 メタ☆モンは札束を上に持ち上げてぴょんぴょん飛び跳ねてみるも、気分は一切高揚しない。メタ☆モンの奇行を温かく見守るミラクルシャインと、探索を急かすなのだ先輩の言葉を機に、メタ☆モンたちは封筒を受け取るだけ受け取った上で探索に入ることとした。テスターの報酬に素直に喜んでいられる状況じゃないのだ。

 

 

「別の場所って言っても、どこか現状を把握できそうな場所に当てがあるッスか?」

「ないのだ」

「えぇ、ないのぉ?」

「だが、この手の不穏な事態の際は公共施設を当たるのが無難なのだ。その方が異変の理由を知る人に出会えるかもなのだ」

「あらあら。でしたら変身を解いて行動した方が良いのではないでしょうか? この状況下で魔法少女のコスチュームのまま接触すると、不審者として警戒されそうですわよ?」

「いや、この惨状だ。何が起こるかわからないし、今は有事に対応しやすい魔法少女のままでいいのだ。仮に怪我をしても、魔法少女なら自然治癒が期待できるのだ」

 

 サンタマリアの質問に対するなのだ先輩の即答に、ムイムイが期待を裏切られたと言わんばかりの反応を漏らす。が、なのだ先輩はやみくもに探索するのではなく、人がいそうな場所を狙って探索する案を提示する。なのだ先輩の発言を受けて、ファソラが変身の解除を提案するも、なのだ先輩は魔法少女の状態を維持することで確保できる安全性を理由に却下した。メタ☆モンとしてもなのだ先輩に賛成である。なのだ先輩の挙げた理由の他に、元の姿に戻りたくない魔法少女も何人かいるだろうと推察したからだ。

 

 

(例えば顔が不細工だとか、体が不自由だとか、あるかもしれないしねぇ)

「さて、まずはあそこへ行ってみるのだ」

 

 なのだ先輩がスッと指を差す。その先には学校があった。4階建ての校舎、広々とした校庭、周囲を囲む街路樹がメタ☆モンの視界に広がっている。が、校舎は半壊し、校庭には赤い何かが飛び散り、街路樹は半分以上がへし折られている。完全に非日常な様相だった。

 

 

「あ、西田中学校だ」

「し、しししし知ってるの、ミラクルシャインさん?」

「うん。まぁ私、ここの生徒だし」

 

 校門もまたボロボロで学校名を知ることができない状況の中。ミラクルシャインがポツリと学校の名前を口にする。メトロノームが尋ねると、ミラクルシャインはあっさりと西田中学校の生徒であると告白した。メタ☆モンは驚いた。パーティーのリーダーを任せていいと思えるほどに安定感のあったミラクルシャインがまさかの2歳も年下だったからだ。

 

 

「え、ミラクルシャインって中学生だったんだ」

「うん、そうだけど……そんなに子供っぽかった?」

「いや、逆。高校生か大学生ぐらいに見えたかなぁ」

「えっと、それって実年齢よりも大人っぽく見えてたってこと? そう言われると嬉しいな。ありがとね。……でも、やっぱりボロボロだね」

 

 驚きを顕わにするメタ☆モンにミラクルシャインは不安そうにメタ☆モンの顔色をうかがう。反応からして子供扱いに複雑な心境を抱えていそうだ。メタ☆モンは己の率直な予想をミラクルシャインに話すと、ミラクルシャインは頬を軽く掻きながら照れ顔を浮かべた。が、そんなミラクルシャインの癒し顔も、荒廃した西田中学校を前にすぐに消滅する。

 

 

「ふむ、知っているなら話が早いのだ。ミラクルシャイン、人がいそうな所に案内するのだ」

「わかった」

 

 なのだ先輩の指示を受けて西田中学校の校門の中へと一番に踏み込んだミラクルシャインは、直後。目をグワッと勢いよく見開いた。

 

 

「ミラクル、さん?」

「え、え? なに、これ? ぇ、は? 待って、待ってよ。こんなの……」

 

 急にその場に固まったミラクルシャインの名をコットンが呼びかけると、ピクリと肩を震わせ、再稼働モードに入ったミラクルシャインが、一歩一歩と。震える足取りで校庭へと歩を進めていく。ブツブツと、小さな声で困惑の念を如実に吐き出しながら。

 

 嫌な予感がした。強いモンスターと戦っていた時ですら、ミラクルシャインは冷静さを残していた。なのに、あのミラクルシャインがこうも目に見えて動揺するような何かが、西田中学校の中で待っている。メタ☆モンの第六感が西田中学校へ行くなと警告している。だが、何か現状を知る手掛かりがあるかもしれない以上、退く選択肢なんて存在しなかった。

 

 

「あたしたちも行くのだ」

 

 なのだ先輩の短い一言に、メタ☆モンはゴクリと唾を飲み込み。覚悟を決める。

 行こう。ヒーローなら。ユウキより怯えてはならない。恐怖から逃げてはいけない。

 ありったけの勇気を総動員して、メタ☆モンたちもまた、西田中学校の校門を通過した。

 

 

「うッ!?」

 

 校庭は凄惨たるありさまだった。校庭に散乱する人間の死体。死体。死体。山積みの死体には、上半身のみ消滅した死体や下半身がぐにゃぐにゃにねじ曲がった死体。頭がもげていたり。腸が裂けていたり。耳が削がれていたり。目がくり抜かれていたり。スプラッタ―なこと極まりない。

 地獄なんて生ぬるい。悪夢の方がいっそ優しい。そんな、ショッキングな赤の光景だ。猟奇的なシーンに性的興奮を覚える性質の人間でなければ、直視しがたいほどの狂気の世界が。メタ☆モンたちを待ち受けていた。

 

 

(これは、ヤバすぎる……!)

「え、え、ウソ? ウソやろ? 何やこれ、アカン。ウチらはいつの間にホラーゲームの世界に迷い込んでしまったんや!?」

「あわ、わわわわわわわ……」

「なんで、なんでこんなことになってるの? わけがわからないの」

 

 ツンと鼻を支配する鉄分に満ちた悪臭にメタ☆モンは吐き気を覚え、とっさに口元を押さえる。ヒーローならいかに残虐なシーンを目の当たりにしようとも吐くのはご法度だ。メタ☆モンが吐き気と格闘する中、フォーチュンテラーはいよいよ尋常でない事態だと知ってしまったために、軽くパニック状態に陥る。メトロノームもまた、白目を剥いて失神寸前にまで追い込まれている。星井ミクも蚊の鳴くような声で己の中で膨らむ恐怖心を表出させる。

 

 

「……クラスメイトの皆も、先生も、いっぱい殺されてる。どうして?」

 

 一方、一足先に大量の死体を見たためか、パニックから帰還したミラクルシャインが近くの死体のポケットから生徒手帳や財布を取り出し、写真から死体が誰なのかを探り始める。が、途中で死体に近づくのをやめ、静かに疑問の言葉を零す。ミラクルシャインにとっては、一緒に学校生活を送ってきた身近な面々の死だ。そのショックはメタ☆モンたちの比にならないことは明らかだ。

 

 

「……これは、少なくとも自然災害の線は薄そうなのです」

「同感なのだ。自然災害で何かに喰いちぎられたような死体なんてあり得ないのだ」

「……化け物の、仕業……?」

「ゾンビぃ? 狼ぃ? 何かとんでもない事態になってないかなぁ?」

「あらあら。まさかとは思いますが、人類滅亡の日が来てしまったのでしょうか?」

 

 他方、大量に打ち捨てられた死体に嫌悪感を示しつつも、冷静な思考回路を維持できているコットンは死体の状況から自然災害によるR市壊滅を否定し、なのだ先輩もコットンの説を支持する。その上で、ラストエンゲージは非現実的な新説を持ち上げ、ムイムイは己が決して踏み込んではいけない領域に手を出してしまったのではないかと怯えつつ、己の予想を発現する。ファソラも発言こそ相変わらずふわっとしているものの、ファソラの顔色は優れない。

 

 

「メタ☆モン。怖いよ……」

「……大丈夫だよ。何があってもユウキは絶対に守るから」

 

 すっかり探索への意欲をなくし、メタ☆モンたちが校庭に留まる中。ユウキが涙目でメタ☆モンの袖を掴む。現状でユウキに何を言っても、ユウキを元気づけることはできないだろう。だけど、それでも。ユウキを守るとメタ☆モンは約束した。敢えて言葉にするまでもなく、ユウキを守ることはメタ☆モンの使命だ。だけど、今はこうして話すことで、明確な道標を確立させ、異様な状況下でも己を保とうとせずにはいられなかったのだ。

 

 

 と、瞬間。校庭にズズーンと腹に直接響くような音が轟き、地面が強烈に上下に揺れた。

 唐突な振動に数名の魔法少女がバランスを崩して転ぶ中。どうにか地面に片手をつけたことで転倒を回避したメタ☆モンが音のなった方向に視線を向けると、そこには人が立っていた。

 

 ふんわりとしたボリュームあふれる水色のドレスを着た、青髪碧眼の少女だ。端正な顔立ちとストレートになびく長髪は有名画家の絵画のモデルにぴったりなほどマッチしている。魔法少女は現実離れした美しい容姿がデフォルトであり、青髪の少女もまた間違いなく魔法少女だと確信できるほどの容姿をしていた。

 

 

「ひゃあ! 栄えある一番乗りってことで、まず1人目ぇ!」

 

 青髪の魔法少女は死体だらけの場面に似つかわしくないほどに明るい口調でビシッと人差し指を天に掲げて己が一番であると主張した後、ググッと膝を曲げてから一息にユウキへと距離を詰め、右手をユウキの体へと突き出す。

 

 

「ユウキ、危ない!」

 

 メタ☆モンはとっさにユウキを青髪の魔法少女の右手の届かない範囲へと突き飛ばす。メタ☆モンの直感が、本能が、青髪の魔法少女から危険を感じ取ったのだ。

 

 だが、その結果。メタ☆モンが青髪の魔法少女から離れることは叶わなかった。ユウキが己の間合いから離れたとみるや否や、青髪の魔法少女は代わりに自分から一番近いメタ☆モンの腕をギュッと掴む。もしもメタ☆モンが一般人なら腕を握りつぶされているのではないかというレベルの握力でメタ☆モンの腕を掴む。

 

 

「あはぁ! 無様に体液まき散らして、しーんじゃえ!」

「お前、いきなり何を――」

 

 ここで初めて青髪の魔法少女は殺気を周囲にまき散らしながらメタ☆モンにまくし立てる。なぜこの魔法少女はメタ☆モンたちに敵意をぶつけてくるのか。メタ☆モンが問いただそうとしたが、ここでメタ☆モンの言葉は続かなくなった。

 

 ゴフッと、何かを吐いた。見ると、黒くどろどろとした液体だった。その液体のやけに甘ったるい匂いが気になり疑問を抱くと同時に、ガクガクと体の痙攣が止まらなくなる。ガンガンと頭をハンマーで何度も殴りつけられるかのような壮絶な激痛が、南極大陸に裸で放り込まれたかのような肌を突き刺す寒気が襲い、絶叫しようとして、また黒い液体の塊を吐いた。痛みは頭から全身に瞬く間に伝播する。視界が明滅を繰り返し、ついには闇に包まれ何も見えなくなる。声が、音が、体から遠ざかり、何も聞こえなくなる。

 

 

(  あ、れ?  な  にが、お こ   っ て   ぇ――)

 

 思考しようにも何も纏まらず。考えようとしてもノイズにかき消される。

 体全体を針で突き刺されたかのような、逃げ場のない痛みに耐えきれず、メタ☆モンはうつ伏せに倒れる。その際、ほんの一瞬だけ、視力が元に戻った。メタ☆モンの視界の中では、ユウキが信じられないようなものを見る目でメタ☆モンを見つめていた。

 

 

(ユウ、キ……)

 

 メタ☆モンはヒーローとして絶対に守ると決めた親友の名を心の中で呼ぶ。

 が、そこまでだった。ぷつんと、切れてはいけない糸が切れた。壊れてはいけない何かが壊れ、メタ☆モンの意識は闇に塗りつぶされた。

 

 

 誰にでも自在に変身できる魔法を手にした魔法少女、メタ☆モン。

 彼女はもう、何者にも姿を変えられない。身勝手な自称ヒーローの軌跡はここで潰えた。

 

 

 

■ミラクルシャイン:ぴかぴかに光り輝くよ

■コットン:ウソをホントと思い込ませられるよ

■メトロノーム:願い事がたまーに叶うよ

■サンタマリア:他人に力を貸与できるよ

■メタ☆モン:誰にでも自在に変身できるよ【DEAD】

■ユウキ:ハートからビームを打ち出せるよ

■なのだ先輩:手乗りサイズにできるよ

■星井ミク:キュートな流れ星を落とせるよ

■フォーチュンテラー:すぐ先の未来が見えるよ

■ムイムイ:イメージを現実に具現化できるよ

■ファソラ:あらゆる音楽を自在に奏でられるよ

■ラストエンゲージ:第二形態に移行できるよ

■EFB:解けない氷を生成できるよ

■ルディウェイ:あっち向いてホイで絶対に勝てるよ

■スウィーツ:水をチョコに変えられるよ

■ぽむらちゃん:対象を吹っ飛ばす魔法のボムを生み出せるよ

 

 




絶望「( ゚∀゚)アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \」
ふぁもにか「楽しそうッスねぇ」

次回【15.不安定な逃走劇】
※次回更新は9月24日です。

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