転生したら無限の龍神。 あれ?もしかして俺って最強? 作:lerum
冒険者ギルドに飛び込んできた男によってもたらされた情報はすぐに街全体に広がることとなった。住民の中には避難の準備を始めるもの、戦うために武器を取るもの、等各々行動を開始した。冒険者に対しては緊急クエストとしてこの街にいる全冒険者に召集がかかった。
この緊急クエストというのは、何か災害や強力な魔物、それこそ街などを脅かす厄災に対して発令されるものだ。冒険者ランクC以上の者は強制参加となり、それ以外は各自の判断に任されることになっている。
どうやらこの件は街を脅かす脅威に認定されたようだ。当然と言えば当然だ。何せ、ただでさえ強い魔物が生息している”深淵の森”の魔物による”
さて、先程冒険者登録したばかりの俺だが、アイラと共に参加することになった。アイラの冒険者ランクはSランク。人類最高レベルの強者であるアイラは当然の如く主戦力として数えられている。
その他にもAランクのパーティー等が数多くの冒険者が集まっているが、数はせいぜい500と言ったところ。対して、魔物の軍勢は今や3000にまで膨れ上がっているらしい。さらに、あの森にはアイラが一対一で敗れるような魔物がうじゃうじゃしているのだ。質でも量でも劣っている彼らではとてもじゃないが勝てないだろう。
よしんば時間を稼げたとしても冒険者達は全滅だろう。にもかかわらずこれ程の数の冒険者が集まっているのは正直意外だった。
俺は、冒険者など所詮自由人の集まりだと思っていた。だから、この危機を前に緊急クエストを無視してでも逃げ出す者達がいると予想していた。
だが、予想に反して逃げ出したものは一人もいない。皆、恐怖を浮かべながら、それでもこの街を守るのだという決死の覚悟が見て取れる。この街が故郷である者もいれば、そうでないものもいる。
だが、皆一様に覚悟を決めているのには恐らく意地があるのだろう。自分は冒険者なのだから、冒険者になった時に覚悟を決めたのだ、と。
「冒険者達よ! よく集まってくれた。ギルドマスターのケプタじゃ。もうすでに皆分かっているだろう。多くは語るまい。この戦いは絶望的なものになるだろう。質でも量でも劣っている我らが勝てる余地などありはしない。それでも、こうして集まってくれた皆には感謝の言葉もない。必ず、わし等で住民が避難する時間だけでも稼いで見せるのじゃ!!」
『オオオオォォォッッッ!!』
この光景を見ていると、当初、適当なところでアイラを連れて逃げようとしていた自分が馬鹿らしくなってくる。この世界に来て、面倒ごとに巻き込まれたくない、目立ちたくない、と確かに考えた。事実、そうするつもりでいた。だが、今もう一度それを言ってみろと言われて果たして俺はそれを言えるのだろうか。いや、言えるわけがない。これ程の覚悟を見せられて、これ程の思いを見せられて、目立ちたくないだのとふざけたことを言えるはずがない。
俺はやはりどこかでまだこの世界を”ゲーム”だと思っていたのだろう。何が人を殺す覚悟はできているだ。此処にいるのはNPCではない。ましてや、”ゲーム”の様に復活などしないのだ。死んだらそれまで。本当に終わりなのだ。今ここでそれを初めて分かった気がする。きっとヘルガ達の時の作戦も無意識の内に考えた人を殺さないための言い訳だったのだろう。言うは易し行うは難しとはよく言ったものだ。結局、俺は口では何とでも言えるものの実行には移していないのだ。
だが、今回ばかりはそうはいかない。何せ首謀者のレベルは約120。今この場でそれに勝てるのは俺だけなのだ。ドラゴンや悪魔もいる。俺がやらなければ街の人間が、今この場に集まっている冒険者が死ぬのだ。やらなければならない。きっと俺は直前になって躊躇するのだろう。無意識に言い訳を考えるような臆病者が俺だ。できれば殺したくない。命の重みなど背負いたくはない。
しかし、それでも俺はアイラを守ると、そう決めたのだ。ヘルガ達と戦った時に、アイラの涙を見たときに、確かにそう決めたのだ。あの子を守るためならばこの手を汚しても構わないのだと、本気でそう思ったのだ。理由はしらない。だが、知る必要もない。俺が心の底からそう思ったのならそうすべきなのだ。前世と違って今はそれができる力がある。前世で出来なかったことをこの世界でしようと、そう決めたから。
「ギルドマスター、俺に提案がある。聞いてもらえないか?」
アイラや他の冒険者が怪訝そうな顔で見てくるが気にしない。やると決めたらやるだけだ。
「おぬしは……」
「さっき冒険者になったばかりの新人だが、これでも腕には覚えがある。広範囲殲滅魔法、全ての魔物を倒すことは出来ないが、半分程度なら倒すことができるだろう。俺にはそれが使える。開幕速攻で一発ぶち込むつもりだ。許可をくれないだろうか」
俺がそういうと周りから嘲笑の声が上がる。知っていた。広範囲殲滅魔法とは《神級魔法》に値する。この世界でそれが使える者がいるわけがないのだから。だが、予想に反してギルドマスターはこちらを見ながら何やら悩んでいる。
「うむ、許可しよう」
ギルドマスターがそういうと周りから「ぶざけるな!」と声が上がるが、ギルドマスターがそれらを一蹴した。
「わしはこの者に賭けてみようと思う。本当に使えないのならこの場でわざわざこんな提案をする意味はないからの。それに、仮に使えなかったとしても最初に放つだけなら作戦に影響は出ない。以上のことから、わしはこの者の申し出を許可する」
俺としてはありがたい話だった。どうやって丸め込もうかと考えていたのが拍子抜けだ。まさか、ここまで話の分かるギルドマスターだとは思わなかった。いや、チラリとアイラの方を見ていることから、アイラが連れてきたものならばあるいは、と考えているのかもしれない。
「ところで、おぬし名前は?」
そういえば、といった風にギルドマスターが聞いてくる。
「オフィス、ただのオフィスだ。よろしく」
俺の態度に周囲から罵声が飛んでくるが俺もギルドマスターもそんなことを気にはしない。
「では、おぬしには射程に入り次第城壁の上から魔法を撃ってもらう。今回の目的はあくまで時間稼ぎじゃ。うまく籠城しながら少しずつ魔物を削っていく。そのため、おぬしにはその後門の守りに付いてもらいたい。あの門が堕ちればそれまでじゃからな。」
「いや、俺は打って出ようと思う。この事件の首謀者が魔物の最後尾についてくるはずだ。そいつを討つために魔物を蹴散らしながら前に行くつもりだ。構わないか?」
流石に普通の人間のできる範囲を超えているとあってギルドマスターはかなり悩んでいるようだ。だが、しばらく思案した後条件付きで許可をもらった。その条件とは、城門の正面から行ってほしいということだけだった。本当にそれだけでいいのか聞いたところ「おぬし、言っても聞かなさそうじゃし。せめて城門に来る魔物を減らしてくれればそれでいいわい」とのことだ。この短時間で俺の性格を見抜くとは、このギルドマスター優秀過ぎるだろう。
ともかく、許可が下りた以上何の憂いもなく首謀者を倒しに行ける。同然、他の者達から抗議の声が上がったが、それらの一切を無視してギルドマスターは冒険者達を配置につかせた。さて、どうやって冒険者を勝たせようかなと考えている内に魔物が目視で確認できたと報告が入った。丁度良い魔法が思いついたところだったので、イメージを固めながら城壁へと足を向けた。
推定6000の魔物達が大地と空を埋め尽くしている。これほどまでになると圧巻だ。最初に報告された数から2倍に膨れ上がった魔物の大軍勢。空にはドラゴンや悪魔。地面には”深淵の森”の魔物達。さらに奥にはひときわ大きな黒いドラゴンに乗った男が見える。恐らくあれが首謀者の”元プレイヤー”なのだろう。これから街が魔物に飲み込まれるのを想像しているのか高笑いをしている。
「そろそろかの。準備はできとるかの?」
そういって声をかけてきたのは隣に来ていたギルドマスターだ。俺の魔法を見届けるつもりらしい。
「もちろん。期待しててくれ。きっとアンタ達を勝たせて見せる」
「期待しとるぞ。こう言っては何だがわし等が勝てるかどうかはおぬしの魔法にかかっているのでな」
真剣な表情でそう言って、ギルドマスターは後ろに下がっていった。ギルドマスターが離れたのを確認して俺は詠唱に入る。実はもっと威力の高い魔法もあるのだが、被害が大きすぎるため今回は使うことが出来ないのだ。その点、この魔法は数で責めるので都合がよかった。
《蒼き彗星よ・闇を払う光と成りて・降り注げ》
―――《神級魔法》
魔物達の頭上に巨大な蒼い魔法陣が発生。そこから無数の蒼い閃光が戦場へ降り注ぐ。空にいるものは翼をもがれ、体を穿たれ落下していく。落下した魔物達により混乱している地上にさらに蒼い閃光が突き刺さる。やがて、蒼い雨が止んだ時には生きている魔物は全体の10分の1にも満たない数だった。
「まさか……これほどとは」
信じられないといった様子で思わず声を漏らしたギルドマスター。だが、今は構っている暇はない。後方で首謀者が逃げ出そうとしている。城壁を飛び下り地を駆ける。俺の足を止めようと幾体もの魔物が立ち塞がるが。
―――《スキル》
手のひらから文字通り衝撃波を発生させるスキルだ。魔物に手をかざしスキルを発動。それだけで紙切れの様に飛んでいく魔物達。地面が陥没するほどの力で地を蹴り一気に距離を縮める。俺がすぐ近くまで来たのにようやく気が付いた男が何やら喚きながら黒龍を嗾けてくる。俺は軽く手をかざし
―――《最上位魔法》
魔法陣から発生した紅い炎が黒龍を飲み込み一瞬で灰へと変えた。俺が男に向かって歩き始めると何やらこちらに支離滅裂な言葉を投げかけてくる。
「な、な、何なんだよッ! お前!! こんなはずじゃなかった! なんでこんなことになったんだ! あの女を手に入れて、俺は世界の神になるはずだったのにッッ!!」
意味の分からない、聞くに堪えない言葉を垂れ流している男だが、一つだけわかることがある。それは、
「少なくとも、お前じゃ神になれないことくらい俺でもわかる。お前は選択を間違えたんだ」
「くそッ、ふざけるなチーターが! 運営に媚び売ってイベントボスになったクズがッッ!! お前さえいなければッ! お前さえいなければあの女は俺の物だったのにッッッ!!」
「もういい。もう口を開くな、聞くに堪えん。ああ、そうそう。最後に一つだけ訂正しておこう。俺は”
《原初の命よ・世界を照らす光よ・我がもとに来たれ・その神威を以て・汝を天へと誘おう》
―――《世界級魔法》
俺の頭上に超巨大な魔法陣が出現。炎が溢れ出し球体を形成。何処までも何処までも、大きく、大きくなっていく。これをこの場所で放つと被害が尋常ではないので、男と俺を空に浮かび上がらせて結界で隔離。俺が指を振るえばようやく拡大を止めた超ド級の炎の球体が男へと降っていく。唖然としていた男は行動を起こすことなく飲み込まれる。一拍後、球体が大爆発を起こし空を紅蓮に染める。
こうして、”元プレイヤー”の企みは潰えたのだ。この後、俺が英雄と称され、あちこちから注目を浴びることになるのは必然なのだろう。
主人公無双。周りの活躍を損なわせない程度に無双させるために威力の高い魔法は被害が大きすぎて使えないという設定にしてみました。
いつの間にか主人公がアイラの保護者になっていた。
次回、主人公ようやく旅立つ?