どんな人生でも好きなことして生きられれば最高さ 作:はないちもんめ
「くそっ!!俺たちをはめやがったな!!」
「どうすんだよ、旦那!?」
「馬鹿野郎、落ち着きやがれてめえら!!」
ハウザーさんが雇っていると思われるチンピラたちが騒ぎ出す。
まあ、当然の反応だろう。
罠にかけたと思っていたら、実は罠に掛けられていたのは自分たちだったのだから。
「良く見ろ、いくら執務官とはいえたったの一人だ。こっちには同じ執務官がいる上に100以上の仲間がいる。結果は変わらねえよ」
「た、確かにそうだな」
「それに良く見ればあの執務官メチャクチャ上玉じゃねえか。殺す前にヤッても構わねえよな?」
「好きにしろ。ただし、順番だからな」
その言葉で士気が上がったチンピラたちは競うように私の所に集まってくる。
とてつもなく不快な気分だった。
しかし、恐怖はない。
だって、こいつらは思い違いをしている。
「恐怖で何も出来ねえのか!?それじゃあ、好きにさせて貰うぜ」
「俺にも分けろよな!!」
下品な言葉をかけながら更に私に近づいてくる男たちは
「「「「「ぎゃあああああああああ!!!!」」」」」
私の隣から発生した剣圧で吹き飛ばされる。
「何か勘違いしてねえか?」
私は一人じゃない。
「こいつの初めては俺が貰うってことで話はついてんだよ」
こういう時にだけ頼りになる男が私の側にはいる。
私はジト目でそいつを見る。
「私はそんな話に同意したつもりないけど?」
「え?そうだっけ?」
全くこいつは…私は頭を抱えた。
この状況にも関わらず変わらないバカだが、ここまでくると尊敬すら覚える。
とはいえ、流石にこの人数が相手では流石のコイツも分が悪いだろう。
そう考え、援護に入ろうとした私をレインが手で制す。
「お前の相手はこいつらじゃねえだろ」
そう言い、もう片方の手で砂煙の向こうを指し示す。そこにいたのは
「ロイド執務官・・・」
「やれやれ、まんまと嵌められたよ」
ロイドさんはゆっくりと近づいてくる。
「何時からこんな計画を立てていたんだい?」
「4.5日前だな。ティアナに管理局に呼ばれたってことで一日どっかで隠れて俺とおっさんの会話を聞いてろって提案したんだよ。まさか、こんなに上手くいくとは思ってなかったけどな」
「なるほど。君らしい提案だね」
褒めているのか微妙な返しだが、レインは満足そうに笑っている。いい加減長い付き合いだが、何故この場面で笑えるのか理解できない。
「それで二人でこの計画を実行したわけか。流石はJS事件の英雄だ。恐れ入るよ。最初から私は疑われていたというわけか」
「何か誤解してねえか、おっさん」
レインがロイドさんの言葉に割って入る。
「確かに俺たち二人で計画したし、俺は初めて会った時からあんたを疑ってた。ただ、ティアナは違う。このバカは最後まであんたが無実であることを信じたいと思ってたんだぜ?」
レインの言葉にロイドさんは目を見開く。
「そうか。JS事件の英雄とはいえ、やはり、まだ若いな。注意すべきは君だったという訳か」
「私はJS事件の英雄なんかじゃありませんよ」
私は英雄なんかじゃない。そんな称号からは程遠い人間だ。
「私はただのティアナ・ランスターです。それ以上でもそれ以下でもありません」
沈黙が周囲を支配する。
「そうか・・・では、ただのティアナ・ランスターはこれからどうする?」
「決まっています」
答えは先ほどと変わらない。
「あなたを逮捕します。ロイド執務官」
「私は抵抗するぞ。それでも君にできるのか?」
「できる、できないじゃない。しなきゃいけないんです」
私が執務官であるためにも。私が私であるためにも。
「何を喋ってんだ、てめえら!!」
喋っている間に体制を立て直したチンピラが再び攻撃してくる。
しかし先頭の二人はレインに髪を掴まれ、そのまま地面に潰される。レインは動きを止めることなく直進し、近くのチンピラを殴り倒す。その隙をついて、レインを攻撃したチンピラの腕は何時もとは反対方向に曲がっていた。
剣も魔法も使わずにこれとは、相変わらず破格の戦闘能力である。
流石に調子に乗っていたチンピラたちも冷静になっていた。個の実力差がありすぎることに今更ながら気付いたのだ。
しかし、数の力では圧倒的に向こうに分があることもまた事実だった。
それを知ってなお、レインは笑って言う。
「ここは俺に任せて、お前らはデートにでも行ってきな。おっさん、こいつのエスコートは任せたぜ」
「でもレイン!!いくらあんたでも「お前は」」
「俺がこんなゴミ共に負けると思ってんのか?」
ふてぶてしい程に何時も通り。しかし、何故だか笑えてきた。確かにそうだ。
こいつが負ける訳がない。
私はレインから離れて歩きだした。
「場所を変えましょう。ロイド執務官。あなたは私が捕まえます」
「あの人数を彼に任せて良いのかい?」
「ええ」
後ろは振り向かない。
「信じてますから」
「おいおい、お前ツンデレの使い方が間違ってんじゃねぇか?」
剣を抜く音が聞こえる。
「ツンデレなら、「べ、べつにあいつを信じてる訳じゃないんだからね!」くらい言いやがれ!!」
その声と共に突進するバカ。
後ろからはチンピラたちの怒号と悲鳴が聞こえる。
しかし、それでも一度も振り返ることなく私は次の戦場に移動した。
「ここにしましょう。ここなら、周囲に迷惑はかかりません」
何もない空き地。
ここならば、戦闘による周囲のダメージを心配する必要はない。
私はここをロイドさんとの戦いの場に選んだ。
途中で逃げると思っていたロイドさんは、以外にも素直に私の後についてきた。
一体何を考えているのだろうか。
「驚きました。てっきり逃げるのかと思っていたのですが」
「逃げても結果は同じだろう。君は絶対に追ってくる。ならば、逃げるだけ無駄だよ」
「そうですか。賢明な判断です。ならば、大人しく捕まってくれませんか?今ならまだ、自首扱いにすることができます」
「悪いが、それはできない」
ロイドさんは隠し持っていたナイフを構えて言う。
「私にも私なりの意地というものがある。最後まで抵抗させてもらうさ。君を倒せば逃げるのも容易だろうしな」
ギリっと歯を食いしばる。この人はどうして・・・
「お喋りはここまでだ。敵だろう?今の私たちは」
ロイドさんは持っていたナイフを投げつける。しゃがんで回避する。しかし、躱したと思った次の瞬間にはロイドさんは次のナイフを投げていた。体勢は崩れていたが、ジャンプして何とかこれも避ける。
しかし躱したと思ったナイフは方向を変えて私の方へ飛んでくる。
舌打ちしながら弾丸を放ち、撃ち落とそうとしたがナイフは生き物のように不規則な動きを始め、弾丸を潜り抜けて私の所まで迫ってくる。もう弾丸を撃っても間に合わないと考え、クロスミラージュをナイフに叩きつけることで弾き飛ばす。
だが、その瞬間私の腹には右の拳が埋まっていた。その衝撃で吹き飛ばされながらも、魔力弾を放つ。その魔力弾は直撃したかと思ったがロイドさんが発生させた氷の壁で防がれる。
強いと思った。遠距離からの攻撃には氷の魔法で迎撃。中距離ならば、自由自在のナイフで翻弄。近距離ならば肉弾戦で対応。ここまで手数が多い相手ならば、あのナイフは投げるだけでないと考えておかなくてはならない。
加えて、向こうは殺すつもりだった私のことをしっかりと調べているだろうが、こちらは相手の手の内を全く知らない。
これはとてつもないハンディーだ。勝負が長引けば長引くほど、このハンディーは重くのしかかってくる。
だとするならば、多少のリスクを背負ってでも相手の手の内を探る戦いをするほかない。
覚悟を決めて相手の間合いに入る。すると待っていたかのようにナイフが飛んでくる。その数は10本以上。
何本かは食らう覚悟はしていた。このくらいは想定内。構わずに更に近づいていくが、近づけば近づくほどナイフの精度とスピードが上がっていく。ということは
(このナイフは手動で動かされている・・・?)
だとすれば、この場所での戦闘は私にとって最悪だ。遮蔽物が多い場所ならば相手の視界に入らない場所に移動することでナイフの誘導を切ることができる。しかし、ここのように開けた場所ならば相手の視界に入らない所はない。つまり、このナイフは何処までも私を追ってくる。
できれば場所を変えたいが、そんなことを相手が許すはずはないだろう。そもそも、そんなことをすれば何も関係がない一般市民を執務官同士の戦いに巻き込むことになりかねない。ロイドさんがこの場所での戦いを承諾したのは当然だ。ここなら自らの実力を100%発揮することができる。
ナイフの一本が私の肩を掠る。量はさほどではないが出血し出した。
(加えて、殺傷設定か)
一瞬とはいえ出血に私の注意が引く瞬間を狙われて、足元に氷結魔法が発動し私の動きを封じる。その間に四方八方からナイフが飛んでくる。無傷での回避は不可能と判断。
即座に私は自らの足元にヴァリアブルシュートを発動し、氷結魔法を破壊。加えて、生じた衝撃波で迫っていたナイフを吹き飛ばす。私自身にもダメージは大きかったが他に方法はなかった。
ナイフを吹き飛ばした、この隙を狙う他ない。
そう考えた私はロイドさんにヴァリアブルシュートを放つ。この距離からのヴァリアブルシュートならば、相手の氷結魔法のシールド毎粉砕する自信はあった。
しかし相手は私の攻撃をガードせずにジャンプで回避を選択。誘導弾なので追っていくが、ナイフを当てさせることで自らに当たらないように爆破させた。
その結果にも驚く様子はない。恐らく今の攻撃の威力も知っていたのだろう。
どうやら相手の調査能力を見くびっていたようだ。まさか、ここまで調査されているとは思わなかった。
「随分と無茶をするものだ」
やれやれと言わんばかりにロイドさんは喋っているが余裕の様子がありありと伺える。
ここまでの展開はある程度向こうの予想通りなのだろう。
「それだけの実力がありながら何故こんな馬鹿なことを」
「そんなことはない。私の実力などたかが知れている。私は最大限の努力を重ねたがこれが限界だ。これ以上はない。君のように非凡な者には分からないだろうがね。事実これだけ有利な条件での戦闘にも関わらず私は未だに君を倒せないでいる」
「私は非凡なんかじゃ」
「君は自らが非凡ではないというのかね?それは私たち凡人に対する嫌味だよ。今や伝説となっている機動六課に在籍。そこで戦闘機人を3対1という圧倒的不利な状況で捕縛。加えて、その若さで執務官だ。君が凡人なら私たちは全員ゴミ以下だろうね」
「そんなことはありません。あの時は事前に準備をしていましたし、執務官になれたのも皆の力があったからです。私一人じゃ絶対になれなかった」
「それが嫌味だと言っている!」
言うや否や、ロイドさんは私に向かって突進してくる。
今までの攻撃が嘘のような真っ向からの攻撃。多少面食らったが、直ぐに冷静さを取り戻す。迎撃をするために魔力弾を放つが届く前に爆発する。
その爆発で相手の動きを見失う。探していると首筋の辺りに寒気がした。本能が最大限の警報を鳴らしてくる。
本能に従って首を下げると私の首があった場所をナイフが通る。速さは今までの投げられるだけのナイフの非ではない。相当なナイフの使い手だ。
ナイフは止まらずに、私の首を狙う。クロスミラージュを盾にして防ぐが、腕力では敵わない。力任せに空中に浮かされる。
止まることなく、ロイドさんはナイフを持っていない方の手で私の腹を殴打する。
「くはっ!?」
なすすべもなく地面を転がされる。肺の中の空気が全部出てきたのではないかと思うほどの衝撃。肋骨の何本かは折れたかもしれない。
しかし休んではいられない。ここでの思考放棄は死に繋がる。
痛む身体にムチを打ち敵を見据える。もう相手は私を間合いに捉えている。迎撃は間に合わない。
横殴りに振るわれたナイフを避けるが、下から襲ってくる蹴りは避けられない。先ほど攻撃を喰らった箇所に計ったように入る衝撃。痛みで意識が一瞬遠のいた。しかし先程と違い、衝撃に合わせて後ろに飛んだことでダメージの大半は受け流した。
それによって距離が空いたことで仕切り直しとなる。圧倒的に不利な状況から何とか抜け出せた。とは言え、ダメージを貰っているのは私だけ。圧倒的に不利な状況に代わりはなかった。
「ここまでやって倒れないとはね」
「当たり前です。私はあなたを捕まえなくてはなりませんから」
流石に予想外といった様子を見せるが、こちらとしても予想外だ。
ここまで強いとは驚きだ。近距離戦に限ればレインやシグナム副隊長クラスの実力がなければ確実に勝てると断言することはできないだろう。
「私は確かに他の人から見たら非凡かもしれません」
事実、以前にレインからも同じことを言われたことがある。
「でも、あなたも充分に凄いですよロイドさん。この状況があなたに有利なことは間違いないですけど、この状況に持っていくように考えて準備したのもあなたです。非凡になることに諦めた人ができることじゃない。不正何かしなくたって、あなたなら実力で凡人として非凡な人を超えることだってできるんじゃないですか?」
私のその言葉に怒りを露にするロイドさん。
「だから君には分からないと言ったのだ。分からないだろう、どれだけ頑張っても一瞬で追い抜かれていく絶望を!!どれだけ努力しても行きたいところまで行けない現実を!!」
「分かりますよ」
「君に何が分かる!!非凡な君に!!凡人の私の何が分かる!!」
「分かりますよ」
だって同じだったから。六課の時の私も同じだったから。
「多分ロイドさんと私の最大の違いって才能なんかじゃないですよ。周りの人に恵まれたかどうか。ただ、それだけだと思いますよ。何かが少し違えば、私とロイドさんの立ち位置は逆だったかもしれませんね」
もし、スバルに会わなければ私は何時も他人と壁を作ったままだったかもしれない。スバルは私の壁を壊してくれた。どんな時も私の味方でいてくれた。
もし、フェイトさんに会わなかったら私は執務官にはなれなかったかもしれない。フェイトさんは私に道を見せてくれた。私に執務官にとって大切なことを教えてくれた。
もし、なのはさんに会わなかったら私は自分の価値が分からなかったままだったかもしれない。なのはさんは何時も私の事を考えてくれた。私のことを信じてくれた。
もし、レインに会わなかったら私はこんなに強くはなれなかったかもしれない。レインは私が迷ったら私の背中を押してくれた。迷ったときは一緒に迷ってくれた。
私の人生で出会った誰に会わなかったとしても、今の私はない。今の私があるのは皆のおかげだ。
「ロイドさんが六課にいれば、不正何かできませんでしたよ。不正何かしようとすれば、どんな方法を使っても絶対に止められてますから。あそこは底なしのお人よしの巣窟なんですよ」
あの人たちは絶対に止めるだろう。ロイドさんが自分の価値を認めないのであれば、分かるまでお話とOHANASIを続けるだろう。決して諦めさせてはくれないだろう。
「ロイドさんがもっと早くレインに会ってれば、不正何かするのが馬鹿らしくなってきますよ。クソニートで犯罪者っていう録でもない奴ですけど、あいつは絶対に自分を曲げない。どれだけどん底にいても周りの目何か気にしない。あいつの傍にいれば、やりたくもない不正何かする気も起きなくなりますよ」
「・・・君は何が言いたいんだ?だから、大人しく自首しろとでも言うつもりか?」
「いえ、そんなことないですよ。ただの確認です」
戦いが始まる前からしていたイライラの原因がようやく分かったのだ。
「正直言うと私はあなたが何でそんなことをしたのか全然分からなかった。同じ執務官として恥ずかしいとさえ思っていましたよ」
だが、実際は違った。この人と私は同じだった。人に恵まれたかどうか。違いはそれだけ。目指してたものは一緒だった。
「ふっ。だろうな」
「でも違ったんですよ。あなたはもう一人の私です。なら、イラつくことなんてありませんよ」
理解はできた。そして私はそれを否定する。ならば、止めれば良いだけだ。
「私が間違ったときになのはさんは私にOHANASIしてくれたんですよ。だから、今度は私が間違った人にOHANASIをしてあげる番です」
「この状況から挽回するつもりかね?」
「もちろんです。ついでに教えてあげますよ」
私はニヤリと笑い、クロス・ミラージュを構える。
「ランスターの弾丸の実力を」
戦闘描写の難易度って高いですよね