どんな人生でも好きなことして生きられれば最高さ 作:はないちもんめ
「ティアナ執務官。体調は回復しましたか?」
「はい。心配をおかけして申し訳ありません、ロイド執務官」
「いえ、体調が回復したのなら何よりです。しかし、こちらに来られて直ぐに体調が悪くなられるとは、やはり無理をなさっていたのですな。執務官の仕事は大変ですし、心中お察し致します。しかし、何やら顔色も悪いですし、顔もやつれておられますし、本当に大丈夫ですか?」
「え、ええ。もちろん。執務官たるもの、これくらいの体調不良なら気合いでなんとかしますよ」
「ご立派です。流石はJS事件の英雄です」
私などには真似できませんなと笑うロイド執務官の言葉が、私の罪悪感という名の傷口に触る所か塩分たっぷりの海水をぶっかけてくる。
止めて下さい、心配しないで下さい、執務官の仕事とは何の関係もないんです。
だから、労りの言葉をかけるのは止めて下さい。気遣ってくれてるのかもしれませんけど、それ逆効果ですから。全力で私の良心を攻撃しまくってますから。
「…あんだけ吐けばそりゃ、顔色も悪くなるだろうよ。やつれるだろうよ」
何か余計なことを言っている私がこうなった原因の一つに全力でエルボーをかます。
みぞおちに入ったらしく、うずくまっているが、他の人には秘密にしてと全力で頼み込み、見返りとして昨日の宿代と飯代を出してやったのに、直ぐに誰かに喋るこいつが悪い。
「失礼ですが、ティアナ執務官。こちらの方は?」
しまった。他のことに気を取られ過ぎて、こいつのことを何て説明するか考えるの忘れてた。
何と言うべきか考えている私を尻目に、レインが私の隣に立つ。目が俺に任せろと言っている。何て説明するのよ、レイン。
「俺はこいつの彼氏だよ。大丈夫だよ、あんたらの仕事の邪魔はしないから。ちょっと夜にランデブーすれば良いだけだから」
任せるべき相手が間違っていた。
私と肩を組んで見当はずれのことを言うバカにアッパーを放ち、上空へと吹き飛ばす。
「そうだったのですか。若いとは羨ましいですな」
「信じないで下さい。このバカは私の助手です」
「助手ですか?私は聞いておりませんが」
そりゃそうでしょ。言ってないもの。
しかし、他に言い訳が思い付かない。規則違反かもしれないが、何とかこの言い訳でゴリ押すしかない。
「はい。ご連絡が遅れたことは慎んでお詫びします。しかし、今回の事件はかなり大規模のものになると私は考えています。ですので、万が一に備えて私の助手も今回は呼ぶことにしました」
「いや、しかし、彼はティアナ執務官の助手を勤められるほどの人物なのですか?それほどの男には見えませんが。それと、何処かでこの男を見た記憶があるのですが」
はい、そんな人物ではありません。ただの迷惑なバカです。それと見たことがあるのは当然です。一昨日の似顔絵で見てますから。
「おいおい、おっさん、嫉妬もそこまでいくと見苦しいぜ?あんたがティアナとずっと一緒にいられる俺を羨ましいと思う気持ちは分かるけど、焦りが露骨過ぎんだよ。男だったら、もっとじっくり構えなきゃダメなんだよ。先走りが出まくってるんだよ」
最低のことを言うバカの顔面にコークスクリューパンチをぶちかます。
その上で、バインドをかけて喋れなくする。こいつにこれ以上喋らせるのは危険だ。
ロイドさんは、バレないようにしているが、こめかみがピクピクしている。
怒っているのは明白だ。当然の感情だが。
でも、諦めて下さい。こいつ、こういうバカなんです。人のことをおちょくらないと会話ができないんです。
「失礼しました。このバカは無視して下さい。こいつは性格と言動は最低ですが、頭のキレと戦闘能力はかなりのものです。ですから、足手まといにはなりません。私が保証します」
その代わりに、最大限にストレスをかけてくるけど。
トータル的に見ればプラマイゼロどころか、圧倒的なマイナスだ。プラスもでかいが、マイナスがでかすぎる。
「ご、ごほん。では、とりあえず、今日からは見張りということでよろしいですかな?」
「そうですね。その方針でいこうかと」
「しかし、それでしたら部下を使えばよろしいのでは?ティアナ執務官程の方がやるべき任務ではないと思うのですが」
「いえ、それでは「甘いんだよ、おっさん」!?」
急に割り込んできた声に驚き、隣を見ればレインが立っていた。まさか、こいつ、この短時間であのバインドを破ったっていうの!?
驚愕である。これで性格がまともなら完璧だったのだが、性格がマイナスなら意味がない。
神様は才能の振り分け方を間違えたらしい。
「ほう、私の何が甘いと?」
「全部だよ。アイスクリームよりも甘いんだよ。甘過ぎて糖分過多になっちまうよ」
「・・・だから何が」
「あんたがさっき言った方法は正論だ。普通なら、そうすべきだな」
「ならば」
「だーから、焦んなって言っただろうがオッサンよお。普通ならって話だ。仲間内で犯人が出てるんだぞ?現場の人間を信用できるわけがないだろうが。それに実力的にも不安だしな。普通に考えりゃあ分かると思うがねえ」
そんなことを偉そうに耳クソをほじりながら偉そうに言うバカ。言っていることは正論なのだが、言い方が悪すぎる。コイツは人を怒らせる天才かもしれない。
見なくてもロイドさんが怒っているのが伝わってくる。
我慢しないで攻撃しても良いですよロイドさん。私が許可します。
「で、では私たち三人で屋敷をずっと見張っていると?」
「コイツの考えじゃ、そーゆーことになるわな。でもまあ、俺ならもっと効率的な方法でやれる」
「ほう、それは?」
・・・何か語りだしたわね、こいつ。
「俺たちの仕事は証拠を見つけることだ。しかしだ。証拠何て簡単に見つかるわけがねえ」
「その通りです」
「だが、そいつらも人間だ。気が緩む時が必ずある。得てして、そういう時に限ってミスは起こりやすいもんだ」
「おお、なるほど。では、その隙を突くと!」
「その通りだ、おっさん!あんたとティアナは見張り場所で相手がその隙を見せるまで待て」
「あなたは?」
「俺は男たるもの絶対に隙だらけになる場所を知っている。だから、今から直接その場所に行って確認してくる。後のことは頼んだぞ!」
じゃあな、と言って立ち去るレインの向かう先を目で追う。
ラブ〇テル
クロス・ミラージュを構える。今ならどんな敵も撃ち落とせる気がする。
「さて、どこを探すか。まずはさやかちゃんのあそこの中を、うぎゃあ!!!???」
発射。命中。
目の前には黒焦げになるバカ。足を掴み、引きずりながら歩く。
無駄な時間を使ってしまった。
「あ・・・あの、ティアナ執務官」
「何でしょうか、ロイド執務官?」
「そ、その彼は生きているのですか?」
「できれば死んでて欲しいわね」
私の心からの本音だった。
「10日やって手がかりなしか。このまま続けたって無駄じゃねぇの?」
「そんなことないわよ。そもそも10日くらいで諦めるもんじゃないのよ、張り込みは。あんたには分からないでしょうけどね」
「分かりたくもねぇよ、そんなもん」
ロイドさんは休憩に行っているので、今張り込み場所には私とレインしかいない。
私が見張っている中、レインは後ろで自分の荷物を振り回している。何してんのよ、こいつ。
「何してんのよ、あんた」
「いやな、此処に来てから手に入れた臨時金を探してんだよ。おかしーよなー、確かに此処に入れたはずなんだけど」
そう言って、まだ探している。こいつがここまで探すということは結構な金なのだろう。
と言うか、臨時金?もしかして、これのことかしら?
「もしかして、これのこと?」
「あ、それだよ、それ!何でお前が持ってんだよ、返せこのやロー」
「返すわけないでしょうが。これ、あんたの金じゃないでしょ」
うぐっと言って、後退するレイン。ちなみに、この金はこのバカがあのチンピラ達から巻き上げた金である。
暴行の件は、ギリギリ正当防衛で許せたとしても、窃盗は別だ。だから、隙を見てキッチリ回収しておいた。
「あいつらがくれたんだから、別に良いだろうが!言っとくけど、俺一度も金出せって言ってないからね!あいつらが自主的に提出したんだからね!」
「無言の圧力ってのが、この世にはあんのよ。あんたの殺気を受けたら、あのチンピラ達が抵抗できるわけないでしょ」
私のその言葉を聞いて、ギャーギャーと騒ぎ出すバカ。俺のさやかちゃんを返せって言ってるけど、誰よさやかちゃんって。
まあ、誰だったとしても、さやかちゃんはあんたのものじゃないから。さやかちゃんは皆のものだから。
暫くして諦めたのかその場で寝転がって、ため息を吐く。仕事はほとんど手伝わないが、何だかんだ言って、この場を離れない辺り、変なところで律儀な男だ。金がないから、遊びに行けないだけかもしれないが。
「てかよー、お前も薄々気付いてんだろ」
「何をよ?」
「見張りの話だよ。こんだけやってまるで手掛かりがない。だが、逆に言えば、手掛かりがないのが手掛かりだ。こうなりゃ、ほとんど丸見えだよ。パンチラの次元を超えてるよ」
何の話よ、とは言えない。私だって、そこまで純粋じゃない。
この状況で誰が一番怪しいかは分かっている。
「状況は前と変わらないわ。揃ってるのは状況証拠だけ。こんなんじゃ、言ったって言い逃れをされて終わりよ」
「らしくもねーなー、ティアナ」
むくりと起き上がり、私の目を見て喋るレイン。
「お前、それほとんど自分も犯人が誰だか分かってるって言ってるようなもんだぜ?」
私は思わず目を逸らす。こいつの真っ直ぐな瞳を直視するのに耐えきれなかった。
「情か?それとも、仲間意識か?」
「…多分、両方違うわ」
自分の中から必死に言葉を探す。
「信じたいだけ…それだけよ…」
自分の仲間を。自分の組織を。
そして、恐らく昔は自分と同じ夢を抱き、夢を叶えたあの人を。
「そうか」
特に何を言うでもなく、再び寝転がるレイン。
「俺のことをバカ、バカ言う癖にお前も相当なバカだな」
「知ってるわよ、そんなこと」
報われないとしても変えようがない。
バカだって自分でも思うけど。
「だけどまあ、良いんじゃねえの?」
「え?」
「だって、それがお前だろ?ティアナ・ランスター」
ドクンと心臓が震える。
別に褒められたわけでもない。感謝されたわけでもない。大したことは言っていない。
しかし、この馬鹿の言葉は、時々、いや、たまに、極マレに
自分でも信じられないくらい心に響く。
私は私のままで良いんだと思えてくる。
恥ずかしいから絶対に本人には言わないけど。
「それにバカもそこまでいけば上等だ」
大バカに言われたくない。
私のその言葉は声にならない。
声を出したら泣きそうなのがバレちゃいそうだから。
「俺がそのバカを助けてやるよ」
大バカはそれを分かっているのかどうかは知らないが、ゆっくりと私に近づき手を伸ばす。
「俺に策がある。乗ってみるか?ティアナ」
書いてたら、この作品で初めてシリアスっぽい空気になった。