どんな人生でも好きなことして生きられれば最高さ   作:はないちもんめ

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珍しくそこそこ早めの投稿


23 親っていうのは子供がいくつになっても割と過保護のことがある

「ねぇ、レイン…」

 

「…何でしょうか」

 

「一緒に死のうか…」

 

「病んだ目でヤンデレみたいなこと言うの止めてくれませんかねぇ…!?」

 

レインは全身を黒焦げにした状態で正座しながら、自身をこんな目に合わせた元凶を説得しようと試みる。

 

マズイ、情緒が不安定だ。このままでは、本当に心中しようとしかねない。

 

「だって、ティアナにどう償って良いのか分からないんだもん…」

 

「大丈夫だって!ランスターだって、実はそんなに傷ついて無いって!」

 

だから、泣きながらバルディッシュを自身の喉元に突きつけるのをまずは止めようか。このままじゃ、何かの拍子にこのまま突き刺さってしまう未来しか見えない。

 

そう言っているのに、何故かバルディッシュの刃がより自身へと突き刺さっていくのを感じる。

 

…あの、すみません…薄ら血が出てる気がするんですけど、気のせいですよね…まさか、執務官様が、管理局の英雄様が殺傷設定にしていませんよね?

 

「何で元凶がそんなこと言えるのかな…」

 

「元凶だから言えるんだよ!ランスターならこれくらいの苦難を乗り越えられないわけないって!」

 

「恥ずかしさで泣きそうになってたんだよ?もう私は見てられなかったよ」

 

「見なければ良いんだよ!辛い現実なんて見なくても良いんだ!」

 

現実を見ろなどと酷いことを言う連中がいるが、レインはそうは思わない。現実を見続けた結果、心が折れてしまう人もいるのだ。そんな人たちに強くあれと言うのが正しいのだろうか?それは強者の理論だ。人間は弱者であっても良いのだ。

 

だから、落ち着いてください!今にも心中しそうな顔しないでください!

 

「そんな育児放棄みたいなことできるわけないよ」

 

「それは育児放棄じゃないって!親だからって責任が全部自分にあると思うのは間違ってる!」

 

誰が誰を育児してるのか疑問は尽きないが、今はそんなことに言及している場合ではない。

 

「じゃあ、誰が責任あるの…?」

 

「誰も悪くないんだよ!アレは事故だったんだ!」

 

「自分の罪も自覚してない…私の教育が悪かったんだ…」

 

やっぱり、一緒に死ぬしか…とか宣っているハイライトが消えたフェイトの瞳を見て、レインは本気で青褪める。

 

こんな家業をしていれば恨まれるのは当然だし、殺される覚悟も当然している。しかし、こんな死に方は嫌だ。

 

「待て、待て、待て落ち着けぇぇぇぇぇぇ!!こんな所で死んでいいのかお前!?お前が助けられる何千、何万の命があるんだぞ!?それをお前、ランスターのパンツのために死ぬ気か!?」

 

「もう良いよ。レインのセクハラの被害に遭う数万の女性のためなら私の命くらい…」

 

「何も良くねぇよ!マジで落ち着け、この馬鹿!お前が死んだら、エリアとかキャロの親代わりが居なくなるんだぞ!アイツらを悲しませて良いのか!?」

 

これまで全く反応がなかったフェイトの瞳に、薄らと光が灯った。ここだ。ここに賭けるしかない。

 

レインは全神経を集中させることに決めた。

 

「悲しむ…かな」

 

「悲しむに決まってんだろ!だって、ほら、お前美人だし!」

 

「それ関係あるのかな」

 

あるに決まっている。美人というのはそれだけで共有財産だ。

 

「それだけじゃない!ほら、スタイルも良いし、何か柔らかそうだし、良い匂いもするし、大丈夫だって!」

 

「それ外見しか褒めてないよ!と言うか、セクハラ発言は禁止だって前に言ったよね!?」

 

フェイトは顔を赤くして怒っているが、さっきのようにハイライトが消えた状態で恐ろしいことをボソリと呟いている様を見るよりは遥かに安心だ。

 

全くもう、と言いながらフェイトはバルディッシュをデバイス状態に戻す。

 

「とにかく、ティアナにはしっかりと謝罪しなさい」

 

「えー、だって、あいつ怒ってるらしいじゃん」

 

「…そんなレベルだったら良いけど」

 

顔を少し逸らして、ボソリとフェイトは恐ろしいことを呟く。え?何?ランスターの奴どうなってんの?

 

「ちょっと待て。ランスターってそんなに怒ってんのか?」

 

「会う前に、まずは謝罪文を書いた方が良いレベルかな」

 

「直接言わなくて良いのか?」

 

「ティアナを人殺しにさせたくないんだよ」

 

真顔で何やら恐ろしいことを言っていた。て言うか、俺の心配はしないのかよ。自業自得?そうですか。

 

全力で逃げることをレインは此処に誓った。

 

「と言うか、そんなに怒ってる奴に謝罪文書いたって意味ないだろ」

 

「そんなこと言ってるからダメなんだよ。こういうのは誠意が大事なの」

 

ピンと人差し指を立てて、教師のようなことを言ってくるが果たして怒りで人を殺そうとしている人間に誠意なんかでどうにかなるのだろうか。

 

「いや、無理だろ。こういうのはやっぱり金だよ。慰謝料とかもそうじゃん」

 

「すぐそういう発想に走る…そもそも、そんなにお金ないでしょ」

 

フェイトはそう言ってジト目を向けてくる。確かに、金は無い。しかし、無いなら稼げば良い。

 

「そのために稼ぐんだよ。確か割の良い仕事が来てたはず…」

 

そう言ってレインは自身の仕事用のメールボックスを開く…が、何故か殆ど無くなっている。

 

え?確か幾つかあったはずとレインが疑問符を浮かべているとフェイトが思い出したように告げた。

 

「あ。言い忘れたけど、タジルに言って法律違反の依頼は削除したよ」

 

「おぃぃぃぃぃぃぃ!!!勝手に何してんだテメェ!!」

 

「当たり前でしょ!そもそも、そんな依頼は受けちゃいけないの!依頼主は後で追求して、罪に問うから」

 

こいつとの繋がりは俺の評判を悪化させかねない。ただでさえ、執務官と繋がりがある裏の人間ということで、避けられがちだというのにこれ以上悪評が広がったとしたらこの女どうしてくれよう。

 

それをフェイトに伝えたとて、「じゃあ、真っ当に働けば良い」と正論でしかない意見でぶった斬られて終わりだろう。理不尽だった。

 

「それに、ティアナの件は置いておいたとしても勝手に危ない依頼を受けた罰だよ。暫くは私が許可した依頼しか受けないこと」

 

「良いだろ別に。あんなクズどもを潰して金貰えるんだから。管理局としても仕事減って助かるだろし」

 

「だ・め・だ・よ。レインにそんなこと決める権限ないの。悪いことしたら正しい方法で裁かないと、レインの方が悪くなるんだよ」

 

「悪くなるってお前…俺、犯罪者なんだけど」

 

「そんなこと関係ないの。ダメって言ったらダメ」

 

この女は俺のことを何だと思っているのだろうか。本気で俺が犯罪者だということを忘れているような気がして怖い。

 

他のやつならば、騙して利用しようと考えているのだろうと思うが、コイツだからなぁ…

 

「急にどうしたの?そんな変なもの食べたみたいな顔して」

 

こてんと首を傾げたフェイトを見ると、何だか色々どうでも良くなる。

 

「いや、お前が阿保だったのを思い出してな」

 

「何でいきなり罵倒されなきゃいけないの!?」

 

それに、そもそもお前じゃないよ!フェイト!などと見当違いのことをほざいている天然執務官の言葉は無視する。まあ、良い。面倒臭いことは多いが、フェイトと関わるのは嫌いなわけじゃない。

 

それに無条件で信用できる相手というのは貴重なものだ。だからこそ、レインとしては別に構わないのだが

 

「俺みたいな犯罪者と関わって問題が起きても知らねえぞ」

 

「既に問題があちこちで起きてるって自覚がないのかな?」

 

ピキッと青筋を立てながら笑顔で言うフェイトに、これ以上の言葉を言う危険性を悟る。

 

先程のような状態になられたら、本気で今度こそ心中しようとしかねない。

 

「そ、そんなことよりも何だよお前が許可した依頼って。この残ってる依頼の中なら何でも良いのか?」

 

「そんなこと?」

 

フェイトの青筋が更に増える。

 

マズイ。何か地雷を踏んでしまったようだ。レインが悔やんでいると、そんなことは構わずにフェイトはより一層笑顔になり続ける。

 

「そっかー。レインにとっては私の苦労は『そんなこと』レベルなんだー」

 

「い、いやいや、そんなことはないぞ?た、ただ、それは執務官が犯罪者と繋がりがある段階で必要経費というか」

 

「必要経費?」

 

アカン、何を言っても事態が収まる気配がない。むしろ、悪化している気しかしない。

 

どんどん笑顔が深まっていくフェイトを見て、顔を赤らめるどころか青褪めていく。

 

「うん、わかった。前から常々思ってたんだけど、レインとはお話が足りないみたいだね。ごめんね、育児放棄しちゃって」

 

「あ、いや、そんなことは全然!そうだ、フェイト!お前も忙しいだろ?帰らなくて良いのか?」

 

「何処かの誰かを捕まえるために溜まってた有給使ってきてるから大丈夫だよ。ありがとね?取るように言われてた有給処理できちゃった」

 

余計なことを…レインはギリっと歯を噛み締めたが、それを言えば余計に酷いことになるのは目に見えていたので黙るしかなかった。

 

「今、余計なことをしてって思った?」

 

「ば、馬鹿なこと言うなよ。そんなことあるわけないだろ」

 

「付き合い長いから、大体わかるんだよね。それじゃ、行こうか」

 

むんずとレインの首根っこを掴むと、ズルズルと引き摺っていく。抗議の意思しかないレインは言っても無駄と分かっていても反論の言葉を述べる。

 

「ま、待て待て!エリオとキャロはどうすんだ!?放っておく気か!?」

 

「二人のことは心配だけど、それよりも長男の方が心配なんだよね。おかしいよね?何でずっと年上の長男の方が手がかかるのかな?」

 

「んなもん知るか!と言うか何処行くんだよ!?」

 

「とりあえず、今までの行動をたっぷりと話し合った後、どんな仕事してるかの観察かな。安心して。有給ならまだ大分余ってるから暫く一緒にいられるよ」

 

「馬鹿か!?何処の世界で裏世界の何でも屋が保護者同伴で仕事行くんだよ!?」

 

「此処にいるんだよ。大丈夫、明らかに問題行動をしてなきゃ何も言わないから」

 

その後もレインは抗議し続けたが、聞き入れてもらえるはずもなく結局たっぷりと怒られた後、暫くはフェイト同伴の仕事になるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




この二人だけの話って意外と初めてかもしれない

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