東方幽棲抄 ~ 今日も今日とて、ツンデ霊夢に殴られる   作:風鈴.

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第4話 優と雑談 その2

『日帰りの温泉旅行にこだわるならら、割引クーポンを手に入れた方が良いね。夏休みを迎える子供がいる家族を的にした団体向け割引クーポンをインターネット上で配布していると思うからさ。まあ、別に温泉旅行ではなくても構わないけれど。でも、この辺りで日帰りで行ける気軽な遠出と言ったら、温泉くらいかな』

 

「まあ、温泉以外にも……遊園地とかか? さすがに近くの遊技場じゃあ味気ないし、出来れば、普段は行かないようなところが良いな」

 

『遊園地か。良いね。ジェットコースター、ブルーホール、バイキング……久しぶりに乗ってみたいね』

 

「絶叫系ばっかだな」

 

『刺激に富んでいるからね。刺激は脳の活力の源ってね。まあ、絶叫系と言うか恐怖系と言うか、お化け屋敷だけはごめんだけれど」

 

「おやおや、どうしたんだい、優さん。まさか、作り物のお化けが怖いのか?」

 

『つまんない挑発だねぇ……。知らないよ? オレがお化け屋敷から変な方々をぞろぞろと連れてきて、ふとしたキッカケで颯の方にまとわりついても』

 

「……冗談だよ。俺だって柳の木の下に佇んでいそうな方々と友達になんてなりたくねえよ」

 

 呪われ祟られたら嫌だしな。精神衛生上問題だし、専門のところで御祓いをして貰うのも手間が掛かるからな。

 

 ちなみに、優は霊的な存在が『視える』側の人間である――らしい。

 

 優は幽霊が視えるだけではなく、会話も出来るし、さらに幽霊を引き寄せる体質なのだそうだ。

 

 霊媒気質と言ったところか。

 

『お化け屋敷に行くなら早苗と2人で行ってきなよ。手を握ったり腕に抱きついたりと、どさくさに紛れてボディータッチ出来るよ?』

 

「……はいはい、冗談言って悪かったよ。取り敢えず、早苗を含めたプチ旅行は日帰りの温泉ということで再度計画しようぜ。もともと、早苗はその内容で旅行に同意した訳だしな。そちらの方が行き先変更の了解を取る必要が無いから、都合が良いだろう」

 

『まあ、それが無難かな。ああ、そう言えば、早苗の夏休みの予定を聞いていなかったな……。いつ延期した温泉旅行を決行すればいいか分かんないね。恐らく今は起きていると思うけれど……いや、夜分に電話を掛けるのは良くないかな?』

 

「別に電話を掛けても良いんじゃないか? 友人関係なんだし、別に構わないだろう」

 

『……そうだね。こちらの方から早苗の夏休みの予定を聞いておく。内容は後日、モールス信号か点字か手話のいずれかで伝えるよ』

 

「どれも分かんねえよ。普通に電話かメールで知らせろよ。とにかく、早苗のこと、頼むぞ」

 

『え? お義父さん、それは……』

 

「誰がお義父さんだ。俺に娘がいたとしたら、お前にだけは嫁に出さねえよ。目ざとく揚げ足を取んな。……早苗への電話のことだよ」

 

『ういうい。任された』

 

「たくっ、いちいちボケを挿むんじゃねえよ……」

 

『颯は律義に突っ込みを返してくれるからね。こちらとしてもボケ甲斐があるというものです』

 

「ああ、そうですか。……そう言えばさ、早苗って未だに口調が馬鹿丁寧なんだな。中学生の頃から、そんな風になったんだっけ?」

 

『ああ、確かに変わってないね。自分から性格矯正をしようと努めるか、もしくは人生で大きなパラダイム変換が起きない限り、この先も変わらないだろうね。早苗に最後に会ったのは……今年の正月の初詣の時? いや、オレの場合は、その後にも何回か会ったか』

 

「え? 優は初詣以降に早苗にあったのか?」

 

『おや……おやおや? オレに嫉妬したかい? もしや恋のジェラシー? きゃっ』

 

「いや、単に疑問に思っただけだよ」

 

 つーか、男が『きゃっ』とか言うんじゃねえよ。気持ち悪い。

 

『別に初詣に限らず、オレは時々守矢神社に行っているからねぇ……お守りをもらいに行ったりとか。あの神社に行くと、巫女服っぽい早苗に会えることもあるし。あれは眼福だよね。目の良い保養になるよ』

 

「ああ、あの青っぽい巫女服めいた衣装か。あの色合いは早苗に似合っているよな。初詣の時には、きちんと紅い巫女服だったから、風祝って神職の正装なんじゃないか」

 

『かもね。まあ、早苗の他にも時々……姉妹の方にも会えるからね。あの人達とは、個人的に親しい付き合いをさせてもらっているよ――3人で酒宴を開いてね』

 

「おい待てや!」

 

『早苗は下戸でお酒が飲めないから、別に仲間外れにしているわけではないよ?』

 

「論点はそこじゃねえ! 未成年が酒宴に席を連ねるな!」

 

『単なる冗談だよ。まあ、お酒を勧められたことはあったけれど、飲んだことは無いよ』

 

「ああ、そうかい……」

 

 何か肩透かしを食わせられた気分だ。

 

「……姉妹の方って言うと、早苗のお姉さんと妹さんだっけ。俺は小学生以来すっかり会ってないけれど、あの人達は今も元気にしているか?」

 

『んー、元気と言えば元気だったね』

 

 ……元気と言えば元気?

 

「なんだよ、その奥歯に衣着せる物言いは」

 

『いや、深い意味は。別に健康面に関しては問題ないよ。ただ、何と言うかな……霊気と言うか、オーラと言うか、存在感と言うか。影が薄くなっていると言えば、しっくり来る表現なのだけれど』

 

「……何だか良く分かんないけど、まあ、元気そうならそれで良いよ」

 

 そうは言ってみるものの、優の奇妙な言い回しが気にならない訳でもない。

 

 健康面に問題は無いそうだが――しかし影が薄いとはどう言う表現なのだろうか。

 

「そうだな……たまには守矢神社に参拝してみても良いかもな。もしかしたら、久しぶりに早苗や姉妹の人達に会えるかもしれないし」

 

『それは良いと思うよ。せっかくだから、きちんと参拝してお守りでも頂いてきたら?』

 

「そうだな。せっかくの参拝だし、お守りの1つでも買ってこようかな。お守りって何があるんだ? それと神社の御利益は?」

 

『祀られている神は……建御名方神で良いのかな? 神徳は風雨と五穀豊穣と武運。お守りは除厄招福と心願成就、縁結びと安産祈願、あとは家内安全と病気平癒だったかな』

 

「何か神徳とお守りの霊験の種類に類似点が無い気がするのだが」

 

『まあ、時代の変遷と共に、少しずつお守りは変わってくるからね。お守りって、神社の営繕費を稼ぐためにもあるから。神社で参拝したら恋愛が成就したという話があれば、恋愛成就のお守りを売り始めるようになったとかね。お守りの種類については、あまり気にしても仕方がないよ』

 

「ふうん……そんなものなのか」

 

 優の話を聞いて、少しだけお守りに対する霊妙なイメージが崩れたな。もっと由来深い理由がある霊験なのかと思っていたのだけれど。

 


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