東方幽棲抄 ~ 今日も今日とて、ツンデ霊夢に殴られる   作:風鈴.

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第5話 幻想郷では、常識に囚われてはいけないのですね!

 

「おう、颯。人里が見えてきたぞ」

 

 魔理沙が地面を指差す。その先には、住宅が密集している地域があった。

 

「へぇ……あれが人里か」

 

 俺は魔理沙の肩越しに、眼下の人里を見遣る。

 

 ぱっと見た感じは――幻想郷の人里は、まるで時代劇の撮影に使う映画村のようだ。

 

 人里の広さは、目測で2キロメートル四方と言ったところか。里を囲うようにして、高い外壁が築かれている。外壁の外には、堀が作られている。その構造は、時代劇で見た城の城壁を思わせる。外敵――妖怪の攻撃を想定していることを窺わせる。

 

 里の中心を横切るように、大きな川が流れている。その川を中心にして、人里は開拓されたようだ。

 

 家屋は、黒塗りの瓦が基本だ。人里の外壁よりの家屋は、木造が多い。平屋が多く、長屋のような長い平屋もチラホラと見つかる。この辺りは、純粋な住宅が多いのだろう。

 

 川の近くに近付いていくと、白塗りの家屋が多く見つかる。壁が木製ではない……ということは、商品を保管するための蔵屋敷か何かに違いない。

 

 川沿いとなると、2階建ての大きな建物の数が急増している。人通りも多く、色とりどりな出店らしき建物が多い。商家が集まっているのだろうか。

 

「なるほどな……。魔理沙、人里の人口がどれくらいかって分かるか?」

 

「人口? いや、分からないな。結構な数はいると思うが……」

 

「1万人はいないだろう?」

 

「うーん……そうだな。多くて5000人くらいじゃないか?」

 

 魔理沙の見立ては、正しいと思う。この規模の住居環境だったら、人口は5000人……それに足らないくらいと考えるのが妥当だ。

 

 人里が近づくにつれ、魔理沙は飛行高度を落としていく。

 

 やがて、俺と魔理沙は人里の入り口――その手前にある橋に降り立った。

 

「ほら、着いたぜ」

 

 魔理沙は股下から箒を抜き取ると、肩にかつぐ。

 

「ありがとう、助かったよ」

 

 俺は魔理沙にお礼を言うと――その場で何度か片足をぶらつかせる

 

「……何やってんだ」

 

「いや、その……箒の柄のせいで、股が痛くてな」

 

 俺は苦々しく呟いた。

 

 足を動かしてみるとよく分かるが、箒の柄に圧迫され続けた股下は、ズキズキと痛みを発していた。

 

 これはまた、なんとも慣れ親しんだことのない痛みだ。股間というのが情けない。

 

「まあ、仕方ないな。乗るのに慣れていない奴は、そうなるぜ。優を乗せていた時と違って、そばに霊夢がいなかったしな」

 

「……どういうことだ?」

 

 霊夢さん、そばにいるだけで鎮痛効果でもあるの?

 

「優の時はな、霊夢が手を貸してやったんだよ。『普通に箒にまたがっているとキツイ』って優が言いだしたから、霊夢が優の左手を持ってやって、優自身は右手で箒の柄をつかんでいたって感じかな」

 

 え、なにその状況。優のやつ、霊夢に補助してもらって、飛行を楽しんでいたってこと? 手をつないで?

 

 颯さん、お股イタイイタイを我慢していたっていうのに?

 

 許せんな。

 

「颯の場合は、仕方ないぜ。箒にまたがるんじゃなくて、横乗りだったら、まだ楽だったかもな」

 

「ああ、横乗りという手があったか」

 

 横乗りだったら、尻全体に体重が分散される。青春恋愛ドラマの自転車二人乗りよろしく、横向きに乗っかればよかったか。

 

 乗る前に思いついていれば……!

 

「……ところで、優と霊夢は?」

 

「そう言えば、ここにはいないな」

 

 魔理沙の口ぶりから察するに、優をここに降ろした後、俺を迎えに行くために、すぐに飛び去ったということだろう。

 

「たぶん、先に2人で人里に入ったんじゃないか」

 

「かもな。分かった、2人を自分で探してみるよ」

 

「ちょっと待て。初めて人里に入るんだろう? 霊夢たちと合流できるまでは、一緒に付いていってやるぜ」

 

「いいのか? そこまでする義理は……いや、分かった。ありがとう。厚意に甘えさせてもらうよ」

 

 せっかくの申し出だ。ここは素直に従おう。

 

「任せろだぜ。……そう言えば、まだ訊いていなかったな。何が目的で人里に来たかったんだ? 買い物か?」

 

「いや、買い物じゃなくて……。端的に言えば、家探しと仕事探し、かな」

 

「家と仕事? ってことは、人里に永住するのか」

 

「永住するってわけじゃないんだ。ちょっと話がややこしいんだがな……」

 

 俺は幻想入りするまでの経緯、それと魔理沙に出逢うまでの成り行きについて、手短に話した。

 

「……なるほどね。スキマ妖怪に放任されたってか。なんか大変だな」

 

「スキマ妖怪?」

 

「紫のこと。あいつ、スキマを使うだろう」

 

 ああ、そういうことか。スキマを使うから、スキマ妖怪と。

 

「事情は分かったぜ。ひとまず、幻想郷には1か月も留まらないと考えていいんだよな」

 

「そうだな。8月の下旬に差し掛かったら、いったんは故郷に戻ろうと思ってる」

 

「分かった。そうなると……丁稚奉公みたいな感じになるかもな」

 

 丁稚奉公。つまりは、住み込みの使用人ということか。

 

 確かに、丁稚奉公という働き方だったら、住む場所と仕事が両方とも手に入る。

 

「ただし、丁稚奉公って言っても、期間限定だろう? 長くても20日くらいの。そこが微妙なんだぜ」

 

「微妙なのか?」

 

「いちおう、私は商家……道具屋の生まれだからさ、その辺りの事情は分かるんだが……。正直なところ、長期で働くつもりのない奉公人って、面倒なんだよな。知識が無いから、初めは誰かが丁寧に教えないといけないだろう? かと言って、長く奉公してくれるわけじゃない。育て甲斐がないんだよ。だったら、最初から要らないって話。繁忙期で人手が足りないなら、知り合いに頼めばいいだけだしな」

 

 魔理沙の言うことは、至極もっともな話だ。新卒の入社試験で、会社に長期的に留まる見込みのない学生を不採用にする話に、通じるものを感じる。

 

「そういうわけで、丁稚奉公みたいなのは難しいかもな」

 

「そうか……」

 

 人里に来れば、何か機会に巡り合えると思ったが……出鼻をくじかれた気分だ。

 

「まあ、気にするなって。他にも、良い手が見つかるかもしれないからな。ひとまず、人里の中を散策してみようぜ」

 

「……それもそうだな。ここに突っ立っていても、何も始まらないし」

 

 どちらにせよ、優と霊夢と合流しなければいけない。

 

 俺は魔理沙に連れられ、人里の門をくぐった。

 

 上空から感じた通り、人里の風景は、時代劇で登場する江戸の城下町に雰囲気が似ていた。全体的に、素朴で和の印象が強い。一種の集合住宅だと言うのに、無舗装の土の地面を踏みしめるというのは、なんとも新鮮な感覚だ。

 

 通路に見える人里の住人は、みな着物か甚平を着ている。俺のように、洋服めいた洋服を着ている人は、見渡した限りでは見つからない。明治初期の文化水準だったら、洋服が普及していても不思議ではないと思っていたが……山間の秘境に西洋文化は浸透しなかったのだろう。まあ、魔理沙は洋服――それもコスプレめいた服装ではあるけれど。

 

 魔理沙の後に付きしたがって、どんどん通路を歩いていく。その間、俺と魔理沙に対して、住民から好奇の視線が向けられていることに気付いた。俺たちの外見から、外部から来た人物であることが丸わかりだからだろう。

 

 周囲の人々を眺めていて、もう1つ気付いたことがあった。男性も女性も、みな背が低いのだ。成人男性を見比べてみたが、どの男性も俺よりも頭1つ分は背が低い。俺の身長は約180センチメートルだから、人里の男性のは、160センチメートルに届いているかどうか……と言ったところだろう。

 

 珍しい洋服を着ている見慣れない巨漢が現れた。しかも、魔女のコスプレじみた少女と同伴で。物珍しい目で見られても、おかしくないな。

 

 まあ、それはそれとして――

 

「魔理沙。今はどこに向かっているんだ?」

 

「ひとまず、川沿いの商店通り。あそこが1番 人が集まりやすいからな。何か情報を収集するんだったら、打ってつけだ。ついでに買い物も出来る」

 

 なるほど。何も当てが無い現状では、まずは川沿いの商店通りに向かうのが得策か。

 

 もしかしたら、優と霊夢は、一足先に商店通りへ向かったかもしれない。

 

「そうだな。まずは、その商店通りとやらに行ってみようか」

 

「ああ。ここから歩いて行くとなると……10分弱は掛かるけど、箒で飛んでいくか?」

 

 魔理沙は、竹箒を肩から下ろした。

 

「……いや、出来れば、歩きで行きたい。住人の暮らしぶりとか、じっくり見てみたいしな」

 

 股間に負担を掛けたくないしな!

 

「私はなんでもいいぜ。どうせ暇だしな」

 

 魔理沙は箒を担ぎなおすと、鼻歌まじりに歩き続ける。

 

 暇か……。そう言えば、魔理沙は、普段は何をして生活しているんだ? 道具屋の生まれって言っていたから、店の看板娘みたいな感じで、普段は店の手伝いをしているのだろうか。……魔女のコスプレで?

 

「なあ、魔理沙」

 

「なんだぜ?」

 

「魔理沙って、普段は何をして生活しているんだ? さっき言っていた、道具屋の手伝いとかしている感じか?」

 

「あー……」

 

 魔理沙は言葉を濁すと、箒を持っていない方の手を腰に当てた。視線は、少し上に向いている。

 

「実家の方とは、ちょっとな……。普段は、魔法の森で生活してるよ。キノコを採ったり、魔法の研究をしたり……普段はそんな感じだな」

 

「ふーん、魔法の森ね……」

 

 魔理沙の口ぶりから、実家――道具屋に関して、何か悶着があったようだ。この件については、触れないでおこう。

 

「魔法の森って、どんな場所なんだ?」

 

「んー、そうだなー。薄暗くて、いつもジメジメしてる。魔力を帯びたキノコが採りやすい場所だな」

 

 樹海みたいな環境だろうか。ということは、博麗神社みたいに、人里から離れている場所かもしれない。

 

「魔理沙1人で、その魔法の森に暮らしているのか?」

 

「ああ、一軒家に1人で住んでる」

 

「1人暮らしか……しかも鬱蒼とした森の中で。すごいな」

 

 物資調達とか不便だろう……と思ったが、魔理沙の場合は空を飛べるから、さして不便ではないのか。

 

「そうか? 人も妖怪も寄りつかない場所だから、何かと快適だぜ」

 

 魔法の研究を前提にするなら、喧騒の少ない環境の方が適している……ということか。いわゆる、象牙の塔だな。

 

「お金とか食糧とか、その辺りは、どうやって工面しているんだ?」

 

 霊夢にも後で尋ねるつもりだが、人のいない場所で暮らす生活の知恵を学んでおきたい。

 

「食べ物については、基本はキノコだな。煮ても焼いても美味い。魔法の森だったら、いくらでも採れるし」

 

 魔理沙の場合は、主食はキノコか。キノコは栄養が豊富だから、主食には適しているのかもしれない。

 

「野菜とか肉は、どうしているんだ? その辺も自給自足か?」

 

「いや、普通に人里で買ってる。魔法の森だと、野菜の栽培は難しくてな……。狩る動物もいないし」

 

「それはまた、どうして?」

 

「なんつーかな、魔法の森の環境は、特殊なんだよ。魔法のキノコが生えているって言ったろ? あのキノコがな、魔力を帯びた胞子を出しているんだよ。そのせいで、普通の野菜は駄目になる。土壌が合わないんだろうな。家庭菜園に挑戦したことも何度かあったけど、全滅した」

 

「なるほどな……。確かに、そういった特殊な環境だと、普通の野菜は育たないか」

 

 露地栽培にとって、土壌の相性は、絶対条件だ。

 

「動物なんかも駄目なのか?」

 

「ああ。イノシシとかウサギとか、そういった美味い動物は、魔法の森には近づかないな。……あ、そうそう。注意しておくが、魔法の森には、迂闊に入るなよ。普通の奴だったら、胞子にやられて気絶するぜ」

 

 俺の中で、魔法の森の危険度がググッと跳ね上がった。

 

 神経性の胞子とか、やばいじゃん。気絶したまま放っておかれたら、死ぬんじゃないか?

 

 よくよく考えてみれば、キノコが毒性を持つことは、自然淘汰の結果として当然かもしれない。キノコは、寄生型の菌類。腐った宿主を確保しやすいほど、その種のキノコは繁殖しやすい。だったら、自らに毒を持つことで、接した宿主候補――動物を その場で殺せるキノコは、宿主を確保しやすいわけだ。

 

「そんなに危ない場所なのか? 暮らしていて平気なのか?」

 

「私は平気だぞ。なんかな、次第に平気になった。体が慣れたんだろうな」

 

 魔理沙は、得意気に言ってみせる。

 

 魔法のキノコの放つ胞子に対して、免疫が出来たということだろうか。

 

 そう言えば、魔理沙が霊夢を尋ねてきた理由って、新薬の実験のためだったっけ。自分だと魔法薬が効かないから、効果が確かめられないということで。

 

 ……それにしても、普通の野菜と肉は、人里で調達か。

 

「じゃあ、お金はどう工面しているんだ。人里で買い物をしているってことは、お金を支払っているってことだろう」

 

 まさか、泥棒しているわけでもないだろうし。

 

「お金か? 私の場合は、色々だな。自作のマジックアイテムを売ったり、珍しい物を拾ったら香霖堂に持っていって買い取らせるし」

 

 香霖堂?

 

「その香霖堂って、どんな店なんだ? 買い取り専門の仲買業者か?」

 

「仲買って、どういう意味だ?」

 

「そうだな……。誰かから物を買い取ったら、買い取り金額よりも高い値段で、別の業者に売るって感じの商法だな」

 

「問屋みたいなものか?」

 

「そんな感じだな」

 

 問屋なら、意味は通じるようだ。

 

 幻想郷だと、仲買という言葉は、一般的ではないようだ。元いた世界よりも、生産者と消費者の距離が近いからだろうか。

 

「いや、香霖堂は、そんな大それた店じゃないぜ。香霖堂自体は、道具の販売店なんだよ。幻想郷の外から流れ着いた、珍しい道具が多いな。こーりん……香霖堂の店主がな、そういった道具を集めるのが好きなんだよ」

 

 珍しい道具の収集家が趣味で営んでいる道具屋、という感じだろうか。

 

「なんか珍しい道具を持っているなら、こーりんに売りにいくといいぜ。颯、外の世界から来たんだろう? だったら、こーりん好みの珍しい道具、持っているんじゃないか?」

 

 魔理沙が俺の方を見上げる。『どうなんだ?』と尋ねるような表情だ。

 

「ちょっと考えてみる。……すまんな、まだ訊きたいことが多いんだ。いいか?」

 

「構わないぜ。商店通りまで、まだ時間は掛かるしな」

 

「恩に着る。……で訊きたいことなんだが、幻想郷の外というのは、えっと……俺が幻想郷に来る前の場所のことだよな」

 

「そうだぜ。幻想郷の外。博麗大結界の内側が幻想郷で、外側が颯や優の住んでいた世界だぜ」

 

 魔理沙の言い回しには、引っ掛かるところがある。まるで、幻想郷は、日本から隔離――いや、隔絶された場所のような言い方だ。地続きの山間の秘境、という感じではない。

 

 それに、博麗大結界とは? 博麗……霊夢と関係があるのだろうか。

 

「その博麗大結界というのは?」

 

「そうだな……。幻想郷を囲っている結界だと思っておけばいいぜ。詳しいことは、霊夢かスキマ妖怪に訊くといいぜ。特に、スキマ妖怪だな。博麗大結界を作った張本人みたいなもんだし」

 

 紫さんか。会えるかどうか向こう次第だから、霊夢から教えてもらう方が早そうだな。

 

「分かった。それで、道具が流れ着くっていうのは?」

 

 流れ着くという意味合いからして、河口や浜辺を思い出すが……幻想郷に海があるとは思えない。

 

「うーん……。説明がややこしいな。幻想郷はな、忘れられたものが流れ着く仕組みになっているらしいんだよ」

 

「忘れられたもの?」

 

「たとえば……颯のいた外の世界って、妖怪の類は、もう信じられていないだろう?」

 

「……そうだな。数百年前に比べたら、今は妖怪の存在は信じられていないな」

 

 まだ幽霊の存在を信じている人もいるし、UMAみたいな訳の分からない生物の発見報告はあるけれど。とは言え、恐れられているというよりは、娯楽の手段に使われていると言った方が正しい。

 

「だろう? だから、幻想郷に妖怪が集まるんだよ。外の世界で忘れられたから」

 

 幻想郷という隔離地域――その存在意義が分かってきた気がする。

 

 だから、紫さんは、幻想郷を『妖怪の楽園』と呼んでいるのか。

 

「で、だな。忘れられたものっていうのは、何も妖怪みたいな生き物に限らない。颯にとっては時代遅れに感じるような道具なんかも、幻想郷に流れ着くんだ」

 

「たとえば?」

 

「そうだな……。香霖堂で最近に見つけた道具だと……ボタンを押すとピカッと光る写真機ってやつかな」

 

「……使い捨てカメラのことか?」

 

「たぶん、それだな」

 

 なるほどね……使い捨てカメラみたいな道具が幻想郷に流れ着くのか。

 

 デジタルカメラ……それどころか携帯電話で写真撮影が可能になっている昨今では、使い捨てカメラは、もはや忘れられた遺物というわけか。俺も幼少期に触ったことがあるくらいで、すでに存在を忘れていた。

 

「それで、流れ着くって、どんな感じで? 見た限りでは、幻想郷に海や大河は見えなかったけれど」

 

 でっかい湖はあったが。

 

「それがな、こう……気が付いたら存在しているって言えばいいのか? あれ、こんなのあったっけって感じで」

 

「……なんとなく想像できた」

 

 たとえるなら、1年以上も訪れていなかった地域に再訪した時、新しく出来た建物を見て『あ、こんなのが出来たんだ』みたいな感覚だろうな。

 

「幻想郷なら、どこにでも落ちているのか?」

 

「いや、どこでもってわけではないな。博麗大結界の境界沿いには、流れ着きやすいって話だけど。ほら、博麗神社があるだろう? 博麗神社は、結界の境目に位置しているんだよ。裏山を歩いていたら、何か見つかるんじゃないか?」

 

 へぇ……博麗神社は結界の境に建っているのか。霊夢から裏山に行くなと言われているけれど、ちょっと探検してみたくなった。

 

「あとは……(さい)の河原なんかは、よく道具が流れ着いている印象が強いな」

 

「賽の河原?」

 

 地獄の話なんかに登場する、あの賽の河原? いや、まさか。

 

「ああ、賽の河原。三途の川は知っているだろう。手前が賽の河原で、川の向こうが彼岸」

 

「まあ、知っているけれど……。それって、死後の世界の話だろう?」

 

「幻想郷には、実際に三途の川はあるぞ? 死神とか、普通に船渡しをやってるし」

 

「……まじで?」

 

 え、俺って生身だよね? まだ死んでないよね?

 

 幻想郷って、本当に現実の世界に存在する場所なんだよな?

 

「……すまん、ちょっと頭が混乱してきた」

 

「ははっ、無理もないぜ。訳の分からない連中が訳の分からないことをやっている場所が幻想郷っていうところだ」

 

 魔理沙は軽快に笑った。

 

 うーむ……。俺の中の幻想郷の印象が、どんどん現実の常識から離れていく。

 

 忘れ去られたもの――妖怪のような非常識の存在が住まう場所なのだから、外の世界の常識で物事を測ろうという考えが間違っているのだろう。

 

 変人と非常識が跳梁跋扈する異世界――それが幻想郷。

 

 幻想郷では、常識に囚われてはいけないのですね!

 

 

 


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