東方幽棲抄 ~ 今日も今日とて、ツンデ霊夢に殴られる   作:風鈴.

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第33話 幻想入り

 

 7月31日。

 

 現時刻は、朝の9時手前。

 

 俺は大量の荷物をリュックサックに詰め終わった。

 

 リュックは空きがないほど荷物が詰まり、パンパンに膨らんでいる。

 

 主に、かさばる衣類関係のせいなのだけれど。

 

「……さて、荷物の準備はオッケーだな」

 

 ピンポーン、ピンポーン――

 

 ふと、玄関のチャイムが鳴った。

 

「お、来たか」

 

 俺は立ち上がり、玄関へ向かおうとすると――

 

 突然、リビングの大窓が開いた。

 

「おっはよーう、颯!」

 

 普段以上にハイテンションの優が大窓から入って来た。

 

「……おい待て。なんでそこから入って来る」

 

「いや、普通の入り方だと面白くないから」

 

 だったらチャイムを鳴らすな。

 

 つーか、やっぱり紫さんみたいな奴だな、こいつ。

 

「……まあ、良いや。上がれよ」

 

「うぃ」

 

 優は履いてきた靴を手に持つと、室内に入って来る。

 

 優も、背中に大きなリュックサックを背負っていた。

 

「ずいぶんと大荷物だな」

 

「それは颯も一緒でしょ。とりあえず、5日分の衣服を詰め込んでおいた」

 

「なるほどな」

 

 さて。

 

 どうして俺と優が大荷物を用意して集合しているかと言うと……。

 

「幻想郷って、どんな場所なんだろうな」

 

「そりゃ、人と妖怪が和気藹々と暮らしている山中の秘境だろうね」

 

 これから――幻想郷へ行くからだ。

 

 数日前の夜、紫さんと自宅で対談した時のこと。

 

 紫さんが「幻想郷へ遊びに来てもらえないか」と言われたので、俺は二つ返事で了承した。

 

 紫さん曰く、夏季休講を利用して幻想郷に訪れ、どんな場所なのか知って欲しいとのことだ。いずれは本格的に幻想郷へ移って欲しいが、急に引っ越しを決めるのも難しいだろうから、お試しで暮らしてみて欲しいそうだ。

 

 俺としては、幻想郷に興味を持っていたし、紫さんに対する恩返しになるので、特に断る理由は無かった。夏休みを利用した長期旅行だと思えば、有意義な時間の使い方でもあるからだ。

 

 ちなみに、なんと優も幻想郷へ訪れる手筈になっていた。藍という人物と対面していた時に、そこで幻想郷について話され、幻想郷へ訪れることを勧められていたそうだ。優の場合は、なんの躊躇もなく了承したらしい。

 

 このような経緯があり、俺と優は自宅に集まり、9時に来訪する予定の紫さんに幻想郷へ連れて行ってもらうことになっている。

 

 ちなみに、滞在期間は、最長で3週間を予定している。8月20日前後には、こちらへ帰って来るつもりだ。

 

「お金とか食料品は、持って行かなくて良いんだったよね」

 

「紫さんは、そう言ってたな。住める場所は、こちらで用意するとか。お金は……なんだっけ? かなり前のお金が流通していて、現代のお金は使えないって言ってなかったか?」

 

「だよね。文化的に、明治初期なんだっけ? 野口さんやら諭吉さんやらは使えないだろうね」

 

「まあ、必要になったら、アルバイトでも何でもすりゃ良いさ。山間の秘境なら、いくらでも仕事は余っているだろうしな」

 

 アルバイトと言うか、奉公だろうか。

 

「――あらあら、準備は万端ですわね」

 

 急に、紫さんの声が聞こえた。

 

 声のする方向を見ると、スキマの縁に上半身をもたれさせている紫さんの姿があった。

 

「あ、紫さん。おはようございます」

 

「おはようございます~」

 

 俺と優が挨拶すると、紫さんは「はい、おはようございます」と返し、広げたスキマから出て来た。

 

 いつの間にか、予定時刻になっていたようだ。

 

「よもや、これほど早く、幻想郷へ招くことになるとは思いませんでしたわ。それも、2人そろって……なにやら感慨深いですね。田舎へ旅行すると思って、幻想郷の暮らしを楽しんでくださいな」

 

 紫さんは指を一振りし、人一人が通れる大きなスキマを開いた。

 

 スキマの先には、寂びれた赤い鳥居が見えた。奥には、建物も窺える。どうやら、どこかの神社のようだ。

 

「このスキマは、幻想郷に繋がっています。奥に見える場所は、博麗神社と呼ばれる神社ですわ。そこに、博麗霊夢という巫女がいます。すでに話は通してありますから、幻想郷での暮らしは、彼女を頼りなさい」

 

「博麗霊夢、ですね。分かりました」

 

 巫女と聞いて、俺は早苗のことを思い出した。

 

 早苗の奴、俺と優がこんなことになっていると分かったら、きっと驚くと同時に羨ましがるだろう。早苗は神様や妖怪について詳しいから、幻想郷のことを話せば、絶対に興味を持つはずだ。

 

「今一度、忘れ物が無いか確認してください」

 

「俺は大丈夫です。外靴もありますし」

 

 俺はリュックサックを背負うと、わきに置いてあった外靴を手に持った。

 

「オレの方も大丈夫です」

 

 同じく、優もリュックサックを背負い、手に外靴を持った。

 

 紫さんは静かに頷く。

 

「よろしい。では、どうぞスキマを潜ってください」

 

 紫さんはスキマを潜るよう手で促した。

 

「よし……じゃあ、行くか!」

 

「オッケー。不思議な郷でバカンスを楽しもうじゃないか」

 

 俺と優は互いに頷き合うと、幻想郷へ繋がるスキマを潜った。

 

 

 

 さて、幻想郷では――

 

 どんな出会いが待っているのだろうか――

 

 

 


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