東方幽棲抄 ~ 今日も今日とて、ツンデ霊夢に殴られる   作:風鈴.

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第2話 早苗と優について

 

  ここで『東風谷早苗』と『神坂優』について、少し紹介しておこうと思う。

 

 まずは『東風谷早苗』についてから。

 

 俺が初めて早苗と出逢ったのは、市内にある平凡な小学校だ。小学校低学年から中学校を卒業するまで、長期に渡って同じクラスなったという縁で親しくなった間柄だ。

 

 早苗は、優しさと気遣いに満ちた心の持ち主だ。本人の器量の良さも関係しているが、中学校の卒業間際のクラス内アンケートでは『将来お嫁さんにしたいランキング』の項目で投票率1位の栄冠を獲得していたほどだ。簡単に言ってしまえば、良い子なのだ。

 

 昔はもっと活発な性格で、男友達と外で一緒に遊んでいた印象が強い。どうして現在の大人しやかな早苗に変わったのか不思議だ。たぶん、思春期を迎えて、自分の性別を強く意識したせいなのだろう。

 

 早苗の家系は、代々神社の管理を務めている。彼女の口振りから察するに、将来は一族の管理する神社の当主として神社を守っていくらしい。

 

 早苗は学業のかたわら、管理している神社で風祝《かぜはふり》という神職を務めている。風祝とは、風の神を祀る神職だ。厳密には、巫女と異なるらしし。

 

 早苗は表向きとして風祝という神職に就いているものの、巫女のような仕事もしている。主に人手不足が原因のようで、人手が少ない神社では、仕事の兼任はよくあるそうだ。

 

 ご家族は姉と妹がいることは分かっている。何度か早苗の家にお邪魔したことがあるのだけれど、その時に早苗のお姉さんと妹さんを交え、色々と遊んだものだ。

 

 お姉さんは姐さん気質と言うか、とても豪快で寛大な性格だ。どこか男らしい印象を受けることが多々あった。出逢う時は、かなりの割合で酒気を帯びていたので、どうやら酒好きらしい。飲み過ぎについて早苗に何度も叱られていた。

 

 妹さんは、快活な性格だ。早苗の家に行くと、早苗よりも妹さんと遊んだことの方が多いように思える。外見の幼さの割りに色々と物知りな子で、口調もどこか年齢不相応に大人びていた。色々とからかわれたので、将来は小悪魔系女子に成長するのではないか……と密かに思っている。

 

 早苗の家系が管理している神社――守矢神社は、小ぢんまりとした神社だ。しかし、廃れているわけでもない。境内や本殿は、きちんと掃除の手が行き届いていた。ちょくちょく年配の参拝者もいたと記憶している。ここ数年は守矢神社に足を運んでいないけれど、きっと今でも参拝者が訪れていることだろう。

 

 そう言えば、守矢神社が何の神様を祀っているのか、早苗に尋ねてみたことがあった。その度に、早苗は含みのある笑みを浮かべ。答えをはぐらかしていた。

 

 早苗が教えてくれなかったので、姉妹にも同じ質問を尋ねたこともあった。

 

 お姉さんの方は豪快に笑い「下の妹に訊け」と言った。

 

 妹さんに尋ねると『婿養子に来るのなら教えてあげるよー』と愉快そうに笑いながら言われた。妹さんは口達者だと、子供ながらに感心したものだ。

 

 早苗とは別の高校に進学したので、そこで実際に会う頻度は少なくなった。その代わり、メールのやり取りが増えた。また、優も加えた3人で不定期に集まり、遊びに出かけることもある。その一例が、今回の日帰り温泉旅行だ。

 

 さて、早苗についての紹介はもう充分であろう。これだけ紹介すれば、早苗の人物像は、大まかに分かってもらえたはずだ。

 

 では……もうひとりの友人についての紹介を始めようか。

 

 神坂優。

 

 こいつを一言で言い表すなら……自由奔放が適当だろうか。

 

 まずは、優の彼の生い立ちから話しておこう。

 

 優は孤児だ。優本人は、自分は捨て子なのかもしれないと言っていた。

 

 優は自分の両親の事について、全く憶えていない。彼が孤児院に保護された年齢は、親に依存しないと生きられない幼年の頃だからだ。保護された時に所持していた物品から、彼の名前が神坂優であると判明した。

 

 優は、中学校まで孤児院で生活をしていた。高校に進学してからは、家賃の安いアパートに入居して独り暮らしを始めている。高校を卒業する前に孤児院生活を止めた理由は、他の孤児との共同生活が煩わしかったからのようだ。どうやって生活費や家賃を工面しているか気になったが、どこからか収入を得ているらしい。その1つが同人漫画の制作であることは分かっている。

 

 優の住んでいる部屋は、重度のオタク部屋(個人的には異次元空間と呼びたい)だ。棚には、同人活動用の画材が大量に仕舞われている。

 

 毎年の夏と冬のコミックマーケットの開催時は、俺は日給2万という美味すぎる報酬で、優に同人誌販売の売り子として雇われている。その時に売る同人誌の冊数は、半端ではない。

 

 在庫が入っているダンボール箱は、百単位で用意されている。万単位ではないにしろ、数千単位で同人誌を売り捌いていることは間違いない。破格な日給にも頷けるものである。

 

 

 次に、俺との関係について紹介していこう。

 

 俺と早苗も長い付き合いであるが、優との付き合いは、それ以上に長い。と言うのも、早苗とは中学を卒業して密接な縁は切れてしまったけれど、優と俺は同じ高校――すなわち小学校の時から現在に至るまで、同じ学校に通っている縁が続いているからだ。いわゆる腐れ縁だ。

 

 

 優は、基本的にアホな発想と子供染みた言動ばかりしている。しかし、まともな意見と良識を持ち合わせているのだから、よく分からない奴だ。老成人なのだけれど、子供っぽいのだ。本人も自覚があるらしく、自分をアダルト・チルドレンと称している(本来の言葉の意味を承知した上でのネタ発言だと思われる)。

 

 芸術を好み、詩歌や自然の風流な趣を愛する心を見せる一面もある。でも、二次元文化に対して恋着する一面もある。趣味趣向が両極端だ。

 

 早苗と同様に穏やかで気さくな性格であり、どこか常識とズレている。早苗の世間とのズレを『天然』と称すなら、優の世間とのズレは『ズレているからズレている』だ。誰よりも常識を重んじているが、しかし……どこか非常識なのだ。

 

 上記を見て分かる通り、ところどころ性格に矛盾する点が窺える、色んな意味で不思議な性格をしているのだ。だから、優の人物像を明確に伝えづらい。

 

 そんな不明瞭でミステリアスな性格であるが、人付き合いは良い方に思える。優のユーモアに富んだ口調は、会話していて非常に楽しい。はしゃいで遊ぶのが大好きな奴なので、ムードメーカーにもなれる。また博学で智慮に富んでいるので、学ぶべきところも多い。

 

 しかしながら……。

 

 優があまりにもユーモアに富んでいるが故に、彼自身もユーモアを非常に好むが故に――まともではない会話が多くなり過ぎるのが欠点だ。

 

 さて――早苗と優の大まかな人物像は説明できたと思うし、ひとまず紹介を切り上げよう。

 

 この紹介をしている間に、優のボケ会話は随分と進行した。

 

 もうそろそろ終わりを迎えるようだし、その意味でも、物語を展開する頃合いだろう。

 


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