東方幽棲抄 ~ 今日も今日とて、ツンデ霊夢に殴られる   作:風鈴.

17 / 49
第17話 駅前広場で集合 その1

 駅の駐輪場に自転車を預け、駅舎前にある小さな広場の方に向かった。そこが、優と早苗と合流する集合地点だ。

 

 集合時刻の約15分前に到着だ。これなら1番乗りであろう。

 

 そう思っていたのだけれど。

 

 視界の先――広場に設置された石造りの長椅子に座り、優と早苗が楽し気に会話していた。

 

 そこそこ早めに来たのに、まさか自分が最後の1人になるとは……。

 

 何やら敗北感のようなものを感じつつ、優と早苗の許へ向かう。

 

「おーい、颯。おはよう。到着が早いね」

 

「あ、颯君、おはようございます」

 

 俺の接近に気付き、優と早苗が声を掛けて来た。

 

「おはよう――つーか、お前らどれだけ到着が早いんだよ。まだ集合時刻の15分前だぞ? いつからここに到着していたんだよ」

 

「オレは大体20分くらい前だったかな? ちょっと到着する時間が早いかなと思ったんだけど、特にやることが無かったから、早めに出て来たんだ。オレが到着する前に、もう早苗はいたけどね」

 

「私は優君が来る少し前に到着しました。お恥ずかしい話ですが、家で待機する時間がもどかしくて……早めに家を出てきちゃいました」

 

 なんだかんだ、みんな遠足気分で浮き足だったわけだ。

 

「なるほどね。2人の到着が早すぎて、集合時刻を間違えたのかと思ったぞ。……で、何か楽しそうに話していたけれど、何を喋っていたんだ?」

 

「いや、ちょっと早苗の恋愛相談的なものを少々……」

 

「恋愛話? 早苗の?」

 

「ちょっ、優君!?」

 

 早苗が素っ頓狂な声を上げた。

 

「オレは気が進まなかったのだけれど、早苗がこう……ぐいぐい強引に話題を持って行ったからね。止むに止まれぬと言うか、引くに引けなくなったと言うかさ。強制的に相談相手もどきの話し相手を」

 

「や、止めてくださいよ、からかうのは! 私、そんなことを話してなかったじゃないですか! 温泉のことで話していただけです」

 

 ああ、温泉のことで雑談していたのか。

 

 ……何だろう。つい最近、似たようなことを話した気がするのだけれど。

 

 まあ、それはさておき。

 

 ここは場の流れを読み、優の冗談に乗っかるとしますか。

 

「へえ、それはまた意外だな。早苗、そんな押しが強い性格ではないと思っていたが……そんな一面もあったのか。……あれか、恋は人を変えるって感じ?」

 

「かもね。女の子は恋をすると激変するもんなんだねぇ……。会話中の早苗、なかなかに積極的だったよ。どんな仕草に男は惹かれるのか、どんな風にアプローチすれば男はその気になるのだとか。色々と質問攻めにあったよ。あれは猛禽類の目つきだったね」

 

「なるほどな。早苗は隠れ肉食系女子だったってことか」

 

「いいね、隠れ肉食系女子。普段は恋愛に対して奥手っぽくて、でも智略的な策で捕食してきそう。見えない罠を張り巡らすタイプだね。まるで糸の巣を作りあげる蜘蛛のようだ」

 

「蜘蛛か。つまりは……女郎蜘蛛というわけか」

 

「お、上手いことを言うね。若い女性だから女郎と言うわけか。すると、捕食対象は草食系男子ではなく、昆虫系男子?」

 

「昆虫系男子か。なんとも捕まえやすそうだな」

 

「だねー。虫取り網があれば捕まえられそうだし。草食系男子が恋愛奥手男子なら、昆虫系男子はどんな男子なんだろうね」

 

「そりゃあ、あれだろ。捕まえやすい男子なんだから、軽く言い寄れば勝手に誤解して落ちてくれるような、女性に免疫の無い男子だろ」

 

「ああ、なるほど。オタク的な男士かな? ネット好き的な意味でも」

 

「蜘蛛の巣だけにネットときたか、洒落が利いてて良いな。中々に言い得て妙じゃないか」

 

「でしょう? ……あっ! 早苗が狙っている相手は、昆虫系男子――つまりはオタクっぽい人か!」

 

 閃いたと言わんばかりに、優は膝を打った。

 

「ねえ、聞いてますか!? 聞こえているんでしょう!? わざと聞こえない振りをしているんでしょう!? 意地悪しないで下さいよ! あれは単に温泉話をしていたと言っているでは――」

 

 早苗が横合いから抗議の声を上げ続けているが、適当に無視しておく。その方が面白そうだ。早苗は真面目に反応してくれるから、からかい甲斐がある。

 

「優よ、そこに気付くとは……やはり天才か。……ん? おい、ちょっと待て。と言うことは、早苗の捕食対象は、お前って可能性もあるんじゃないか? お前もオタク文化にはどっぷり浸かっている身じゃないか。……もしや!」

 

「……まさか!」

 

 俺と優が瞠目して早苗に視線を向ける。

 

 早苗は驚きと心外のあまり、目を大きく見張った。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。