東方幽棲抄 ~ 今日も今日とて、ツンデ霊夢に殴られる   作:風鈴.

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第11話 守屋神社に参拝 その3

 

 まさか――本当に神様が来たのか!?

 

 俺は、咄嗟に周囲を見回した。

 

 ……しかし、辺りに不審な光景は微塵も無かった。

 

「……何? どうかした?」 

 

 俺の視線に気付いたのか、優がこちらに振り向いた。

 

「あ、いや……もしかしたらもしかするのかなと思ってさ」

 

「もしかしたら? ……ああ、そう言うことね」

 

 優は境内の様子を注意深く観察する。しばらくすると、つまらなそうに肩を竦めた。

 

「ただの突風みたいだね――境内の様子が騒がしくないみたいだし」

 

 境内の様子が騒がしくない。

 

 その意味は分かりかねるが、神様のような存在が登場しなかったようだ。

 

「そうか、単なる突風か。なんつうか、ずいぶんと間の良い突風だったな。思わず、もしかしたら……って思っちゃったぜ」  

 

「異常の到来を報せるかのような強風――演出としては良いね」

 

「だよな。……まあ、そんな漫画や小説のような展開にはならないか」

 

 改めて、寂に包まれた境内の様子を見渡してみる。

 

 やはり、特に変わったところは見受けられない。

 

 思い出の中の情景と変わらない、幽寂で神秘的な境内の様子があるだけだ。

 

「……っと、まだ参拝の途中だったな。確か二拍手で終わっていたんだっけか」

 

「だね。神様を呼んだまま、ほったらかしにしてるねぇ……」

 

「神様をほったらかしにしているとか、かなり罰当たりじゃねえか。早く最後の……一拝だったか? それをやって神様を送り返さなきゃな」

 

「まるで神様を厄介者扱いしているようにも受け取れそうだね」

 

「いや、単なる言葉の綾だ。神様はきっと懐が広いからな、その辺の事情をきちんと察してくれるさ」

 

 何はともあれ。

 

 深くお辞儀して神様を送り返し、参拝の一通りの工程を終えた。

 

「……さて、これからどうする? しばらく境内でも散策するか? 俺は、もう帰ってお前の原稿の手伝いに戻っても構わないけど」

 

「お守りは? 交通安全とかもらう?」

 

「あ、お守りがあったか。お守りって社務所で買えるか?」

 

「社務所で買えるよ。ほら、あの建物が社務所」

 

 優が指差す方向を見ると、受付窓の付いた建物があった。

 

 しかし……。

 

「……あれ、誰もいないっぽいな。受付窓は開いているみたいだけど」

 

「変だね。受付窓は開いているのに、誰もいないなんて。たいてい、1人くらい誰かがいるもんなんだけど。……もしかして、奥の座敷間で休憩しているのかもね」

 

「ああ、なるほどね。休憩中って可能性もあるか」

 

 携帯電話で時刻を確認すると、昼の1時前を表示していた。

 

 今が昼休憩の可能性は高そうだ。

 

 今が休憩時間となると、わざわざ呼び出して働いてもらうのは忍びない気がする。

 

「優。とりあえず、社務所まで行ってみるか」

 

「そうだね。声を掛けて、人が出て来なければ……まあ仕方ないね。留守なのか昼寝中か分からないけど、ひとまず帰ろっか」

 

「だな。出てこないなら仕方ないもんな。……いや、出てこないなら出てこないで、人がいるか確認した方が良くないか? いちおう、お守りとか売っているわけだし。盗まれたらマズイだろう」

 

 商品を取り扱う場所だから、きっと両替用の小銭なども保管されているだろう。

 

「あー、確かにそうだね。ちゃんと人がいるかどうか確認した方が良いね。留守だったら、社務所の受付窓が開きっぱなしってこと、守屋家の人に伝えておかないとね」

 

 

 

 

 その必要はありませんよ。

 

 

 

 ふと、その声は――拝殿の陰の方から掛けられた。

 

 聞き馴染みのある、鈴を転がすような少女の声音。

 

 俺は声の聞こえて来た方へ振り向いた。

 

 向けた視線の先。

 

 そこにいた者は――

  


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