偉い人達が私を対リンドウの暗殺者と勘違いしている   作:九九裡

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ほぼ二連続投稿です。前話の存在にお気をつけ下さい。


自分のことは嫌いだけれど

〈side・アグネス〉

 

朝目覚めると病室にいた。解せぬ。私は確か歓迎会で飲み食いしていたはずだが。

リンドウさんが側に居てくれたが、寝ているようなので起こすのも悪いし記憶を掘り返してみよう。

 

=====

 

ウロヴォロス二体をぶっ殺した私は極東支部に帰還した。この時点で偏頭痛がかなりやばくて、頭が回らないながらも支部長に金銭を要求したのは覚えている。つまりストレス値+30(上限はないけどスマブラみたいに吹っ飛びやすくなっていく)くらいだ。

……うん、よくよく考えたら私結構なことやったな。消されないかビビりながらも金銭要求とか肝太すぎるでしょ。

それでえっと、リンドウさんの部屋で歓迎会あるからって言われて、シャワー浴びて……うん、いつもみたいにお風呂にゆっくり入らなかったことでまた頭が痛くなった。ストレス値+5。

しかし私のために歓迎会の準備してくれたわけだし受けないわけにもいくまいよ。

だから少しふらふらしながらもリンドウさんの部屋を訪ねて三千里……じゃなくて。訪ねたらみんな揃い踏み。まさかこのキング・オブ・ぼっちのためにあんな人数が集まって下さるとは思ってもいなかった。

そしてサカキ博士から受け取った缶ジュースに口をつけて……一瞬意識が飛んだ。瞬き一つの間に白目を剥いた。おいなんだこのジュース。甘くて酸っぱくて苦いんだけど。すわ毒か!?ぱ、パッケージは……初恋、ジュースだと。あのアラガミ素材で作られたという伝説のキ◯ガイジュースじゃないですか!

そしてサカキ博士。何故じっとこちらを見る。飲めと?このイカれた飲み物を飲み干せと仰るか貴様。

……労災降りるのかな。

 

ーー未知なる驚きこそが我が歓喜!

 

私はそうは思えないよライダーうぐへぁ。

 

 

 

大丈夫。大丈夫だ。私は地獄の三丁目を突破した。ストレス値+35くらい行ったけどまだ大丈夫。まだ行ける!おかわりは要らないけれど。私は安堵から大きなため息をついた。

 

「アグネスさんは今日はどのアラガミと戦ってたんですか?」

 

おっとカタストロフィナンシェさん、それ聞く?聞いちゃいます?しかし特務だから喋れない。サカキ博士が真顔で初恋ジュースの2本目を用意しているっ!ストレス値+15。

でも絶対この子しつこいよね!内緒とか言ったらもうダメじゃん。それなら聞くなよ感を出すしかないじゃん。

 

「おいしいよ」

「はい。有難うございます!……それで、今日は」

「おいしいよ」

「え、あ、有難うございます。それd」

「おいしいよ」

「あ、はい……」

 

よし鎮圧。けどカタストロフィナンシェ美味しい。名前はアレだけど味は素晴らしいね。是非また作ってください。ストレス値−5。

 

その後は挨拶したり(何喋っていいか分かんなかった)みんな各々楽しそうに飲んで騒いでするのを眺めたりしたけど、…………………はっ、意識飛んだ。

疲労と初恋ジュースとストレスマッハのせいで頭が割れるように痛い。まずいなぁ……ここで倒れたくはないなあ。

 

「アグネスさんはもう少し服装に気を使うべきです!例えジャージだとしても、金髪にするとか髪をストレートにするとか常にその髪型にするとか青色のマフラーを巻くとか帽子を被ってその穴からそのアホ毛をムガムゴォ!」

「それは禁則事項」

 

何で地雷原でタップダンスするかなこの子は!ほら焼きそばパンでも食べてなさい成仏せよ!ストレス値+30。何だろう。除夜の鐘を打つ丸太に使われてる気分なくらいアタマイタイ。

 

それで……しばらくしてもうすぐ終わりそうかなってくらいにエリナちゃんが来て……

 

「……何?」

「エリックを、たすけてくれてありがとう!」

 

ぐはぁあああああ(吐血)!!

ちょ、やめようかエリナちゃん。私エリックくん助ける気そんなに無かったよ?どーでもいいと思ってたよ?軽い気持ちで助けたよ?だからそんな純真な目で私を見ないでくださいお願いします。

 

「……ぅ、あ」

「アグネス?」

 

サクヤさんが心配して下さっているようですがそれどころじゃない。穢れた私はまばゆいエリナちゃんから一歩遠ざかった。やばいここに来てストレス値が急上昇。頭が比喩抜きで割れそう。

 

「エリックとね、やくそくしてたの。こんどお洋服をかってくれるって。でもアグネスさんがいなかったらそのやくそくも守れなかったから……ありがとう!」

「……やめて」

 

……ああ。頭の中で冗談のように取り繕う余裕さえ無くなってきた。

『ジジッ』

やめて、やめて、やめてやめてやめて。

心が痛いのよ。

『ジ ジ ジ ジ ジ ジ ジ ジ ジ ジ ジ ジ』

痛い、痛いの。めちゃくちゃ痛いの。

ありがとう な ん て 言わないで。

 

「あのね、お父さんとお母さんもね、アグネスさんにおれいをつたえておいてって!ありがとうって「やめてッ!!」

 

ああ、やってしまった。

エリナちゃんがびっくりして固まっている。意識が遠のきそうだ。けど、これだけは伝えておきたい。

 

「やめて……違う!!私はッ!あなたにそんなことを言って貰えるような人間じゃない!」

 

私みたいな器も実力もちっさい人間に、そんなに心を砕かなくたって、感謝なんてしなくたっていいんだよ?だって私はーー

 

自分(わたし)のこと、大嫌いだから。

 

『ジジッ』

意識が消し飛んだ。

 

=====

 

はい状況把握致しました。何やってんだよ私。たとえ具合が悪かろうと、トラウマ刺激されて余裕が失われていようと、あんなちみっ子に当たり散らして生きてて恥ずかしくないのか私。エリナちゃん、私をぶん殴ってください。もしくはエリックくん、代わりに殴っていいよ。

ていうかあの後、私が倒れたからお開きになっちゃったんだろうなぁ。悪いことしたなぁ。あとでみんなに謝ろう。特にエリナちゃんには土下座も辞さない。

 

しかも昨日は、夢見も悪かったんだよね。

 

=====

 

夢の中で私は嘆きの平原にいた。もちろん神機も持っている。そして竜巻の中からウロヴォロスが……

 

『アグネスゥウウウウ!!』

 

……ウロヴォロスじゃなくてアマテラスだった。しかも女性の像がはまっている筈の部分に爺がはまっている。

触手爺、キモイ。

だがしかし。敵だっていうなら遠慮なくぶっ殺していいよね?

よし殺そう。

 

「死ね」

 

十分かけて爺テラスをぶち殺し、死体斬りまでしてオラクルを貯蔵した。別に死体をぐちゃぐちゃにしてやるほど嫌いなわけじゃ……いや、それもあるけど。

そしたらだ。

 

『残念じゃったな。爺テラスは何度でも蘇る……』

 

竜巻の中から想定外の爺テラス二体目出現。何これエンドレスなの?しかし日頃の恨みを考えればまだ斬り足りないところだったんだ。まだやってやろう。神機を爺に向け構える。

行くぞ爺テラス。残機の貯蔵は十分か?

私は果敢に爺テラスに斬りかかりーー

 

 

 

ーー数時間後。

私は地に倒れ伏していた。

正義の味方にはなれなかったよ……。私怨で爺殺しまくってる時点で正義でもなんでもないけど。

 

『お前の後ろじゃああ!』

 

十五体で限界が来た。肉体もそうだが、精神的に疲れた。十体目でスッキリしたのにまた爺が出続けるから逆にイライラして来た。

ズズーン、ズズーンと近づいてくる爺。

 

誰かほんと助けて。もうやだよ流石に。

 

もう殺したくなくなってきたよ。

 

=====

 

というところで夢は終わった。妙な夢だ。その後は普通に熟睡出来たから良かったけど、寝言とか聞かれてないといいな。

頭も大分痛く無くなったし、もう起きても大丈夫かな?

そう考えて体を起こそうとしたら。

 

「んぐ……ふぁ〜あ。ん?ああ、起きたのか()()()()。体調はどうだ?」

 

しまった。リンドウさんを起こしてしまった。てか今、名前で呼ばれた?

 

「問題ありません。大丈夫です。あの、エリックの妹は……」

「大丈夫だよ。一応、具合が悪かったって話はしてあるから。謝りたいならあとで謝っとけ。今はまだ寝てろ。検査とか、念の為やることになってるからな」

「……はい」

 

ベッドに体を横たえる。

うーむ。貴重なゴッドイーターだから仕方ないとはいえ検査面倒くさい。

 

「……リンドウ隊長」

「どうした?」

「ご迷惑、お掛けしました」

「別にいいんだよ。隊員は隊長に迷惑かけてナンボだろ。そんでその迷惑を上手く片付けるのが隊長の仕事なんだ。日頃働いてないぶんの仕事をしただけだ」

「……ありがとう」

 

優しいね。リンドウさん。

その時病室の扉が開いて、コウタ、ユウ、ソーマ、サクヤさんが入って来た。

 

「うぃーす。お見舞いに……あっ、アグネスさん起きてる!大丈夫ですか?」

「おはよう、アグネスさん」

「大事なさそうだな」

「具合はどう?おかしなところはない?」

「うん。ありがと。ごめんね?」

「別にいいですよ。仲間じゃないですか!」

「うんうん」

 

仲間。

仲間かぁ。

心配されて、心配して、いいね。

暖かいね。寂しくないね。

胸の奥がとても熱くて、ぽわぽわする。

 

「ア、アグネスさん!?どっか具合悪いんですか!?」

「え……?」

 

気がつくと、ぽろぽろと目から雫が溢れていた。

 

ーーああ、嬉しいのかな。

 

爺のせいで一人も友達がいなくなってから、久し振りのとても良い気分だから、すぐに分からなかった。

嬉しい。嬉しい。嬉しいね。私のためにこんなに心を砕いてくれて、申し訳ない。ごめんね。辛い。でも嬉しい。どうしよう。どうしたらいいのかな。手を取っていいのかな。触れていいのかな。私のせいでみんなが傷つかないかな。爺に嫌なことされないかな。

 

それでもその手を掴みたいの?

 

……うん。

私は、少しでいいから、ここで幸せになりたいな。

 

「アグネスさん?」

 

差し出された手を、そっと取った。

心配してくれるみんなの手を握って、私はベッドから起き上がった。その日は昔みたいに、気分良く柔らかく笑えた気がした。

 

ああ、私は私が嫌いだけれどーー彼等の悲しい顔は、見たくないね。

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

「アグネスさん笑って!」

「ほらこれお菓子!」

「……こう?」

「ぐああああ!くそっ、今日もダメか!」

「天使の微笑はいつになったら得られるんだ!」

 

その後しばらく経った頃から、何故か私の笑顔を見た人はその日アラガミのレアな素材を得られるとかいう訳の分からん噂が立っていた。それに付き合う私も、私だが。

 

あとエリナちゃんには全身全霊で土下座した。おずおずとしながらも笑って許してくれるエリナちゃん可愛い。ありがとう。




主人公も主人公で、自分の過去を持て余しています。この物語では、主人公も他の第1部隊のメンバーのように、悩んで苦しんで乗り越える様を書きたいです。

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