偉い人達が私を対リンドウの暗殺者と勘違いしている   作:九九裡

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流星一条ァアア!の感想を多数頂きました。有難うございます。あっという間にお気に入り登録を千人以上の方にしていただいてかなり驚いています(震え声)。
二連続投稿です。一話目で種を撒き二話目で収穫します。勘違い要素はあるにはあるけど薄味です。


アグネスはフェンリル(ブラック)の隷也

〈side・アグネス〉

 

(アグネス)は激怒した。必ず、かの邪智暴虐の支部長を除かねばならぬと決意した。私には政治が分からぬ。私はこれまで、十三歳からアラガミを毎日殺しまくって来た。けれど自分へのデスマーチには人一倍敏感であった。

 

「あのね、ヒバリさん。何が言いたいかっていうとね」

『は、はい』

「支部長にボーナス出さないとぶっ殺すって言っといて」

 

自分でも怖いくらい冷えた声が出た。

私はコンクリの上からジャンプすると、彼方に山のように佇む超巨大アラガミ、『ウロヴォロス』へと駆けた……一人で!

そう、私は特務中で嘆きの平原にいるのだった。

嫌だったけど断れなかった。消されたくないし。でもせめてリンドウさんくらい付けてくれてもよくない?ソロ得意でもね、流石にウロヴォロス相手だとリンドウさんいるのといないのとじゃ精神的安定感が違うんだよ。

 

開幕と同時に捕食し、バーストする。ゲームで見るとそうでもないけど実際見たらデカすぎる。山だよ。そしてキモい。触手の集合体とかちょっと。

 

うりゃあああ!

鎌をぶん回し、前足をチクチクと傷つけて行く。

前足振り下ろしと薙ぎ払いが来る!

ステップで退避からの……鎌伸びーる攻撃いぃ!

チクチク、チクチク。

このままオラクル限界まで貯めてメテオラッシュでぶっ潰してやる!

邪眼フラッシュ来ました!はいジャストガード!

そら切り刻んでやるよお!

チクチク、チクチク。

 

……うん、何だろう。私の絵だけアップしたら激戦に見えるのに、ウロヴォロス全体と一緒に写したらハムスターが人間にじゃれてるくらいにしか見えなさそうだ。

巨大なウロヴォロスの足元で、元気よくふんっふんっと鎌を振り回す私。どう見ても小動物です。

 

あっ、触手地面から生やす攻撃来た。

 

ブラストに神機を切り替えリザーブする。

そう言えば試しに作って見たネタバレットがあるんだよね。使ってみようかな?……いや止めておこう。こんなギリギリの任務で無駄にオラクルを消費したく無い。

空中に八芒星を描いた後に光の束(レーザー)がピュン!って出るんだけど。コウタがリアクション良いからコウタの前で見せよう。

 

目からビーム撃ってきた!はい前転回避!

 

うぁああああん!何で私みたいな雑魚ゴッドイーターが単独でウロヴォロスハントなんてしなきゃいけないんだぁ!帰ったらサクヤさんに思いっきり甘えてやるぞ!

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

ヒバリはアグネスのバイタルと周辺のアラガミ情報、そしてウロヴォロスの状態を確認しながらも、モニタに映し出されるアグネスの戦いの様子に見入っていた。

一言も話すことなく、ウロヴォロスの動きを読み、回避し、防御し、攻撃する。

 

切り裂く。

切り裂く。

切り裂く!

 

激しく動き回っているのにも関わらずアグネスのバイタルは戦闘開始から全く減っていなかった。対して、ウロヴォロスは確実に弱っている。

全てが予定調和であるかのように動き、抵抗を許さずじわじわと嬲り殺して行くーーまさに鎌を携えた死神。ウロヴォロスをどれだけ追い詰めてもアグネスの表情には何のさざめきも見えなかった。言葉を発することなくただ雄弁に伝えているようだった。

何一つ語る必要はない。貴様の死は決定事項だ、と。

 

アグネス・ガードナー。彼女にウロヴォロスとの交戦経験が無いにも関わらず、こうも『殺し慣れて』いるのか、ヒバリにはまるで分からなかった。

そしてーーアグネスが放っていた神属性メテオラッシュが降り注ぎ、ウロヴォロスを粉砕した。

 

でもこの人、サイズといい絨毯爆撃といい、致命的にチームプレーに向いてないな、と思ったヒバリであった。

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

〈side・アグネス〉

 

終わったー。

超疲れたー。

ゲーム時代の行動パターンがそこそこ通用したから良かったけど駄目だったら詰んでるよねこれ。

ウロヴォロスの死体を神機にもぐもぐさせながら、必ず支部長から金をせびることを私は誓った。

あともぐもぐと言えばさ、頼むから早くGE2みたいにラウンジ増築してムツミちゃん呼んで来てくれないかな。配給食も本部のゴハンより美味しいけどやっぱり手料理食べたいのよ。

おっ、コアが取れたね。あとはこれを持って帰って任務完了っと。

 

護送車カモン!クールに去るぜ……。

……。

………。

なんか竜巻の中からもう一体出て来たんですけど。

 

『なっ……作戦エリアに想定外の超大型種が出現!アグネスさん、気をつけて戦って下さい!』

 

退避させてくれないの?二連戦やれって言いたいの?

ヒバリさん何気にSだよねアナタ。

ああ……ストレスで偏頭痛がするよ……。

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

〈side・サクヤ〉

 

「サクヤさーん。焼きそばパン買って来ました」

「その台詞だけ聞くと私が不良の親玉みたいに聞こえるからやめなさい」

 

テンプレ通りに焼きそばパンなどの食べ物がぎっしり入った袋を抱えてやって来たコウタとユウの頭を私は軽く叩いた。今現在アグネスは任務から帰って来る途中らしく、以前から言っていた歓迎会を開くため、今は準備の為に余剰の配給チケットを集めて、食べ物やお菓子を交換して来て貰っているところ。

場所がないのでリンドウの部屋で行うことになったのだけれど。ただ……。

今現在リンドウの部屋に集まっているのが第一部隊の面々にサカキ博士、第二部隊の台場カノンさんに、エリックとその妹さんだけという……ま、まあこれ以上集まっても部屋に入りきらなかっただろうけど……少ないわよね。ヒバリさんはアグネスの任務が終わってから合流するらしいけど……。

 

「最初にエントランスに入って来た時に、その場にいた全員を挑発したんだろう?ならまあ、妥当な人数じゃないかな」

 

そうツバキさんは言うけれど。あの子、そんなことするかな?とても寂しがりに見えたけれどね。

 

「でさでさ!アグネスさんすげーんだよ!そこで撃ったバレットがヒューンドカーンって!ズドーンって!」

「おお〜」

 

コウタとカノンはアグネスの武勇伝で盛り上がっているらしい。サカキ博士とリンドウも聞き入っているみたいだけど擬音が多すぎて理解できてないみたい。

ユウは皿に食材を盛り付けているけれど……。なんで焼きそばパンをジェンガ風に積み立ててるのよ。あの子焼きそばパン好きなの?そしてなんでソーマまで「角度が甘い」とか言ってるの?ノリノリなの?

 

『あ、アグネスさんお帰りになられました……ひぃ!?』

 

部屋の中心に置いておいた通信機からヒバリさんの声が聞こえてきた。

 

『わ、分かりました!支部長には伝えて置きます!伝えて置きますから!取り敢えずシャワー浴びて血を落として!リンドウさんの部屋に向かって下さい!皆さん待ってますから!』

 

そんなに血塗れで帰って来たのね。何の任務を受けてたのかしら。

 

『こ、怖かった……』

「ヒバリちゃん、アグネスさんがどうかしたの?」

 

コウタが呑気に聞くと、ヒバリさんは。

 

『はい……アグネスさん、今回の任務で大型アラガミと想定外の連戦が続いてしまったので、そのぶんのボーナスを支部長に出させろと仰って……酷くお疲れのご様子です』

「んん?歓迎会どころじゃなさそうだったか?」

『いえ、お伝えしたところ、参加すると仰いました』

 

無理してないといいけど、ね。

 

 

 

「お待たせ……」

 

30分ほど待っていると、リンドウの部屋をノックして、アグネスが入って来た。……足元が覚束ないけど。ふらふらと、用意されたクッションに座り込む。シャワーを浴びてきたからか、いつも背中に流しているあちこち跳ねた髪をシュシュで後ろにひとまとめにしていた。腰まで届いているからまさに馬の尻尾のようね。

 

「つかれた」

 

サカキ博士から受け取った缶ジュースを一気飲みしてようやく落ち着いたのか、アグネスは肺が空っぽになりそうな大きなため息を……。

 

「アグネスさんは今日はどのアラガミと戦ってたんですか?」

 

カノンがフィナンシェを差し出して聞くと、アグネスは「ありがと」と呟いて、もそもそとフィナンシェを食べた。

 

「おいしいよ」

「はい。有難うございます!……それで、今日は」

「おいしいよ」

「え、あ、有難うございます。それd」

「おいしいよ」

「あ、はい……」

 

無理矢理誤魔化した!食いついたらしつこい『あの』カノンを下がらせるなんて!食べ終わるとアグネスは指についたフィナンシェのカケラを舐めながら、

 

「また作って?」

「は、はい!」

 

ぱぁ、と元気になるカノン。アフターフォローも完璧とは恐ろしい子……。こんな喋り方だけど、きっと人心掌握とコミュ力にも自信があるのね。

そんなやり取りをしている間にヒバリさんも合流した。

 

「ん、んんっ。あー、それでは遅くなったが。ガードナーの歓迎会を始めよう。幹事は俺が、務めさせて貰う」

『おー』

「それではガードナー。一言、どうぞ」

「これから、よろしく……」

「……以上だ!喋って飲んで食え!」

『お、おー!』

 

この締まらない感じはいかにもリンドウらしいわね。

その後はリンドウが次々配給ビールを空けて行ったり、コウタが主役そっちのけで食べ物を平らげていたからヒバリさんに叱られていたり。アグネスは私やカノンとポツリポツリと話しながら、食事を済ませた。

途中でカノンが明らかにおかしい様子だった時には何事かと思ったけれど……。

 

「アグネスさんはもう少し服装に気を使うべきです!例えジャージだとしても、金髪にするとかストレートにするとか常にその髪型にするとか青色のマフラーを巻くとか帽子を被ってその穴からそのアホ毛をムガムゴォ!」

「それは禁則事項」

 

アグネスが疲れていたとは思えないほど高速で焼きそばパンをカノンの口に詰め込んで事なきを得た。何が事なきなのかは分からないけれど、何と無くよ。

 

そして宴もたけなわとなった頃ーーエリックと妹とのエリナちゃんが立ち上がっていたアグネスの前に進み出た。

 

「……何?」

「エリックを、たすけてくれてありがとう!」

 

……ああ。この子はこのパーティを利用して、アグネスにお礼を言いに来たのね。先日エリックがやらかした件についてはこの場のみんなが知るところだけど、エリナちゃんも知っていたとは。どうやらエリックもそれ以来かなり真面目に仕事するようになったらしく、任務に同行した人達は皆、彼を褒めていた。

エリナちゃんが笑顔で嬉しそうにお礼を言うのを見て、この場のみんなの空気が和んでいた。アグネスはーー

 

「……ぅ、あ」

「アグネス?」

 

顔色が悪い。それどころか、怯えたように一歩後ろに下がっていた。けれど照れているのか、俯いているエリナちゃんはそれに気がつくことなく、お礼の言葉を言い続ける。

 

「エリックとね、やくそくしてたの。こんどお洋服をかってくれるって。でもアグネスさんがいなかったらそのやくそくも守れなかったから……ありがとう!」

「……やめて」

「あのね、お父さんとお母さんもね、アグネスさんにおれいをつたえておいてって!ありがとうって「やめてッ!!」

 

しん、と。

アグネスの絹を裂くような悲鳴に、部屋は静まり返った。

しかし、アグネスは気にした様子もなく……頭を押さえて、構わず叫んだ。

 

「やめて……違う!!私はッ!あなたにそんなことを言って貰えるような人間じゃない!」

 

血を吐くような叫びにリンドウが目を見張るのが見えた。

そしてーーアグネスの体が、ふらりと傾いた。異常を察知したユウが咄嗟に支えに入らなければ、床に激突していた。

 

「ちょっ……アグネスさん!?大丈夫なんですか!?」

 

私も、コウタ達も再起動してユウの腕の中のアグネスに駆け寄るけれど、アグネスは青い顔でぴくりとも動かなかった。

 

「診せなさい!」

 

仮にも私は衛生兵曹長!簡単な処置なら出来る!

私が容態を確認している間、サカキ博士が驚いて固まってしまったエリナちゃんを慰めていたのはナイスだったわ。

診たところ、どうも……

 

「ただ、気絶してるだけのようね……多分、何らかの要因で強いストレスが溜まってて、それが爆発したんだわ」

「そうですか、良かった……」

 

その日は主役が気絶したことと妙な空気になったこともあって、お開きになってしまった。アグネスは病室に運ばれ、目覚めるまでリンドウが付いていることに。

 

寝る前に、ベッドの中で声が反芻される。

 

『やめて……違う!!私はッ!あなたにそんなことを言って貰えるような人間じゃない!』

 

あの子があんな声を出すなんて。……いや。私はまだ、あの子について何も知らないのね。あんなに芯の強そうだった彼女があそこまで取り乱す理由……一体、何だったのかしら?

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

〈side・リンドウ〉

 

俺は真夜中の病室にいた。ガードナーの眠るベッドの横で、椅子に座っていた。

 

『やめて……違う!!私はッ!あなたにそんなことを言って貰えるような人間じゃない!』

「……クソッ」

 

先程のガードナーの悲痛な叫びを思い出して、ギリリ、と奥歯を噛み締めた。眠るこの子の顔は、年相応のあどけない少女の顔だ。また精神的にも幼いただの少女。

それがーーあんな顔を()()()()()()()

あの表情は罪に苦しむ者の顔だった。

あの悲鳴は罪に灼かれる者の声だった。

こんな、まだ十代の少女が、それほどの後悔を背負わされている。その理由は分かっている。間違いなく幼い頃から本部でやらされていたらしい『暗部』の任務とやらだろう。そこで犯し続けた過ちに、彼女は苛まれている。

 

「なにが『殺戮人形(キリングドール)』だ……!」

 

この子のどこが人形だ!

こんなに苦しんで、溺れそうになっている彼女が人形だと!?巫山戯るな!!

本部はどこまで腐ってやがるんだ!

衝動的に近くにある何かを殴り付けたい気分だった。ああ、こんなにイラついたのは久し振りだ!シックザール支部長……あんたもこの子のことを知っていて呼んだって言うのか!?

 

「チクショウ……」

 

俺には何もできない。

助けてやりたくても過去に戻ることは出来ないし、本部の連中をどうにかすることも不可能だ。

だからーーせいぜい、彼女が前を向けるように。仲間として過ごせるようにしてやろう。

例え彼女が、俺を消すために送られた暗殺者としてもだ!

俺が固く誓ったその時、アグネスの唇が動いた。

 

「たすけて……やだよ……」

 

 

「もう……殺したく……な……」

 

つう、とアグネスの頬を、目尻から零れた涙が伝った。俺は強く強く、拳を握りこんだ。

必ず……。

必ず俺はアンタを止めるぞ!ヨハネス・フォン・シックザール!




※カノンは無印・リザレクション時点では第二部隊所属(防衛班)という指摘を頂きました。うっかりしてました有難うございます。

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