大海原の祖なる龍   作:残骸の獣

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大海原の祖なる龍一周年企画(投稿が遅れた理由を考えに考え抜いた挙句たった今思いついた苦しい言い訳)、少し先の未来の話シリーズはこれで終了。

夏バテが酷い


??話 運命の交わり

司法の塔、屋上へ続く階段

 

「ハァッ…ハァッ…ハァッ…ッ!!」

 

「オラそげキングもっと急げ!モタモタしてるとロビンちゃんが連れて行かれちまうだろうが!」

 

「寧ろキミはCP9と一戦交えて何故そこまで元気でいられるのかね!?」

 

「愛の力だ…ッ!!」

 

「何故そこで愛!?」

 

「チンタラ話してねえで急げクソコック、はぐれんじゃねえぞ。」

 

「はぐれるだぁ?テメェにだけは言われたくねェぞクソマリモォ!!」

 

時に喧嘩を交えながら、男達は司法の塔屋上へ続く階段を駆け上がっていた。

サンジ、ゾロ、ウソップの3人は、辛くも襲ってきたCPを撃退し、他の仲間の集めた鍵を含めて全てを奪取することに成功した。

しかしそれをロビンへ届ける為には時間が足りない、そう考えたサンジの機転により、そげキングによる狙撃で鍵を届けようと画策したのだ。

 

「そこの扉を抜ければ屋上だ!」

 

サンジが乱暴に扉を蹴破ると、そこに広がっていたのは芝の敷き詰められた優美な庭園のような場所だった。

まるで貴族の庭園のような作りになっているのどかな場所で、『それ』を視認した3人は息を呑む。

 

体調3mを超える巨大な狼が庭園の中心で身体を丸めて寝息を立てていた。

その体毛は綺麗な銀色で、鋭利な爪を持ち、脚には千切れた鎖が巻かれている。

 

「いゃッ!?………!?!?!?(モガモガモガ)」

 

思わず叫び声を上げそうになるそげキングの口を慌てて抑え込むサンジ、ゾロもまた、常軌を逸した生物に驚愕している。

 

「静かにしろそげキング…!

叫ぶんじゃねえ…」

 

「す、すまないつい…」

 

「なんなんだこのデカイ化け物は…」

 

「あの犬コロ共の親玉か?」

 

サンジは此処へたどり着く前に出会った司法の島の職員を思い出す。彼等は自らを「法番隊」と名乗り、狼に騎乗しての高速戦闘を得意としていた。

 

「どうする、斬るか?」

 

「いや即答か。」

 

「どっちみちコイツに居られちゃロビンちゃんに鍵を届けられねえ、蹴り起こしてどいてもらおう。」

 

サンジはそっと寝ている狼に近づき、その鼻先に蹴りを叩き込むため脚を振り上げた。

しかし、岩すら砕く右脚が狼の鼻っ柱を蹴り飛ばす寸前で、何かに気付いたサンジが脚を止める。

 

「……ッ!?」

 

心地よい風が屋上を凪いだ。

 

「おいどうしたクソコック、早く蹴れよ。」

 

「……駄目だ。」

 

「はあ?今更なんで…」

 

「俺には蹴れねぇ…

魂がクソ叫んでやがる。

コイツは…いや彼女は…恐らく雌だ…ッ!!」

 

「「は?」」

 

彼は料理人であり、紳士である。

恩師から「女性に暴力を働いてはいけない。もし働けばお前を殺して俺も死ぬ。」と言われながら育てられ、それを愚直に貫いてきた。故にこのサンジという男は…

 

「……俺は死んでも女は蹴らん!!」

 

どこまでも紳士であった

 

「「ハァ〜〜ッ!?」」

 

「何ってんだ。

そいつに居られちゃ鍵が届けられねえんだろうが!

そこどけ、俺が斬ってやる。」

 

「ンだとクソマリモ!

彼女はレディだ!俺はレディを守る為に産まれてきた男だ!

この子を傷付けようってんなら俺が相手になってやる!」

 

「本末転倒かクソコック!」

 

「お前ら喧し過ぎだ!んな事言ってる間に狼が起きて…」

 

 

『ん……んうう……』

 

 

「「「!?!?!?」」」

 

3人の身体が強ばる。寝ていた筈の狼が鼻先をひくつかせながら、むくりと首を挙げた。

狼の瞳がまじまじと3人を凝視する。

寝ぼけているのか宙を泳いでいたその視線はやがて仮面を被ったウソップへと向けられた。

ウソップは恐怖で足が産まれたての小鹿のようだ。

 

『むにゃ…あれ……かく…?』

 

その巨体に似合わぬ可愛らしい声で、彼女は呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いつもキミは仏頂面だね、ミス・オールサンデー。』

 

何故今あの人の事を思い出すんだろう、人生の終わりが近づいてきているこんな時に。

 

『たまには私みたいにニコニコ笑ってご覧よ。ほらにっこりー。』

 

私の頬を軽く抓りながら無理矢理口角を上げようとする彼女を、私はハナハナの力を使って引き離した。

 

『やああああ!?脇を擽るのは止めてよぉ!あははははは!うひゃひひひッ!?!?!?』

 

涙目になりながら床を転げ回る彼女。

暫く笑い転げる姿を眺めて、満足したので能力を解く。

 

『酷いなあ!?』

 

『私の頬を抓ったことは酷くないのかしら、ミス・ブラッドムーン。』

 

 

バロックワークス。偉大なる航路前半に存在する秘密犯罪結社、『秘密』がモットーのこの組織では、エージェント同士をコードネームで呼び合う決まりがあった。

私は『ミス・オールサンデー』、彼女は『ミス・ブラッドムーン』だ。

私は社長である『ミスターゼロ』、本名サー・クロコダイルの秘書としてこの組織に雇われた。そんな私より先に、同じ秘書の立場に居たのが『ミス・ブラッドムーン』と呼ばれる女性だった。16歳ほどの少女、腰までかかる灰色の髪の毛に特徴的な黄金の瞳、女性である私の目からみても充分に美少女と言えるだろう。

 

彼女は若いながらも博識で、伝説や伝承に詳しい。いつもへらへら笑いながら、しかし仕事は確実にこなす。時たま一定の人物の話をながら体をくねくねさせているのがちょっと引くが…概ね友好な関係を築いていた。

同じ秘書という立場にあるせいか、彼女とは一緒に仕事をする事が多い。社員の根回しや邪魔な敵対組織の殲滅、要人の暗殺など、顔を表に出せないボスの代わりに様々な汚れ仕事を二人でやらされた。

 

『オールサンデー、人殺し慣れてるよね。関節技とかえっぐいわー。』

 

『貴女こそ、素手で首を引き千切るなんて猟奇的過ぎるわ。まるで獣じゃない。』

 

『獣!?失礼な奴だな、私は花も恥じらう156歳の乙女だよ!』

 

『なんて大胆な年齢詐称…』

 

 

自分の年齢を変に誤魔化したり、正直何を考えているのかよく分からない女だったけれど、彼女と話している間は不思議と自然体の自分でいられた。

私は世界政府から狙われるオハラ唯一の生き残り…自分のせいで滅んだ組織も死んだ人間も数しれず、バロックワークスだっていつ目をつけられるかわからない。

お前は生きているだけで罪なのだ。と、昔誰かに言われた記憶がある。その通りだ。

 

誰からも生きる事を望まれない

 

どうして自分が生きているのか分からない

 

私の夢には…敵が多過ぎる

 

なのに彼女は、ミス・ブラッドムーンはずけずけと私の心に入り込もうとする。拒絶しても拒絶しても性懲りも無く踏み込んでくる。

あまりにも執拗いので、いつしか私は抵抗するのを諦めた。

 

『ボスのクロちゃんはさー、アラバスタを乗っ取るんだって。』

 

『…そうね。』

 

『私は面白そうだからクロちゃんに付いてくけど、オールサンデーはなんでアイツに付いてくの?』

 

『私はただ知りたいだけよ、この国の秘密を。』

 

『クロちゃんの言ってた古代兵器ってヤツ?』

 

『兵器なんかに興味は無いわ、私はもっと…』

 

そこから先は言えない。口にしてしまったが最後、また全てを敵に回すことになるかもしれないのだから。

 

『これ以上は言いたくないわ。』

 

『あそふん。大体把握した。

まっ、その目標叶うといいね。確かネフェルタリ家は歴史古いし、それっぽい書物も出てくるんじゃない?私には関係無いけど。でもさ、それって…』

 

いつか全部敵になっちゃうよ?

 

彼女の言葉に身が引き攣る。

 

『昔さ、誰にも解明されない歴史があったんだ。そいつに手を出そうとした奴は皆、誰かさんによって消されちゃったんだって。

怖いよねー。』

 

この世界は歴史を遡ることすら罪なんだよ。せせこましいよねー。と、けらけら笑いながら何も知らない彼女は言った。

それは私達(オハラ)だ。いやもっと昔に空白の100年間を探そうとし、政府によって消された学者達なのかもしない。

 

『………』

 

『…本当にやるんだったら、準備が足りないね。

同士を集めて、一から整えなきゃ。』

 

一瞬呆気に取られてしまう。

仲間を集める?

 

『いる訳ないでしょう、世界を敵に回す覚悟のある人間なんて。それこそあの革命家くらいのものよ。』

 

『居るよ、必ず何処かに。

世界は広いんだから。

きっとキミの前にも現れるはずさ。世界を敵に回しても尚、助けようとしてくれる仲間が。』

 

いつか、ね。

 

貴女もサウロと同じような事を言うのね…

でも、笑いながら話す彼女の言葉には妙な説得力があった。まるでその光景を観てきたと言わんばかりに自信たっぷりで…

 

『…まあ、参考位にはしておくわ。』

 

『それにホラ、バロックワークスにいる間は私がキミの味方だし?』

 

『はいはい』

 

『あー信用してないなーこのー!』

 

夜の砂漠に二人。バンチの背に揺られながら脚をぷらぷらさせ、ぷんすか怒るミス・ブラッドムーンを見ながら、その日私達は帰路についた。

 

 

その後、バロックワークスの野望は、ネフェルタリ家のお姫様が連れてきたポっと出の海賊団によって打ち砕かれた。組織は空中分解、大半は海軍に捕まって、オフィサーエージェント達の行方も知れず。ミス・ブラッドムーンもまた、クロコダイル敗北と共に姿を晦ました。

 

結局、貴女も守ってくれなかった。別に期待はしていなかったけど。

 

でも…

 

『きっと見つかるよ、キミのことを助けてくれる仲間が。だって世界は広いんだもん。』

 

 

本当に居たわね、私の様な馬鹿女を命懸けで助けようとしている仲間が。

 

 

 

 

 

ためらいの橋、駐屯所

 

「さあもうすぐ護送船だ。一旦引渡しちまえば、もう二度と海賊なんてできねえ。今のうちに最後の太陽を拝んでおくんだな。」

 

「…………」

 

嫌味に黙りこくるロビンを尻目に、スパンダムは護送船駐屯所の呼び鈴を鳴らす。

少しして、大柄の海兵が姿を現した。

 

「はいはいっと…ご要件は?」

 

「ご要件もクソもあるか!今日はニコ・ロビンを引き渡すって予め伝えたろガスパーデ!」

 

「あ?そうだったか…完全に忘れてたわ。」

 

「護送だってのに橋に海兵が1人も立ってなかったのはそのせいかィ!!」

 

はははと笑うガスパーデと呼ばれた大男に、スパンダムは怒り心頭のご様子。

 

「悪かった悪かった、これからやってやるから。

野郎共ォ!!総員整列!

世界政府の英雄サマをお出迎えだ。」

 

ガスパーデの声とともに海兵達が慌てて飛び出し、ためらいの橋の両側へ均等に整列した。

 

「いや今更遅えし。」

 

「細けぇ事ばかり気にすんな、禿げるぞ。」

 

「禿げるかッ!!」

 

「そんで、後ろに連れてる美人の姉ちゃんがボスの言ってたニコ・ロビンかい。」

 

「…………」

 

せせら笑うガスパーデにだんまりを決め込むロビン。

 

「そんな事はいいから、さっさと手続き済ませるぞ。後ろから海賊共が追い掛けて来てんだ。」

 

「海賊ゥ?なんだってこんな所へ…死にたがりかよ。」

 

「お前ちゃんと電伝虫聞いてたのか?この女を取り戻しに来たんだよ、司法の塔より向こうはひでえもんだ。

アンさんは何処だ?あの人のハンコがいるんだよ。」

 

「護送船の仮眠室で暇してるよ、呼びに行くのめんどくせえから代理人の印使え。」

 

そう言ってガスパーデはスパンダムの持ってきた何やらごちゃごちゃした書類に1枚ずつ印を押し、確認していく。

 

「あーあ、お役所仕事はこんなんばっかだ。

ストレスが溜まっちまうぜ…」

 

「少将の大事なお仕事だ、文句言うな。とっとと引渡しだ。」

 

ブツブツ文句を言うガスパーデにスパンダムがロビンの繋がれている鎖を手渡そうとしたその時。

 

見つけたぜェ!ニコ・ロビィィィンッッ!!

 

「!?!?」 「んあ?」

 

「きゃあッ!?」

 

突如、飛んできた大きな腕がロビンを鷲掴みにしたかと思うとそのまま引っ張りスパンダムのもとから連れ去った。

 

 

「あっ!?テメェ…カティフラム!

どうやってここまで来やがった!?

あの道はルッチが守ってる筈だぞ!」

 

「ワハハハ!ス〜パ〜な俺様にかかればあれしきどうってこたァねえ!

ルッチの野郎は麦わらが相手してる、あの台風みたいな野郎相手に諜報員ひとりじゃ役不足だがなァ!」

 

「アホか貴様!ウチの最高戦力が何処の馬の骨とも知らん海賊風情にやられるかァ!」

 

「オイお前ら、撃っていいぞ。ニコ・ロビンに当てんようにな。」

 

ガスパーデの号令とともに構えていた海兵たちから一斉に銃声が響き、無数の弾丸がフランキーへと襲い掛かる。しかし…

 

ガキキキィン!!

 

「お!?」

 

「効かねぇなあ…鉄だから!」

 

自身の体を機械に改造したサイボーグである彼の前には傷一つ付けられない。

 

「オイ、ニコ・ロビン。もうちょい待ってろ。鍵は全部集めた、もうすぐ長鼻のアイツが届けてくれるはずだ。守ってやるからスーパー大人しくしてろ。」

 

「ッ……!!

でもバスターコールが!

貴方達を消しにやってくる!政府の力に狙われたら最後、ちっぽけな人間なんて跡形も残らないわ!」

 

「ンなこたぁ知らねぇなあ…

お前は『生きたい』とアイツらの前で宣言した。麦わらの野郎は中々スーパーだぜ、1人のクルーの為に命張るなんざ、そうそう出来ることじゃねえ。

その心意気に俺も乗ったまでよ、なら例えお前が拒絶しても、俺ァ麦わらの意地に掛けるっ!!

お前を連れて行かせはしねえ!」

 

「…………」

 

「ウエポンズ・レフトォ!!

道を開けやがれェーー!」

 

フランキーの左手首が開き、そこから大砲の弾が発射され海兵達を吹き飛ばした。ためらいの橋から次々と海兵が落下していく中、慌てふためくスパンダムの横でガスパーデは深く溜め息を吐いていた。

 

「オイオイオイ…どうしてくれんだよ……ボスにどやされんぞ。」

 

「次はお前が相手になるかァ?

スーパー掛かってこいヤァッ!!」

 

「めんどくせえ…めんどくせえが…焼き菓子にされるよかマシか…仕方ねえなあ…」

 

ぶつぶつと文句を垂れながらガスパーデが前に出た瞬間

 

 

 

……ぁぁぁぁぁぁぁ

 

 

 

 

「「「「???」」」」

 

 

何処からとも無く声が聞こえた。

 

 

 

………ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ

 

 

 

それはどんどん大きくなって、ためらいの橋に谺響する。

 

 

あああああああああああああああッ!?!?!?

 

 

ズッドオオオオンッ!!!

 

 

やがてフランキーとスパンダムの間にそれらは着弾した、もうもうと土煙を立ち上らせ、轟音を響かせながら。

 

 

「ウオオオオオ死ぬかと思ったぞ!?」

 

「なんてパワフルなレディなんだァァァッ♡」

 

「おで…いぎでる…?じんでる…?」

 

 

「……(絶句)」

 

「…なんだこいつ等。」

 

「お前らァ!スーパーな登場の仕方してんなァ!」

 

「……長鼻くん、生きてるの?アレ…」

 

ゾロ、サンジ、そげキング、ためらいの橋に到着

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し前、司法の塔屋上庭園にて

 

 

『…うん…?()()…?じゃない…?あれ…?』

 

うつらうつらと首を揺らし、巨狼はそげキングに問う。

 

「(おいそげキング聞かれてるぞ!)」

 

「(狼ちゃんはお前の事あのキリン野郎だと思ってるんだ!早く答えろ!)」

 

「(急にそんな事言われても…)ゲフンゲフン…

おおおはよう!よく寝とったのぉ!

いい夢見れたかえ?」

 

「「(アイツそんな口調だったっけ…?)」」

 

『……うん…よく寝た……

かく…へんな格好…またせんにゅーにんむ?』

 

「お、おおそうじゃ!この仮面も任務中だからつけとるんじゃ、ワハハハ!」

 

どうやら狼は寝ぼけてそげキングをゾロが先程戦っていたCPと勘違いしているようだ。

もしかしてあの娘の判断基準は鼻なのか…?とゾロは心の片隅で少しだけカクを哀れんだ。

 

 

『…そう……

此処に来たってことは……また遊びにきたんだね…』

 

「(あ、遊び?遊びってなんだ?)」

 

「(知らねぇよ!取り敢えず話合わせとけ!)」

 

「(無責任か!!)

あ、ああそうじゃ!いつもの遊びを頼む!」

 

『おっけー……ちょっと待ってて…ふあああ…

後ろのふたりも一緒でいいの?ていうかこの人たちだぁれ?』

 

「ひッ久しぶりに友達を連れてきてのぉ!コイツらにも『遊び』を楽しませてやって欲しいんじゃ!」

 

「「(さり気なく俺たちを巻き込むんじゃねェーーーッ!?)」」

 

「(うるさい!死なば諸共だ!)」

 

『うん……うん……分かった…

じゃあ3人とも、そこに居て。』

 

みるみるうちに巨狼はその身体を縮め、メイド服を来た少女の姿へと変貌する。それを3人はたいそう驚いた様子で眺めていた。

 

「(悪魔の実の…能力者か!)」

 

「(やっぱレディだったじゃねェか!俺の勘は正しかった!)」

 

各々静かにリアクションを取るのをよそに、少女はためらいの橋と3人が一直線に重なるような配置で彼等の正面に立った。

 

「久しぶりだから加減が効かないかも…でもちょーほーいんなら大丈夫だよね……いくよ〜…」

 

寝ぼけ眼のまま、そう告げて息を吸い始める少女。そげキングの顔色が仮面の向こうでどんどん青くなっていく。

 

「(今加減って言ったぞ!?なんだ?俺たちこれから何されるんだ!?)」

 

「(俺に聞くな、なる様になる…!)」

 

「(あんな可愛いレディに何かして貰えるなら…俺ァ死んでもいい!)」

 

「(キァァァ助けてコイツら怖い!変に肝座ってて怖いよおおお…)」

 

そげキングが今にも泣きそうになっているが、そんな事はお構い無しに少女の口元に大量の空気が渦を巻き、圧縮されていった。

 

「斜角おっけー…風向きおっけー…今日も絶好の滑空日和…

烈風咆哮(ふれーす・べるぐ)……ッ!!」

 

少女の吐き出した吐息が突風となって三人を襲う。

 

「「「ウオオオオオオオオオオオオッ!?!?」」」

 

猛烈な風の前に人体など木の葉のように吹き飛ばされ、3人は宙を舞った。

お忘れかも知れないがここは司法の塔屋上、彼等はその向こうにあるためらいの橋まで(約1名悲鳴を上げながら)勢い良く吹き飛ばされたのだ。

 

少女の言う『遊び』とは、CP諜報員の1人であるカクから頼まれやっている『滑空ごっこ』だった。少女の能力で吹き飛ばされたカクはためらいの橋まで滑空しながら飛び、空中遊泳を楽しむ。彼はこれを気に入って少女に何度も頼み込んでいた。

まあそれは、カクが人知を超えた超身体能力をもつ諜報員だからこそ安全にこなせる遊びであって、決して一般海賊に行っていいものではないが…今は詮無き事である。

 

「いってらっしゃーい…

あれ?なんでかくから()()()()()()()()()()()()…?背も小さかったし…変装ってすごいな…

ふああぁ…寝なおそう…」

 

結局最後まで寝ぼけていた少女は、再び巨狼の姿へと戻り、昼島の暖かい日光に照らされながら眠りにつこうとした、が。

 

ピリリッ

 

「!?…あれ、みらも来るんだ…じゃあ行かなきゃ…」

 

母親が来るのを感じ取った彼女は寝るのを中断し、狼の姿のままゆるゆるとためらいの橋へ向かって跳躍したのだった。

 

 

 

 

 

そして時は動き出し、現在に至る。

 

「な、なんだこいつ等…どっから現われた!?」

 

突然の出来事に驚愕するスパンダムをよそに、取り敢えず生きていた事を喜ぶゾロ、未だに少女の事が忘れられず目がハートなサンジ、心が半分死んでるそげキング。

 

「オメェ等!スーパーな登場はいいが、鍵はちゃんと持ってきたんだろうなア!?」

 

「当たり前だクソサイボーグ!

おいそげキング起きろ!いつまで寝てんだ…よっ!」

 

「オゴワァッ!?

…はっ!?俺生きてる!」

 

サンジのかかと落としがそげキングの頭にクリーンヒットし、ようやく彼は夢から覚めたようだ。

 

「さっさと鍵出せ!ロビンちゃんの手錠を外すんだ!」

 

促されるままそげキングは次々と鍵を試し、やがてゴトリと重い音を立ててロビンの手から海楼石の錠が外された。

 

「か…鍵全部!?じゃお前…CP9を全員倒したってのか!?有り得ねえ!」

 

「それが出来るから此処に居んだよクソ野郎。

ロビンちゃんに手荒な真似を働いたんだ、蹴り殺されても文句は言えねえぞ…!」

 

ひぃッ!?

 

サンジの放つ静かな怒りに思わず身を引くスパンダム。隣のガスパーデは相変わらずマイペースだ。

 

「ニコ・ロビンが自由になったからなんだってんだ。

オイ海賊共、悪い事は言わねえからさっさと投降しろ。

バスターコールが発動したんだ、此処をもうじき海兵が埋め尽くす。極めつけに大将白蛇がご出勤だそうだ。お前達じゃ万に一つも勝ち目はねえからよ、諦めな。

その女は、死神に目をかけられちまっ(ドズンッ)……ああもう、人の話は最後まで聞けよ。」

 

「コイツも能力者か!?海軍は化け物ばっかかよ!」

 

呆れるガスパーデ。彼の腹には風穴が空いていた。もっとも、『アメアメの実』を食べた水飴人間である彼に只の物理攻撃など意味を成さないが。

 

さらにそげキングがある事に気付く。

 

「オイ…正義の門が……」

 

「開いてやがる…いつの間に…?」

 

ためらいの橋の向こうに聳える閉ざされていたはずの正義の門が開き、そこから大量の軍艦がこちらへと向かって来ていた。

 

『バスターコール発動!バスターコール発動!目標、司法の島全域!その一切を破壊せよ!

なお大将白蛇との盟約により、ためらいの橋、及び司法の塔は攻撃対象外とする!』

 

「撃てェーッ!!」

 

司法の島に展開された軍艦から無数の砲弾が飛び交い、爆音を立てながら司法の街を破壊していく。

 

「言わんこっちゃねえ…スパンダム、向こうの連中に避難勧告出したのか?」

 

「日頃から訓練はきっちりやらせてんだ、アラート電伝虫が鳴った時、皆早々に逃げてるだろうよ。

それよりも…イルミーナの奴は何処に行きやがった!?アイツ砲撃に巻き込まれてないだろうな!?」

 

「死んでないよ?」

 

叫ぶスパンダムの後から、メイド姿の少女が顔を出す。スパンダムは心臓が飛び出るほど驚いていた。

 

「うっぎゃあああああ!?ビックリさせんなイルミーナァ!」

 

「二度寝しようかと思ったけど…ほーげき音が煩くて、こっちに飛んできた。みらも来るし。

…あれ?かく…?じゃない?」

 

イルミーナは先程吹き飛ばした3人組を凝視する。

よく見ると違う。寝ぼけて気付かなかったが、鼻が似ているだけで彼女の知る人物とは全くの別人だった。

 

「えっ誰。」

 

「「「今更かァッ!?!?!?」」」

 

綺麗なツッコミを決める3人をよそに、ロビンは悪くなっていく状況に危機感を抱いていた。

 

「(まずい…着々と向こうの戦力が揃いつつある。この上万一麦わら君…船長がルッチに負けたら…)」

 

最悪の場合、挟撃される。そうなれば只でさえ少数の麦わら一味の全滅は確実だ。

此処から逃げ出すには、スパンダム、ガスパーデ、そしてあのメイドの女の子…彼女は恐らく動物系の能力者だ。

彼等を突破し、護送船を奪わなければ…

 

その時、モクモクと不思議な暗雲がスパンダム達の上空に展開されていき、次の瞬間。

 

「サンダーボルト・テンポ!!」

 

暗雲から突如雷が迸り、雨あられと落雷が降り注ぐ。

 

「「「「ギャアアアアアアアアアアッ!?!?」」」」

 

周りの海兵達は落雷により皆感電し、悲鳴を上げながら地に伏した。

 

「アンタ達、こんな所でチンタラ何やってるのよ!

護送船を確保するんじゃなかったの!?」

 

活気の良い女性の声が響き、サンジの目がハートになった。もうおわかりいただけただろう。

 

「ンナミすわぁ〜〜ん!加勢に来てくれたんだね!?」

 

「おだまりサンジ君!

アンタ達のせいでアタシ1人で護送船を乗っ取るハメになったじゃない!遅いのよ!」

 

逞しい女性である。

司法の塔からためらいの橋に向かうには地下道を使う必要があり、ナミと戦いの疲れで動けなくなったチョッパー、海列車運転手ココロ、その娘チムニーとペットのゴンベはその通路をひた走っていた。しかし先にいるルフィとルッチの戦いの余波により壁が損傷し、通路は浸水、絶体絶命かと思われたが、実は人魚だったココロに助けられ、間一髪通路を泳いで抜け、護送船へ回り込むことに成功したのだった。

後は不意打ち落雷祭りである、これにより護送船を警備していた海兵はほぼ一掃された。

 

「逞しいナミさんも素敵だ♡」

 

「良くやったぜハレンチ女!」

 

「誰がハレンチじゃ!」

 

ナミ達がフランキーと合流し、落雷の煙が晴れていく。

ためらいの橋中腹付近、そこには見覚えのない大きく艶やかな緑色の丸い塊が鎮座していた。

 

「ん?なんだありゃあ…」

 

そげキングがそう呟いたのもつかの間、球体は生き物のように蠢きはじめ、やがて人の形となった。

 

「危ねぇじゃねえかお嬢ちゃん。

イル嬢が怪我したらどうしてくれんだよ…叱られるの俺なんだぞ?」

 

「あれくらいじゃ怪我しないよ…かほご。」

 

ガスパーデは自身の能力を使い、イルミーナの身を護っていた。その横で黒焦げの男が吠える。

 

「か…か…か……

なんで俺も守らねえのガスパーデ?」

 

「守れる面積にゃ限度があんだよ。

お前雷耐性だけは高いだろ。」

 

「関係ねえ!死ぬかと思ったわ!」

 

なんてコントを繰り広げるガスパーデ達を、ぽかんと眺める麦わらの御一行。いち早く正気に戻ったナミはすぐさま叫んだ。

 

「よしアンタ達、雑魚は私がまとめて蹴散らしたわ!残るは三人よ、やっちゃいなさい!」

 

この航海士、戦闘を男共に押し付ける気満々である。

 

「…ああ。」

 

「ン任せてナミさん!」

 

「スーパー任せろォ!」

 

「よーし頑張れ諸君、このそげキングが付いてる!後方支援は任せろーう!」

 

「アンタも行くのよ鼻キング!」

 

「鼻キング!?ちゃんと呼んで!」

 

 

 

 

 

 

「なんか向こうはヤル気みたいなんだが…おいスパンダム、ボスが来るまで遊んでてもいいか?」

 

「構わねえよ、つかアンはどうした。

護送船乗っ取られちまったんだろ?」

 

「……あん、今起きたって。

『今日の当番は我じゃないから知らん』っていってる。」

 

電伝虫を置きながらイルミーナが言った。

 

「あの人なら自分でどうにかするな!ほっとこう!(思考放棄)」

 

「なんでだろ、あの人達からは…すごく懐かしい匂いがするの。

でも…海賊だよね。悪いこはおしおきしなきゃ。」

 

そう呟いて、スカートを少しだけたくしあげる。ズルリと大きな二本の鎌刀がスカートの中から落ちてきて、地面に突き刺さった。

 

「なるべくいたくはしないから…ね?」

 

「ヒィッ!?なんだあのコエー武器!殺る気満々じゃねえか!?」

 

「面白ェ、あのメイドとは俺がやる。邪魔すんな。」

 

半泣きで恐怖するそげキングとは裏腹に、好戦的な笑みを浮かべるゾロ。

 

「オイッ!あのレディに怪我でも負わせたらオロすからなクソマリモォ!」

 

サンジが叫ぶがゾロは返事も返さない。目の前の少女相手に集中力を乱す余裕などなかった。

 

「(間違いねえ、あのメイドはキリン野郎よりも強い…!)」

 

構えや立ち振る舞いは素人のそれだ、しかし彼女から発せられる独特の雰囲気は、嘗て敗れた()()()を彷彿とさせ、背中に冷たいものが走る。それを押し殺しゾロは構えた。にわかには信じ難いが、直感が告げている、きっと彼女は全身刃物のあの男よりも、キリンに化ける諜報員よりも、あの時〝 鷹の目〟に敗北してから今まで自分が戦ってきた相手の中で一番の強者だ。生半可な覚悟では瞬殺される。

 

「痛いのがいいの…?

じゃあ…そのうでを両方切り落とせば、おとなしく降伏してくれる?」

 

「見た目の割に物騒なガキだ。

やってみな、お前に切り落とされる程俺の腕は安くねェ。」

 

「ガキじゃない…貴方よりずっと歳上…」

 

彼女は鎌刀の柄を握り、彼はバンダナを結び直す。

正に一触即発、ゾロとイルミーナが互いに飛び出そうとしたその瞬間

 

 

 

雷鳴が轟く

 

 

 

空は晴天、昼島である司法の島には雲一つ出ていないのに。

続けざま、巨大な紅い落雷が2人の間に落ちてきた。その余波で粉塵が巻き上がり、麦わら一味の視界を塞ぐ。

 

「ぎゃああああああ!?今度はなんだァ!?」

 

「きゃああああああっ!?」

 

叫ぶそげキング、驚き耳を塞ぐナミ。

他の者達が各々のリアクションを見せるなか、ロビンだけは肩を震わせて呟いた。

 

「そん…な…あれは…あの赤い光は…」

 

やがて戦塵が晴れ、それの姿が顕になる。

 

彼等は見た。

白亜の長髪をシニヨンにして纏め、真紅の瞳を宿し、甲冑のような凛々しいバトルドレスを身に纏う美しい女性の姿を。

腰には緋色の軍刀が二本、提げられており、背中には『正義』の二文字を背負ったコートを羽織る。目麗しい海の死神を。

 

その真紅の瞳は目の前の主役達を一通り眺め、凛々しくも威厳ある声で告げる。

 

 

 

 

「私を…呼んだな?海賊共。」

 

 

 

 

今、主役(麦わらの一味)主役(幻の大将)は相見え、運命(原作)は此処に交わった。




一方そのころ、我らが主人公モンキー・D・ルフィはルッチと激闘を繰り広げてます。戦況は原作よりもルフィ有利で、理由は幼少期にイルミーナと出会ったことで六式を殆ど理解していたから。
原作ほど苦戦せずルッチに勝利し、ためらいの橋へ合流する。という流れになります。





次回からデートの話へ戻ります、気長にお待ち下さい。

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