大海原の祖なる龍   作:残骸の獣

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仕事前に最新話をシュウウウゥゥッッ!!!

よく考えたらこれから登場させようとしてるキャラ、オリキャラじゃなくてモンスの擬人化ですね。仕事終わったらタグとか色々いじっときます。
ご報告感謝しますm(_ _)m




20 祖龍(モドキ)と大監獄(秘密アリ) 前

 

ミラ達を乗せた蒸気船はタライ海流を伝って進み、インペルダウン前の正義の門前へと辿り着いた。

あまりにも巨大な建造物を目前にさしものトムも息を呑む。

 

 

「この門だけは何度見ても慣れねえなァ…」

 

 

「これから何度も見る事になるだろうけどな、さてと……(ガチャ

マリンコード44444、囚人を一名引渡しに来た。」

 

 

『マリンコード44444、海軍本部中将ミラ殿と確認しました。

正義の門、開門。護衛艦が合流します、暫しお待ち下さい。』

 

 

「ああ頼む、ただ…少し問題が発生していてな。

そちらで詳しい事を話すよ。」

 

 

『??了解。』

 

 

ガチャリと受話器を下ろすミラ、そしてトムに向かって笑顔で告げる。

 

 

「よしトム、君をどうやって自由にするか説明をしていなかったな。

………直ぐに起こすから、暫く死んでいてくれ。」

 

 

「たっはッ!面白い事考えてんなァ船長…!」

 

 

「ちょっとビリっとするが…なあに、これから一生生き地獄に居るよりはマシさ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「中将殿に敬礼ッ!」バッ

 

 

獄卒達が銃を掲げ、一糸乱れぬ敬礼で出迎えてくれた。仰々しいから辞めてほしい。

 

 

俺はイルミーナにテリジア、ガスパーデと共に船を降りインペルダウンへ続く橋を渡る。

後ろには担架に乗せられ死んだように瞳を閉じているトムも一緒。

 

引渡しの相手も犯罪者の姿に少し驚いているようだった。

 

 

「大監獄インペルダウンへようこそミラ中将、副署長のマゼランと申します。」

 

 

そう挨拶してきた大男、マゼランは俺の顔を一目見るなり「う…美しい。罵って欲しい…」とボソッと呟いてた。

 

え、キモい。大丈夫かインペルダウン

 

 

「よ、よろしくマゼラン副署長。

司令通り囚人を引渡しに参上した。だが少し問題が起きてしまって…」

 

 

「そちらの担架に乗せられた囚人ですな…ここへ来る前に?」

 

 

「ああ、なにぶん奴も高齢者だからな。ポックリ逝ってしまったらしい、こっちで検死も済ませてある。

心臓発作だそうだ、大監獄行きは老人の心に負担を掛けすぎた様だな。」

 

 

「犯罪者とはいえ奴も高齢者、老齢による死は免れませんな…。

死体はこちらで引き取りましょう。」

 

 

「いや、死体はこのまま魚人島の家族の下まで送り届ける。

そういう約束をしていた。」

 

 

「遺言、というヤツですか。

………分かりました。罪人は生きて罪を償わなければならない、ならせめて死人の言葉くらいは聞き入れておきましょう。

署長には私から話しておきます、御足労感謝しますミラ中将。」

 

 

「こっちこそ助かるよマゼラン副署長、書類の処理とか面倒な手間が省けた。ありがとう。」

 

 

「ハウッ!?美しさが留まるところを知らない…」

 

 

「なんだ大丈夫かこの監獄」

 

 

軽くドン引きしていたその時、マゼラン副署長の後ろから大声を上げながら看守の1人が走ってきた。

 

 

「マゼラン副署長ォ〜ッ!!!大変!大変でございマッシュ!!!」

 

 

「なんだハンニャバル喧しい、俺は今しがたこの美人海兵さんと喋ってるんだ邪魔するな。」

 

 

「うおっ!?めちゃ美人!ズリぃっすよ副署長!

じゃなくて!大変です!

正義の門を通過した護送船が囚人の反乱に遭い占拠されたと管制室から報告が…」

 

 

「なんだと!?その船は今何処にいる!」

 

 

「………ん」ぴくぴく

 

 

「臭うかイルミーナ?」

 

 

「…鉄臭い、血のにおい。たぶんあれ」

 

 

嫌そうに鼻をひくつかせるイルミーナの指さす先、1隻の軍艦が霧の向こうから現れた。その時

 

 

プルプルプルプル…プルプルプルプル…

 

突然マゼラン副署長の腰に巻かれたでんでん虫が鳴り出す、全員の視線が彼に集まった。

 

 

「……(ガチャ)マゼランだ」

 

 

『よぉーおマゼラン副署長、俺が誰だか分かるかニャ?』

 

 

傍にいた看守に目で合図を送り、投獄者のリストをパラパラとめくるマゼラン副署長。

乗っ取られた軍艦を額に青筋を浮かべながら見つめ呟き返す。

 

 

「〝悪政王〟アバロ・ピサロ……だな?」

 

 

ざわりと看守達がザワつく、その名は俺も聞き覚えがあった。

 

 

 

 

 

 

嘗て50年の繁栄を誇るある国があったという。豊富な資源と優秀な兵士達、心温かな国民に恵まれたその国の王家は突如現れた海賊と出会った後豹変し、国民達に重税や圧政を敷くようになってしまった。

挙句反乱を起こされ、王は殺され空いた新王の座に就いたのはアバロ・ピサロという名の男。

 

ピサロは海賊達と結託し、言葉巧みに前王を拐かして王座を獲得したのだった。

彼が王になってから国は荒れ、怪しげな宗教やカニバリズム等の危険な思想を持つ者達が生まれるようになってから世界政府はそれを危険視し、ピサロを捕縛、投獄を決定した。

 

 

人を拐かし、操る〝悪政王〟

 

 

彼の言葉は魔法の様に人の心に深く浸透し、どんな善人でも悪道へと誘う悪魔の犯罪者、それがアバロ・ピサロという男だ。

 

 

『ニャッニャッニャッ!!!

船内の海兵達は勝手に殺しあって皆親切に俺達を解放してくれたニャ。

お話した甲斐があったニャ〜!』

 

 

「貴様まさか護送の海兵を拐かしたのか!?

愚か者め……ッ!!!」

 

 

『俺は彼等の心に正直になれと語りかけてやっただけだニャ。決めたのは奴ら。俺はなーんも悪くないニャ!

船は頂いて行く、俺の他に捕まってる囚人達も引き連れて俺は自由になるんだニャ!』

 

 

ガチャン!

 

 

そう言って一方的に電伝虫は切られた、マゼラン副署長は怒りで身震いしてる。

ハンニャバル達はそれを見つめて静まり返り、事実を受け止めるしかなかった。

 

 

「奴はlevel6に収監予定の超凶悪犯だ、船を出せ!凪の海を越えられたら手遅れになる!」

 

 

檄を飛ばすマゼラン副署長、ワタワタと看守達が動き出す。

 

 

は?…ちょっと待て、ピサロは海兵まで取り込んで軍艦を乗っ取ったって言ったよな?

それ…海兵が裏切ったって事?

それってば身内の不始末?

 

 

 

 

 

駄目やん

 

 

 

 

 

 

「阿呆共が……」

 

 

 

思わずそう呟いた瞬間、動き出していた看守達が一斉にビクリと立ち止まり、こっちを見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「阿呆共が……」

 

 

ミラの放った呟きは小さいながらも橋にいた全ての者の耳に行き届いていた。

ズシリと空気が重くなる、先程まで笑顔で話していたミラから一転凄まじい殺気が放たれマゼランは思わず息を飲んだ。

 

覇王色の覇気ではない、()()()猛烈な殺気。

 

彼の手からじっとりと毒の汗が滲み出る。

過去に何人も捕らえてきた海賊達の中でもこれ程の気迫を持つものはいない、いや、現在level5に投獄中のあの娘と同じようなプレッシャーを彼は感じていた。

 

 

まるで人間とは一線を画した存在が放つ独特の気配、ハンニャバルや部下達はガクガクと脚を震わせている。

無理も無い、今の気迫に当てられて意識を失わなかっただけでも上等だ。

常人なら正気など保っていられないだろう。

 

 

「み…ミラ中将、落ち着いて下さい。

此処は我々が対処致します。」

 

 

どうにか言葉を絞り出す。ミラがマゼランの目を見つめた。

 

その真紅の瞳には明らかな憤怒の感情が見て取れる。正道を外れた裏切り者に対する怒りに彼女は震えているのだろう。

その怒りが自分に向いていない事にマゼランは内心安堵していた。

 

 

「…すまんな副署長、これは海軍側のミスだ。

彼等に自由は許したが、意味を履き違える選択をするとは思わなかった。

ピサロの処分はこちらで決める、裏切り者の処分もかねてな。

イルミーナ、()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

「ううん、まだ。さっきみほーくの釣ったお魚をつまんでたくらい。

お腹空いてるとおもう。」

 

 

「そうか………副署長、やはり同僚の不始末は私が付ける。

裏切り者の最後には、狗の餌がお似合いだ。」

 

 

そう言い放ったミラは腰のカットラスに手を掛ける、すると彼女の乗ってきた蒸気船が音を立てて動き出し、船体の側面を過ぎ去っていく裏切り者達の乗る軍艦へと向けた。

 

 

「ガスパーデ、やれ」

 

 

「あいよォ」

 

 

ミラの合図でガスパーデも腰に携えたカットラスを抜き放ち、その切っ先を軍艦へと向ける。

すると船体から30を超える砲門が同時に顔を出し、真っ直ぐにピサロ達の乗る軍艦へと砲撃を開始した。

 

轟音が響き、三十発の鉄の塊が1隻の艦に向けて殺到する。着弾した砲弾は軍艦の船体を突き破り、炸裂し、無数の穴を開けた。

 

 

「チッ、普通の海賊船なら今ので木っ端微塵なんだがな。相手が軍艦じゃ心許ないぜ。」

 

 

「だがこれで賢いクルスなら誰が()()()か分かった筈だ。イルミーナ、呼んでいいぞ。」

 

 

「ん」

 

 

ぴゅうぅぅぅぅぅッ

 

 

ミラの指示により指笛を吹くイルミーナ、マゼランは彼女達が何をしようとしているのか分からず唖然としている。

その時、薄くかかった霧の向こう、先程砲撃を受けた裏切り者達が乗る軍艦のすぐ側の海面がモコリと山のように持ち上がり、飛び出した巨大な何かが船体へ激突した。

 

揺れる船内、聞こえる無数の悲鳴が海を越え、マゼラン達のいる側までこだまする。

 

 

「海兵達よ、お前達は自由だ。

自由には責任が伴う。

お前達は『海賊に組する』自由を選んだ、これは私に対する裏切り行為。だが私はそれを許そう、お前達の自由は尊重されるべきだからな。

許した上で、私は私の仕事をこなすとしよう。志無き海賊に生きる価値は無い、囚人共と諸共に死ね。」

 

 

そう吐き捨てたミラは興味無さそうに軍艦から視線を外す。

海の向こうでは一匹の黒い巨大な海王類が軍艦の船体を側面から突き破り、のしかかっていた。

いとも簡単に竜骨を食い破った海王類は、中にいる人間(ごはん)を食い漁りやがてその重みに耐えきれなくなった船体は横倒しになりながらずるずると海に沈んでいく。

悲鳴を上げながら海へ投げ出される海兵や囚人達は水中で成すすべもなく騒ぎを聞きつけやって来た他の海王類達の餌になった。

ひとしきり暴れ回った後、黒い海王類の背中が光り輝き、青黒い電光を放ったかと思うと水中から黒焦げになった囚人達が浮き上がる。プカプカと浮かぶそれを悠々と咀嚼した後、その海王類は海中へと姿を消した。

 

 

双眼鏡越しに覗くと恐らくピサロ〝だったもの〟の上半身が黒焦げになってぷかりぷかりと海を漂っているのが見える。

一連の光景を呆然と見つめるマゼラン達、いつの間にか用意された椅子に座りながらミラは隣のメイドに差し出された珈琲を1口飲んだ。

 

 

「ん、終わったようだな。

ご苦労、クルスには後でご褒美をあげないといけないなあ。」

 

 

「うん、くるす頑張った。」

 

 

「お姉様のペットですもの、これ位やって頂かないと従えた甲斐がありませんわ。」

 

 

「み…ミラ中将今のは一体……」

 

 

「ん?ああ。最初に船を襲ったあの黒い海王類はな、私のペットなんだ。

名前はクルス、可愛いだろう?」

 

 

さも当たり前のように「海王類をペットにした」とのたまうミラにマゼランは開いた口が塞がらない。

そんな彼の事など気にも止めずミラは続ける。

 

 

「昔怪我をしていた所を治療してやってな、それ以来私の船に付いてくるようになったんだ。

…どうした副署長、私の顔に何か付いているか?今朝ちゃんと顔は洗った筈なんだが……」

 

 

もう彼女から怒気や気迫は発せられていない、しかしマゼランは目の前のこの女将校に恐怖を覚えていた。

船内にはまだピサロの口車に乗っていない善良な海兵がいたかも知れない、全員殺さなくてもここは大監獄、捕まえれば罰を与える方法などいくらでもある。

なのに彼女は即座に『殺害』という選択肢を選んだ。

言いたいことは山ほどあるがそれを口にしてしまったら自分も餌になった彼らと同じような結末を迎えてしまう。そう考えてしまう程ミラの一言一言には〝凄み〟があった。

 

この女はどこかおかしい、何か…〝人間〟として大事な部分が欠落している

 

不意に彼女の姿が獄内にいるあの娘と被る。自ら絶凍の地獄に入り浸り、まるで何かを待つようにインペルダウンに籠るあの囚人の事を。

 

 

「……ハンニャバル、署長に連絡だ。

ピサロ含む囚人達はもう収監する必要は無くなった。海軍本部にも報告しろ。」

 

 

「す、直ぐに報告してきマッシュ!」

 

 

ハンニャバルは部下達を連れてドタドタと監獄内へ走っていった。

 

 

「ご協力感謝します、ミラ中将。」

 

 

「こちらこそ。ただクルスが暴れた事は上には内緒で頼む、センゴクさんに監督不行だと叱られてしまうからな。」

 

 

そうお茶目に笑うミラの姿からは先程までの気迫は消え、可愛らしいメイドを連れた女性に戻っていた。

 

くいくい、と服の裾が引っ張られるのを感じてマゼランは下を向く。

そこにはさっきまでミラ中将に付いていた小さなメイドが服の裾を掴んでいた。

 

「ねえねえ。ここ、おおかみさんが居るの?」

 

 

「狼…?ああ、〝軍隊ウルフ〟という危険な種が居るよ。どうしてそんな事を聞くんだい?」

 

 

「その子達のこえ、聞こえるの。

『寒くてこごえちゃう』って。あったかい所にうつしてあげて?」

 

 

「軍隊ウルフが…寒い?」

 

 

イルミーナの言葉に首を傾げるマゼラン。

軍隊ウルフは群れを成して獲物をどこまでも追い詰める凶暴な種の狼だ、インペルダウンではlevel5「極寒地獄」へ看守の代わりに配置されている。

それは監視用の電伝虫すら凍死してしまうlevel5獄内から逃げようとする囚人に対する牽制の為でもある、そして同時に軍隊ウルフは寒さにめっぽう強い。他の生き物が凍え死ぬような極寒の地でも軍隊ウルフは生きていけるほど強い生命力を持っている。なのでlevel5へ放し飼いにしていた。

 

その軍隊ウルフ達が…寒い?

 

本来なら有り得ない事だ、だがマゼランの心にはなにか引っ掛かっていた。

 

 

「今も言ってる…『さむい』『凍える』『あの女を止めてくれ』って」

 

 

「あの女を止めてくれ……?まさか…

ガチャ)管制室、level5の室内温度はどうなっている。大至急教えろ!」

 

 

マゼランは急に電伝虫を取り出し管制室へ連絡を送る

 

 

『ふ、副署長!?どうしたんですか急に…

level5の室温ですか?いつも通り極寒で…嘘だろなんだこれ!?

大変です!level5内の室温がどんどん下がって危険域にまで到達しようとしています!このままでは囚人や軍隊ウルフ達まで凍死してしまう危険が…』

 

 

やっぱりか!悪い予感は的中していた。あの地獄の温度をこれ以上下げられるのはあの女しかいない。

 

インペルダウン創立当初から何故かその場に入り浸り、極寒地獄を今も冷やし続けている悪魔の娘。海楼石の錠も効かない異能力者。

 

 

「今すぐlevel5に急行するぞ!

ミラ中将、自分はこれにて失礼致します。そちらのお嬢さんのおかげでいち早く異変に気付くことができた、重ね重ね感謝します!」

 

 

挨拶を済ませ去っていくマゼランをミラは珈琲を口にしながら見つめていた。

 

 

「イルミーナ、副署長になんて言ったんだ?」

 

 

「声が聞こえたから、おしえてあげたの。

下の方でおおかみさんが凍えてるって。」

 

 

「へえ、イルミーナは狼の声が聞こえるのか。それも悪魔の実の能力かな…

とにかくお手柄だぞ、よーしよしよし…」

 

 

「ん〜//」

 

 

わしわしとイルミーナの頭を撫でるミラの顔は緩んでいた。

 

 

「にしても、此処に来た時から感じてた違和感がまた強くなったなあ……

下、か。

興味が湧いた、ちょっと行ってくる。

ガスパーデ、先に船に戻っていろ。

ほら起きろトム。」

 

 

そう言ったミラは担架の上に寝転ぶトムの胸に手を当て、電気ショックの要領で心臓に電気を流す。

ビクッとトムの全身が震えて彼は頭を抱えながら目を覚ました。

 

 

「う……おお、船長。

どうだい、ワシは自由になったかい?」

 

 

「おはようトム、約束通りお前は死んだよ。もう自由の身だ。

ガスパーデと一緒に船に戻っていつでも出せるようにしておいてくれ、クルスも付近に居るから追って連絡する。」

 

 

「あいよ、船長はどうするんだい?」

 

 

「面白そうだから首を突っ込んでみる、テリジア、イルミーナ、行くぞ。」

 

 

「うん」 「承知致しましたわ」

 

 

「気ぃ付けてなあ。船はドンと任せとくれい。」

 

 

トム達に手を振りながらミラはイルミーナ、テリジアを連れ大監獄へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パタン…と彼女は氷漬けになった本を閉じる。表紙には掠れた文字で『医学教本』と記されていた。

ふと顔を上げればそこは見渡す限り真っ白な白銀の世界、ここ一帯は完全に氷漬けになってしまったらしい。

時々通る縞縞の服を着た者達も彼女が話しかけようとすれば皆物言わぬ人形になった、今では時折通る狼達だけが彼女の話し相手だ。だが最近はその狼達すら自分の事を避けている気がする。

 

……やはり私が悪いんだろうか

 

少しだけ自己嫌悪になる。

そもそも私は何故こんな檻の中に居るのか、番人として幾度もハンターとの戦闘に明け暮れていた筈なのに、気が付けばこんな辺鄙な場所に居た。

身体も前より縮んでしまったし、動きにくい事この上ない。細かい作業ができるようになったのは有難いが…

唯一の娯楽であり、新たに知識を得る為何度読み返したか分からない本に手を添えながら彼女はもう一度思考する。

 

昼も夜も無い、空腹もない、毎日が虚無に過ぎて行く日々、そんな中感じたのだ。

自分と同じ、いや恐らくそれ以上に大きな存在に。

 

 

気分が高揚する。

長らく味わうことの無かった興奮が冷気となって溢れ出し、檻の外まで漏れていく。

ああまたやってしまった、またあの毒の人間が私を叱りにやってやって来てしまう。

 

やってきた所で邪魔になるなら殺せばいいか、私と同じ存在を認知できた今、檻の中に閉じこもっている必要が無くなった。

 

自分が仕えるべき強者(あるじ)の下へ

 

嘗て『天廊の番人』と呼ばれた彼女はその枷を外され、自身の好奇心に従って、白銀の世界の中、歩を進めた。







次回、仲間が増えるよ、やったねミラたん!

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