ロキ・ファミリアに父親がいるのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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過去編①

「みんなぁー、新しい仲間を連れてきたで―――――!」

居室(リビング)の扉を勢いよく開けて飛び込んで来た【ロキ・ファミリア】の主神ロキ。

結成してまだ間もない新参【ファミリア】の眷属である小人族(パルゥム)、ハイエルフ、ドワーフは神出鬼没の主神にしかめっ面を向ける。

「どこに行っておるかと思えば勧誘(スカウト)か。そいつは骨があるのじゃろうな?」

「ほう、骨がなければ追い出すつもりなのか?野蛮だな、ドワーフという奴は」

「なんじゃと!口だけの陰険エルフに言われたくはないわ!」

「まぁまぁ、それでロキ。僕達の新しい仲間をそろそろ紹介してくれないかい?」

口喧嘩を始めるハイエルフとドワーフを宥めながらこれから来る新人に興味を映させる小人族(パルゥム)にロキは笑みを浮かべながら新人を呼ぶ。

「入ってええよ―――!!」

「失礼します」

入って来たのは極東の装束を身に纏い、腰には極東の者が愛用する刀を腰に携えた黒髪黒眼の男の人間(ヒューマン)

「うちの新しい家族になるユウキ・秋夜や!皆、仲良うしてな!!」

ロキが新人である秋夜を軽く紹介すると三人は意外そうな反応を示す。

自分達の主神であるロキは女神なのに女好きという変わった女神だ。

新人というからてっきり女性と思っていた為に男性を勧誘(スカウト)してくるとは思いもしなかった。

「ご紹介に預かりました、ユウキ・秋夜です。名前で察しているとは存じ上げますが極東出身の田舎者です。御三方には大変ご迷惑をおかけになるとは思いますが誠心誠意努力をする所存であります。どうかご指導ご鞭撻のほど宜しくお願い致します」

「堅苦しいのはいいって言うたやろ!!」

「しかしロキ様。最初の挨拶は肝心です」

礼儀正しく挨拶する秋夜に三人は好感を持つとそれぞれ名乗り出る。

「僕の名前はフィン・ディムナ。見ての通り小人族(パルゥム)という種族だ。僕達も入って間もない新人と同じだからロキの言う通り堅苦しいのは無しに行こう」

「わかった。よろしくな、フィン」

手を交わす二人に続いてドワーフが言葉を繋げる。

「儂はガレス・ランドロック、ドワーフじゃ。お前に根性があるかこれから見せさせて貰うから覚悟しておけ」

「ああ、それなら問題ない。これでも多少は腕に自信はある」

固く強く握手を交わすと続いてハイエルフが前へ出た。

「私の名前はリヴェリア・リヨス・アールヴだ。リヴェリアでいい。エルフと見分けつかないと思うが私はハイエルフ、王族だが気にしないでくれると助かる」

「ああ、わかった。こちらこそよろしくな、リヴェ」

手を差しだす秋夜にリヴェリアは出す手が途中で止まり、頬を痙攣させた。

「……極東の奴は初対面の女性の名を略称するのか?」

「他は知らないが、リヴェリアよりリヴェの方が呼びやすいだろう?」

「だからと言って何の許しもなくそう呼ぶのは礼儀に反するのではないのか……っ!?」

「もしかして愛称を呼ばれるのは初めてか?なら、俺がリヴェの初めての男になったのか」

先程とは礼儀正しい態度が一変して軽薄な笑みを浮かべる秋夜にリヴェリアはカチンときた。

「礼儀知らずな人間(ヒューマン)め!!」

それがフィン達と秋夜の初めての邂逅だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ギルドで新人登録を済ませると秋夜達は早速ダンジョンに訪れた。

「ここがダンジョンか……」

「そうだよ、と言っても1階層だけどね」

初めて訪れたダンジョンに洞窟内を見渡す秋夜は緊張する素振りも見せずに普通に前を歩いていた。

「話には聞いていたけど、地上の洞窟とさして変わりはないな」

それが初めてダンジョンに足を運んだ秋夜の感想だった。

「何を言っている。ここはダンジョンだ、何時何か起こるかわからん。油断していると足元をすくわれるぞ」

緊張感のない秋夜のリヴェリアは忠告するが秋夜は微笑を浮かべたまま振り返る。

「心配性だな、リヴェは。安心しろって警戒はしているから」

「だから私を愛称で呼ぶな!!」

「わかったよ、リヴェ」

「呼ぶなと言っているのがわからないのか!?」

怒るリヴェリアに笑う秋夜。

その隣をフィンとガレスは呆れ気味に見ていた。

「……儂もあんな感じじゃったのか?」

「ああ、まぁ彼はリヴェリアをからかっているだけだろうけどね………」

「すまんかった……」

「わかってくれただけでも助かるよ、ガレス」

第三者の立ち位置になってようやく気付いた苦労。

それを知ったガレスは今までフィンに気苦労させたことに素直に謝った。

1階層を進む四人の前に二体のゴブリンが姿を現すと秋夜が前に出た。

「まずは俺の実力を見てくれ。いいだろう?」

新人である秋夜の実力を把握する必要がある三人は異議を唱えることなくそれを了承すると、終夜は刀に手を置いて駆け出す。

ゴブリンは向かってくる秋夜に気付くがそれよりも速く秋夜はゴブリンの横を通り過ぎる。

そして、チンと鍔の鳴る音と同時にゴブリンの首と胴は切断された。

「どうだ?役に立ちそうか?」

振り返る秋夜にフィン達の顔は驚愕に包まれていた。

秋夜が今見せたのは極東の武術である抜刀術というのは理解できたが、研ぎ澄まされたその剣技に視認することが出来なかった。

役に立つどころか、下手をすればフィン達よりも強いかもしれないと思わされる剣技。

何より秋夜は明らかに実戦馴れしている。

「……この都市に来る前に鍛えていたのかい?」

「まぁ、そんなところだ」

歯切れは悪いが嘘は言ってはいないその言葉を取りあえずは信用するフィン達はまたとんでもない人材を連れて来た主神(ロキ)に驚かされる。

「問題ないなら次に行こうぜ?さっさと今日の食費を稼がないと」

「食事の心配か……変わった奴じゃの」

「剣技だけは認めるしかあるまい………」

「ハハ、それじゃ僕達も行くとしようか」

三人共秋夜を認めてダンジョンの奥へと足を運んでいく。

四人で下の階層に降りて行ってはモンスターを倒して魔石を拾っていく。

ガレスのパワー、秋夜の剣技、フィンの槍捌き、リヴェリアの魔法とそれぞれと能力を活かして互いを補う。

「休憩にしよう」

フィンが一時の休息を取るように進言すると三人共素直にそれに従う。

携帯食を取り出すフィン達に秋夜だけは別の物を取り出して三人に分ける。

「極東の握り飯だ。携帯食だけだと味気ないだろう?」

「確かに携帯食だけだと味気ないね」

「腹の足しにはなるのぉ」

「すまない、ありがたく頂くとしよう」

三人が握り飯を手に取って一口齧るとその味に三人の口は点になった。

「どうした?」

普通に食べている秋夜は三人の変化に問いかけるとフィンが思い切って訊いてみた。

「秋夜……これには何が入っているんだい?」

「梅干しだが……握り飯に梅干しは普通だろう?」

当たり前のように答える秋夜は握り飯を完食するが三人の手は止まったまま。

そして握り飯の中に入っている具材が極東風味である梅干しを食べた三人の感想はしょっぱいだった。

慣れない独特な風味に三人の顔は強張ったが何とか完食すると休憩がてらにフィンは秋夜に尋ねた。

「秋夜はどうしてこのオラリオに来たんだい?」

「唐突だな、そういうフィンは?」

「僕は一族の再興のためにオラリオに来た」

種族全体が落ちぶれた同胞たちの為にフィンはオラリオで名を上げて名声を手に入れて今この世界に生きている小人族(パルゥム)とこれから生まれてくる子供のためにフィンはそんな彼等の誇りになろうとしている。

その身体に不釣り合いな野望を持ち、はばかることなく告げるフィンに秋夜は素直に感心した。

「ガレスやリヴェは?」

フィンに続いて二人にも尋ねる。

「儂は魂が燃える熱き戦いを求めてやってきた」

「私はまだ見ぬ世界を知る為だな」

それぞれの野望と夢を抱きそれを告げる三人に秋夜は驚くと三人は今度はお前の番だと言わんばかりの視線を秋夜に向ける。

「………俺は斬ることしかできない。そんな俺でもこのオラリオなら許されるかもしれない。失ったものを手にすることに……こんなところかな?」

「なんじゃい、その失ったものとは?」

「それは秘密だ。さて、そろそろ休憩は終わりにしないか?」

強引に話を終わらせた秋夜に三人はこれ以上の追言はせず、休憩を終わらせて再びモンスターと対峙する。

 

 

 


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