ロキ・ファミリアに父親がいるのは間違っているだろうか 作:ユキシア
「よっしゃあ、ダンジョン遠征みんなごくろうさん!!今日は宴や!飲めぇ!!」
豊穣の女主人の酒場で【ロキ・ファミリア】は遠征の打ち上げを行い、主神の一言で一斉に騒ぎ始めるなかで一人だけテーブルに突っ伏している男がいる。
「………」
「団長、つぎます。どうぞ」
「ああ、ありがとう、ティオネ。だけどさっきから、僕は尋常じゃないペースでお酒を飲まされているんだけどね。酔い潰した後、僕をどうするつもりだい?」
「ふふ、他意なんてありません。さっ、もう一杯」
「本当にぶれねえな、この女……」
ジョッキを片手に酒を煽る【ロキ・ファミリア】の団員達。
賑わう中でロキはテーブルに突っ伏している男の前で酒を飲む。
「いやぁーほんまここの酒はうまいわー。どっかのお馬鹿さんの分も飲んでやらんとなー」
「わざわざ俺の前で飲むなんてどんな嫌がらせだ!?ロキ!!皆楽しく酒を飲んでいるなかで俺だけ飲めないなんてどんな拷問だ!!」
「自業自得だ、馬鹿者」
「お母様の言う通りです」
嘆く秋夜の両隣で当然のように告げる妻子に秋夜は叫ぶ。
「まぎらわしいことを言ったラウルが悪い!!」
「じ、自分のせいっすか!?斬りかかってきた秋夜さんの方が悪いっすよ!!」
「服と髪をちょっぴり斬っただけだろうが!?流石に本気で斬るつもりはねえよ!!」
その言葉に団員達は本当にそうなのかと疑った。
親バカの秋夜が愛娘が狙われているとわかれば何の躊躇いもなく斬りにかかりそうと容易に想像できた。
「つーか、俺知ってんだぞ!!ラウルがルフェルのことを変な目で見ている事を!!」
「な、何変なこと言ってんっすか!?言いがかりは止めて欲しいっす!!」
「うるせぇ!!証拠は挙がってんだ!!大人しく腹を斬れ!!」
「お父様。静かにしてください」
「あ、はい」
刀に手を伸ばしてテーブルに足をかけようとした秋夜だが、愛娘のルフェルの言葉に静かに椅子に座る。
「理由はどうであれ、ラウルを斬ったお父様が全面的に悪いです。反省してください」
「はい……」
娘の説教に縮こまる
「だひゃひゃひゃひゃ!!ほんま娘に弱いなー秋夜は」
「うるせぇよ、ロキ。ラウルを斬ったことは反省はする。だけど俺に後悔はない!」
「後悔もしろ、戯け」
妻からの辛辣の一言が秋夜の胸にぐさりと突き刺さると秋夜は再びテーブルに突っ伏す。
瞳からタケミカヅチと飲んだ酒が一緒になって流れていく中でロキはガレスに勝負を挑む。
「うおーっ、ガレスー!?うちと飲み比べで勝負やー!」
「ふんっ、いいじゃろう、返り討ちにしてやるわい」
「ちなみに勝った方はリヴェリアのおっぱいを自由にできる権利付きやァッ!!」
「ざけんなぁぁぁああああああああああああああああああああああああああっっ!!」
ロキの一言にモンスター負け劣らずの咆哮を放つ。
「リヴェのおっぱいは俺のもんだ!!誰にも渡さん!!」
「っ!?おい、離せ!」
「離さん!!リヴェのおっぱいは俺が守る!!」
隣に座っているリヴェリアを引き寄せて抱きしめる秋夜にリヴェリアは顔を真っ赤にして離れようとするがその抵抗も空しく終わる。
普段は冷静沈着なリヴェリアが今は羞恥を恥じらう乙女のような反応に多くの団員が見惚れる。
女性陣はリヴェリアの反応に可愛いと思い、男性陣からは羨ましいと秋夜を妬む。
主神であるロキはニヤニヤと笑みを浮かべてフィンとガレスは呆れる。
ティオネは変わらずフィンのジョッキに酒を注ぐ。
しかし、リヴェリアは団員達の視線を感じる暇もないぐらいに眼を回している。
団員達の前で、娘の前で抱擁など……と恥ずかしさの余り頭が真っ白になるリヴェリアを秋夜は解放するどころかより強く抱きしめる。
「リヴェをこうすると落ち着くな~。よし、今日はこのまま皆の前で存分にイチャつこうぜ、リヴェ。このまま抱擁を続けるか?接吻でもするか?それ以上でも俺は一向にかまわん!」
「するかっ!戯け者!!」
「時と場所を考えてください!!」
「うぶっ!!」
妻子の拳が秋夜の頭頂部に炸裂してテーブルを突き破り、床に激突する秋夜。
「フンっ」
「お父様とお母様が仲睦ましいのは娘である私もすっごく嬉しいです!ですが、そういうことはお二人の時だけにしてください!!」
怒る妻子に夫は地面と熱い接吻をしているが、あまりの衝撃に脳が揺れて上手く聞き取れないどこか動けれない。
ルフェルが何かを言っていることぐらいは理解できるがきっと説教だろうと思い、そのまま転がっておく。
そして軽くリヴェリアに復讐を誓う。
具体的には部屋でリヴェリアを押し倒して恥じらうリヴェリアの反応を存分に堪能しようと考えていると徐々に調子を取り戻し、耳がようやく正常になってくる。
「―――――アイズ、選べよ。雌のお前はどっちの雄に尻尾を振って、どっちの雄に滅茶苦茶にされてえんだ?」
え、告白?あの素直になれないベートが?
正常になった耳ではっきりと聞こえたその意外過ぎるベートの発言にどうやったらこのような展開になったのか非常に気になった。
しかし今はアイズの返事が気になる。
「……私は、そんなことを言うベートさんとだけは、ごめんです」
「無様だな」
どんまい、ベート。
椅子に手を置いて顔を上げる秋夜は妙な空気になっていることにようやく察した。
「黙れババアッ。………じゃあ何か、お前はあのガキに好きだの愛しているだの目の前で抜かれたら、受け入れるってのか?」
酒に酔っているベートを一瞥して秋夜はルフェルに状況の経緯を聞いた。
「ルフェル、どうなってんだ?」
「ベートがミノタウロスを逃した際に間一髪でアイズが助けた冒険者を貶して……」
「……ああ、あの少年か」
ルフェルの言葉にミノタウロスを追いかけていた際に偶然に遭遇した駆け出しの冒険者のことを思い出す。
あの時、少年が通った道にベートとアイズがいた。
ベートが言っているガキというのはあの白髪の少年のことだろうと納得していると。
「雑魚じゃあ、アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねえ」
直後。
一つの影が店の隅から立ち上がって店の外へ飛び出していった。
見覚えのあるその白髪に秋夜は頭を押さえる。
「本人がいるとは………」
ふざけていなければまだベートを止められたものにと軽く愚痴を溢すと秋夜は立ち上がってベートの頭に拳骨を落とす。
「ぶおっ!!」
「よし、ティオネ、ティオナ。せっかくの打ち上げの空気をぶち壊したこの馬鹿狼を吊るせ」
「はーーーーい!!」
「仕方ないわね……」
双子にベートの処罰を任せて秋夜はリヴェリアに告げる。
「リヴェ、ちょっと外の空気を吸ってくるわ」
「……ああ、皆には私から言っておく」
片目を瞑って秋夜の考えを察知したリヴェリア。
店を出ると秋夜は真っ直ぐダンジョンに向かう。
一瞬とはいえ、少年が泣いていたのが見えた秋夜はその涙が何の涙か知っている。
己を恥じて弱さを悔やむ。
あれはそういう涙だ。
なら、少年が目指す場所は決まっている。
より強くなれる場所。ダンジョン。
その6階層いて秋夜は少年を見つけた。
防具を身に着けずにナイフ一本でモンスターと向かい合うその姿は愚者そのもの。
強くなりたいという気持を先走らせて感情のままに武器を振るうその滑稽な姿を見て秋夜は笑った。
この少年は強くなる、と。歓喜の笑みを溢す。
本来なら止めに入るのが大人として正しいことなのだろう。
防具を身に着けていない駆け出しが6階層にいるなんて自殺行為他ならない。
だけど、秋夜は助けることも止めることもしない。
少年の歩む道を阻むことは誰であろうと許されない。
例え、ここで朽ち果てようがそれは少年の限界だっただけのこと。
だから秋夜は見守った。
闘う少年の姿を。
時間で言えばもう朝日が指す頃。
傷だらけとなった少年は力尽きて倒れそうになるところを秋夜が支える。
「貴方は……」
顔を上げる少年に秋夜は笑みを浮かべる。
「格好良かったぞ、少年」
力尽きた少年を背負い、地上を目指して歩き始める。
「あの……」
「ああ、何も言うな。俺が少年を家まで送ってあげたいだけだ。礼も言う必要はないぞ」
「……僕、強くなれますか……?」
問いかけてきた少年の疑問に秋夜は答える。
「強さとは信じることだ。自分に疑いを持てばそれまで努力してきた少年の道を貶めることになる。自分を信じ、仲間を信じろ。そうすればそれは少年にとっての力になる」
少年の疑問に秋夜はそう答えると少年の腕に力が入る。
「……ありがとうございます」
「礼を言う必要はないって言ったはずだぞ?」
「僕が言いたかっただけです……」
「そうか……少年の
本来なら他派閥の
そこにいた背が小さく胸が大きいロキで言う『ロリ巨乳』の女神に少年を渡して秋夜も
「リヴェ!今から二人目を作るぞ!!今度は男の子が欲しい!!」
男の子も欲しくなった秋夜はその気持ちをリヴェリアに伝えるとその返答は杖による一撃で返された。