ロキ・ファミリアに父親がいるのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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危機一髪

遠征から帰還した翌日の朝に秋夜は目を覚ます。

昨日までの天幕ではない、きちんとした部屋とベッドで一晩ぐっすりと眠って隣でまだ目を覚ましていない愛する妻であるリヴェリアの寝顔を満喫して秋夜は起きる。

ルフェルが幼い頃は川の字で寝ていたが、そんなルフェルも今となっては年頃の女の子。

今は一人部屋で寝ている。

それが非常に残念で、二人目が欲しい秋夜だがリヴェリアに無理をさせてでも作るつもりはない。

勿論、リヴェリアが望んだら喜んで行為に及ぶが。

リヴェリアを起こさない様に着替えると愛刀を持って中庭に足を運ぶ。

「ふ、は」

型を確かめる為にいつもの日課となっている素振りを行う。

愛刀を振って己に課したノルマを終わらせていく。

「遠征が終えたばかりなんだから少しは自分を労わったらどうだい?」

「フィンか……」

中庭に訪れたフィンに素振りを中断する。

「日課だからな、していないと落ち着かない。そういうフィンもやけに早いな」

「たまたまだよ」

「そうか」

話をそこで区切って再開する秋夜の素振りをフィンは眺める。

「君の今の姿を普段から見せてくれたら僕もリヴェリアも負担が減るんだけどね」

「それは悪いな、でも、リヴェは気付いているぞ?一緒に寝ているからな」

「そこをどや顔で言える君が羨ましいよ」

「ふふん、フィンも早くいいお嫁さんを見つけるといいぞ。結婚はいいものだ」

自信満々というよりも勝ち誇った顔で告げる秋夜にフィンは苦笑を浮かべる。

【ロキ・ファミリア】で結婚しているのは秋夜とリヴェリアだけ。

ガレスもフィンも出会いがなく今も独身だ。

「いい小人族(パルゥム)がいたら紹介しておくれよ」

「ティオネに殺されるから断らせてもらう」

割と冗談ではないためにそこは本気で言っておく。

秋夜もまだ命は惜しい。

フィンも一族の再興という野望を持っていることは長い付き合いで良く知っている。

その為には後継者、世継ぎの為に同族の女性が必要だ。

しかし、ティオネという恋する狂戦士(バーサーカー)がいる以上それは難しいだろう。

取りあえず頑張れとしか言えない。

「……今更だけど本当にいいのかいその腕は?【ディアンケヒト・ファミリア】に頼めばいい義手を付けてくれるだろうに」

今はない左腕を見据えて言ってくるフィンに秋夜は苦笑する。

「本当に今更だな……」

もう何十年も前に失った左腕だが、終夜は別に惜しいとは微塵も思っていない。

「悔いは残っていない。何も心配するな」

真っ直ぐとした瞳で告げる秋夜にフィンはやれやれと苦笑する。

「秋夜、君も本当に変わらないね。出会った頃と何も変わっていない」

「それはお互い様だ」

互いに笑みを浮かべ合う。

出会った頃の時を思い出したかのように笑い合うと秋夜は愛刀を鞘に納める。

「そろそろ朝食の時間帯だな」

「そうだね、僕達も行こうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

地下迷宮(ダンジョン)遠征から帰還した次の日も慌ただしい。

ダンジョンから持ち帰った戦利品の換金、武具の整備もしくは再購入、道具(アイテム)の補充など【ロキ・ファミリア】は毎回団員総出で後処理に追われることになる。

「夜は打ち上げやるからな――!遅れんように――――!」

本拠(ホーム)の屋根の上から叫ぶ主神(ロキ)を置いてそれぞれ向かうところに行く。

秋夜も皆と同じ武具の整備を行う為に椿がいる工房へ足を運んでいた。

「よぉ、椿」

「おおっ、秋夜!久しいな!」

訪れてきた秋夜に歩み寄る女性は【ヘファイストス・ファミリア】の団長を務めている最上級鍛冶師(マスター・スミス)と冠されている椿・コルブランド。

「ん?今日は娘はおらぬのか?」

「ああ、アイズ達と一緒にいる。お前に直接用があるのは俺だけだからな」

「そうであったな。注文された品はできておるぞ」

机に置かれている鞘に納められている刀と小太刀を椿は秋夜に渡す。

「要望通り『不壊属性(デュランダル)』の刀と小太刀だ」

「ああ」

秋夜は遠征前に椿に不壊属性(デュランダル)の武器を椿に注文しておいた。

今愛用している『刹那』は切れ味はいいが、不壊属性(デュランダル)が付与されていない為に少々心細い。

予備(スペア)の得物として秋夜は不壊属性(デュランダル)の武器を椿に作って貰った。

「太刀の名は『羅刹』小太刀は『鬼姫(きき)』。どちらも第二級武装並みの攻撃力は保証しよう」

「助かる。椿が打ってくれたこの小太刀ならルフェルも喜ぶ」

「愛されてるな、お主の娘は……」

「当然だ、俺とリヴェの娘だぞ」

娘自慢する秋夜に笑みを浮かべる椿に愛刀の整備を頼んで秋夜は工房を後にする。

「さて、と……」

最初の予定が終えた秋夜は背筋を伸ばして次の場所に向かう。

古ぼけた集合住宅。そこに住む男神【タケミカヅチ・ファミリア】の主神の元に足を運んだ。

「タケミカヅチ様、お久しぶりです」

「ああ、遠征から戻って来たんだな」

「はい。あ、これをお納めください」

今回の遠征で得た報酬の一部を極東にある社の援助金を目の前の武神に渡す。

金貨の詰まった袋を一瞥してタケミカヅチは難しい顔を浮かべる。

「あー、毎度のことだが……これはお前の【ファミリア】がダンジョンで稼いだ金だろう。俺達の為に使う必要はないんだぞ」

一部とはいえ、袋に入っている金貨はタケミカヅチの眷属達が稼いでくる額を優に超えている。

助かるといえば助かる。だが、同じ極東出身というだけで受け取るわけにはいかない。

しかし、秋夜は苦笑を浮かべながら言った。

「何を仰いますか。俺がここにいるのはツクヨミ様がこのオラリオに送ってくださったおかげです。剣に囚われ、斬ることにかできなかった俺を受け入れ、人としての温かさを思い出させてくれたツクヨミ様には心から感謝をしています。そのツクヨミ様が住んでいる社に仕送りを送るのはせめてもの恩返しです。受け取ってください」

「……その言葉をあいつに聞かせてやりたいものだ」

泣いて喜ぶだろうなと極東にいる女神(ツクヨミ)を想像しながら改めて金貨を受け取るタケミカヅチ。

タケミカヅチが秋夜と会ったのはこのオラリオの都市でだ。

女神(ツクヨミ)から様子を見て来て欲しいと頼まれてタケミカヅチは秋夜を見つけて話をしてから今の様な関係になっている。

眷属である桜花達も秋夜のことを兄のように慕っているぐらい仲がいい。

「さて、では堅苦しい話はこれぐらいとしまして……」

ドンッと背後から出した酒瓶を取り出すと秋夜は笑みを浮かべながら男神(タケミカヅチ)に告げる。

「飲みますか」

「付き合おう」

即答であった。

 

 

 

 

 

 

「「ハハハハハハハハハハハハハハッッ!!」」

古ぼけた集合住宅で陽気な笑い声が響く。

「聞いてくださいよ!タケミカヅチ様!こんなに小さかったルフェルが今では大きくなって母親似の美人になってるんですよ!小さい頃は可愛かった、いや、今でも十分に可愛いルフェルに悪い虫がつかないか心配なんですよ!!」

「わかる、わかるぞ!お前の気持ち!俺も命達が変な目に会っていないか心配でならん!あいつらも綺麗になったからな!」

「わかりますよ!命達も可愛いですからね!まぁ、愛娘には負けますが」

「そんなことはないぞ!命達の方がお前の娘より美人になる!気立てはいいし、何より健気だ!近い内にお前の娘を上回る!」

「ハハハハ!それは身内びいきというものですよ!」

「お前が言うか!?」

酔ってたかが外れた二人は互いに娘自慢を繰り返す。

話題にされているルフェル達がいれば顔を赤くして二人を止めに入っていただろう。

しかし、今の二人を止めるものは誰もいない。

酒に酔い、肩を組む今の二人は神と人間の関係線はなく、親しい友人同士のように陽気に笑い合っていた。

杯に酒を注ごうと酒瓶に手を伸ばすがもう酒は入っていなかった。

「あれ、もうないのか……」

「むぅ、もうなくなったのか。では、ここでお開きとするか」

「そうですね、俺もこの後は打ち上げがありますし」

「お前、まだ飲むのか……」

「……妻が厳しくて遠征帰りでないと存分に飲ませてくれないんですよ」

リヴェリアに普段からの酒を控えるように告げられている秋夜が存分に酒を飲んでいいことを許されているのは遠征から帰還した打ち上げの時だけ。

それ以外は精々ジョッキの一、二杯程度しか飲めない。

「最近では娘にまで飲酒を止められています……」

「そ、そうか……」

秋夜は酒が好きだ。

自分の主神であるロキ程ではないが、そのロキと負け劣らずに飲む。

酒豪であるガレスともよく飲む。

しかし、目を光らせている妻子に隠れて飲むことも出来ず我慢している。

「だけど、お前は妻と娘を愛しているんだろう?」

「当然ですよ。俺は妻も娘も愛しています。もちろん【ファミリア】の者たちも俺にとってはかけがいのない家族です」

一切の羞恥もなく堂々と告げるその言葉にタケミカヅチも我が子の成長を喜ぶように嬉しく思う。

「だったら我慢するんだな」

「………はい」

結局は我慢するしかなかった。

タケミカヅチと別れた秋夜は遠征の打ち上げを行う『豊穣の女主人』に直接向かう。

「あ、秋夜さん!こんなところにいたんすっか!」

「おう、ラウル」

向かっている途中でラウルが秋夜に駆け付けてきた。

「もう皆向かっているっすよ!というかもう飲んでいるんっすか!?」

「なーに、前酒だ、前酒。本番の為の練習だ」

「はいはい、行くっすよ」

「ほーい」

ラウルに背中を押されて前を歩く秋夜ははっと気づいて酔っ払いとは思えない機敏な動きでラウルから離れる。

「ど、どうしたっすか……?」

突然の機敏な動きに困惑するラウルに秋夜は告げる。

「……ラウル、お前………俺の機嫌を取って懐柔し、ルフェルを嫁にする気じゃないだろうな!?」

「はぃぃいいいいいいいッッ!?」

「油断した……冴えないが個性の平凡ラウルがルフェルを狙っているとは……!てっきり同期であるアキとばかり……」

「な、何言っているんっすか!?というか酷いっすよ!!」

自分でも平凡とは自覚してはいるが誰かに言われるとそれはそれで嫌だった。

「だが、残念だったな!ラウル、いや【ハイ・ノービス】!愛娘に相応しい男の最低条件は俺を倒すことだ!」

今日手に入れたばかりの不壊属性(デュランダル)の刀『羅刹』を鞘から解き放ち抜刀するとラウルは慌てて誤解を解こうとする。

「ち、違うっすよ!別に自分はルフェルさんを狙ってないっす!」

「なんだと!?ルフェルが可愛くないって言うのか!!その暴言万死に値する!!」

「お、落ち着いて欲しいっうわああああああああああああああああああああああ!!!」

抜き身の刀を持って斬りかかってくる酔っ払い(秋夜)からラウルは命懸けで逃走。

服や髪を斬られながらも命からがらで【ロキ・ファミリア】がいる所まで戻って来れたラウルはリヴェリアとルフェルに助けを求めて命拾いした。

そして下手人である秋夜は道中で二人の説教と罰として今夜の打ち上げの酒は取り上げられた。

 


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