ロキ・ファミリアに父親がいるのは間違っているだろうか 作:ユキシア
新種のモンスターの襲撃に物資を壊された為に未到達階層の進出を諦めて、地上への帰還に行動を切り替えていた。
現在【ロキ・ファミリア】は中層域の17階層を進んでいた。
「まだまだ行けたのに~。暴れ足んないよ~」
「しつこいわよ、あんた。いい加減にしなさい」
「だって、50階層で引き返しちゃうなんてさぁー」
食糧のみならまだダンジョンで何とかなるが、武器や道具はどうすることもできない。
これ以上の進出は危険と判断したフィンの指示は間違ってはいないが、ティオナは不満だった。
「まぁ、次がある。その時また暴れたらいい」
不満だらけのティオナに宥めるように声をかけるがティオナは頬を膨らませる。
「秋夜はいいよね、あんなに暴れたんだからさ~」
「俺は戦闘狂じゃないから普通に疲れた……さっさと帰還して酒を飲んでベッドで寝たい…」
「ぐーたらは許しませんよ、お父様」
「安心しろ、ルフェル。私が見ておく」
「おー……酒と安眠が遠のいていく………」
真面目な妻と娘に目を付けられた秋夜の堕落は遠のいていく。
フィン達のいる後続の部隊にいるべきだったと軽く後悔するが今更そんなことを言ってももう遅い。
「ほーんとリヴェリアってどうして秋夜と結婚したんだろう。不思議だよね」
「そうよね。性格なんて正反対だし、秋夜はダメダメだし」
ひそひそと話すアマゾネスの双子に秋夜は勝ち誇った笑みを浮かべて言った。
「ふふん、俺の良さもわからないのはお前達が子供だからだ。リヴェは大人だからこそ俺の良さに惚れたんだよ。なぁ、リヴェ」
「………お前にいいところなどあったか?」
「オオ―――――イ!?俺の嫁が何言ってんの!?ルフェルは何かあるだろう!?なんだって俺とリヴェの娘だもんな!」
「お父様がもう少し真面目になってくれたら私は嬉しいです」
「どうして普段は見せない満面な笑顔でそんなことを言うんだよ!?誰に似たんだ!?俺か!!」
「秋夜、うるさい……」
「アイズ!どうしてお父さんにそんなに冷たくするんだ!?」
アイズにまでぞんざいに扱われ秋夜は肩を落としてとぼとぼと歩く。
帰ったらヤケ酒してやると愚痴を溢すがその愚痴はしっかりとリヴェリアの耳に入っている為に無理だろう。
歩く途中で秋夜は近くにいたサポーターとして行動しているリーネの荷物を無理矢理取る。
「少し持つぞ。俺はまだまだ余力があるからな」
「だ、大丈夫です!第一級冒険者の秋夜さんに荷物持ちなんて……どうして泣いているんですか………?」
「………いや、リーネは優しい子だなと思って」
冷たい妻子にリーネの気遣いが秋夜の心に響き、目頭が熱くなった。
「リヴェリア、秋夜がリーネにちょっかいだしてるよー」
「後で仕置きだな」
「ア、アイズさん……どうしました?」
「何でもない……」
ティオナに告げ口されてリヴェリアの仕置きが待ち構えている秋夜とその言葉に
リヴェリアは片手で荷物を持っている秋夜の隣を歩いて耳打ちする。
「
リヴェリアの言葉通りに秋夜は普段通りに接してはいるが本当は今も動くたびに体に痛みが生じる。
アイズ達も気付いていない些細な変化に気付いたリヴェリアに秋夜は流石は俺の嫁と呟くとアイズに視線を向ける。
「あのモンスターと対峙できたのは俺とアイズだけだ。アイズはあのモンスターと戦う前から魔法を使っていた。その時だけでも
秋夜は見抜いていた。
駆け付けてきた時からアイズは魔法の反動で体を痛めていたことに。
だからこそあのモンスターと対峙した。
娘にこれ以上の負担を掛けさせない為に。
「親が子に守られるわけにはいかないからな」
微笑を浮かべながら告げるその言葉にリヴェリアは疲れを現すように息を吐いた。
「私の前ぐらいは遠慮をするな」
「勿論、今夜はしっかりリヴェで休ませてもらうつもりだ」
ぐへへ、と笑う秋夜にリヴェリアは取りあえずその顔があまりにもだらしなかったので一発杖で殴っておいた。
『―――ヴゥオォ』
進行中のルームに獰猛な気配と、そして荒い息づかいが迫ってくる。
複数の通路口の向かうから、大量のモンスターが姿を現した。
『ヴヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』
牛頭人体のモンスター『ミノタウロス』の大群が秋夜達を包囲するように輪を作る。
「おー、これだけのミノタウロスを見るのは久しぶりだな」
「何を暢気なことを言っている。ラウル、フィンの指示だ、後学のためにお前が指揮を取れ」
「は、はい!」
本来なら下の団員達に【
『ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!?』
半数のミノタウロスを返り討ちにしてすぐに一匹のミノタウロスがアイズ達に背を向けると他のミノタウロス達も一斉に逃げ出した。
モンスターが逃げたその行動に驚きを隠せれないアイズ達にリヴェリアが声を上げた。
「追え、お前達!パニック状態の
ダンジョンでは他の冒険者もいる。
暴走したミノタウロスと遭遇したら普通の冒険者ではひとたまりもない。
「秋夜!お前も追え!」
「いや、これ以上は過剰だろう……」
次々上層に登っていくミノタウロスを追いかけるアイズ達を見てこれ以上は不必要と思ったが次のリヴェリアの言葉で秋夜は動く。
「戻ったら褒美をくれてやる!」
「一瞬で片を付けて来てやる!待ってろ!」
体の痛みをどこかにふっ飛ばして愛刀を鞘から解き放ち、荷物を持ったまま加速する秋夜にリヴェリアは嘆息した。
「と、活き込んで来たのはいいが………」
五階層まで飛んできたのはいいが、秋夜のミノタウロスの討伐はゼロ。
残り少ないミノタウロスを討伐する為にここまでやってきたが見当たらない。
「まだいるはずだけど………つーかいてくれないとリヴェからのご褒美が」
その時に聞こえたミノタウロスの鳴き声に秋夜はすぐに動いた。
「確かこっちだな」
恐らく最後のミノタウロス。そのミノタウロスを討伐してリヴェリアからご褒美を貰う。
具体的にはベッドの上でイチャイチャと……。
鳴き声を頼りに駆け出していくと曲がり角で一人の少年と衝突する。
「あっぷ!」
「おっと、大丈夫か?」
「あ、い、いえ、こちらこそすみません!」
真っ赤な少年は頭を下げて謝ってくるが秋夜がそれが返り血だとわかると荷物から布を取り出して少年の頭に被せて返り血を拭く。
「真っ赤になるまで頑張るのはいいが、地上に戻るなら返り血ぐらい落とした方が良いぞ?」
「……す、すみません」
返り血を拭い取られる少年はどこかアルミラージを連想させてしまう。
ギルドの支給品を見てまだまだ駆け出しの冒険者だということはすぐに判明できた。
「駆け出しか?」
「は、はい!」
「どこの【ファミリア】かはわからんが、頑張れよ」
肩に手を置いて励ましの言葉を送る秋夜に少年は嬉しそうに笑みを浮かべて頭を下げた。
「はい!頑張ります!それとありがとうございます!」
「おう」
手を振って別れると少年が通った道には腹を抱えて笑っているベートと珍しく頬を膨らませて年相応の反応をしているアイズがいた。
これは珍しいと思いつつ秋夜はアイズ達を連れてリヴェリアと合流する。
討伐がゼロということもあって褒美はなしだった。
もう少し早く駆け付けていればと後悔するが今更だ。
こうして遠征の幕は閉じたのであった。
ダンジョンから地上へ帰還した【ロキ・ファミリア】は
二週間ぶりの我が家に戻って来れた団員達はそれぞれ思うところがあるだろうが殆どの者は休みたいという気持ちでいっぱいだろう。
「今帰った。門を開けてくれ」
フィンの言葉を受け開門する男女二名の団員、フィン達は敷地内に足を踏み入れるとそれは飛んできた。
「――――――おっかえりぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!」
朱色の髪を揺らす彼女は男性陣には目もくれずにアイズ達女性団員達にまっしぐらに突き進んでいく。
「みんな無事やったかーっ!?うおーっ、寂しかったー!」
両手を突き出して飛びついてくる彼女をひょい、ひょい、ひょいとアイズ達はすんなり回避する中でルフェルだけは避けずに立っていた。
細目がキラリと光る彼女はそのままスキンシップもといセクハラを行おうとするが。
「いくら主神でも娘のセクハラは阻止するぞ」
あと少しで押し倒せそうになるところで秋夜が彼女の軌道を変えて何もない地面へ誘導させると彼女はふべっ!?と女性らしかなる声を出す。
「何すんねん、秋夜!」
「変態から愛娘を守っただけだぞ?ロキ」
文句を言ってくるロキに当然のように答える。
「どこまで親バカやねん!そんなんやからルフェルの傍に男が寄ってこんのや!」
「ルフェルが高嶺の花だと察知してお近づきになれないのだろう。俺とリヴェの娘だから仕方ないけどな」
「嘘つけ!近づいてくる男どもを片っ端から威圧しとる張本人がなにゆーとんねん!グッジョブや!」
「おう」
親指を立て合う二人にリヴェリアとルフェルは嘆息する。
いや、二人以外も呆れるように息を吐いていた。
「おっと、ただいま。ロキ」
「おかえり、秋夜」
そして我が家に帰って来た秋夜達は居残り組の団員達が遠征組の持ち帰った荷物を受け取り運搬していく。
その後も二週間ぶりのまともな飲食にありつける遠征組は腹を満たして明日に備えて疲れを取る為に早めに自室に戻って行く。
秋夜とリヴェリアも同様に自室に戻ると寝間着に着替え、リヴェリアは髪留めを外す。
さら、と森の清流のような翡翠色の長髪が流れる。
「髪を下ろしている時のリヴェもいいもんだな……」
「毎日見ているのに今更何を言っている?」
「何度見てもいいって思える程綺麗なんだよ、リヴェは」
当然のように言い放つ惚気にリヴェリアは特に反応を示さない。
流石に何十年も一緒にいればいちいちそんなことで動じたりはしない。
「明日も早い。私達も休むとしよう」
「ああ」
二週間ぶりのベッドに二人の瞼が閉じるのは早かった。