ロキ・ファミリアに父親がいるのは間違っているだろうか 作:ユキシア
突然【ロキ・ファミリア】の
「秋夜……」
「戻って来たか。泉水は取れたのか?」
新種を相手にしながらも態度を変えずにアイズに尋ねるとアイズは首を縦に振って肯定する。
「このモンスターのおかげで物資はやられたが皆無事だ。さっさと終わらせるぞ」
「うん」
刀と剣に水と風を纏った二人の剣士は恐ろしい勢いで新種を斬り殺していくと新種は数で押し潰そうとこぞって襲いかかろうとする。
そこへすかさずベート達が参戦し、依頼に行っていたルフェルとレフィーヤの魔法が撃ち込まれれば、統制はあっけなく失われた。
「二人で楽しんでんじゃねーぞ!」
アイズの傍に着地するベートのブーツには魔法効果を吸収して特性攻撃に変えるミスリルブーツ《フロスヴィルト》。
宿っているのはアイズの
「アイズ!お前からの
風を纏ったベートの蹴撃は瞬く間に新種のモンスターを蹴散らしていく。
「はっ!どうだ、俺の
アイズの風を使いこなすベートは自慢げにアイズの方へ振り替えるがアイズは一瞥すらしていなかった。
「ククク、残念だったなベート。安心しろ、俺はしっかりと見ていたぞ」
「うるせぇ!!」
好意を寄せている相手ではなく秋夜に恰好つけているところを見られたベートは顔を真っ赤にして吠える。
「青春大いに結構。何事も精進することに意味はあるのだよ、若人よ」
「蹴り殺す!!」
「うおっ!おい、蹴り殺すのはモンスターにしろ!」
笑いの種にされたベートは秋夜に蹴撃を放つが秋夜はその蹴りを受け流してモンスターに当てさせる。
「秋夜!いっくよ~~~!!」
少し離れたところで団員から投げ渡された槍をティオナは秋夜目掛けて投げた。
「モンスターに投げろ!」
愛刀で向かってくる槍の軌道を変えてモンスターに当てる秋夜にティオナは悪びれることなく言った。
「こっちの方が当たりやすいじゃん!」
「突然槍を投げられた俺の身にもなれ!心臓に悪いわ!」
何の悪びれもなく言ってくるティオナには後で説教してやろうと思うとぞくりと亜寒を肌に感じ取り、背後からティオネが襲いかかってきた。
「オラッ!」
「味方ぐらい判別しろ!あと無茶をするな!」
さらりと躱すとティオネは新種の腐食液をまともに浴びたせいで大変なことになっているのを見て秋夜はとっさに
「チッ」
「おい、何だ今の舌打ちは?まさか俺とリヴェの仲睦まじい姿に苛立ってこの襲撃を利用してモンスターを攻撃する振りをして俺に苛立ちをぶつけようとしたんじゃないだろうな?」
「当り前でしょう!結婚しているからって調子乗って私達の前までイチャつかれたら殴りたくもなるわよ!!」
「暴論吐くな!それと俺とリヴェは熱愛に嫉妬するな!夫婦なんだから当然だろうが!むしろ俺はこれでも控えているんだぞ!?リヴェから二人きりの時以外は我慢しろって言われているんだ!!」
「私だっていつかはあんたとリヴェリアに負けないぐらい団長とイチャついてやるんだから!!」
「やってみろ!!その何倍も俺とリヴェはイチャつくまでだ!!」
「二人とも!そんなこと言っている場合じゃないでしょうが!!」
「「うるさい!!お子様は黙ってろ!!」」
「お子様はどっちだ!!」
叫び合いながらもきちんとモンスターは倒していく秋夜達だが、その叫び声が聞こえたフィンは苦笑を浮かべてリヴェリアは頬を赤く染めた。
どっちも子供と誰かがぼやいた。
しかし、本陣にいるリヴェリアを始めとする魔導士部隊の詠唱は終わった。
秋夜達の退避を確認して【ロキ・ファミリア】の魔導士部隊による魔法の一斉砲撃によって一掃。
初めて確認する新種のモンスターが
誰もが弛緩しているその直後。
「――――!」
遠方から響いてきた破砕音に誰もが振り仰いだ。
そして、それは姿を現す。
およそ六
黄緑の体躯に扁平状の腕。芋虫型のモンスターの形状を引き継ぐ姿は、しかし全容の作りが大きく異なっていた。
下半身は芋虫を沸騰させているが上半身は人の上体を模していた。
だけど、問題は姿ではない。
先程の芋虫型は倒したら体を破裂させて周囲に腐食液を撒き散らしていた。
あの女体型もそれと同じだとしたらどれほどの被害が出てくるのだろう。
誰もが最悪の光景を脳裏に想像するなかで秋夜は口を開ける。
「はぁ、今日は
愛刀を持って一歩踏み出す秋夜は振り返ることなくフィンに告げる。
「あのモンスターを誘き出しておく。さっさとここから離れろ」
「……すまない。総員撤退だ」
秋夜の言葉にフィンは不本意ながらも同意して全員に撤退の指示を出す。
「お父様が残るのでしたら私も……」
「ルフェル。気持ちは嬉しいが必要はないぞ」
愛刀を肩にかついで不敵に笑う。
「あの程度の相手を倒せないようじゃ【ロキ・ファミリア】の名が廃るってもんだ」
不敵に笑みを浮かべて堂々と告げるその勇ましさは誰もが逞しいと思わされる。
それと同時に普段からこの姿を一割でも出してくれたら素直に感心するのにと残念がる。
「見ていろよ。
その言葉と同時に女体型は動いた。
四枚の扁平状の腕を広げるとそこから舞う七色の粒子群。
鱗粉、あるいは花粉か。極彩色の微細な光粒が秋夜達のもとに漂ってくると無数の爆光が連続した。
「《斬》」
極小の一粒一粒が、凶悪な爆弾をである粉を秋夜は斬り捨てた。
『――――――っ!』
全員無傷の姿に驚愕に包まれる女体型。
「ここから十分に距離を取ったら信号を出す。それまで時間を稼いでくれ」
「誰に言ってんだ。それぐらい余裕だ」
「知ってるよ」
笑みを浮かばせ合いながら去って行く娘達と戦友達に秋夜は振り返ることなく女体型と向かい合う。
「さぁ、
女体型の顔面部に、横一線の亀裂を走らせ、口腔を解放する。
鉄砲水のごとき勢いで撃ち出される腐食液は量、速度ともに先ほどの新種とでは比べるまでもない。
横へ跳んで回避するとすぐに轟く途方もない溶解音。
おっかないと思いつつフィン達が逃げる為の時間を稼ぐことに専念する秋夜は接近する。
腕を振って爆粉をばら撒く女体型に秋夜は愛刀を鞘に納めて抜刀する。
「《斬》」
居合切り。それによって爆粉を切り捨てる。
秋夜のスキル『
《斬》と口にすれば形ないものでも斬り捨てることが出来る。
それが爆粉だろうと爆発だろうと関係ない。
四枚の扁平状の腕で秋夜を叩き潰そうと振り下してくる女体型。
人を優に超えるその巨体から放たれるその腕なら木っ端微塵になるだろう。
「《ざ、と」
斬り落とそうと考えたが今はフィン達が逃げる為の時間を稼がなければならない。
下手に腕を斬って腐食液をばら撒かれたら困る為に秋夜は女体型の攻撃に回避すること専念する。
回避困難な爆粉。
防御不可能な腐食液。
武器破壊の体液。
ただでさえ巨体だけで厄介だというのに色々付与され過ぎているその能力に愚痴をこぼしたいが本音だが。
「まぁ、倒しがいがあると思えばいいか」
ぼやく秋夜。
そこへドンっ、と。
遥か上空に閃光が打ち上がる。
撤退完了の信号。目標撃破の許可を確認した秋夜は待ちくたびれたかのようにゴキリと首の骨を鳴らす。
「んじゃ、終わらせるとするか」
動きを止めて愛刀を天に向けるかのように振り上げるその奇行に女体型は警戒する。
「悪いな、妻と娘達が俺の事を心配して待ってんだ」
モンスター相手に得意げに笑う秋夜は詠唱を口にする。
「【
刀身に水を纏わせてうねらせる秋夜はモンスターに問う。
「知ってるか?水って何でも斬るんだぞ」
『――――――――っ』
刹那、女体型は口腔や触手から一斉に腐食液を秋夜目掛けて一斉放出したが一手遅かった。
「
振り下ろされる一振りに腐食液ごと女体型を一刀両断。
女体型の体は瞬く間に全身を膨張。
膨れ上がった体は一気に四散し、更に、爆粉と腐食液の間で特殊な反応が発生したのか桁外れの大爆発が起こった。
「お父様……っ」
十分な距離を離した上で秋夜の戦闘を見守っていた【ロキ・ファミリア】のところまで爆発の余波が届く。
押し寄せる熱風と衝撃に誰もが目を覆った。
視界が灼熱に包まれ、全てを赤く染まる。
爆心地には炎の海が広がりその勢いは止まらない。
その光景にルフェルは悲痛の声を上げるとその後ろにいるリヴェリアが愛娘の肩に手を置く。
「安心しろ。お前の父親はあの程度で死ぬような軟弱者ではない」
自身の夫に絶対の信頼を寄せているリヴェリアはルフェルに優しい声音でそう言い聞かせると火の壁が二手に割れる。
底から出てくる人影に誰もが歓喜の声を上げる。
「帰って来たぞ」
仲間達のもとへ秋夜は堂々と帰還する。