ロキ・ファミリアに父親がいるのは間違っているだろうか 作:ユキシア
「【狙撃せよ、妖精の射手。穿て、必中の矢】!」
美しい呪文の旋律が響き渡る。
短文詠唱を紡いだレフィーヤは魔導士専用装備・魔杖《森のティア―ドロップ》を構えた。
「【アルクス・レイ】!」
力強い魔法名が光の矢、否、スキルによって砲撃と化した単射魔法が狭い直線通路を埋め尽くし、新路上にいた二十を超すモンスターは大閃光に呑み込まれ、消滅。
敵の撃破を認め、レフィーヤは杖を下ろす。
「そうか、お前はウィーシェの森の出身か。同胞の中でも『魔力』に秀でた里の者達……………あの魔法の出力、道理で」
「い、いえっ、私はこれくらいしか取り柄がないので……………」
再進行する傍ら、フィルヴィスは得心がいったようにレフィーヤの横顔を眺める。
アイズ達を追いかけるべく、24階層まで辿り着いた秋夜達はたったったっ、と大樹の迷路に足音を響かせていく。
目指すは階層北の
二人の会話を聞いていた秋夜はうんうんと自分ごとのように嬉しそうに頷いていた。
「と、来るぞ」
視界の奥から現れたモンスターを愛刀で瞬く間に切り裂く。
紙でも切るかのように鮮やかな切口を残しながら、進行速度に影響を与えることなく進んで行くと、どっと
「フィルヴィス」
「はい!」
秋夜の号令に疾走、短剣を抜剣しレフィーヤの傍にいたモンスターを斬り倒す。吠える
二人が介入する暇もないまま、あっという間に数を減らしたフィルヴィスは腰から木製の
「【一掃せよ、破邪の聖杖】!」
残る二体の
『並行詠唱』を開始し、
「【ディオ・テュルソス】!」
毒胞子の拡散と同じ
鋭い稲光とともに駆け抜ける一条の雷が、
そのフィルヴィスの戦闘に驚嘆するレフィーヤだが、無理はない。
レフィーヤは純粋後衛魔導士だが、フィルヴィスは中衛職の中でも『魔法剣士』と呼ばれる
自分自身前衛で戦うことができ、魔法の火力を誇る、速度重視の魔導士。
近距離・遠距離をつつがなくこなし、激しい戦闘の中での『並行詠唱』もお手のもの。
眉目秀麗のエルフの容貌も併せ持つフィルヴィスは『
「よし、ご苦労さん」
「いえ、この程度問題ありません」
周囲のモンスターを倒して、一息ついた。
「どうだ、レフィーヤ。フィルヴィスの動きは参考になったか?」
「……………………い、いえ」
冗談交じりに笑みを浮かばせながら尋ねる秋夜にレフィーヤは肩をガクリと落とす。
「あの、秋夜さん。火力特化の魔導士であるレフィーヤに底まで求めるのは酷かと……………それに、真の局面に必要とされるのはウィリディスの力だと思います」
「フィルヴィスさん……………」
秋夜の言葉にフォローを入れるフィルヴィスにレフィーヤの目尻に涙を浮かばせる。
フィルヴィスの言葉通り、『並行詠唱』を火力特化の純粋な魔導士で行える者は稀有だ。
「ルフェルは一ヶ月で取得したぞ? まぁ、あいつはかるーく俺達の予想を超えた天才だから仕方ねえが……………」
レフィーヤと同じ純粋な魔導士である秋夜の愛娘であるルフェルは幼い頃より剣士や魔導士としての心構えなども教えていた為と、本人の高い素質が合わさって一ヶ月の短すぎる期間で『並行詠唱』を取得した。
「う…………」
一応、レフィーヤもルフェルも同じリヴェリアの後釜という位置だが、二人の差は大きい。
「よし、決めた。レフィーヤ」
「は、はい!」
「次の遠征までに『並行詠唱』を身に付けなかったら遠征中は俺と同じ
「なっ――――――」
「え、ええええええええええええええええええええええええええッ!? な、何でそうなるんですかッッ!?」
絶句するフィルヴィスは頬を朱色の染め、若干レフィーヤを羨ましそうな目で見ていた。
それに対してレフィーヤは驚きながらもその理由を問い詰めた。
「いや、俺はいつも遠征中でもリヴェと一緒に寝てるから一人だと寂しいんだよ」
「そ、それでしたらルフェルさんを誘えば……………ッ!?」
「寂しいからって娘に甘えられるか!? それぐらい察しろ!? 俺にだって父親としての威厳ってもんがあるんだよ!?」
「そんなものはもうとっくにありません!!」
父親の威厳を保つために愛娘に寂しいから一緒に寝てくれとは言えない。
そんな姿を見せたらもう恥ずかしくてリヴェリアの胸の中で泣くしかない。
しかし、普段からだらしない態度をこれ以上にないぐらい見せている秋夜の父親としての威厳は果たしてあるものなのか……………あると信じよう。
「大体、秋夜さんは普段からだらしなさすぎます!! もっと【ファミリア】の幹部として毅然とした対応と態度を心がけるべきです!! お酒を飲み過ぎて応接室でお腹を出して寝るのはよくないと思います!! それにルフェルさんがいくら大事だからいって男の人を斬りかかるのは幹部以前に人としてどうかと思います!!」
「仕方ないだろう……………俺にだって付き合いってもんが、それに娘を大事にするのは父親として当然で、それにそいつらはルフェルを血に飢えた獣のような目で見てくるし……………」
「限度があります!!」
「はい、すみません……………」
言い訳する秋夜に一喝で謝らせるレフィーヤはどこか、リヴェリアとルフェルと似た
師弟だからだろうか?
くどくどと説教するにつれて小さくなっていく秋夜の二人の光景にフィルヴィスは小さく噴き出した。
「ふふっ」
なんとも滑稽で面白いと思いながらフィルヴィスは漏れ出た笑みを隠す様に手で覆うも止まらない。
小鳥が囀るような細い笑声が、小さな唇からこぼれ落ちる。
この光景に懐かしくも思い出す。
これがパーティの楽しさだということを。
「フィルヴィスさんも言ってあげてください!! リヴェリア様が動けない今、この駄目な大人を私達の手で矯正してみせましょう!!」
「フィルヴィス…………助けてくれ……………」
勢いを増すレフィーヤに既に意気消沈している秋夜はフィルヴィスに助けを求める。
フィルヴィスは笑いを堪えながら秋夜に言う。
「そうですね。もう少ししっかりとなされたほうがいいかと」
「そうですよね!!」
「俺に……………味方はいないのか……………ッ!」
意気投合する