ロキ・ファミリアに父親がいるのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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窮地にいるとき

「それじゃあ、今後のことを確認しよう」

食事を終えて、見張り以外の者達が小さな輪を作り、視線をフィンに向けた。

「『遠征』の目的は未到達階層の開拓、これは変わらない。けど今回は、59階層を目指す前に冒険者依頼(クエスト)をこなしていく」

【ディアンケヒト・ファミリア】から引き受けた51階層『カドモスの泉』からの要求量の泉水を採取する。

報酬に見合うもので派閥の付き合いのある【ロキ・ファミリア】は無下にも出来ずにその依頼を引き受けた。

注文された泉水の量が厄介の為に二箇所を回らないといけないがここで無駄な時間をかけるわけにはいかない為に51階層には少数精鋭のパーティ二人組で速やかに採取して拠点(キャンプ)帰還することなった。

第一班:アイズ、ティオナ、ティオネ、秋夜。

第二班:フィン、ベート、ガレス、ラウル、ルフェル。

少数精鋭ということもあって第一級冒険者で固めたこの編成に誰もが反対の声をあげないなかで秋夜がフィンに声をかける。

「フィン、俺は今回は防衛に回してくれ」

「どうしてだい?」

「理由は二つだ。一つは万が一の備えだ。ここは安全階層(セーフティポイント)とはいえダンジョンであることは変わりない。残る第一級冒険者がリヴェ一人だけだと危険だ。今のリヴェは精神力(マインド)が少ないからな」

「もう一つは?」

「未到達階層の開拓でないのならここは下の者に経験を積ませてやりたい。せっかくの深層だ。ここで下の者に経験を積ませて成長させたい。ということでレフィーヤ、お前が行け」

「え、わ、私ですか!?」

突如振られたレフィーヤに視線が集まる中で秋夜は笑みを浮かばせながら言う。

「当り前だろ?お前とルフェルはリヴェの後釜だ。ここで少しでも経験を積んでさっさと成長して俺とリヴェを労わってくれ」

「お父様、もしかしてサボりたいだけではないのですか?」

「全部は否定しない……」

ルフェルの疑惑の眼差しに視線を逸らす秋夜にリヴェリア達は嘆息する。

「秋夜の言うことはともかく……レフィーヤ、お前に足りないのは自信と経験だ。行ってお前の魔法でアイズ達を助けてやってくれ」

「は、はい!」

リヴェリアの言葉もあってレフィーヤは行くことを決意するがフィンは困ったように腕を組んでいた。

第一班が不安過ぎる。

戦闘狂が二人にそれ以上に凶暴なのが一人、格下のレフィーヤというパーティ。

アイズ達の手綱を握るという意味で秋夜をアイズ達に加えたフィンだが、秋夜の言うことも一理ある。

しばし沈黙を連ねた後、フィンは顔を上げる。

「ティオネ、君だけが頼りだ。ボクの信頼を裏切らないでくれ」

「――――お任せくださいッッ!!」

フィンにぞっこんのアマゾネスの少女はその台詞に大歓喜しながら了承する。

 

 

 

 

 

 

 

51階層は『深層』では珍しい迷路構造を取っている。

計られたような作られた規則正しい地下天然の通路がいくつも曲がり角や十字路を形成している。

その迷路構造に二班として編成されたフィン達は『ブラックライノス』と交戦していた。

「ヌンッ!」

「オラッ!」

大戦斧と蹴撃で粉砕していくガレスとベート。

その後方でフィン達が後に続いている。

「流石はガレスさん達ですね。私達の出番がありません」

「そうだね。だけどこの先にいるカドモスには君の魔法が必要だ。頼りにしているよ?」

「はい。いつでも詠唱を始められるように心得ています」

「流石はあの二人の娘だね」

微笑を浮かべながら僕も結婚して子供がいてもいい歳なんだけどな、と愚痴をこぼすフィンにルフェルは苦笑する。

見た目は美少年でもその中身は既に四十過ぎのアラフォーである。

「お、落ち着いているっすね。自分は怖くて仕方ないっすよ……」

サポーターとしてフィン達と行動しているラウルはLv.4の第二級冒険者なのだが、凄まじすぎるフィン達と共にいる為か自身に自信を持てないでいる。

「常日頃からお母様より何事にも揺るがない精神『大木の心』を持てるようにと教わっていますから」

魔導士が必要する『大木の心』を幼い頃からしっかりと母親であるリヴェリアに教わっているルフェルはこの深層域でも揺らぐことはない。

「本当に成長してくれて僕も嬉しいよ。子供の頃の君はいつもリヴェリアの座学から逃げていたのを懐かしく思う」

「えっ?そうなんすか?」

「そ、その話はいいではないですか……」

昔話を持ち出されて頬を朱色に染めるルフェルも幼少期はきついリヴェリアの座学から逃げていた頃もあった。

「おい、なに暢気に話してやがる!さっさと終わらせるぞ!」

前方から戦闘が終えたベートの喝が飛んできてラウルは慌てて倒れているモンスターから魔石を回収する。

魔石の回収を終えていよいよカドモスがいるルームという広間に近づくと戦闘前の最後の確認を行う。

「定石通り、僕、ガレス、ベートの三人でカドモスを抑える。ルフェルは魔法の詠唱が済み次第教えてくれ。ラウルは僕達の支援を頼むよ」

フィンの言葉に真剣な表情で頷き返すと総員突撃する。

「行くぞ!」

ルームに突貫するフィン達にカドモスはフィン達の存在に気付き、吠える。

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』

戦闘が開始する。

「【大気に漂う水は我が名のもとに集う】」

フィン達がカドモスを抑えているうちにルフェルは詠唱を開始した。

詠唱を進むにつれて足元に展開されている翡翠色の魔法円(マジックサークル)は輝きを増していく。

「【森を潤し、大地に癒しを与える生命の奇跡をここに顕現せよ】」

ルフェルの綺麗な声音が戦場に響き渡る。

母親であるリヴェリアに負けず劣らずの魔力にフィン達も自分達の後ろには長きの間共に戦ってきたリヴェリアがいるようだと錯覚してしまう。

『―――――オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』

「まずいッ!?」

カドモスがガレス達を押しのけ強引に狙いをルフェルに定める。

「チッ!」

舌打して疾駆するベートは蹴撃をカドモスの側頭に叩きつけて動きを止める。

「【集結し、凝縮して渦を巻け。森を穢すものに鉄槌を下せ】」

魔法円(マジックサークル)が拡大し、カドモスを補足する。

「退避!」

フィンの号令にベート達は一斉にカドモスから離れると詠唱が終えたルフェルは純白の杖を振り上げて魔法を発動する。

「【ウォルテックス・プルウィア】!!」

魔法円(マジックサークル)から放出する大洪水がカドモスを呑み込み水圧の力によって圧殺する。

魔法円(マジックサークル)によって補足した対象を魔法円(マジックサークル)から放出する大洪水によって呑み込み強力な水圧によってその身を押し潰す。

階層主を除いて現在発見されているモンスターの中で最強と称されるカドモスといえどルフェルの魔法に耐えることは出来なかった。

「ふぅ、ご苦労様。ラウル、今の内に泉水の採取を頼む」

「は、はいっす!」

泉水の採取をラウルに任せると息を吐いて呼吸を落ち着かせるルフェルに歩み寄る。

「お疲れ、精神力回復薬(マインド・ポーション)は必要かな?」

「いえ、大丈夫です」

「よくやってくれた。お主もだいぶリヴェリアに近づいたのではないか?」

「ハッ、そう簡単に追いつかれるタマかよ、あのババアが」

笑うガレスに毒を吐くベート。

無事に冒険者依頼(クエスト)が終えられると安堵するフィン達に突如、そのモンスターは襲いかかってくる。

 

 

 

 

 

 

50階層で拠点(キャンプ)でリヴェリアは瞑想を行い、精神力(マインド)の回復に努めていた。

「おーい、リヴェ」

「……秋夜か。見張りはどうした?」

「下の者達がしてくれている。どうやら俺は人望があるらしいぞ?」

「お前に見張りをさせるぐらいなら自分でしたほうが安心だとでも思われたのではないか?」

「………いや、そんなことはないぞ?」

「では、頬についている食べかすと後ろに隠している菓子はなんだ?どうせ寝転びながら適当に見張りをしていたのだろう?」

「うっ……流石は俺の妻だぜ」

後ろに隠していた極東の菓子である煎餅を出してリヴェリアの隣に座ってぼりぼりと音を立てながら食べ始める。

そんな秋夜を一瞥して呆れるようにリヴェリアは息を吐いた。

「全く、少しは自分の立場を考えたらどうだ?」

「問題ねえよ。アリシア達はしっかりしているし、これぐらいは許す器量もある。多少はふざけた奴がいたほうが下の者達は自分がしっかりしないとって気張るだろう?俺がふざけることで下の者達の器量を大きくしているのさ」

「何だ、その強引な論法は。ではルフェルにそのことを私から話しておいてやろう」

「……それは勘弁してくれ。最近、ルフェルの説教がリヴェに似てきてキツイんだぞ」

本当に嫌そうな顔をする秋夜にリヴェリアはまた嘆息する。

自分の夫ならもう少ししっかりとして欲しいがこの男はひょいひょいと躱して聞き流してしまう。

この駄目夫をどう矯正させようかと真剣に悩んだ時期もあった。

「ルフェル達もすっかり大きくなったな……」

「……そうだな。秋夜、お前はやっぱりルフェルには剣士として歩んで欲しかったか?あの子には剣術の才覚もあるだろう」

ルフェルは剣士としても魔導士としてのどちらの才覚も持って産まれて来てその二つの道を選ぶことが出来たが、ルフェルは魔導士としての道を選んだ。

故に主にリヴェリアがルフェルに魔導士としての心構えなどを教えてきた為に秋夜が教えることは少なかった。

「ルフェルが自分で選んだ道だ。親がどうこう言うものじゃない」

導き、子の背中を押してやるのが親の務めだ、と告げる秋夜にリヴェリアは本当にこの男はと内心で呟く。

ふざけているようで本当はしっかりと仲間達の事を見て、考えている。

それを少しでも団員達に見せれば少しは娘に叱られることもないはずなのに。

「それにこれ以上脳筋が増えるのもどうかと思うしな」

「………」

その言葉にリヴェリアは何も言えなかった。

首領陣を除く第一級冒険者はルフェルを除いて全員が脳筋と捉えていいだろう。

今後の【ファミリア】のことを考えればルフェルが魔導士の道を歩んでくれてよかったと心から思った。

「次世代の為に二人目作っておくか?リヴェ」

「……馬鹿者」

微笑を浮かべながら告げる秋夜の言葉にリヴェリアの耳は薄っすらと赤くなる。

「俺的には―――」

「うあああああああああああああああああああああああああッッ!!」

「「っ!?」」

談話している二人の耳に悲鳴が届いた。

二人はすぐに悲鳴がした方に駆け出すとその光景に眼を見開く。

「なんだ……あれは……」

そこには見たことのない新種のモンスターの大群が押し寄せて来ていた。

全身を占める色は黄緑。ぶくぶくと膨れ上がった柔らかな緑の表皮にところどころ濃密な極彩色が刻まれている芋虫型のモンスターが拠点(キャンプ)を襲っていた。

「副団長!秋夜さん!新種です!突然襲われて反撃して斬りかかってもそこから腐食液を出します!」

団員の一人が二人に状況を報告すると秋夜は愛刀を鞘から開放する。

「リヴェ、指揮を任せる。現状であのモンスターを抑えられるのは俺だけだ」

「ああ、アイズ達が戻ってくるまで―――」

「持ち堪える必要はねえよ」

愛刀を持って駆け出す秋夜は新種に突貫すると同時に超短文詠唱を口にする。

「【流水よ(リクイド)】」

詠唱を唱えた秋夜は魔法を発動して新種に斬りかかる。

「【イードル】!」

得物と自身に水流を身に纏って新種を断斬する。

「通じるな」

水を纏った秋夜は次々と新種を斬り伏せていくなかでリヴェリアは団員達に指示を飛ばす。

「秋夜がモンスターを抑えているうちに密集陣形を作れ!弓使い(アーチャー)は秋夜の支援!私を含めた魔導士達は詠唱を開始する!」

「さっすが、俺の妻。指示が的確だなっと」

笑みを浮かばせながら新種を切り裂く秋夜に新種は腐食液を秋夜に向けて放出するが流れる水に覆われている秋夜には届かない。

「悪いが俺とお前達とでは相性は悪いようだ」

秋夜の付与魔法(エンチャント)【イードル】の属性は水。

武器と体に水を纏わせていかなる攻撃も受け流し、水を纏ったその刃は固い甲殻を持つモンスターでさえ紙のように切り裂く。

アイズが持つ風の付与魔法(エンチャント)のように高速で動くことはできないが、攻撃力はアイズの風を上回る。

突貫してくる新種の体当たりを右腕一本で受け流して他の新種に当て、次々と切り裂いていく秋夜の姿を見て窮地に陥っている団員達は落ち着きを取り戻し陣形を形成していく。

普段はどうしようもない人でも窮地に陥っている時はこれ以上にないぐらい頼りになる。

それが秋夜・リヨス・アールヴという人間(ヒューマン)だ。

「さぁ、根性見せろよ!お前等!」

愛刀を片手に団員達に喝を入れる。


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