ロキ・ファミリアに父親がいるのは間違っているだろうか 作:ユキシア
「ほれ」
「わわっ!」
秋夜は中庭で団員達を鍛えていた。
アイズがLv.6に【ランクアップ】に触発されていつもよりも多くの団員達が鍛錬に励んでいる。
今も双剣で攻撃してくるナルヴィを簡単にあしらい、地面に転がせた。
「まだまだ動きに無駄があるぞ? もっと自分の動きに注意しろ。次」
「よろしくお願いするっす!!」
「よし、抜くか」
「なんでっすか!?」
ラウルの番になると秋夜は腰に携えている愛刀を鞘から解放し、ラウルは悲痛の叫びを上げた。
「秋夜さんはどうして自分にはそんなに厳しいっすか!?」
「いやだって愛娘に近づこうとする害虫は排除しておいたほうがいいだろう?」
「そんな至極当然のように言わないで欲しいっすよ!!」
当たり前のように話す秋夜にラウルはもう涙目で叫ぶ。
秋夜の娘に対する溺愛ぶりはラウル達も身を持って知っている。
このままでは殺されてしまう。
その時。
「秋夜さ~ん! ロキが呼んでますよ~!」
「チッ……………わかったすぐ行く。んじゃ悪いが訓練はここまでだ。お前等もあまりやり過ぎるなよ?」
「ちょっと待って欲しいっす!? 今の舌打ちはなんすっか!?」
レフィーヤに呼ばれて秋夜は中庭から離れていくその背後からラウルが何か叫んでいたような気がするが、気のせいだろう。
レフィーヤから事情を聞いて探索の準備を終わらせると、ホームの正門前にはロキの他にもディオニュソスとその眷属フィルヴィスがいた。
「よぉ、フィルヴィス」
「お久しぶりです。秋夜さん」
声をかける秋夜にフィルヴィスは小さく頭を下げて挨拶する。
「えっと……………」
「ああ、レフィーヤは初めてだったな。【ディオニュソス・ファミリア】の団長を務めている【
「あ、はい! よろしくお願いしますっ! レフィーヤ・ウィリディスです!」
「ついでに言うとフィルヴィスは『魔法剣士』だ。レフィーヤにとってもいい勉強になるぞ?」
「あ、あの……………秋夜さん、私なんか貴方に比べれば……………」
秋夜の紹介に憧れと羨望の眼差しを向けているレフィーヤだが、当の本人は困惑する。
「何言ってんだ? 褒め言葉は素直に受け取るもんだぞ。お前は魔法も剣の腕も大したもんだ。俺が保証する」
ポンポンと親しそうにフィルヴィスの頭に手を置く秋夜にフィルヴィスの顔は赤く染まる。
その反応にレフィーヤは驚いた。
エルフは排他的で潔癖だ。故に他種族との肌の接触は許さないという風習がある。
それなのにエルフであるフィルヴィスは嫌そうな顔を見せず…………いや、むしろ嬉しそうにしている。
その顔は一言で表すのなら『恋する乙女』。
そう悟ったレフィーヤは雷にでも打たれたかのようにある衝撃に打ち響かせた。
――――う、浮気!?
リヴェリアという妻と娘がいながら自分と歳も変わらない
そこまで考えてレフィーヤ勢いよく首を横に振る。
いやいやいや、まさかと。常日頃から毎日毎日と妻と娘の話を振ってくる秋夜に限ってそんなことはあるわけがない。
「あ、あの、フィルヴィスさん。よろしくお願いします」
レフィーヤはフィルヴィスに挨拶として握手しようと手を差し伸ばすが、フィルヴィスは一度その手を見て、踵を返した。
「……………そろそろ行きましょう」
そのまま
「あ、あの…………私、何かしたのでしょうか?」
「あー、安心しろ。別にレフィーヤだからってわけじゃない。フィルヴィスには少し訳アリでな」
そんなレフィーヤを励ますように肩に手を置いた。
「事情は行きながら話す。出来ればフィルヴィスと仲良くしてやってくれ」
「は、はい……………」
戸惑いながらも頷くレフィーヤの頭を一度撫でてから二人も24階層に向かったアイズを追う。
アイズを追う秋夜達は18階層にある『リヴィラの街』でアイズの情報を集めていた。
24階層にいるとわかっていてもダンジョンは広大。
闇雲に探さず、『リヴィラの街』で目撃情報を集めていた。
集めた情報でアイズは金に糸目をつけずに買い物をし、尚且つ怪しいフードを被った集団と共に行動をしていた。
酒場でアイズに関する情報を碌に見つからず、秋夜は酒場を出ようとした時。
「【剣姫】を探してるって…………あんたら【ロキ・ファミリア】か?」
不意に酒場のテーブルに腰を下ろしている
「なに今頃のこのこやって来てんだ? 下は酷ぇもんだぞ。そこら中モンスターだらけで……………」
男はジョッキをテーブルに叩きつけて喚いた。
「オレの仲間もほとんど死んだ! オレの目の前で食い殺されたんだ!!」
目尻に涙を溜めた男には両足がなかった。
「見ろ! この体でこれからどうすりゃいいんだよ!!? やっとLv.3になれたっていうのに……………ちくしょう………ちくしょう」
今の24階層はモンスターに溢れ返っている。
この酒場にいる冒険者達の殆どはその被害者なのだろう。
「都市最強派閥だの、えらそうにふんぞり返って! いざとう時クソの役にも立たねぇ!! お前らそれがわかってんのかよ!?」
「そ…………そうだ! てめーらが地上でちんたらしているからこんな事になったんだ!」
「責任取れ! 責任!!」
「この期に及んで人捜しだ? ふざけんな!!」
「オレらばっかり苦しい想いさせやがって!!」
「弱者をいたぶって楽しいか!?」
「とっとと何とかして来いよ!!」
「いつもいつも好き勝手やりやがって!!」
男の言葉に続く様に酒場にいる冒険者達の恨み言、嘆き、責任の押し付けなどが悪意となって襲いかかってくる。
それに戸惑うレフィーヤに表情を険しくするフィルヴィス。
すると―――。
ドン! と響いた音が酒場を震わせた。
「喚くな」
愛刀を床に突き刺し、峻烈な眼差しに変わる秋夜の纏う空気が変わり、短く発した言葉に叫び散らしていた冒険者達の声が止まった。
「これを見ろ」
秋夜は今は無い左腕を見せつけるように突き出すと言葉を紡いだ。
「見ての通り俺は隻腕だ。このあったはずの左腕はモンスターに喰われた」
リヴェリアを守る為に左腕を犠牲にした。
「これまでの冒険で俺達も仲間を失ったこともある。腕や足を失くした奴も、心に傷を負って【ファミリア】から出て行った奴もいる」
「だけど、それでも俺はここにいる。Lv.6まで昇り詰めて、オラリオ最強の剣士とまで呼ばれるようにまでなった」
「己の命をかけて 仲間の命を背負って、俺は刀を振り続ける」
秋夜は自身の胸を叩いて冒険者達に告げる。
「俺のここにあるのは決して揺るがない覚悟だ」
愛刀を鞘に納めて、こつこつと足音を鳴らして酒場の出口に足を動かす秋夜についていくレフィーヤとフィルヴィス。
秋夜は静まり返っている冒険者達に振り返ることなく、言った。
「命をかける覚悟も、それを背負う覚悟もない者はこれを機に冒険者を辞めろ」
最後にそれだけを告げて秋夜達は酒場を後にする。
「さて、次はボールスのところに行くぞ」
「あ、はい……………」
いつものレフィーヤが知っている秋夜に戻ったことに安堵するも思った。
この人はいったい何を想い、考え、悩み、その場にいるのだろうか?
大抵の冒険者は身体が欠損すればダンジョン探索は厳しくなるので冒険者を辞めるのが当たり前だ。
今だったら【ディアンケヒト・ファミリア】で義手をつけることで冒険者を続ける者もいるが、秋夜は隻腕のまま。
勿論、それでも秋夜が強いということはレフィーヤも嫌というほど知っている。
でも、そこまで辿り着くまでどれほどの苦悩したのかレフィーヤは知らない。
―――きっと、この人の強さは……………。
実力や剣の腕だけではないのだろうとレフィーヤは思った。