ロキ・ファミリアに父親がいるのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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吉報

【ロキ・ファミリア】本拠(ホーム)、黄昏の館には、一人の客人が通されていた。

場所は手狭な通路に面した応接間だ。身内では談話室としてもよく利用されている。

部屋にいるのは六人。

アイズ、ロキ、リヴェリア、秋夜、ルフェル、そして訪客であるハーフエルフの女性。

リヴェリアの知人でギルド職員である彼女、エイナ・チュールはとなる件で詳しい事情を知っているロキのところへ訪れた次第。

それは【ソーマ・ファミリア】は製造している酒、神酒(ソーマ)に依存症があるのかという調査だ。

リヴェリアは酒に詳しいロキと自分の夫である秋夜を呼んでそのことを聞いた。

結論から言えば依存症はない。

ただ単に美味過ぎるのが原因だった。

感動し、打ち震えて、もう一口と飲みたくなる。

【ソーマ・ファミリア】の団員はその神酒(ソーマ)の完成品をもう一度味わいたいが為に金に執着している。

「美味い酒に溺れているとも言えるがな」

グラスに注いだ神酒(ソーマ)の失敗作を飲む秋夜をエイナは注視する。

オラリオ最強の剣士と名高い秋夜・リヨス・アールヴ。

エルフが祟敬する王族(ハイエルフ)であるリヴェリアを娶った人間(ヒューマン)とエルフの中では畏敬と憎悪の存在とされている。

畏敬は純粋な秋夜の実力を認めている者が多く、憎悪は祟敬する王族(ハイエルフ)を誑かした不遜な輩と憎む者も少なからずいる。

「秋夜、客人の前だ。それぐらいにしておけ」

「せっかくの神酒(ソーマ)なんだ、もう一杯だけ」

「いけません」

娘に神酒(ソーマ)を取り上げられて後一杯と娘にせがみ、その夫の姿に呆れるリヴェリア。その光景は親子の日常のようでエイナは思わず頬を緩めてしまう。

「ほれ、アイズぅ。自分、いつまで落ち込んでんねん」

と、立ち上がったロキが声をかけてくる。

「そや、【ステイタス】更新しよ? 帰ってきてからまだやっとらへんやろ? な?」

「………わかりました」

見かねたように提案してくる主神に、アイズはのろのろと頷いた。

「フヒヒ、久しぶりにアイズたんの柔肌を蹂躙したるわ………!」

「変なことしたら斬ります」

「えっマジで?」

女好きの主神に釘を刺しながら応接間を後にする。

「そういえばリヴェ。体調の事で話があるって言ったよな? どこか悪いんならアミッドのところかミアハ様のところに行ってこいよ」

「お母様どこか体調が悪いのですか?」

夫と娘が心配そうに声をかけるがリヴェリアは首を横に振る。

「心配するな。体調が悪いという訳ではない」

リヴェリアの言葉に怪訝する秋夜とルフェルにリヴェリアは笑みを溢しながら自身の腹部に手を当てる。

「二人目だ」

その言葉にこの場にいる者は固まった。

秋夜の手からグラスが地面に落ちて、正気になると秋夜は体を震わせながら再度聞いた。

「リヴェ………それって………」

「ああ、私の中にお前の二人目の子供がいる」

慈母のような微笑みを浮かべながら自身の腹部を優しく撫でるリヴェリアにエイナは思わず手を口に当て、ルフェルは口を開けて呆然とし

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!」

 

「アイズたんLv.6キタァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

大音声の歓声を上げる秋夜とアイズの【ランクアップ】に放つロキの歓声が奇跡的に重なった。

二つの吉報がホーム内に響き渡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の朝、【ロキ・ファミリア】本拠(ホーム)ではリヴェリアの妊娠とアイズの【ランクアップ】の話題で持ちきりになっていた。

「おめっとさん。秋夜、リヴェリア」

「おめでとう、秋夜、リヴェリア」

「めでたいのぅ、儂からも祝福の言葉を送らせてくれぇ。秋夜、リヴェリア」

派閥の首脳陣は首領の執務室に集まり、祝いの言葉を二人に述べていた。

新しい家族がリヴェリアのお腹の中にいる。

そのことが秋夜は嬉しくて、飛び跳ねたい気分だ。

「ありがとう、皆。俺はもう嬉しくて涙が出てきそうだ………」

目頭を押さえる秋夜にリヴェリアは苦笑を浮かべる。

「ルフェルが私の中にいる時は見るに堪えなかったな………」

「あったなー。秋夜、嬉しさのあまり涙と鼻水で顔がぐしゃぐしゃやったもんなー」

「アハハ、そうだったね」

「そうじゃったの」

「その事は忘れろ!!」

愛娘も知らない秋夜の黒歴史を晒されて珍しく赤面して叫ぶ秋夜に可笑しそうに笑みを溢すフィン達。

「秋夜とリヴェリアの二人目の子供か………。僕達も歳を取ったものだ」

「そうじゃの。二人を見るとそう思えてくるわい」

結成当初から共に過ごしてきた二人に感慨深く頷くフィン達は時の流れを感じさせる。

「フィン達もはやいとこいい嫁さん見つけへんとな~」

からかいの声を飛ばしてくる主神に苦笑を浮かべながら同意をするフィンに顎を擦るガレスはロキから視線を逸らした。

「よっしゃ!! 秋夜、リヴェリア! 子供の名前はうちに任せとき!! 今度こそうちがいい名前を授けたる!!」

「秋夜よ、今度は儂が決めさせてはくれんか? 名付け親になってみたいわい」

「僕からもいいかな? いい名前を考えておくよ」

「馬鹿者。まだ産まれてもいないのに気が早いぞ」

新しい家族の名前を決めようと奮起する首領陣を窘めるリヴェリア。

まだ妊娠が分かっただけで、出産までは数ヶ月先の話だ。

「さて、そんなら始めようか。極彩色の『魔石』にまつわる話。最近どたばたしとったし、詳しい情報交換しとこ」

滑稽の笑みを浮かべながら机の上に乗りながらロキは告げる。

最近では都市(オラリオ)には不穏な動きが表面化し、身内(ファミリア)の者にも被害が及んでいる一連の事件にロキ達は本腰を入れて向き合い始めた。

互いに得た情報を交換する中で秋夜が例の赤髪の調教師(テイマー)の事を話した。

「ルフェルがアイズから聞いた話によると、例の赤髪の調教師(テイマー)は、アイズのことを『アリア』と呼んでいたみたいだ」

その発言に、フィン達のみならずロキも目を見張る。

「間違いないのかい? 秋夜」

「愛娘が俺に嘘をつくわけねえだろう」

当然のように答える秋夜にフィン達の思考に同一の疑念が芽生える。

この場にいる四人とルフェルしか知り得ないことを赤髪の調教師(テイマー)はどうしてアイズの母親のことを知っているのか。

神々でも気付いているとしたらウラノスぐらいなもの。

更に気掛かりなのはアイズと母親(アリア)を間違えたことにも気になる。

敵の輪郭すらはっきりと見えてこないなか、フィンはアイズにも詳しい話を聞こうとハンドベルを鳴らす。

リンリンリン、と呼び鈴の音が響くと………秒を待たずドドドドドドという駆け足の音が本拠(ホーム)を震わせ、執務室の扉をバンッと開かれる。

「―――――お呼びですか、団長!?」

「アイズを探してきてくれないか。レフィーヤ達の手も借りて、ここへ連れてきてほしい」

「お任せください!!」

嬉しそうな表情で快諾し、勢いよくその場から姿を消すティオネ。

「………彼女に押し付け……贈られたんだ」

「……便利じゃの」

「愛されているな、フィン」

乾いた笑みを浮かべるフィンに苦笑する秋夜達。

「んー、じゃあアイズが来るまで暇やし、今度の『遠征』についてでも話しとくか」

次回の『遠征』――――【ロキ・ファミリア】のダンジョン『深層』における未到達階層の開拓は、既に二週間を切って十一日後に迫っていた。

「言わずともわかると思うけど、リヴェリア。君はしばらく遠征の参加は禁止だ」

「ああ、すまないが休ませて貰う」

妊娠しているリヴェリアに何週間もダンジョンに潜らせることなどできない。

しばらくはリヴェリア抜きで遠征を行わなければならない。

「秋夜。君にはリヴェリアの代理で副団長を務めて貰うよ?」

「ああ、任せろ。リヴェの分も働いてやる」

副団長代理を務めるようになった秋夜は感慨深く頷いてそれに応じる。

更に今回の遠征では【ヘファイストス・ファミリア】の鍛冶師(スミス)達も同行し、主戦力には『不壊属性(デュランダル)』の武器を新種対策で用意する。

後は『魔剣』も用意する今回の遠征に相当金が飛んでしまう。

『団長、ティオネです。よろしいでしょうか?』

「おっと、来たようだね」

話が区切りを迎えるちょうどにティオネ達がやって来たが、そこにアイズの姿はなかった。

「ダンジョンに、行ってしまったようです………一人で」

申し訳なさそうに告げられた言葉に沈黙する首脳陣。

長期探索から帰還して、まだ中一日しか空いていない。

「今から探しに行っても無理か………」

広大なダンジョンで見つけるのは難しい、と呆れる秋夜。

それからフィン達はティオネ達を連れて地下水路に向かい、ガレスは発注した『魔剣』を受け取りに行く。

「ルフェル。悪いが、リヴェの代わりに『遠征』の準備を頼む」

「わかりました」

妊娠している母親に代わって動く娘の表情はどこか嬉しそうだった。

弟か妹ができることがルフェルも嬉しいのだろう。

「さてリヴェ。俺達はこれから産まれてくる子供の為にも愛を育もう」

「お前はこれからラウル達を鍛える時間ではないのか?」

抱き着こうとする秋夜をひょい、と躱すリヴェリアに仕方なく中庭に向かう。

その後ろをついて行くようにリヴェリアも部屋から出て行くと残されたのはロキとレフィーヤだけだ。

「あ、あれ? えーと、私は……」

「んー、レフィーヤは、うちとお留守番でもしよか」

「あぅ」

置いていかれてしまったレフィーヤは首を前に折った。

 


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