ロキ・ファミリアに父親がいるのは間違っているだろうか 作:ユキシア
ダンジョン深層域37階層に秋夜はアイズ達と共に訪れていた。
ロキと共に情報収集をした日にアイズ達はリヴィラの街で食人花の襲撃を受けていた。
その騒動でアイズ達は地上へ帰還、ギルドにその事を報告して早くも六日が経っていた。
改めて借金返済の為にダンジョンに訪れたアイズ達だが。
「たくっ、どうしたんだ? アイズのやつ」
巨身のモンスター『バーバリアン』を張り詰めた表情で袈裟蹴りするアイズを見て、嘆息してぼやく。
「剣にムラがあり過ぎる。力の入れすぎだ。そんなに例の赤髪の
「私は直接は見てはいませんが、アイズは手も足も出なかったようです」
「なるほど……」
隣にいるルフェルからの説明を受けて納得する秋夜だが、アイズの様子からそれだけではないことぐらいは察している。
(今のアイズに何を言っても無駄か……)
負けただけではああはならない。それ以上の何かがアイズを動かしている。
「あの、団長、秋夜さん……アイズさん、大丈夫なんでしょうか?」
「まぁ、腹が減ったら飯でも食わせてやれ。腹が膨れれば落ち着くだろう。ほれ、俺特製の握り飯。レフィーヤも食え」
「う……きょ、極東の梅干し入りではないですよね?」
渡された秋夜特製の握り飯にレフィーヤは嫌そうな顔で受け取りながら僅かな希望に縋って中身の具材を尋ねると秋夜はにっこりと微笑む。
「当然。梅干し入りだ」
「…………しょぱい」
親指を立てて肯定する秋夜にレフィーヤは涙ながら握り飯を口にする。
嫌なら食べなくても、とラクタと呟いていたが、こういう律儀なところがレフィーヤの美点なのだろう。
「秋夜。何も話を聞いていないのかい? 一度辛酸を舐めさせられたくらいで、ああはならないだろう」
「無理だ。『何でもない』の一点張り。リヴェだったら何か話していたとは思うが」
困ったように目を細めるフィンに後頭部を掻きながら答える秋夜。
リヴェリアはここにはいない。
調子が悪いということで
仲間達を危険に晒す真似や、ティオナ達の会話にもはっきりと受け答えはするも、積極的にモンスターとの戦闘をこなしているアイズはどこか焦りが見える。
その表情はフィンや秋夜は何度も見てきた。
強くなることにアイズは焦っている。
「アイズ………」
幼い頃より共に過ごしていたルフェルもそんなアイズに気付いてどうにかしたいと思っている。
しかし、今のアイズに言葉が届くかと言われれば半信半疑もいいところだ。
その後もアイズは『スパルトイ』までも一人で倒してしまうほどの無茶ぶりを見せるなかでフィンは無理に留まる理由もないために地上へ撤収することに決まったその時。
「……フィン、秋夜。私だけまだ残らせてほしい」
不意にアイズはそう申し出た。
驚いて振り返るティオナ達の視線を浴びながら、その感情の乏しい表情は顔色一つ変えず、むしろ確かな意思を窺わせていた。
「食料も分けてくれなくていい。みんなには迷惑をかけないから。お願い」
常ならば大抵は状況に流されるアイズの主張に硬い意思にフィン達も驚く。
「ちょ、ちょっと~! アイズ、そんなこと言う時点であたし達に迷惑かけてる! こんなところにアイズ取り残していったら、あたし達ずっと心配しているようだよ!」
「私もティオナと同じ。いくらモンスターのLv.が低くても、深層に仲間一人放り出す真似なんてできないわ。危険よ」
真心から心配してくれる姉妹に、アイズは何も言い返せない。
「アイズ、本気ですか?」
歩み寄るルフェルの言葉にアイズは小さく頷く。
その固い意思表示にルフェルは小さく息を吐いてフィンと秋夜に視線を向ける。
「フィン、お父様。アイズの意思を尊重していただけませんか?」
「「ルフェル!?」」
ティオネとティオナの斉唱が響き渡る。
リヴェリアに似て無茶をするアイズを戒めると思っていたからだ。
「ンー………?」
「私も残ります。アイズの申し出に対する責任も取りますので」
「秋夜、君はいいのかい?」
「………愛娘のお願いを断る理由はない」
少し迷い、いや、心配の素振りを見せる秋夜の心境を見抜きながらもフィンは了承する。
「わかった、許可するよ」
「えぇ~、フィン~、秋夜も説得してよ~」
ほとほと不服そうな顔をするティオナが抗議の声を上げる。
「ルフェルが残るなら万が一にも間違いは起こらないだろうしね。逆に僕達の方が、帰りの道で危険な目に遭うかもしれない」
「私は攻撃と回復を器用になんかこなせませんからね、団長」
思い人の決定に逆らおうとしないが、その声音には少々棘があった。
「アイズさん、ここに残るんですかっ?」
「うん……我儘言って、ごめんね」
「あ、その、えっと………じゃ、じゃあっ、私も残ります! 絶対に足手纏いにはならないのでっ、サポーターをやらせてください!」
「あ、それならあたしも残るー! 何だ、簡単じゃん!」
「物資が残っていないって言ってんでしょ。二人分ならまだしも、三人も四人も分け合う食糧と水は、アイズ達にも私達にも残ってないわよ」
「「うう~~~~~~~~~っ………」」
ティオネの指摘に、レフィーヤとティオナの首が仲良く惨たらしく折れた。
アイズの周りで騒いでいる娘達を眺めている秋夜にフィンが声をかける。
「君が残らなくていいのかい?」
「残りたいに決まってんだろう。誰がアイズを鍛えたと思ってる。それに愛娘に何かあればと心配でならん」
本音をぶちまける秋夜。
「だが、今のアイズを止めてもどこかで必ず爆発する。それにルフェルなら俺よりも上手く立ち回れる。最悪、三つ目の魔法の使用も許可している」
「流石、お見逸れするよ」
既に対策は施している秋夜は自身の愛刀を握る。
「フィン、アイズとルフェルの分の責任は全て俺が取る」
「ああ、知っているさ。君がそういうことを言うことはね」
長い付き合いだ、と口にするフィンに秋夜の瞳は娘達を見据えている。
それは子を見守る親の目線だ。甘いということぐらいは自覚している。
心配で心配で心臓がはち切れそうだ。
でも、ここに残るのは自分ではなくルフェルの方が良い。
最悪の展開が起きても十分に回避できるからだ。
例えそれが、階層主と戦うことを知ったとしても秋夜は残ることはしない。
もし、アイズが死にかけたら秋夜は迷うことなく刀を抜いて階層主を倒してしまう。
それではアイズの成長を妨げる結果となる。
更なる強さを求めているアイズにとって秋夜は邪魔なのだ。
それを秋夜自身自覚して、ルフェルも気付いている。
だから、アイズと
撤退準備を整えて、アイズとルフェルを残して秋夜達は別れる。
「そうか……あの子たちが」
「ああ」
「まったく、お前のそういうところは変わらんな」
呆れ、だけどどこか嬉しそうに微笑むリヴェリア。
普段は娘に激甘な秋夜でも訓練の時は厳しくなる。
それは実戦でも同じだ。自分を律して厳しく鍛えることで生きる強さを身につけさせる。
それでも娘たちに対する甘い感情がないという訳ではない。
危険が迫れば助けにいく秋夜でも本人が強くなることを望むのなら秋夜は手を出さない様にする。
優しさと厳しさを割り切れたらいいのだが、秋夜はそれを完全に割り切ることが出来ない。
だから秋夜はあの場を離れるも心配してこうして二人が無事に帰ってくるのを待っている。
普段は見られないそわそわとする秋夜の姿にリヴェリアはつい笑みを溢してしまう。
「そんなに心配ならあの場でなくてもリヴィラの街で待っていればいいだろう?」
「ちゃんとお帰りって言ってやりたいんだよ」
ちゃんと無事に帰って来た娘たちにお帰りの一言を言いたくて秋夜はきちんと我が家に帰って来た。
妙なこだわりを持つ我が夫にリヴェリアはおかしくて溜まらない。
「では、私も待つとしよう」
「体調は大丈夫なのか?」
「ああ、それについては後で話そう。今は私達の娘達が帰ってくるのを私も待ちたい」
「そうか」
愛妻の言葉にそれ以上は何も言わず、二人はアイズ達が帰ってくるのを待ち続けた。
後に二人は知る。
落ち込んでいるアイズに困ったように笑うルフェルが
それに怒ったアイズは子供のように頬を膨らませて二人をポカポカと叩いてルフェルはあはは、と苦笑していた。