ロキ・ファミリアに父親がいるのは間違っているだろうか 作:ユキシア
「はぁ~、めんどい………」
「自業自得だ。自分の仕事を疎かにするからそうなる」
溜まりに溜まった仕事を終わらせる為に
「俺も愛娘たちと一緒にダンジョンに行きたかったぜ………」
「なら普段からしっかりと済ませていろ」
愛妻からのごもっともな意見にぐうの音も出ない秋夜。
アイズとティオナの武器の借金返済の為にルフェル、フィン、レフィーヤの三人はそれに付き合って共にダンジョンに潜っている。
第一級冒険者が使用する武器の値段も通常では済まされない。
己の力量にあった武器を使用する為にその性能も値段も一級品だ。
秋夜の持つ愛刀『刹那』や前に椿に打って貰った『
しかし、それだけの物を使わないと深層攻略は不可能なのだ。
「リヴェはいかなくてもよかったのか?」
「私が行けば誰がお前の面倒を見ると思ってる? それにあの子がいる以上は問題はない」
「まぁ、それもそうか」
二人の話に出てくるあの子は当然自分達の娘であるルフェルを指す。
自慢の娘がいれば自分の代わりぐらい容易に務められる。
「………秋夜、お前はあの子のことについてどう思う?」
「そりゃ、天才だな。比喩抜きでルフェルは強い」
「やはり、そう思うか……」
オラリオで誇る最強の魔導士と剣士が認める程にルフェルは天才だ。
親目線も当然抜いて過大評価も過小評価もなしで二人は自分達の娘を天才と告げる。
「ルフェルは
産まれ持って非常に高い素質を持って誕生したルフェルは紛れもない天才。
「剣技だけで言えば前衛顔負け、魔導士としてもお前に次ぐ腕前。いや、リヴェを越す
「アイズ同様にあの子にも驚かされるばかりだ………」
二人は自分達の娘に娘の
隠し事をするのはあまり好ましくはないが、慎重にならなければルフェルの成長を妨げる枷になり得る。
「まぁ、フィンも一緒にいる。フィンの指示もなしに二つ目以降の魔法は使わないだろうよ」
「それもそうか……」
ルフェルは既に魔法を三つ発現しているが、二つ目と三つ目の魔法は首領陣の許可なしで使用することは禁じられている。
それほどまでに強力で無慈悲な魔法だからだ。
「さて、と」
羽ペンを置いて秋夜はリヴェリアの腕を引っ張って自身の膝の上に置いた。
「い、いきなり何をする!?」
「ん? 仕事が終わったからリヴェを抱きたくなっただけだが?」
当然のように告げる秋夜の言葉に視線を机の上に向けると確かにそこにはするべき仕事がしっかりと終わっていた。
どうやら話を交えながらもその手は止めていなかったようだ。
「だ、だからと言っていちいち抱き寄せるな……!」
腹部に腕を回されて捕まったリヴェリアは離れようともがくが、離れられない。
「いいじゃねえか。夫婦なんだから」
「夫婦といえど突然抱き寄せていい理由にはならない!」
「の割には強い抵抗はないが?」
自分の膝の上で羞恥心いっぱいで離れようともがくリヴェリアだが、強い拒絶も抵抗もしていない。本気で離れたかったらとっくに秋夜の腕から離れている。
「リヴェは素直じゃねえな。いいんだぞ? 思う存分に俺に甘えても。リヴェがツンデレということぐらい知ってるから」
「誰がツンデレだ!? ロキのようなことを言うな!」
頬を朱色に染めて叫ぶリヴェリアに秋夜は微笑ましくリヴェリアを離さない。
このまま
「そ、それに………本気で嫌がるわけがないだろう………。私だってお前のことを………」
リヴェリアは耳まで真っ赤にして俯きながら小言でぼそぼそと告げるその言葉を秋夜は一字一句違える事なく聞いて秋夜の中で何かが爆発した。
「愛してるぞ、リヴェ」
「お、お、お前は―――んっ」
唐突の愛の言葉に言葉を投げようとしたが、途中でリヴェリアの声に艶が入る。
その原因は秋夜がリヴェリアの耳を甘噛みしたからだ。
「な、なに……も、こんな、んっ………ところでや、やめ………」
「本当にリヴェはここが弱いな、はむ」
「―――――っ!」
耳を甘噛み、舐められて蹂躙されるリヴェリアは歯を噛み締めて声を漏らさない様に必死に耐える。
だが、それが逆に秋夜の嗜虐心を擽られる。
「本当に可愛いな、リヴェは」
「こ、こんな昼間から……くっ」
せめて夜、と言いたかったが言わせない。
今は今、夜は夜で楽しませて貰うから。
いや、いっそこと昼夜問わずこのまま明日の朝まで。
「身体は正直だな、リヴェ。ほら、全てをお前の愛する夫に晒すがいい!」
もはやノリノリで秋夜は今の状況を楽しむ。
服に手をかける。
それだけリヴェリアは何をしようとするか察してそれだけは阻止しようと手を伸ばすが、力が入らない。
いつものように秋夜は虐めるのだろう。
優しく、甘く、時折意地悪に、だけどこれ以上にないぐらの愛を注ぎ込もうとする。
だから、身体が拒絶を拒んでいる。
頭では理解しても身体が求めている。
この男に全てを委ねろ、と。
「愛してるぞ、リヴェリア」
愛称ではなく、こんな時にちゃんと名前で呼ぶ秋夜に卑怯者と言いたかった。
抵抗という言葉すらリヴェリアの頭から消えていく。
「俺に任せな」
近づいてくる愛する夫の顔にリヴェリアは堅く目を閉じる。
接吻をされたらもう引き戻れない、だけど、抵抗も出来ない。
もう、全てを委ねるしかない。
「秋夜! ちょっと手伝ってえ………な……………あ」
勢いよく扉が開かれてそこに立っていたロキは見てしまった。
秋夜に抱き寄せられて恍惚な表情を浮かべているリヴェリアとロキを見て溜息を吐いている秋夜の顔を見てロキは察し、気まずそうに頭を掻いた。
「お、お邪魔したな~」
出て行こうとするロキにリヴェリアは正気を取り戻した。
己の見られたくない羞恥の場面を目撃されて今にも爆発しそうなほどに顔を真っ赤にするリヴェリアは拳に力を入れる。
「あ、やべ……」
怒りの許容範囲を容易に突破したことに気付いた秋夜は命の危険を察知した。
逃げようももう遅い。
今度はリヴェリアが秋夜の腕を掴んで離さなかった。
「こ、の……大馬鹿ッ!!」
「ふぐっ!!!」
怒りと愛に溢れた
弧を描く様に宙に浮き、床に倒れ落ちる。
「ふんっ!!」
「か、堪忍な~」
床に沈む秋夜にロキはバツ悪そうに謝った。
「お~いてて……たく、ロキ。どうして俺のリヴェの営みを邪魔する。これはお前の秘蔵の酒じゃねえと許さねえぞ?」
「だから堪忍やて! うちとて二人の邪魔をする気はこれっぽちもなかったんや!」
オラリオの大通りを歩きながら愚痴をこぼす秋夜にロキは謝り倒す。
二人が大通りを歩きながら今回の調べものを探る。
それは
食人花と呼んでいるそのモンスターを地上に放った者の正体を掴む為にロキは独自で調べまわっていた。
落とし前をつけさせる、それだけでロキが動くには十分な理由だ。
「その食人花を放ったのはフレイヤ様じゃねえのは俺も納得だ。あの女神様はちょっかいは出すけどイタズラに被害を広めることはしない」
「あの色ボケ女神も同じこといっとたで。てか自分、どうして騒ぎの犯人がフレイヤやということを黙っとたんや!」
「別に言うことでもねえだろう? ロキだって気付いたことなんだし」
「そりゃ、まぁな…………」
秋夜は騒ぎの犯人がフレイヤだということはロキには言ってはいない。
自分の主神ならそれぐらい探り当てるとわかっているからだ。
「ところで、ここか?」
「せや、残るはここしかないなぁ」
狭い路地にある石造りの小屋に足を止めてロキは分厚い木扉を開いくと二人は螺旋階段を下りていく。
そして、薄暗い地下に眠る下水道へと出る。
「どや? 秋夜」
「……ああ、何かいる」
剣士としての直感が訴え、秋夜は愛刀に手を伸ばす。
「前は俺が行く。ロキは俺から離れるなよ」
「ほいほーい」
下水道を進んでいく二人に魚のモンスター『レイダーフィッシュ』が襲いかかって来たが、秋夜が斬り捨てる。
進むにつれて下水道を調べていると、これまでに目にしたことのない鉄の扉が現れた。
年月を感じさせる古い両開きの門を開くとそこは旧式の地下水路。
浸水している通路の上流を進んでいくと『穴』があった。
「………派手にやられとるなぁ」
石材はぼろぼろに崩させ、大きく壊れた水路の壁面。水はそこから流れ出て、さまようように旧地下水路を巡っているようだ。
奥に進み、現れた幅広の階段を上るとすぐに一本道だった水路は開いた。
「ここは……貯水槽か?」
薄暗い広大な空間にやってきた二人。
「ロキ。下がれ」
鯉口から愛刀を取り出した秋夜はその先にあるものに視線を送った。
「いるぞ」
秋夜の言葉にずる、ずる、と何かを引きずられる音が届く。
そして、それは姿を現す。
黄緑の体皮に長大な体躯をくねらせて、絡み合った格好で出現する、複数の食人花のモンスターは大蛇のように這い寄り、毒々しい極彩色の花弁を広げ、牙が並ぶ醜悪な口を晒し、頭上高くから二人を見下ろした。
「これが娘達を可愛がってくれたモンスターか……」
愛刀を肩に担ぎながら闊歩する秋夜に食人花は咆哮を上げる。
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』
殺到する食人花の計三体は正面から押し寄せてくる。
「秋夜。一つ魔石取っといてー」
「了解」
殺到する食人花に暢気に声を飛ばすロキにそれを平然と答える秋夜に食人花は口を大きく開けて襲いかかる。
秋夜を喰おうとしたその瞬間に食人花は細切れとなった。
「俺を喰おうなんて百年早い」
細切れとなった食人花の魔石を拾ってそれをロキに投げ渡す。
「ほらよ」
「さっすが、オラリオ最強の剣士やな」
秋夜がしたのは簡単だ。
ただ、斬っただけだ。襲いかかってくる食人花を神速の速度で細切れにした。
「これぐらいアイズでもできる。さっさと地上に戻ろうぜ。俺は帰ってリヴェに土下座しねえといけねんだから」
「そやな~」
食人花を倒すよりもリヴェリアに許しを貰う為に土下座をしなければならない。
戦闘を終えた二人は収穫を手に取って地上に戻り、路地から街路へ姿を見せる。
人々の姿が多くなり、賑わうその街路の端を沿って歩いていると、横道に折れる町の一角で、とある神と遭遇した。
「んん? ディオニュソスか?」
「………ロキ?」
首まで伸びる柔らかい金髪に、微笑めれば異性は思わず蕩けてしまうだろう甘い
その側には黒髪の美しいエルフの少女が控えていて、その少女を見た秋夜は声をかける。
「よぉ、フィルヴィス」
「しゅ、秋夜さん………」
秋夜を見るその赤緋の瞳のようにフィルヴィスと呼ばれた少女の頬も赤く染まる。
「なんや? 知っとるんか?」
「まぁな。元気そうで何よりだ、フィルヴィス」
「い、いえ、秋夜さんの方もお変わりなく……」
色白の肌のせいか、頬が赤く染まっていることがよくわかる。
その光景を目撃した男神ディオニュソスは微笑み、ロキはその瞳に怪しい光を宿す。
「ところで、どうして地下水路にいたか、その理由を教えてくれないか?」
態度も口調も変わることなく、秋夜は決定的なことを問いかけた。