ロキ・ファミリアに父親がいるのは間違っているだろうか 作:ユキシア
大観衆の拍手と喝采が万雷のように鳴り響く。
闘技場内のアリーナでは、今まさに【ガネーシャ・ファミリア】の
「いやはや、いつ見ても凄いな……」
顎に手を置きながら先ほどモンスターを
モンスターを
にも拘らず【ガネーシャ・ファミリア】の精鋭は数々の妙技によってモンスターを従えさせている。
魅せるその動きにも舌を巻くばかり。
「本当に凄いですね」
隣に座っているルフェルも秋夜同様に感嘆する。
モンスターの
虎のモンスターの
「あの、すみません」
「うん?どうした」
次の
「お前等。今日はここまでだ。出るぞ」
「ちょっとどういうことよ?」
「先ほど何を言われたのですか?」
「モンスターが逃げてこの一帯をさ迷っている。手を貸して欲しいそうだ」
平然とした態度で不味いことをあっさりと告げる秋夜にティオネ達は目を見開いた。
「声を上げるなよ。一般人もいる」
声を上げそうになる前に続けて告げる秋夜達は普段と変わらない態度で闘技場を出て行く。
「お前等は組んでいけ。俺は一人でいい」
「ちょっとサボる気じゃないでしょうね?」
一人でどこかに行こうとする秋夜にティオネは半眼で問い詰める。
「非常事態にそんなことするかよ。実力差を考慮しても配慮だ」
「本当に?」
秋夜はLv.6でティオネ達はLv.5。そしてレフィーヤがLv.3。
確かに配慮するならこの秋夜は一人の方が良いのだが、ティオネ達は疑念の視線を秋夜に向ける。
戦えば確かに強くて頼もしいが、普段からの行いの成果もあってこの騒ぎに乗じて一人で酒でも飲みに行くのではないかと思っているのがティオネ達の正直な気持ちだ。
「まぁまぁ、ティオネ。もし、お父様がサボるようなことをすれば私がお母様に進言しておきますから」
「それなら安心ね」
「そうだねー」
「あはは………」
「………………マジ?」
ルフェルの言葉に安心するティオネ達に苦笑するレフィーヤだが、終夜はまるでこの世の終わりかのように絶句していた。
そんな父親にルフェルは言う。
「ですからお父様。しっかりとしてくださいね」
「わかったわかった。愛娘にそこまで言われたらお父さん頑張るよ」
愛娘に後押しされて秋夜はその場から姿を消した。
「……………」
顎に手を置いて思考を働かせるルフェルは今はその考えを置いてティオネ達に付いていく。
「何をしているのですか? フレイヤ様」
「あら、貴方なのね……」
人家の屋上にいる女神フレイヤの近くまで跳んできた秋夜は今回の騒ぎの元凶であるフレイヤに半眼で尋ねる。
「今回の騒ぎの原因は貴女ですよね? フレイヤ様」
「ええ、でもよくここがわかったわね?」
「気配を辿ればわかりますよ。特に貴女の気配は独特なのでよくわかります」
「ふふ、ご主人様の匂いを覚えたわんちゃんみたいね」
面白そうに微笑むフレイヤに秋夜は嘆息する。
「祭りに騒ぎがつきものなので俺は別に構わないのですが、今回は度が過ぎるのではありませんか? 下手をしたら一般人にまで被害が出ていましたよ?」
「それはないわ。お願いしたもの」
「でしょうね、貴女なら」
フレイヤは美の女神だ。
その美しさの前では誰もが例えモンスターであろうとも魅了されてしまう。
異常なまでの『美』、いや、『美』そのものがフレイヤなのだ。
理性では制御できないその力を使えば何人たりとも忘我の淵に叩き落されるだろう。
秋夜もそれを知っているし、目の前にいる女神は美しいと思っている。
リヴェリアとルフェルの次ぐらいに。
「貴方ぐらいよ? 私を前にして平然としていられるのは? ねぇ、秋夜。貴方、私のものにならないかしら? 満足いくまで愛してあげるわよ」
「遠慮しておきます。【ファミリア】の勧誘だとしてもロキには【ファミリア】を誘ってくれた恩義があります。よってロキには忠を尽くしますし、俺には心より愛している妻がおりますので」
「そう、残念だわ」
「可愛いですよ、リヴァ。普段の凛々しい姿もいいですが、二人きっりの時に見せる微笑みと初々しい反応に昨夜もついつい張り切ってしまうぐらいに」
「あらあらそれは是非ともこの眼で見てみたかったわ」
「それはご遠慮してください。その姿のリヴェを見ていいのは夫である俺だけなので」
愛妻自慢をする秋夜の言葉に微笑ましく耳を傾けると秋夜に告げる。
「なら、私があの子にちょっかい出すのもわかってくれるでしょう?」
「いくらルフェルが可愛くてちょっかい出したく気もわからなくはありませんが、我が愛娘に手を出すというのなら全面戦争もやぶさかではありませんよ?」
真剣な表情で今にも斬りかかる勢いの秋夜に今度はフレイヤが嘆息した。
「違うわよ。確かに貴方の娘も可愛いのは否定はしないけどね」
下に指を向けるフレイヤの先には白髪の少年、ベルが黒髪の女神、ヘスティアを抱えてシルバーバックから逃げていた。
「あらら、少年は数奇な運命の下にでも生まれたのか……」
シルバーバックから逃げているベルを見て思ったことを口にした。
少なくとも目の前の
可哀想に、と他人事のように呟く秋夜は踵を返す。
「それではフレイヤ様。俺はこれで」
「あらもういいの? せっかくだから一緒にお茶でもと思っていたのだけど」
「お誘いは嬉しいですが、それを知ったリヴェがヤキモチを焼いて俺を魔法で燃やしにかかりそうなので遠慮しておきます」
するか、戯け。とこの場にはいないリヴェリアの声が聞こえたような気がする。
ヤキモチを焼くリヴェリアも好きな秋夜だが、流石にリヴェリアの魔法で燃やされるのは避けたい。流石に死ぬ。
その場から去ろうとする秋夜は「ああ、そうそう……」と歩むのを止めて振り返る。
「フレイヤ様の【ファミリア】と【
剣呑な雰囲気を醸し出して最後に忠告と共に去って行く秋夜にフレイヤは頬に手を当てて恍惚の笑みを浮かべていた。
「あの子に夢中だというのに……いけないわぁ」
漆黒にだけど純白に、禍々しくてどこか清流のような趣を思わせる秋夜の『魂』を見てフレイヤは思わず呟いた。
「やっぱり、欲しいわねぇ………」
ずっと前から目を付けてちょっかいも出してはきた。
だけど、流れる水のようにことごとく回避してしまう。
手で水は掴めれないように秋夜も掴めない。
どんなに手を出しても秋夜を自分のものにするどころか、摑まえることさえできない。
だからこそ手に入れたい。
「私は諦めないわよ? 秋夜」
笑みを深めるフレイヤは今はもう一人の
秋夜の言葉を借りるのなら、彼もまた数奇な運命の下に生まれた存在なのだろう。
「ぶえっくしょん!!」
そうとは知らずに秋夜は盛大なくしゃみをした。
「………ずずっ、リヴェが俺に関する惚気でも言っているのか?」
盛大な勘違いである。