大虐殺の果てに   作:雪柳杏

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第1話

アルテリア・カーパルス占拠という偽りの依頼を『首輪付き』と呼ばれていたとある男が乗り越えた後、世界は荒れに荒れた。
その彼、『人類種の天敵』が駆るAC『ストレイド』により、クレイドルは次々と落とされていき、それを制圧しようと立ち向かったリンクスたちはその全てが返り討ちにされ、企業連はもはや機能を停止させるしかなかった。
それを受け、清浄な空に住んでいた者はもちろん、汚染された大地に生きている者も彼に恐れていた。そう、『首輪』の外れた最悪の獣に人類は対抗すらできなかったのだ。ただただ、耳目を伏せ、見つからないことを神に祈り、その災害が過ぎ去るのを待つしかなかった。

しかし、そんな彼でも一つ、どうにもできないものがあった。
それは彼自身の渇きである。
あの偽りの依頼を乗り越えた彼は名実ともに人類最強、世界最強、個人で世界を滅ぼせる存在になった。
しかし、彼は飢えていた。
闘争に、血潮が滾る闘争に、飢えていた。
しかし、個はもちろん、集団でも彼に拮抗できるものはもはやこの世界にいなくなっていた。
彼が、その手で全てを屠り、舞台から退場させた。
そうでなくても、彼が『人類種の天敵』と呼ばれる前に鎬を削ったのは、カラードのトップたちとオリジナルのリンクスの連合であり、企業連の最高戦力だったのだ。もはや、生半可なリンクスやAFでは満足できなくなっていたのだ。
そして、ついに企業連を機能停止に追い込んだ彼は、その日から渇きを持て余すようになったのだった。
もう、この世界に彼と闘争を行えるものはいない。その事実が、彼にとある終焉を過らせる。

『自殺』

そう、彼を殺せる他者はもはやいない。ならば、彼を殺せるのは彼だけなのだ。
闘争に生きた男は、闘争の果てに企業連解体を成し遂げ、世界を『彼の敵』という一つの勢力に押し込めることに成功したのだ。
『革命』は成功した。今の世界には企業も、リンクスも、AFも、兵器もない。
あとはこの世界を残された人類種に譲り、彼らの平和と繁栄を願い、その身をストレイドと共にこの世から消し去るだけ。

そして、彼はカーパルス、その跡地に降り立った。革命の終焉の場。自らの墓標は、保守派と革命派が共に眠るここしかないと考えていた。
自分の相棒だった男が良く口ずさんでいた曲を口ずさみながら、愛機のストレイドをコックピット内で一撫でする。
最後に、彼女が選んでくれた機体を労いながら、彼は自らの終焉を始める。
コックピットにいる彼は気づかなかったが、海に浮かぶストレイドの目から、一筋、雫が流れ落ちた。

瞬間、轟音と共にブースターを爆破させたことにより、ストレイドは推進力を失い、彷徨い続けた男と共に沈んでいった。

今から、説教されに逝くよ。

ああ、山ほど言いたいことがあるからな。この大馬鹿者め。



後日、全世界に彼の死が発信された。

『人類種の天敵、始まりの地にて没す』

地上では彼が死したことを喜びながら、復興が進んでいった。
そして、水底ではストレイドが彼の付けていた首輪を大事そうに抱え、沈んでいた。






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