雪の中の化け物【完結】   作:LY

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お久しぶりの投稿です。
これからは早めに投稿していこうと思っています。






第三話

喰種対策局にて

 

 

 

 

 

まだ十二月になったばかりだというのに、昨日は雪が降った。

 

そう言えば天気予報で早すぎる雪が降るかもしれないと言っていた。

 

 

 

「それで、昨日は結局何をしていたんだ?」

 

「人生という大海原をさまよっていまして…」

 

「そうか、どうやら君は私のファーストブリットを食らいたいようだな」

 

「ケガ人ですよ。勘弁してください」

 

 

 

今日も今日とて仕事なので俺は冬の寒さに耐えながら自分の職場まで足を運んだ。

 

だか到着して早々、俺たち以外誰もいない対策室でお説教を受けている。

 

 

 

「であれば答えるんだ。昨日は何をしていた、比企谷二等」

 

「ですから昨日お答えした通りですよ。平塚先生」

 

「先生はやめろ。それにそもそも私はお前の先生だったことはない」

 

「失礼しました。平塚准特等」

 

「准特等もやめろ」

 

 

 

目の前で足を組みながら座っている女性は俺の上司でパートナーの平塚静。

 

美人で強く、そして色々と残念で男っ気が全くないがいい人だ。

 

 

ちなみに“平塚先生”とは彼女がなぜか准特等と呼ばれるのを嫌がるので、元アカデミー教官だった事からそう呼ぶことにした。

 

まぁ彼女が言った通り俺の教官だった事は一度もないのだが。

 

 

 

「じゃあもう一度説明してみろ。昨日どこで何をしていたのか」

 

「まず夜中の一時頃に召集がかかったので行く準備をしました」

 

「そうだな、確かに召集はあった」

 

「しかしあまりの眠さに自宅のアパートの階段で転落。

そして運の悪い事に階段の鋭利な部分が俺の左腕をえぐり取りました。

そのため少し大げさですけど救急病院に向かい、手当てを受けてから家で安静にしていました」

 

 

「……やはり信じがたいな。君ほどの者がそのような事で大けがをするなんて」

 

 

 

平塚先生は椅子に深く腰掛け、内ポケットから煙草を出す。

 

 

 

「そう言われましても、これが真実なので」

 

 

 

俺に返事を聞いて半分呆れたようにため息をつき、ライターで煙草に火をつけた。

 

 

 

「まぁいい、とにかく君が怪我をしていた時に何があったか説明する。

 

二日前の午後11時半過ぎ、夜間ではあるが准特等、上等、一等捜査官二名の合計四人でとある喰種親子の駆逐作戦が行われた。

階級を聞いて分かると思うが、捜査官側には十分以上の戦力があり、なんてことない作戦のはずだったんだが……」

 

 

平塚先生は人差し指と中指で挟んだ煙草を口元まで持って行き、軽く一服する。

 

 

「親子喰種を駆逐する直前に、ある喰種が現れたらしい」

 

 

 

「……」

 

 

 

 

刺すような痛みが左腕を走る。

 

もしかしたら、痛み止めの効果が薄くなってきたのかもしれない。

 

 

 

「詳細は分からないが、かなりの実力を持っている尾赫の喰種だったらしい。

その場にいた4人の捜査官と応援に駆け付けた2人の捜査官がやられた」

 

「…応援に行った捜査官の階級は?」

 

「一等捜査官一人と准特等一人。と言うか全員私達と同じ担当区の者だ。

たまたま近くで他の作戦をしていた奴らでな。途中で作戦を切り上げさせて急いで向かわせたらしい」

 

 

同じ8区、……だから夜中なのに俺も呼び出されたわけか。

 

 

「その喰種、強いですね……」

 

 

単騎で捜査官を6人もやるなんて、レートはSを超えているかもしれない。

 

 

「だが幸い死者はいない。それにその喰種はもう死んでいるかもしれないしな」

 

「なぜですか?」

 

「その喰種は多数の捜査官との戦闘中、親子喰種の子供の方を庇って致命傷を食らった。

赫包には届かなかったらしいが、准特等の持っていた羽赫のクインケでかなり派手にやったらしいぞ。相性の良さもあるから、相手にとってかなりの毒になったはずだ」

 

「……そいつの顔は?」

 

「仮面をつけていたため確認できていないそうだ。

それで謎の喰種は致命傷を受けたまま戦い、その場の捜査官を全員戦闘不能にして逃走。

結局我々は親子喰種も逃がしてしまい、面倒な仕事だけが残ったという事だ」

 

 

おかげで8区担当の者が激減だ、と付け足し吸い終わった煙草を灰皿で潰して平塚先生は立ち上がる。

 

 

 

「それじゃあお説教兼昨日の報告は終わりだ。

デスクに戻って仕事を始めるぞ。他の者が倒れている分私達が働かなくてはならない」

 

「え?左手を負傷してるんですけど……」

 

「左手が使えなければ口でも鼻でも使っていろ。その程度の怪我で仕事を休めると思うなよ」

 

 

 

さぁ行くぞ、と言って先生は俺を引っ張る。

 

……力強いな。

 

 

 

「はぁ、……これも社畜の定めか」

 

 

 

文句を言っても仕方がないので、俺は引っ張られながらも彼女について行く。

 

 

 

「……なぁ比企谷」

 

「何ですか?」

 

 

 

仕事のめんどくささから目をいつも以上に腐らせている俺と違い、平塚先生は少しニコニコしながら俺を見る。

 

 

 

「何かいいことでもあったか?」

 

「……いえ、特に何も」

 

「そうか、だがいつもより表情が晴れているようで良かった」

 

 

 

…………。

 

 

別にいい事など何もない。

 

 

 

「……お気遣いどうも」

 

 

 

本当に、何一つないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昨日は、少し面白い事があったらしい。

 

 

 

「准特等、先日現れた喰種ことですが、いまだ死体は見つかっていません」

 

「ふーん、じゃあ生きてるのかもしれないね」

 

「はい、それで我々は8区の欠員補充のため担当区がそちらになるそうです。

次の捜査対象はその喰種になるかと……」

 

「フフ、それは楽しくなりそうだなぁ。

まぁ昨日の段階で私が倒しに行きたかったんだけどね」

 

「もちろんこの話はその喰種が生きている場合のことですよ」

 

 

 

最近、退屈でしかたがない。

 

 

 

「…う…れしそうですね、雪ノ下准特等」

 

「さぁ、どうだろう。

……でも、そう言えば8区の担当にあのペアがいたね」

 

 

 

今度のおもちゃは私を楽しませてくれるかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでくれた方々ありがとうございます。

感想くれると嬉しいです。ですが、物語の内容に関する質問等はネタバレになってしまうのでお答えできないかもしれませんので、そのあたりはご了承ください。

これからもよろしくお願いします。




ちなみに比企谷君は20歳で8区担当と言う事になっています。
8区にした理由は特にないです。

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