雪の中の化け物【完結】   作:LY

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第二十一話

 

 

 

 

捜査官達の動きを音で把握し、相手が動いていない間に女の子を逃がした。

 

女の子は言った通り後ろから下に向かって飛び降り、暗い工場の敷地の中へ消える。

 

どこか抜け道を探して帰れるだろう。

 

 

 

一方、私は正面から降りて捜査官達の方へ向かう。

 

相手もそれを確認したようで二個の手榴弾が投げられてきた。

 

 

 

「鬱陶しい」

 

 

 

二つとも赫子で弾き、爆発を遠ざける。

 

さっき見て分かったがこの手榴弾は殺傷能力がかなり低い。

 

破片が体に刺さることはあるかもしれないが、喰種の体にはたいしたダメージにはならない。

 

こんなものを使って何になるのだろう。

 

 

 

またまた一つ投げられてきたのでそれも弾き、私は歩みを止めない。

 

相手との距離はだんだん近づいている。

 

 

 

「……」

 

 

 

……向こうにあるアタッシュケースは計三つ。

 

一つはもう使われ、少し大きめの盾のような形をしている。たぶん手榴弾が自分たちを傷つけないように壁を作っているのだろう。

 

 

 

「……そこまでして投げるものかしら?私には分からないわ」

 

 

 

赫子を出したまま小走りを始めるが、相手は特に動じず大きな盾を変形させてブレード型のクインケを作った。

 

最近のクインケは形を変えるのなんて造作もないらしい。

 

比企谷君の持っていたブレードよりは少し短かくて太い剣が出来た。

 

 

 

「やっぱりあれはダメだね。使い物にならないや。

……じゃあ後輩ちゃん、予定通りにお願いね」

 

「了解です」

 

 

 

声が二人とも女、と言う事に少し驚きを感じていたらクインケを持っている方の捜査官が一人で突っ込んでくる。

 

 

そして後ろで残っている捜査官はまた手元から何かを放ってくる。

 

 

 

「もうそれは飽きたわよ」

 

 

 

爆発のタイミングはさっきから何度も投げられているから把握している。

 

 

だから私は何の恐れもなく全速力でこちらに向かってくる捜査官の方へ走り出した。

 

どうせ手榴弾なのだから、また弾けばいいと思った……。

 

 

 

「会いたかったよ“猫又”ちゃん」

 

 

「猫又?…何を言って」

 

 

 

飛んできた手榴弾に向かって赫子を伸ばし、それを弾く瞬間の事だった。

 

 

赫子がその手榴弾に触れた時、手榴弾から白いガスが出てきた。

 

 

 

 

「っっ!!赫子が崩れて……」

 

 

 

……鼻を刺すような嫌な臭い。

 

Rc細胞の抑制剤か。

 

いままでの手榴弾はこれを浴びさせるためのカモフラージュというわけね。

 

 

 

「ほら、よそ見してると首が切れるよ」

 

 

 

タイミングを見計らったように私の首に切りかかってくる捜査官。

 

 

右の赫子が崩れていくのに驚いたが、ガスを極力吸わないようにしたので左の赫子はまだ使える。

 

相手の太刀筋を見切って二、三度かわし、左の赫子の形状を刃の様に変える。

 

 

 

「……なめないで」

 

 

 

仮面の中でそう呟く。

 

そして次の攻撃を赫子で弾き、相手を数歩後退させた。

 

 

 

「ふむ……。赫子を片方崩されても落ち着いて私の攻撃に対応。そして時間を稼いで赫子の形状変化。

辺りは暗いのに動きはいいし、赫子の形状変化も見事なもの」

 

 

 

夜の曇った空からは月の光が射しづらい。そして周りに光を発するものが少ないため、やはり相手の姿や武器の位置が確認しづらい。

 

お互いに戦う条件としては良くないわね。

 

 

 

「私の剣はそんなに遅くなかったと思うけど、あれ位は余裕か。……やっぱり後輩ちゃんは待機かな」

 

 

「……?」

 

 

 

……何故だろう。

 

私の事を分析し、それを声に出しながら確認している相手に変な違和感を覚えた。

 

 

 

「じゃあ続きをしようか」

 

「………」

 

 

 

そう言ってまたクインケを構えてこちらに向かってくる相手を赫子で対応し、何度もクインケと赫子をぶつけ合った。

 

 

命をかけた戦い。

 

 

相手はかなりの腕前だった。

 

 

 

それなのに、私はどこか上の空になっていて戦いに集中できなかった。

 

 

 

 

「……あれ?少し動きが鈍ってきたね」

 

 

 

彼女の声を聞いていると、意識が何かに飲み込まれていくような感じがする。

 

いつか聞いたことがあるような声だ。

 

……耳がその声を懐かしいと感じている。

 

 

 

それからも赫子とクインケでの斬り合いは続き、一度大きく弾いてからまた相手と距離を取った。

 

 

 

「ねぇ、少しお話しない?本当は喰種と話す趣味はないけど、君に聞きたいことがあるの」

 

 

 

完全に互いの間合いから外れると、相手はまた闇の中で姿がぼやける。

 

そう言えば暗くて相手の顔をちゃんと見ていない。

 

そんなことを思っていたら雲の隙間から月が光を照らし、私の周りが少しの間明るくなった。

 

 

……戦っている間のはずなのに、とても変な気分だ。

 

 

 

「向こうにいる後輩ちゃんには内緒にするからさ、ちょっと付き合ってよ」

 

「………」

 

 

 

はるか上空では雲が風にあおられ、今度は私と対峙している相手の所に光が射す。

 

白い光は捜査官の口元から下を照らした。

 

 

 

「………何、かしら。……胸が」

 

 

 

やはり何かがおかしい。

 

胸の辺りが苦しく感じる。

 

動悸が徐々に激しくなって、心臓の動きが痛いとすら思えてきた。

 

 

 

「君、比企谷君って知っている?

アホ毛が立ってて、目が腐っている男の子。クインケの使い方とかすごく上手い子なんだけど」

 

 

 

……比企谷君?

 

 

 

なぜそれを私に、……いや、そもそも彼女は何者だ?

 

 

 

 

「………」

 

 

 

無言を続ける私を少し待っていたが、そのうち彼女は話し出した。

 

 

 

「……知らないのか、それとも知っているけど捜査官の私とは話す気がないのか。

まぁどちらにせよ話してくれないのなら一緒か。

今度本人に問い詰めるしかないね」

 

 

 

動悸がずっと止まらない。

 

 

……この人は誰?

 

 

なぜこんなにも鼓動は高鳴り、体が震えるの?

 

 

 

 

「はぁ、残念。話してくれないのならもう殺すよ、今度は本気で」

 

 

「っ!!」

 

 

 

さっきまではお遊びのようなものだと感じさせられる。

 

興味がなくなった私に対し、彼女は冷たい雰囲気に変わっていった。

 

 

……殺気を感じる。

 

 

 

「後輩ちゃん、二番ちょうだい!!」

 

「はい!!」

 

 

 

相手は少し離れていた仲間に呼びかけ、新しいアタッシュケースを持ってこさせる。

 

 

 

……これはマズい。

 

 

 

「私も、本気で……っ」

 

 

 

集中を乱している場合ではない。

 

相手が誰であろうと、比企谷君の話をしてこようと関係ない。

 

 

 

私は一度崩された赫子を再生させ、二本の赫子を伸ばして新しいクインケが届く前に仕掛ける。

 

 

 

「……モードチェンジ」

 

 

 

しかしガンッッと音が鳴り、敵に向かって伸ばした赫子が止められる。

 

剣が盾に変形し、壁となって赫子の攻撃を防いだ。

 

 

 

「お待たせしました、准特等!!」

 

 

 

赫子が防がれたのと同時にこちらに向かって走って来た捜査官がアタッシュケースを勢いよく投げる。

 

 

 

「ナイス後輩ちゃん」

 

 

 

そして相手はそれを宙で受け取り、流れるように取っ手のボタンを押す。

 

盾の裏側から歯車が噛み合うような音が鳴ってクインケが展開されたのが分かった。

 

電気がバチバチと放電する音が聞こえ、相手は盾から姿を現す。

 

 

 

「避けなきゃ死ぬよ」

 

 

「くっ!!」

 

 

 

私はできうる限り最大のスピードで赫子を丸め、壁を作る。

 

相手が持っているクインケは見るからに強力。直撃したら私の体は無事では済まない。

 

 

 

「射っ」

 

 

 

 

その声と同時にクインケが生成した電撃が辺りを照らす。

 

 

 

コンクリートの地面も。

 

 

暗い空の雲も。

 

 

私の赫子も。

 

 

 

……ずっと見えていなかった彼女の顔も。

 

 

 

 

「っ!!!…何で、……その顔は!?」

 

 

 

 

その誰に向けたわけでもない声はクインケから放たれた電撃と私の赫子の衝突によってかき消される。

 

一瞬にして目の前が光で包まれた。

 

 

 

 

「っっ……!!!」

 

 

 

 

衝撃波で私は工場の方へと吹き飛ぶ。

 

 

 

 

そして空中で。

 

 

 

 

ビキッと音がなり、仮面にひびが入った。

 

 

 




次回お楽しみに

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