雪の中の化け物【完結】   作:LY

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この作品の原作とタグの所でご指摘いただき、次話から直そうと思っています。

ですので、次回からは原作が東京喰種、タグに俺ガイルとなります。






第十一話

11区 アオギリの樹アジト 

 

五棟

 

 

 

 

二つに割られた仮面は顔から外れて落下し、カランと音を立てて床に転がる。

 

 

 

「お前と会うのは数週間ぶりだな」

 

 

 

仮面のせいで狭められていた視界が一気に広がり、私を見下ろす彼の顔が目に焼きつけられるようだった。

 

 

 

「え……」

 

 

「ん?まさか覚えてないとか?一応、名前も教えたはずだが」

 

 

 

視線の高さを合わせるためか、それとも疲れているから座りたかったのかは知らないけれど、彼は私の前で床に腰を下ろした。

 

 

 

「いや、……そうではなく」

 

 

 

一瞬で捜査官としての少し険しい顔ではなく、この前会った時の優しい表情に変わる彼を見て私は困惑する。

 

 

 

なぜ……。

 

 

 

「なぜ、私だと分かったの?」

 

 

 

静かな廊下に私の声は響き渡る。

 

私の格好は完全にアオギリの樹の構成員と同じで、顔なんて見れなかったはず。

 

眼も仮面を付けていたから隻眼であるか判断できなかったはずなのに。

 

 

 

「あぁ、お前途中で声出していただろ。

アオギリにしては珍しい女の声だったから気になって、それでよく聞いてみたら聞き覚えがある声だったからな。あと体格とか赫子とか」

 

 

「………は?」

 

 

 

まさに唖然とした。

 

……この男はそんな曖昧な状態で私に声をかけたのか。

 

 

 

「……そ、それではあまりにも不確定過ぎると思うのだけれど。

もし違っていたら、……いえ、もしそうだとしても反撃されていたらどうするつもりだったのかしら?」

 

「…違う奴だった時の事は考えていなかったな。

お前だったら反撃しないと思ったし、それに戦っているとき本気でやっていなかっただろ?

手合わせしている時の赫子は速くて重かったが、致命傷を負わせるような攻撃は一度もなかった」

 

 

「………」

 

 

 

……全部読まれている。

 

何だかとても恥ずかしい気持ちになって来た。

 

 

 

「……確かにあなたの言う通りかもしれないけれど、それでもおかしい所があるわ。

あなただって手を抜いていたでしょう?それも相手が私だと思う前から。

そうでなければ、とっくに決着はついていたはずよ」

 

「さぁな。俺なりに必死でやっていたつもりだけど」

 

 

 

この男は戦いの最中で徐々に動きが良くなっていった。

私が三本目の赫子を出す前から本気で動いていればもっと圧倒出来ていたでしょう。

 

 

それに一番の決め手はクインケだ。

 

私が最後に切られたとき、完全にクインケの間合いから外れていた。

それにもかかわらず赫子と足に刃がとどいた理由は意外と簡単。

 

 

 

「そのクインケ、刃の長さを変える事が出来るのね」

 

「ご名答、……詳しくは言えないけどな」

 

 

 

クインケの事はあまり詳しくないけれど、ベースは赫包だ。

 

そう考えれば、Rc細胞の崩壊、形成、定着を一瞬で行って新しく長いブレードを作ったと考えるのが妥当かしら。

 

 

……そんなことが出来るなら、もっと序盤で致命傷を与える事が出来たのに。

 

敵の私に気を使って赫子ばかり狙っていたわね。

 

 

 

「……それで、続きをするか?ぶっちゃけ言って俺はやりたくないぞ。もう動きたくないし」

 

「私の人生で白鳩にそんな事を言われると思っていなかったわ。……まぁ私も、もうそんな気分ではないわね」

 

 

 

この男と話していると、真剣に戦う事が馬鹿らしく感じられる。

 

この人本当に喰種捜査官なのかしら?

 

 

 

「それは良かった。おかげさまでさっきから頭が痛いし、早く帰って寝たい」

 

「はぁ……、あなたって人は」

 

 

 

こめかみに手を押さえてため息をつく。

 

もう本当に、完全に白けてしまった。

 

 

 

「まぁ、遺憾だけれど今回はあなたの勝ちと言う事でいいわ。と言っても、本気を出せば私の方が勝っていたでしょうけど」

 

「はいはい、それは世間一般では負け惜しみって言うんだぞ」

 

 

 

……む、何を言い出すのかしらこの男は。

 

 

 

「負け惜しみではないわ。純然たる事実を述べたまでよ。決して、決して負け惜しみなどではないわ。本当は私、さっきの三倍は強いのよ」

 

「分かった分かった。お前が負けず嫌いな事が良くわかったよ」

 

 

 

そうして彼が呆れたような顔をするのを見て、私はクスクスと少しだけ笑う。

 

戦場で、しかも敵である捜査官とこんな気の抜けた雰囲気でいるのが可笑しかった。

 

 

 

「……お前もそんな顔をするんだな」

 

「なっ!」

 

 

 

私の顔を眺めて、彼は平然と言う。

 

顔が緩んでいるところを見られてしまった。

 

 

 

それから私が急いで顔を隠していると、彼は廊下の周りを見てこう言った。

 

 

 

 

「それじゃ、そろそろ行くわ。その辺にいる捜査官達を運ばないといけないし、お前も長居したくないだろ」

 

「……そうね。そろそろ他の捜査官もくるかもしれないし、バイトの時間も終わりだわ」

 

「バイト?」

 

 

 

首を傾げている彼より先に立ち上がり、再生し終えた右足を軽く動かしながら私は言う。

 

 

 

「信じるかどうかはあなた次第だけれど、一応言っておくわ。私はアオギリのメンバーではないわ」

 

 

「……そうか」

 

 

 

すんなりと信じる彼を見て私はまたクスリと笑った。

 

 

 

「……フフ、じゃあ急な感じはするけれど帰りましょうか」

 

 

 

彼が立ち上がるのを見計らい、彼の家で言った時の様に別れの挨拶をした。

 

 

 

 

 

「さようなら、“比企谷君”」

 

 

 

 

 

私はそれだけ言って、彼の返事を聞く前に廊下の窓ガラスを割って外に飛び出した。

 

逃げ道くらい、私ならいくらでも見つけられるだろう。

 

そう思って、壁に赫子を突き刺し屋上を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

夜中の空は当然暗く、今夜も雪は降っていない。

 

 

 

 

 

だけど。

 

 

 

 

 

月が綺麗に輝いて、私はとても気分が良かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻  23区 喰種収容所

 

 

 

「しかし人間ってのは本当にバカだね。こんな単純な陽動にはまるなんて」

 

「そだね」

 

 

 

 

11区に大量の捜査官が派遣されているこの時間帯。

アオギリの本隊は、23区の喰種収容所を襲った。

 

 

 

「そろそろ行こうか、エト。早くしないとあいつが来ちゃうから」

 

 

「ウン」

 

 

 

 

目的は達成され、たくさんの喰種を開放した。

 

 

 

 

 

「ケタケタケタ、……雪乃ちゃんはどうなったかな」

 

 

 

 

それに今日は少し面白いものが見れた。

 

最後の方に駆け付けた捜査官の中に、私の興味をそそるものが……。

 

 

 

 

「雪ノ下陽乃」

 

 

 

 

 

その名前を口にすると、また笑い声をあげた。

 

 

 

 

 

 






たくさんの皆様、お気に入り登録ありがとうございます。

感想くれた方や評価してくださった方も嬉しいです。


良ければ次話も読んでください。

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