第一話
真夜中を過ぎた公園の周りには誰もいなく、とても静かだった。
この広い公園には遊具が複数あり、鉄格子を挟んだ隣の場所には小さな池のようなものがある。
池の水面は時々吹く冷風によって小さな波がいくつも作られ、ゆらゆらと動き続ける。
私は冷たい地面に倒れこみながら、その池を眺めていた。
「血が、……止まらない」
腹部の傷口から血がどくどくと流れて行き、私の白いコートを通って地面まで赤く染める。
手で圧迫しても、やはり止まってくれないようだ。
「寒い……」
死にそうなくらい重傷を負っても体を包む空気の冷たさが感じられる。
早く肉を食べないと本当に死んでしまうのに、体は思うように動いてくれない。
こんなところで終わるわけにはいかないのに……。
「……雪?」
上手く頭が回らず意識も少し薄れてきたが、瞳の前に一片の白い粉が通り過ぎたのはハッキリと分かった。
少ないけれど、いつの間にか雪が降っている。
「生まれた時に、……雪が降っていたから、私の名前は……」
雪を眺めてぽつぽつと呟く。
しかしその途中で、私の耳が近くの足音をとらえた。
「っ!!」
私を追いかけている奴らがこんな短時間でここまで来られるわけがないし、こんな遅い時間に誰かがうろついているなんて思っていなかった。
……どちらにせよ、隠れないと。
必死の思いで傷口を押さえていない方の腕を動かし、上半身を起こす。
しかし足の感覚がなく、立ち上がろうにも力が入らない。
「クッ、……血が流れ過ぎてる」
結局その場から動くことはできず、近づいてくる足音に耳を傾ける事しかできなかった。
コツ、コツと足音は続き、寄り道することなくこの公園の方まで向かってくる。
そしてその数十秒後。
足音は公園の入り口前で止まった。
「……全く、ついてないわね」
逃げてくるときに仮面を落としてしまったため顔を隠すこともできず、公園の前で止まった人と目が合った。
たぶん同い年位の男性で、スーツの上に黒いコートを着こんでいる。
そして胸元には、
鳩をモチーフにした、胸章がつけられていた。
「……」
男は何も言わず、ただ私を見ている。
なぜか、悲しそうな顔をして……。
雪が空気中をゆっくり落ちて行くなか、お互いが視線を合わせたまま沈黙を貫く。
自分から動こうにも体は言うことを聞かないし、何か声を上げる気にもならない。
そんな私を見かねた相手はついに動き出した。
「喰種……」
そう言って公園の中に入り、ゆっくりと近づいてくる。
あわよくば人間のふりをして、この場をやり過ごそうと思ったが、残念ながらそうもいかない様だ。
白鳩。
喰種捜査官。
私達を殺す人間。
彼はその中の一人だった。
「赫子を……っ……」
相手を威嚇するため、形だけでもいいから赫子を形成しようとしたが、不完全なものが一瞬出ただけで、すぐに消えてしまった。
「はぁ……、はぁ……」
今のが本当に最後の力で、もう何もすることができない。
この男に何もされなくても、私は死んでしまう。
目を開けている事ですら、もう……。
「……」
男は私の数歩間手前まで来ると一度立ち止まり、こう言った。
「……ごめんな」
……なぜそんな事を言ったのか、私にはわからなかった。
何であなたが謝るの?
私はそう言おうとしたけれど、声は出ず、もう瞼も閉じてしまった。
…寒い。
…痛い。
…辛い。
……そして何よりも、とても眠い。
「喰べろ……」
薄れてゆく意識の中で、私が最後に覚えていたことは一つ。
口の中に、
甘い甘い血と肉の味がした。
まだ書き溜め最中なのについつい投稿してしまいました。
本格的な投稿はもう少し先になります。
良ければお付き合いください。