外は暗く、雪がしんしんと降りしきる夜の村。雪の上には小さい一組の足跡。
村は静か。人間は寝ている時間帯。出来れば妖怪たちも静かにしてもらえたら嬉しいのだが、私も妖怪だから言えたことじゃないけど…。
今は約束通り見回り中だ。
「はあー、寒い………」
やっぱり人型は、毛皮が無いからとても寒い。でも、元に戻ると視界が低くて見回りがまともに出来なくなる。
ふと、月を見てみると、雪とマッチして綺麗だった。こんな月を見ながら何か飲みたいと思っても、今ここにあるのは狼型の妖怪の死体だけ。
食おうとすれば食えるのだけど、あまり食いたくない。あまりこの死体たちを村の人達に見せたくないので、燃やす事にしている。ついでに温まることが出来るので助かる。
ちょっと前に偶々見つけた木の実を口の中にほおりこんで腹の足しにした。
手が炎に触れない程度に近づけて暖まっていると、いつの間にか雪が止んでいた。
雪が止んだおかげか、周りが見やすくなった。
周りを眺めていると、遠くの方に人影が見えた。人?は此方に気付いたようで、近づいてきた。
その人?は男性で、私の身なりを見ながらこう尋ねてきた。
「お主妖怪だな。妖怪がこんな村で何をしておる!」
突然怒った口調で言ってきてビックリした。
「何って、守ってるだけ」
「ふむ、お主のような妖怪も居るという事か…。興味深い」
何の事だろうか?
それに…。
「私は『お主』じゃないです」
「おお、そうだな。名を聞いていなかったなのぅ。まず初めに儂からじゃな。儂の名はスサノオという。最近、此処『
此処は
「私はミクラ。少し変わった九尾の狐」
「大層変わっておるぞ。その『赤い目、真っ白な毛並み』、それに妖力の以外に神力も感じるのぅ」
?
「ジ、ジンリョク?」
「なんだ、神力を知らぬのか」
「たぶん…」
「そうか、…ふむ。神力とは人々から信頼され、信仰から生まれる力のこと。例えば、感謝から神力が生まれることがあるのぅ」
そんな簡単なことで。
「感謝なら普段からされているけど」
「たぶんそれが元じゃろうな」
そうスサノオが答えた。その答えに何となく納得していて気付いた。月が沈んで、日が昇りかけていることに。
あと、日が出たせいでより一層寒くなった。
「ん?寒くなってきたな。ミクラよ、何処か寒さをしのげる場所を知らぬか?」
それなら…
「知ってる、というかコッチに」
と、私はスサノオを
◇
外に比べて暖かい洞窟。薪をくべて火加減を調節する。
そろそろ体も温まってきただろか?と思ったらスサノオが話しかけてきた。
「此処は良き洞窟じゃな。ミクラは此処に住んでおるのか?」
やっぱり、分かっちゃうよね。
「うん、住んでるよ。というか、此処は私が育った場所だから」
「育った?親はどうした」
親……。
「……知りません」
「知らないとは?…まさか!?」
そう、そのまさか。
「そのまさかかもしれません。気づいた時には私は一人でした。この様態のせいで棄てられたやもしれません」
昔から考えていたこと。私が目覚めたときに、周りに他の狐は居なかった。食べ物を探しに森の奥に何回か入ったが、狐だけ見ることは無かった。
それはそれはとても寂しい事だった。悲しい事だった。
「深く聞きすぎたな、すまぬミクラよ」
「いいえ、あまり気にしてはいません」
「そうか。ところで、そのミクラという名は何処で手に入れたんじゃ?」
「さっき私が居た村で貰った」
「そうか。先程から質問ばかりで悪いが、あと二つばか質問してもよいか?」
二つ?
「ん、良いよ?」
「一つ目だが、ミクラは今、神力を持っている。という事はミクラは『神』という事になる。そこでだ、ミクラの『神としての名』を儂が決めても良いか?」
私って神だったんだ、知らなかった。
「『神としての名』?まあ、いいですよ」
「分かった。二つ目の質問としよう。二つ目だが、お主の能力についてだ。何か分かるか?」
「能力?」
「分からぬのか?そうだな…、能力について自分の心の奥底に問いてみろ。たぶんそれで分かるじゃろう」
心の奥底 心の奥底
能力は………『―――――――』
「神としての能力は『自然を司る能力』、妖怪としての能力は…『ありとあらゆる
「神の方は…そうか。ミクラはもしかすると、いや、お主は不老不死だと思うぞ。妖怪の方は、うーむ難しいのぅ。その能力は上手く使えるようになるまで、あまり派手に使わん方が良いだろうな」
「そうですか」
「あんまり驚かんのぅ」
「不老不死は、前々から心当たりはあったので」
何となくだけど。
「うむ。そうだ、お主の『神としての名』を考えなければな。能力があれだからぶつぶつ・・・」
急にぶつぶつ言いながら、スサノオは考え始めた。
どんな名前になるか少し楽しみ。
そんな事を思っていると、結構早くに考えが纏まったようだ。
「おお、すまなかったな。『神としての名』だったから、結構悩んでしまったわい。それでだ、ミクラの神としての名は『ウカノミタマノカミ』じゃ!」
字はこうじゃと言い、地面に『
私は今、とても嬉しいらしい。頬が緩んでいるのが自分でも分かってしまう。
「ミクラの今の顔は良い顔じゃ。そんなに嬉しかったのか」
何度も頷いた。
ふと、洞窟の外を見るとまた雪が降ってきたみたいだった。
◇
「今日は此処に泊まっていきませんか?こんな場所ですが…」
「うむ、そうしようかのぅ」
私は洞窟内を温めなおす為に火に薪をくべなおした。