転勤先は異世界でした ~社畜冒険者の異世界営業~ 作:ぐうたら怪人Z
①
“
特に偏差値が高いわけでも低いわけでも無い学校に通い。
成績はクラスで中の上程度。
友達はそれなりにいるし、部活動もぼちぼちやっている。
総合的に見て、学生として平均的な存在と言える。
今日も陽葵は部活を終え、下校のために昇降口へやってきた。
下駄箱を開けて――
「――うわ、またか」
げんなりする。
そこには、
箱に収まりきらなかった分が、ドサっと零れ落ちる。
無記名のものから、律儀に差出人の氏名を記入しているものまで、様々だ。
ぱっと見た限り、上級生から下級生、陽葵の知ってる人や知らない人、色々な男子学生の名前が書いてある。
これだけのラブレターを出されれば、喜ぶにせよ嘆くにせよ、戸惑いの一つや二つ浮かべそうなものだが――
「――いたずらにしたって、笑えないっつーの」
陽葵はため息を一つ吐いた後、
驚くべきことに、コレは陽葵にとって
――最初の紹介を訂正しよう。
室坂陽葵は、容姿が
「暇人が多いね、どうにも」
また嘆息。
一大決心をしてラブレターを書いた男子達にとってはとても残念なことに、陽葵はあの手紙を本気のものとして受け取っていなかった。
ただ、暇な学生が悪戯でやったものだとしか捉えていないのだ。
……哀れとしか言いようが無い。
と、それはそれとして。
「お、室坂じゃないか。
今、帰りか?」
どうでもいい一仕事を終えた陽葵に、一人の男子生徒が話しかけてくる。
「ん?
ああ、田中か。
そうだよ、今帰るとこ」
「そうか、じゃあちょうどいいや。
一緒にそこまで帰ろうぜ」
「おう」
彼は、クラスメイトだった。
陽葵とはよくつるむ、友人の一人だ。
他愛無い話――教師に愚痴であるとか、最近出たゲームであるとか、実に学生らしい話題をしながら、歩を進める。
そろそろ、田中とは帰り道が別れる頃合いに差し掛かった時。
「と、ところでさ、室坂」
「どうした?」
少し震える声で、田中が話しかけてきた。
「“あの話”、考えてくれたか?」
「あの話?
どの話だよ?」
「そ、それはその――」
田中の顔が赤くなる。
そして意を決したような表情で、口を開く。
「――お、俺と、付き合ってくれないかって話だよ!」
「はぁ?」
彼とは対照的に、陽葵の表情は冷めたもの。
呆れ返ったような口調で、
「お前、それ本気で言ってんのか?」
陽葵はそう言い放った。
表情一つ変えないその姿は、脈が一切ないことを露骨に示すもので――
「――じょ、じょじょ、冗談に決まってんだろ!?
俺とお前が付き合うとかあり得ねぇし!!
こ、ここは笑うところだったんだぞ!?」
「だよな!
――まったく、最近そういう遊び流行ってんのか?
何度もやられると、流石に腹立ってくるぞ」
「な、何度もされてるのか……」
愕然とする田中だが、それに陽葵は気付かない。
そのまま道をしばし進んでから、
「――と、俺はこっちか。
じゃあな、室坂。
また明日!」
「おう、また明日な、田中!」
笑顔で見送る。
それを見た田中が「あーくそ、やっぱ可愛いな、こいつっ」と零したのは、やはり陽葵の耳に届かなかった。
かわいそうな田中である。
男子生徒と別れ、今陽葵は大通りの横断歩道前に立っている。
ここを渡れば、もうすぐ自宅だ。
信号は赤。
車の通りは多い。
幅の広い道路なので、青になるまで時間がかかる。
陽葵は何をするでもなく、ぼーっと信号待ちをしていた。
その時、だ。
「――え?」
陽葵は、後ろから背中を押された。
突然だったので踏ん張ることもできず、道路へと身を投げ出してしまう。
「――うそ」
すぐ目の前には、大きなトラック。
速い。
青信号だから当然か。
避ける?
無理、転んでる。
どうする?
どうにもできない。
(――うぁああああああっ!!?)
視界がスローモーションになる。
ゆっくりと、トラックが近づく。
自分の身体はぴくりとも動かせない。
昔の出来事が、頭にフラッシュバックする。
目を瞑る。
激突する。
陽葵の人生が、終わる。
――いや。
最期の瞬間、陽葵の身体が光に包まれた。
その光と共に、陽葵は消える。
この世界から、消失する。
トラックは、
――少し離れた場所で“一連の流れ”を見ていた人物がぼそりと呟く。
「ふん、“かくて、運命の扉は開かれた”か。
待たせたな、勇者共。
これからお前達を――」
「――