東京喰種:re 皇と王   作:マチカネ

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 オークション戦の突入編となります。
 このライ章で専用のクインケが登場。


第4章 オークション戦へ

 『オークション』 浚ってきた人間を、セレブな喰種たちで競り合う。

 ハイセとクインクスの活躍によって、『オークション』の会場ばかりか、日にちまで突き止めることが出来た。

 しかし問題はある。囮捜査を行ったことで六月が『オークション』と関わりのある女性の喰種【ナッツクラッカー】に招待されてしまったこと。

 和修吉時本局局長の息子、准特等の和修政(わしゅう まつり)は危険だと、解っていて六月を『オークション』に参加させることを命じたのである。

 ハイセは異議を唱えたものの、和修家の立場と准特等の威厳で押し切られてしまう。

 政は和修家至上主義者。

 咄嗟の機転で准特等の鈴屋什造(すずや じゅうぞう)、ジューゾーも参加することとなった。それも女性として、つまりは女装で。

 有馬と同じように、アカデミーを卒業せず、ジューゾーは最短で出世した実力者。

 

 

 

 

 ライが暁に連れて来られたのは、1区にあるCCGのラボラトリー区画。

 ここは対喰種兵器を製作している場所。その他、様々な喰種の研究も行っている。

 

「やぁ、よく来てくれたね」

 白衣を着たキノコみたいな髪型の男が、親し気に声を掛けて来た。手にはアタッシェケース。

「彼が車で話しておいた地行博士だ」

 男のことを紹介。

「僕は桜間ライです」

「地行甲乙(ちぎょう こういつ)です」

 それぞれ自己紹介して挨拶。

 地行博士はラボの主席研究員で、クインケの製作を行っている。この道のプロフェッショナル。

「噂にはなっていたけど、本当に綺麗な子だね。君、男の子だよね」

「ハイ、男です」

 CCGに来てから、同じ質問をされた、何度も何度も。

「こんなクインケの注文するなんて。正直【ひょっとこ】で作りかった」

 今日はライのクインケを受け取りに来た。地行博士にしてみれば稀有な赫子の【ひょっとこ】で作りかっただろう。

「珍しい注文だったけど、希望通りには仕上げたつもりだよ。“一応”アタッシェケースには入れておいた」

 “一応”アタッシェケースに入っている自分のクインケを受け取る。

「あれ、開けて見ないの?」

 受け取ったアタッシェケースを、そのまま持ったライを不思議がる。いつもは誰でもアタッシェケースを展開して、中のクインケを確かめて見るのに。

「確かめる必要はあのません。地行博士、あなたは一流のクリエイター、注文通りに仕上がっていてるのは解ります」

 

 

 駐車場で車に乗ろしたライ。

「ライ」

 ふいに呼び止められる。

「今度の作戦、お前も六月たちに同行しろ」

「えっ?」

 六月とジューゾーと一緒に招待に参加しろと言うこと、それはつまり……。

「誰からも本当に男がどうか聞かれるんだ。バレる心配はない」

 笑みを浮かべる暁。それはそれは、とても楽しそうに。

 

 

 

 

 暁と別れた後、お昼ご飯を食べようかなと道を歩いていたら、

「おーい、ライ」

「おーい、美形」

 シラズと才子に声を掛けられた。一緒に見知らぬ黒い長髪の背の高い男がいる。

「始めまして、阿原半兵衛(あばら はんべえ)と申します。ライさんの噂は聞き及んでおります」

「桜間ライです」

 半兵衛はジューゾーの部下の二等捜査官。

「美形、お昼はまだか?」

 と聞いて来たので、

「これから、食べに行くつもりだよ」

 と答えた。

「よければ、ライさんも御一緒しましょう」

 断る理由も無いし、断れば失礼にもなるので承諾。

 

 

 お昼、ご飯に入った店は蕎麦屋。

 ライは関西風きつねうどんを注文した。実は関西風の薄味が好み。

 恐るべきは才子とシラズの食いっぷりだった。半兵衛に、

「鬼神のごとき、食欲……」

 と言わしめたほどの。

 

 食後、店を出たところで、

「お三方、この後、少々、よろしいですか?」

 ライ、シラズ、才子は、ある場所に誘われる。

 

 

 

 

「こんにちは、篠原特等」

 ベットに横たわる男に半兵衛は、そう挨拶した。

 ライたちが連れて来られたのは大きな病院。

「特等って、この人も喰種捜査官なんスか?」

「ええ」

 シラズが訪ね、半兵衛が認めた。

「『不屈の篠原』 数々の武勲を挙げながら、指導者としても多くの捜査官を育て上げた、名捜査官ですよ。『20区の梟討伐戦』で重傷を負い、それから、2年以上、意識の波を漂い続けています……。これ以上、状態が回復することは、ないと」

 眠り続ける篠原の生命を維持するための装置が繋がれている。

「彼の最後のパートナは鈴屋先輩でした。先輩の胸に燻るお気持ちは、私如きには量りかねますが、私であればきっと……」

 篠原特等のことは、ライも資料を読んで知っていたが、ジューゾーとの絆のことまでは書いてはいなかった。

「自責の念で、お見舞いにも来ることさえ、出来ないやもしれません。私めも、いずれは先輩の小さな背中をお守りしたいものです」

 普段、何かと騒がしいシラズと才子も黙って、半兵衛の話を聞いていた。

 すっーとライは、篠原の額に指先を付ける。

「本当に強い意志を持っている人ですね、この人」

 ごく自然に動いていたので、誰もおかしな行動とは思えなかった。不思議とライなら、そんなことも解ると思わせる。

 

 

 病室を出たところで、同僚のお見舞いに行く半兵衛と別れる。

 シラズと才子が、食事担当のハイセが会議のために、晩御飯をどうしよう話していると、

「あら、ライくん」

「ライさん」

 ばったりとトーカとリオに出くわす。お見舞いなのかトーカは花を持っている。

「どうも」

 ぺこりとシラズの横を通り過ぎていく。

「なんだい、シラギンのこれかい?」

 右手で三本、左手で二本の指を立てる。

「どれだよ」

 突っ込むシラズ。

 一度、リオはライの方を見てから、トーカに着いて行く。

 

 

 

 

 『オークション』戦の日が来た。

 

 

 集まったCCGの捜査官たち。

 ハイセ、暁、クインクス。捜査官たちは、皆、大きな戦いの前に引き締まったオーラを纏っている。

 白いをドレスを着た六月。クインクスに入るとき、女としての自分に疑問を持ち、男として生きることにした。仲間たちにも男と言っているし、一人称も俺と言って、今日も女装していることになっている。

 ジューゾーは黒いゴスロリ姿。こちらは本物の女装。

 心配そうに見ているハイセに、六月は拳でガッツポーズ。

「お待たせしました」

 花の模様の入った白い着物を着た、銀髪の美少女に声を掛けられた時、みんな首を傾げた。

「誰?」

 シラズが聞いた。シラズだけじゃない、一瞬、みんな同じことを思ったのだ。

「……ライくんだよね」

 最初にハイセが尋ねたら、みんなが絶句。

 似合いすぎている! 白銀の髪に碧眼に白い着物というコンビネーション。手に持っている扇子がアクセント抜群。

 白い着物を着た美少女は間違いなくライ。普段から女性に間違えられることがあるが、女装したら、凄すぎる。

「おお、これはこれは眼福ですな」

 両手を双眼鏡の形にして、覗いてる才子。

(アレで男なんて、反則だろ)

 ウリエさえも呟いていた。

「美しいです、すごいです、ライ、とても綺麗です」

 褒めちぎるジューゾー。恥ずかしいので満月に桜の柄の入った絵の扇子を開き、口元を隠す。

 本当の女性である六月はどうしょうもない、敗北感を感じていた……。

 

 

 

 

 待ち合わせの場所に、車にもたれて【ナッツクラッカー】はいた。

「お友達も一緒にいいですか」

 怪しまれたらどうしようと不安を感じながらも、六月は捜査官。表では平常で通す。

 品定めするような顔で、六月の後ろにいる女装したライとジューゾーを見つめている。

 ドキドキと鳴りまくる心臓の音が外へ漏れ出さないか、不安が一層ます。

「私と彼女は姉妹なんです」

 そんな六月とは対照的に、笑顔のジューゾーはライの手に自分の手を絡める。

 内心、なんてことを、と六月は思った。どっから見ても誰が見ても、ライとジューゾーは美少女そのもの。

 しかし、ライは白銀の髪、ジューゾーは黒髪。ありに違いすぎる。

 まだ【ナッツクラッカー】はライとジューゾーを見ている。

「親が違うんです、両親が再婚して」

 この状況で、サラッと言ってのけるジューゾー。かなりの神経の持ち主か?

 パタパタと、ライも平然と扇子を仰ぐ。

 扇子からは白檀の香りが漂う。白檀の香りには緩やかな鎮静効果があり、緊張や興奮、精神疲労に効果がある。すなわち、リラックス効果。

「黒と銀の姉妹、これはいける」

 ボソッと【ナッツクラッカー】は呟いたが、ライ、ジューゾー、六月の耳は聞き逃さなかった。

「2人とも、とても綺麗、それにいい香り、いいわ、車に乗りなさい」

 思わずホッとする六月。取りあえず第一関門は突破。

 

 

 【ナッツクラッカー】に促され、車の後部座席に乗った3人。

 道路を走る車、捜査官と喰種が同じ車内にいる。まるで質の悪い呉越同舟。

 緊張を押し殺している六月、窓の外を眺めているジューゾー、ライは扇子を衿に挟む。

 急に睡魔に襲われる六月。不意打ちで抗うすべはなかった……。

 

 

 

 

 政は有能で『オークション』の規模から会場を特定し、既に内部情報まで入手していた。

 誰かと同じく、頭で戦うタイプ。ただし、政は何よりも成果を“最重要”する、部下の命よりも。

 

 

 一方、仲間である六月を送り出したクインクスと指導者であるハイセは心配していた、一名を除き。

 持たせている通信機からの連絡が来ない。

 だからといって、勇み足を踏んだら事態を悪化させる可能性か高い。

 六月も三等捜査官とはいえクインクス。今は仲間を信じて待つしかない。

 通信機は離れているのか、届いてはいない。

 

 

 

 

 激しい競り合いの末、富裕層の喰種【ビックマダム】に2億を越える額で競り落とされた六月。

 

 次なる商品のオークションが始まる。

「こちらもカタログにございません。ふたたび高値が付きそうな、何とも美しい美少女のご紹介です。なんと、この2人は親違いの姉妹なのでセットでの商品となります」

 マスクを被った【ノーフェイス】の紹介した商品が舞台に出て来る。

 舞台に出てきた黒いゴスロリの黒髪の美少女と花の模様の入った白い着物を着た、銀髪の美少女に会場が息を呑む。

 “なんて美しい姉妹なんだ”。

「さて、スタートは―」

 【ノーフェイス】がオークションを始めようとする。

 ぺろりと舌なめずりした黒いゴスロリの黒髪の美少女、女装したジューゾーがスカートを捲りあげ、白い生足を見せた。

「お代は―」

 白い生足に見せかけた義足に仕込んだ、ナイフ形のクインケ《サソリ1/56》を引き抜き【ノーフェイス】の顔に三本、突き立てる。

 2年前、『20区の梟討伐戦』との戦いで、ジューゾーは右足を失い、義足を付けていたのだ。

 白い着物を着た、銀髪の美少女、女装したライは衿に挟んだ扇子を抜く。

「―結構です」

 一気に扇子を開き、【ノーフェイス】の体を袈裟懸け斬る。

 扇子型の形のクインケ《夜桜》 縁が切れるようになっている。これがライが地行博士に製作してもらったクインケ、白檀の香りも付けてもらった。

 《白鳩》の登場に騒然となるオークション会場。新人のライはともかく、ジューゾーのことは喰種には知れ渡っている。

 

 

 

 

 鈴屋準特等の連絡が入る。

 いつでも突入できる体制でオークション会場を取り囲んでいた捜査官たち。

「作戦を開始する」

 政より『人間オークション制圧作戦』の号令が出された。

 

 

 




 ライ専用のクインケ、《夜桜》のモデルは百円ショップで売っていた扇子。
 『キョウト』の皇家の血を引いているので、ライは関西の薄味が好みに致しました。
 病院のエピソードはライと篠原を合わせることがメイン。
 トーカと合わせませたが、本編でも、トーカが病院にいた理由は解りませんし。
 何故、いたんでしょうか?

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