東京喰種:re 皇と王   作:マチカネ

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 東京喰種 reが最終回を迎えました。
 16巻、分厚い。



第25章 女神の鉄槌

「バトレー・アスプリウスです」

 禿頭にモノクルを掛けた小太り男が、少々、おどおどしながら貴未に自己紹介。

「やぁ、待ってたよ、バトレー。よく来てくれたね」

 笑顔で出迎えるライ。

 ライに笑顔を向けられたバトレー、汗を拭きだし、ハンカチでかいた汗を拭く。

「は、話は聞いております、早速、診察を」

 慌てるように診察に乗り出す。

 

 施設に運び込まれた『ROS』を発症した患者たちを診察するバトレー。患者たちの中には喰種化して襲い掛かるので、拘束されている者も。

 

 一通りの診察が終わり、最後に才子の診察。部屋にいたウリエは期待と不安と疑惑の眼差しで見ている。

「どうバトレー、治せる?」

 ライに背後から声を掛けられたバトレー、いきなり冷水を浴びせかけられたようにビクッとした後、

「な、治せます、“例の研究”の応用で」

 愛想笑いを浮かべて言った。

「本当に治せるのか!」

「“例の研究”?」

 ウリエと貴未は別々の反応。

「ハイ、以前、亜門さんに頼まれたんです、喰種化施術を受けたものを人間に戻せるかと。あの人は自分の体も研究に使わせてくれましたが、残念ながら赫包移植型を人間に戻すのは不可能でした。ですがその研究を応用すれば今回の症状なら、治療は可能だと思われます」

「それは本当か!」

「本当です、私は嘘を吐いたことはありますが、こんなことでは嘘は吐きはせん」

 いきなり腕を掴み、食い入るように聞いてくるウリエへ、必死に訴える。

 慌てて手を離す、ついクインクスの力で締め上げそうになっていた。

 腕を折られずに良かったとバトレー。

 貴未はバトレーを見る。治療不可能、このまま『ROS』の患者が喰種になるのを指を銜えて見ているしかないのかと悔しい思いを誰もが思っていたのに。

 ライはこの男を、一体、どこから連れてきたのだろうか?

 

 治療が可能なら早い方がいい、早々とバトレーは開始。

「まずはこちらの女性から、始めましょう」

 ベットに横たわる才子に視線を落とす。

「えこひいきはいい、他の奴からやってくれ」

 にっこりと微笑さえ、浮かべて言った。自分は捜査官、優先されるべきは一般市民。

 内心、ウリエは余計なことは言うなと言ってしまった。

「いえいえ、えこひいきではありません、あなたはフレーム施術を受けておられるでしょう。この場合、早く治療しないと手遅れ、完全な喰種になってしまう可能性が高いんですよ」

 フレーム施術の影響で『ROS』の進行と悪化が他人よりも激しい。

「……そうか、それなら仕方がないな」

 才子も納得。

 内心、ホッとしたウリエ。

「ライくん、あの人は信用できるの?」

 小声で貴未は聞いた。

「あの“柘榴”あるだろ、アレを開発したのはバトレーだよ」

 言われてバトレーを再確認。

「そうね、“柘榴”の開発者なら信用できる“腕前”は持っているわね」

 

 才子の治療を始めるバトレー。

 まずは点滴、手伝う貴未。

 “柘榴”のこと、治療の手際の良さ、研究者としての腕は確か。どことなく水を得た魚のようなな雰囲気。

 少し気になることが貴未にはあった。“柘榴”にしろ『ROS』の治療技術にしろ、おいそれと出来るものではない。いくら亜門が研究に協力しても、それだけでは不可能。

 以前、嘉納が言っていたことを思い出す。

『最近、凶悪な喰種たちが姿を消している。CCGの仕業でもなし、もしかしたら、喰種を使って私と同じようなことやっている奴がいるのかもな』

 “同じサイド”の人間として、何か感じるものがあったのかもしけない。

「バトレー、1ついいかしら」

 カマをかけてみることにした。

「ライのことを怖がっているんじゃない」

 サッとバトレーの顔色が変わる。

「そ、そんなことはありません!」

 否定していても、動揺までは隠せない。

「絶対に敵に回してはいけないんですよ、ライ様は」

 やはり余程、ライを恐れている様子、さらに様付け。

「狂王や銀の獅子皇伝説には誇大じゃなかった、間違いは無かった。いや、むしろ伝説以上……」

 意味不明なことをブツブツと呟く、言葉の中に恐れと興奮が混じっていることだけは解った。

 確信した、バトレーは嘉納と“同じサイド”の人間でも小心者。

 今はバトレーしかできない知療技術。だが『ROS』の患者の数は多すぎる上、今後、増える可能性大。

 必ず多くの医療従事者や研究者に、この知療技術は広めなくてはならない。うまく彼の小心者を突けば、何とかなりそう。

 

 

 治療にひと段落がつき、一服しようとしていた貴未は廊下でライを見かけた。

「ちょつと、いいかしら」

 声を掛け、無人の部屋に連れて行く。

「あのバトレー、どこから連れてきたのと聞いても教えてくれないわね」

 それは質問する前から、解っていねこと。答えたところで信じてもらえるかも解らない。

「質問を変えるわね。これまでバトレーは人体実験をしたことあるんじゃない?」

 実はこれが、本当に聞きたかったこと。

「あいつは多くの戦災孤児を使ったよ」

 やっぱりと貴未は思った。バトレーの技術力は嘉納に勝るとも劣らないもの。

 嘉納は、あれだけの技術力を手に入れるのに、数えきれないほどの人間をモルモットにした、カネキもその一人。

 バトレーの技術力、喰種をモルモットにしただけでは身に付けれるようなものではない。喰種をモルモットにする前から、かなりの人間をモルモットにしていたんではないかと。

 その考えは的中していた。

 “あいつは多くの戦災孤児を使った”ならば、バトレーを突くのに遠慮はいらないだろうと貴未は判断。

「バトレーも使える主君を思ってやったんだけどね。あいつの忠義心はすごいものだった……、どんな非道なこともやってしまう程、だからって許せる所業ではないが。そこまでやって使えた主君は、今はもういない」

 ライの言葉には哀れみが混じっていた。

 忠誠を誓った主君を失い、行き場を失ったバトレーを拾ったライ。

「もしかして、ライくんもバトレーに……」

 さらに貴未が聞こうとした時、緊急事態が起こった。

 

 

 東京中に広がった“竜”のこと卵管から、産み落とされる“落とし児”たち。

 “落とし児”には『ROS』を引き起こす毒を持つものと、持たないものがいる。

 毒を持つ“落とし児”の個体が集中しているエリア、19区。

 その場所の地下には空洞があり、そこに“厄介”なものがある可能性が高いと貴未は推理した。

 そこでを19区の調査をしていた自衛隊が『V』との奇襲を受け全滅。

 

 

「向こうから来るってことは、それだけ来てほしくないものがあるってことじゃないのか?」

 緊急事態にCCGに呼ばれた英良。

「19区が“当たり”ってことだね」

 ライも呼ばれた。

 貴未の推理が正しかったということ、“落とし児”を産み落とす卵管があるのは19区の地下にある可能性が、すごぶる高い。

 ライ以外にも、連絡の取れた捜査官は集めるだけ、集められた。

 捜査官だけではない、カネキたち喰種も集められている。

「毒の元は、今すぐ調べるべきだ」

「それも一理あるね」

 英良の意見に月山も同意、ぐずぐずしていたら、手遅れになる。

 問題は地下は毒の濃度が高く、人間はひとたまりもない、喰種でさえ危険。

「僕が行きます」

 カネキが名乗り出る。彼には毒に対する体制があり、適任には違いない。

 ただ旧多と『V』が、黙って見ているはずもなく、襲撃を仕掛けてくるのは間違いなし。

「俺も行く」

 アヤトも名乗り出る、地下に詳しい案内人は必要不可欠。一度、奥の奥まで潜ったことがあり、とても地下には詳しい。

 他のメンバーは19区で『V』を足止めする。敵の戦闘力を考えれば、戦力はあればあるだけいい。捜査官、喰種、全員出撃することになるだろう。

「亜門くん、よろしいでしょうか」

 背後から声を掛ける法寺。

「“アレ”を用意していただけませんか?」

 尋ねるまでもなく、“アレ”とはナイトメアフレームであるとは察しが付いた。

 確かに“不動”と“蜃気楼”があれば戦闘が有利になり、毒の影響も受けにくい。

 大空洞の大きさによっては潜って行けるかもしれない、“不動”と“蜃気楼”が無理でも小型のナイトメアフレームはある。

「解りました」

 スマホを取り出し、ゼロと連絡を取り、話し合っていると、

「まさか、本気なのか!」

 亜門の顔色が変わる。

「それはダメだ、辞めるんだゼロ!」

 思わず大きな声を上げたので、一同の注目を受けてしまう。

 向こう側から電話が切れ、再度も掛けても繋がらない。

「どうした、亜門?」

 丸手が近づいて来る。

「“蜃気楼”が19区を更地にする……」

 それを聞いた篠原。

「まさか、例の物を使う気か」

 篠原の顔色も変わる。篠原も何のことか解った様子。

「例の物って何です?」

 ジューゾーが訪ねても答えてくれない、答えられないと言った方がいいかも。例の物とはそれだけの物。

「おいおい、19区に核爆弾でも落とすつもりじゃねぇだろうな」

 勿論、丸手はジョークのつもりで言った。

 ところが亜門と篠原は沈黙、それで理解する、ジョークじゃないと。

「本気なのか! 何を考えてやがる」

 事態を察した丸手は慌てる。丸手だけではない集まってきていた捜査官も喰種も慌て始める。

 1つの区とはいえ、東京に核爆弾を落とすなど、正気の沙汰ではない、人にとっても喰種にとっても取り返しのつかない事態になってしまう。

「F.L.E.I.J.A.、フレイヤ。核分裂反応を起こし、巨大なエネルギーの球体を発生させて、触れたもの全てを跡形もなく消滅させる。爆心地の空気すら消滅させるので真空状態になり、フレイヤの縮小及び消滅後には爆心地近辺の空気を吸い込み、強烈な突風を発生させ、広範囲に第二、第三の被害を引き起こす、甚大な、ね。 効果範囲は最大で半径100kmだが、リミッターを設定すれば効果範囲や起爆時間の調整が可能。起爆時には爆発、熱反応、放射能は発生しないので後遺症は出ない」

 フレイヤのことは良く知っている。何せ、開発者はライと同じ生徒会のメンバーなのだから。

 F.L.E.I.J.A.が何で出来ているかまでは伏せておく。

「ライ、止められないのか!」

 つい丸手は声を荒げてしまう。いくら爆発、熱反応と放射能は出ないと言っても了承できるものではない。

「多分、もう手遅れだよ。あいつのことだ、最もリスクが少なく、敵を殲滅する方法を選んだろうね」

 ゼロはやる時にはやる、どんな非常で冷酷なことも。それはライにも言えること、ライも必要な時は、どんな手段でもやる。

「オイ、誰一人として19区に近づかせるな、19区と近くにいる奴は、即刻、避難させろ!」

 止めることは不可能、ならばできることをやるまで。

 丸手の指示を受ける前に、すでに捜査官も喰種も動きだしていた。

 

 

 

 

 19区、戦闘準備を整えて待ち伏せている『V』。

 自衛隊の活動はCCG側に気づかれたということを意味する。

 あの場所に何人たりとも近づけるわけにはいかない、あの場所に立ち入っていいのは自分たちと同じ、選ばれたもののみ。

 すぐにでも来ると思われたCCGと【黒山羊】が一向に現れない、いつまで経っても現れる気配すら無し。

 

 

 ビルの屋上で『V』を見下ろしている【ピエロ】のメンバー。

「来ないわね、CCGや【黒山羊】を買いかぶっていたのかしら」

 ぼやくニコ。自衛隊が19区を調べ回っていたので、地下にいる“竜”の母体のことを調べていると判断し、皆殺しにした。

 そんなことすれば、確実にCCGと【黒山羊】に母体のことを感づかれてしまう。

 それでも母体を守らなくてはならなかった。

 母体を破壊するためにCCGと【黒山羊】が来ると踏み、【ピエロ】と『V』が待ち構えていたが一向に現れない。

 ニコと同じく、ウタもイトリも拍子抜けしていた。

「いや、そんなはずはないCCGや【黒山羊】は馬鹿ではない、聡明な奴らが揃っている。カネキ、丸手、スケアクロウ。特にライが気付かないはずがない。なのにどうして、現れない?」

 ドナードだけが、他の【ピエロ】と違い状況を分析していた。

「ここを離れるぞ!」

 何かに気が付き、急いで走り出す。

「CCGと【黒山羊】が来ないのは来られないからだろう。つまりば奴らは“それだけのこと”を場所で起こすつもりだ!」

 いつの間にかドナードの鳥肌が立っていた。

「ち、ちょっと、『V』に知らせないの」

 慌ててイトリも後を追う。

「どうやら、そんな暇はなさそうだね」

 楽しそうと言いながらも、ウタは緊急事態なのは解っていた。

 喰種の力を振り絞ってビルからビルへと飛び移り、出来るだけ【ピエロ】たちは19区から離れる。

「せめて、宗太ちゃんには知らせてあげないと」

 ジャンプしながら、ニコはスマホを取り出す。

 

 

 突然、上空に黒い機体、“蜃気楼”が現れた。ついに来たかと身構える『V』たち、皆の両目は赤い、赫眼。全員がすでに喰種になっている証拠。

 人間と喰種のハーフ、半人間の『V』たちは短命、だからこそ自ら進んで毒を受け入れ、喰種になって生き延びることを選んだ。

 空を飛んだまま“蜃気楼”は、音叉のみたいな銃身を持つ銃を取り出し、何をと思う間などなく、緑色の物体を撃ち出す。

 咄嗟に『V』は距離を取り、防御態勢を取った。

 アスファルトにめり込んだ緑色の物体は紫がかったピンク色の光を放ち、縮小を始める。

 それを見届けると、以後の攻撃は行わず“蜃気楼”は飛び去って行った。

 最初は爆弾か何かと警戒していた『V』たち、しかし一向に縮小したまま、爆発もしなければ攻撃もせず、何の変化なし、ただ光っているだけ。

「何だこけおどしか……」

 ホッとする『V』たち。

 次にアレは何なのかと興味を持ち、紫がかったピンク色の光の周りに集まり始めた。中には回収できるなら、回収しようとするものまで現れる。

 それを見計らったようにF.L.E.I.J.A.は炸裂。実際、ゼロは自分が逃げる時間と、興味を抱いた『V』が集まる時間を計算して、炸裂するようF.L.E.I.J.A.を調整していた。

 紫がかったピンク色が球体となって広がって行き、何もかも包み込む。建物も木々も『V』たちも“竜”も、19区に存在するありとあらゆるものを包み込む。

 

 

 紫がかったピンク色の光球が消えると同時に、周囲の大気を吸い込み、強烈な突風を巻き起こす。

 全力で逃げていた【ピエロ】も巻き込まれそうになるが、近くにあった建物の壁や床にしがみつき、何とか耐えきる。

 19区から離れていたことと、上級喰種の力が幸いした。あの突風、並の喰種のパワーだったら、巻き込まれていただろう。

 

 

「何なのよ、もう」

 ブツブツ文句を言いながら、ニコは屋上に這い上がる、手を掴んで助けてあげるイトリ。

 19区が見下ろせるビルの屋上に集まる【ピエロ】の面々。

「何もかも無くなっちゃった……」

 ウタの言葉通り、19区は消滅していた。建物も木々も『V』たちも“竜”も、何もかもがきれいさっぱり消え、まるごとクレーターになっていた。

 ここに町があったなんて、とても信じられない。

「危なかったわね、あと少し、逃げるのが遅れていたら私たちも消えていたよ。よく気が付いたわね、クラウン」

 イトリの労いの言葉はドナードの耳に届いていなかった。

 消え去った19区を凝視し、

「主は硫黄と火とを主の所、すなわち天からソドムとゴモラの上に降らせて、これらの町と、すべての低地と、その町々のすべての住民と、その地にはえている物を、ことごとく滅ぼされた」

 旧約聖書『創世記』を読み上げていた、その顔に現れていたのは歓喜。

 

 

 




 黒磐さんも生きていました。
 カネキとトーカの娘、ナキとミザの子供、可愛い。

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