「すんだら、こなそめっさ、まんだまら、いんちいんち、つぐにつきて、あんどうぅ、よってたかって、はなずらすっばらし、ばらすいばらすて、あびいててくにか、しってもすとよぉ」
アヤトが24区の最深部から連れてきた地下育ちの3人の子供が話す。
地上と隔絶された世界で育ったため、独特の言語、訛りがあり、捜査官たちは当然、喰種たちにさえ、何を言っているのか解らない。
「あびたして、ほでだ」
幸いにもトーカは地下訛りに精通いたので、翻訳を買って出てくれた。
「だらうん、どうんだ……か」
ライが呟く。
「ライ、もしかして、何を言っているのか解るのですか?」
ジューゾーが頷く。
「言語にはパターンがあるからね、それを抑えれば大体は解る」
通訳の邪魔にならないように、小声で話す。
「凄いですね、ライは」
かと言ってライは通訳に名乗り出ない、それはトーカの仕事なのだ。
「彼らは暴れ回る、王を制止するため、一斉に攻撃を加えました。効いている様子は見られませんでしたが、“眼球”を狙ったとき、王の攻撃が鈍りました。眼球を破壊し終わって、いくらかの時が過ぎ、ようやく王は動きを止め、石になったそうです」
3人の子供の話したことをトーカは翻訳。
“眼球”と聞いて貴未はピンときた。
「赫子の形成において、Rc細胞が密集すると“眼球模様”が現れることがあります。そしてRc細胞が最も密集するのは“赫包付近”」
確かに喰種の赫子に目玉の模様があるのは多々ある。
「眼球の近くの“赫包”を持った“本体”がいる可能性も高いってことか?」
「その通りです」
アヤトの質問に貴未が答えた。
「一つ一つ調べんのか、面倒には変わりねぇな」
と丸手、何せ“眼球”は“竜”の体中にあるのだ。
「ええ、ですが大きな進展です」
何の手掛かりもないよりは、大きく進展した。
「24区の情報のおかげです、ありがとうございます、霧嶋くん」
と貴未に褒められ、
「そりゃ潜ったかいがあったな」
フンと鼻を鳴らす。
「なにアンタ照れてんの?」
「ハァ? うっせえ、人間に感謝されると、変な感じがするんだよ」
トーカにからかわれ、ますます照れるアヤト。
しかし再活動までには時間が少ない、それまでに本体、カネキケンを見つけるのは大変な作業。
「本体を見つける決定的な方法があればいいのですが」
貴未の言ったことは、CCG共通。どうやってカネキケンを見つけるのか?
「トーカさんがカギになるね」
ライが口を開く。
「なんで私がカギなんだ」
トーカだけでなく、丸手、ジューゾー、貴未、アヤト、24区の3人が注目する。
「一番、カネキさんと親しいのはトーカさんなんだ。最も近くにいて最も知っている。カネキさんを見つけ出すには、トーカさんの力が重要になる」
一同の視線がトーカに集中。
ああもうと頭を掻きむしる。
「頭を使うのは苦手なんだ」
口で言いながら、やるつもり。カネキを助けたい、それはトーカの強い思いで願い。
そしてそれが都民を助けることになる。
自分が人間を助けるカギになる、今度はトーカが変な感じがしてきて、照れてしまう。
都民たちを避難誘導する捜査官たち、手伝うのは喰種。ここに人間と喰種の協力体制が築かれていた。
皮肉にも“竜”の存在が、カネキ【黒山羊】の目指したものを生み出す。
そんな捜査官に、いきなり襲い掛かる【V】。
間一髪、間に飛び込んだ喰種が赫子の盾て攻撃を受け止める。
もう1人の【V】が喰種に切りかかった。今の体制では躱せない、躱してしまえば捜査官が切られてしまう。
武臣が【V】目掛け一撃。
咄嗟に一撃を受けとめた【V】。何を思ったのか、追撃することもなく【V】たちは後退していく。
「亜門くん、少しよろしいでしょうか」
「法寺特等、五里二等、お久しぶりです」
法寺に呼ばれた亜門は挨拶。
「あの“不動”と名乗っていたロボットに乗っていたのはあなたですか」
いきなり本題に入る。隣の五里もじっーと見ている。
「ハイ」
あっさりと認めた。こんな時に嘘を吐けないのが長所であり短所。
「そうですか」
本当に“不動”のパイロットなら、素直に認めると解っていて質問した。特等だけあり、亜門の性格を熟知している。
「あのロボットは何処で作られたものでしょうか?」
あの“竜”と互角に渡り合い、空まで飛ぶ。驚異の技術で作られている。CCGでも同じものを作るのは不可能だろう。
「それは言えません」
嘘は吐けなので、ありのまま答えた。“どこで”作られたのか、決して話せない、言ったところで信じてもらえるような話でもない。
それ以上、法寺は追及しなかった。
「じゃ、もう1機に乗っていたのは誰だ?」
五里の質問、これは純粋なる興味。
「お2人の知らない人です。少々、性格に難はあるが、悪い奴じゃありません」
そう亜門が言うなら、そうなのだろう五里は納得。
「リンタロー」
ジューゾーがリオに声を掛けた。
「あっ、違いました、本当の名前はリオでしたね」
以前、リオはジューゾーに会ったとき、咄嗟に局員捜査官のリンタローと名乗ってごまかしたことがあった。
「あの時はごめんなさい」
「気にしなくてもいいです、もう過去のことです」
怒りで我を忘れ、捜査官を虐殺して【JAIL】と恐れられたリオ。
ビックマダムの飼人として、多くの人間を解体、喰種を嬲り殺しにしてきたジューゾー。
人との出会いが彼らを変えた。もしかしたら似た者同士かもしれない。
「何としても佐々木は助けたいです」
「うん、助け出そうね、一緒に」
人間と喰種が一緒になって助け合うえば、どんな不可能なことでも可能になる気がしてくる。
「おっジューゾー、ここにいたのか、カネキを探し出す方法が見つかったぞ。リオ、ちょうどいい、お前も来い」
丸手に呼ばれた2人。
結婚式の時、トーカがカネキに送った婚約指輪、これが目印になる。 1区~4区、13区、広範囲に広がった“竜”の“眼球模様”近辺で金属探知機を使い、カネキを探し出す。
金属探知機が足りない問題も、月山習の父、観母が学友の総理に頼んで、用意できた。
緊急時、人間だとか喰種だとか拘っている拘るような指導者でなかったのが幸い。
それぞれコンビを組み、各区に散り、カネキ探索が開始された。
「霧島トーカ、見つかると良いな、カネキケン」
トーカとミザがコンビとなり、カネキを探索中。
「私は、もう幸せなものだけを見ていたいよ」
そう語るミザは悲しそうで寂しそう、彼女の大切な人は帰っては来ない、二度と。
「ありがとう、ミザさん」
トーカがお礼を言ったとき、ミザの金属探知機が反応を示す。
見つけた! トーカがウリエたちに報告を行い、さらに反応の強くなるポイント探していると……。
六月と晋三平が襲撃を仕掛ける。
ネジの吹っ飛んだ六月の襲撃で深手を負ったミザ。
さらに攻撃したため、“竜”が動きだし、各区に薄気味悪い化け物“落とし児”が産み落とされ、暴れだす。
トーカも奮戦するものの、六月と晋三平との二対一の戦いでは分が悪く、追い詰められてしまう。
「やめろ」
そこへ現れたのはウリエとクインクス。
トーカを逃がし、戦いが開始される。ウリエ&才子VS六月、シャオ&トウマVS晋三平。クインクス同士の戦闘。
ぶつかり合うウリエと六月、お互いの攻撃を躱し、弾く。
そこへ才子の攻撃が炸裂、難なく避ける。
「むつちゃん」
自らの腕を巨大化させてのメガトンパンチを放つ。
六月の赫子は模倣(トーレス)し、メガトンパンチ同じに変形、カウンター。
「うがっ」
吹っ飛ばされる才子。
果って芝先生にRc値を聞いた時のことをウリエは思い出す。
普通の人間のRc値は100~300、喰種で1000~8000。
クインクスのRc値はトウマが701、晋三平が980、シャオが892、才子が852、ウリエ、902。
「知らないからね」
六月のRc値は3。それはRc細胞を制御しているし言うこと。
「死んでも」
六月の赫子が“竜”を模倣した攻撃。ウリエは赫子の盾で防ぐものの、
「班長ッ!」
防ぎきれず、“竜”の上をバウンド。
「殺したくないな、でも仕方ないよね」
才子を見つめる六月、悲しそうに。
「むっちゃん」
見つめ返す才子。
「班長もウチらも、ずっとアンタのこと心配しとったよ。でも、このデカブツが出たせいでむっちゃんの安否を調べるのもできんやった、歯痒かった。だから、生きててよかった、だけど……」
生きてて嬉しかった。これは才子の思いだけではない、クインクス、六月を知るものの全員の共通の思い。
「解らんよ、むっちゃんはどうしたいの? ウチらはどうすればいい?」
必死に呼びかける。
「大丈夫だよ、才子ちゃん」
動かない表情。
「すぐ終わるから」
一斉に赫子が才子を襲う。
「ッ月!!!」
才子の前に飛び込み、今度こそ、赫子の盾で防ぐウリエ。
「……俺がッ、班長を解任された時、佐々木が言ってたな、班長はチームのために動ける人間が就くべきだと、俺もそう思う。俺はお前を見捨てたりはしない、米林を傷付けさせもしない。俺は班の、みんなのために戦う」
クインクスに入ったばかりのウリエなら、こんなことは言わなかった。彼もいろんな経験を積み、成長している。
「気持ち悪い」
ボソッと呟くように。
「その目、下心が透けて見える。私は嘘には敏感なんだよ、自分自身が嘘つきだから」
あの時のことを思いだす。六月の着替えを見た佐々木(カネキ)は気が付かないふりをした。
この時、六月は二つの嘘に気が付いてしまった。
狼狽える六月を視線に入らないように、巧みに逸らしたこと。
そして初めから六月が女であることに気が付いていながら、気が付いていないようにしてくれていたこと。
私みたいに自分を守るための嘘ではなく。六月を、他人を傷つけないようについてくれた、優しい嘘。
その時から、思ってしまった佐々木(カネキ)のことを理解できるのは自分だけだ、許してあげられるのも傍にいてあげられるのも自分だけ、トーカなどではなく。
「見捨てない?」
表面は現れなくとも、悲しそうな顔。
「私が肉を喰っていても? 私の穢らわしさに」
肉と言ってもスーパーや肉屋で買える肉ではない。
「欲しかったんだ、望んだ物が手に入る、強さが……手段を択ばないのは解っただろ」
赫子が伸びる。
「もう、いいよね」
そう、もういい“覚悟”が出来た。
「止めたきゃ、殺してよ!!!」
六月を殺すことはウリエも才子も出来ないこと。
躊躇するウリエへ、容赦せずに赫子で攻撃しようとした、その時、
「There was an old lady who swallowed a fly
I don't know why she swallowed a fly
Perhaps she'll die
There was an old lady who swallowed a spider
that wriggled and jiggled and tickled inside her
She swallowed the spider to catch the fly
I don't know why she swallowed the fly
Perhaps she'll die.
There was an old lady who swallowed a bir to swallow a bird
She swallowed the bird to catch the spider
There was an old lady who swallowed a cat
Imagine that to swallow a cat
She swallowed the cat to catch the bird
There was an old lady who swallowed a dog
What a hog to swallow a dog
She swallowed the dog to catch the cat
There was an old lady who swallowed a goat
Just opened her throat to swallow a goat
She swallowed the goat to catch the dog
There was an old lady who swallowed a cow
I don't know how she swallowed a cow
She swallowed the cow to catch the goat
There was an old lady who swallowed a horse
She's dead, of course」
マザーグースが聞こえてきた。何だと思って視線を向けると、そこに立っていたのはライ。
「そんなに死にたいなら、僕が殺してあげるよ」
腰には白い柄に黒鞘の日本刀が差してある。亜門から渡された青い刀袋に入っていたのはこれ。
「殺せるものなら、殺してみろよ!」
“竜”を模倣した赫子がライに襲い掛かる。
恐れず逃げようともしないで抜刀。
明らかに白い柄の日本刀はクインケとは違う。
クインケでなければ喰種も赫子も切れない、今の六月も同じ。普通の武器では並の赫子さえ切れないのに、あんな巨大な赫子なら刀の方が砕けるはず。
咄嗟に六月は飛びのく、巨大な赫子が切断され落ちる、クインケでしかはずの切れないはずの赫子が。
「よく避けれたね」
ちぃん、刀を鞘を収める。
「斬鉄剣かよ」
六月でも斬鉄剣は知っている。世界的にも有名だし放送されている年月も長い。
ポタポタと足元に血が滴る。完全に避けたつもりだったのに避けきれなかった。傷は深くはないので、すぐに塞がる。
「こいつの銘は小狐丸」
言い終えると、間合いを詰めて抜刀。
「!」
赫子を盾にすると同時に逃げ、致命傷を避ける。
「小狐丸……」
この状況で才子もキツネ耳の美青年のこととは言わない。
「小狐丸、聞いたことはあるが……」
「名工、三条宗近が天皇の勅命で刀を打つことになったが、いい相槌を打つものが見つからなかった。そこで伏見稲荷に祈ったら、稲荷明神が童子の姿になって相槌を務めてくれ、結果、それは素晴らしい刀が出来あかったのじゃ」
ゲームで知り、ネットで調べたことをウリエに話す。
「じゃ、あの刀は神様と人間の合作ということか?」
「まぁ、正確には謡曲『小鍛冶』出てくる話で小狐丸が実在するかどうかは不明だが……」
しかし目の前でライが小狐丸を振るい、クインケでしか切れない赫子を切った。
「元をただせばクインケも人の作った物。それで切れるなら神様と人間の合作の刀なら切れてもおかしくないのということかの、美形よ」
とてつもなく大きなスピアのような赫子。
腹を貫こうとした赫子に飛び乗り、六月目掛け駆ける。
払い飛ばそうとする六月、その前にジャンプして斬りかかるライ。
クインケ、黒のリンシルグナット16/16と白の白のルスティングナット 16/16を放つ。
刃を返すと峰で打ち返す、全てのクインケを。
「!」
防御態勢を取り、何とか急所に刺さることだけは防ぐ。
着地したライは息すら乱れてはおらず。
「ダメだ……」
六月はライに勝てないとウリエは解ってしまった。武器の質なんか関係ない、向かってきたクインケを弾き返しただけではなく、全部、命中させるなんて並の実力では出来ない芸当。
実力の差があり過ぎる。
「……六月を殺さないでくれ」
六月を失うなんて耐えられない、仲間を失うなんて、もう二度とごめんだ。
「六月は家族なんだ!」
クインクスのみんなは大切な家族、思わず飛び出そうとしたウリエ。
その手首を掴み、才子は止めた。
何故? と振り返るウリエに、才子は首を左右に振る。
「家族じゃない!!」
ウリエの言葉を聞き、六月は叫ぶ。
「俺の家族は」
何かのスイッチが入った。
「くそ最低親父とくそ母とくそ兄だけだ!」
目の前にいたライに向け、赫子をしならせる。
「碌でもない父親や兄の中で育ったのはお前だけと思っているのか?」
小狐丸で赫子を弾く。
「家族を死に至らしめたのは君だけではない」
気を逸らすためにハッタリをかましているのではないのは言われなくても解る。油断するせず、赫子を放つ。
「手を、全身を血で染めたのも君だけではない」
放たれた赫子を、またも弾いた。そこへ死角から赫子が襲う。二段構えの赫子攻撃。
赫子がライをすり抜ける、それはまるで亡霊のように。
「なっ!」
六月が驚いた時には目前に現れ、柄でのこめかみへの一撃。
常人なら昏倒レベルの衝撃に耐える。それでもダメージは0とはならず、ふらつき、その場にうずくまる。
「殺れよ」
もう勝てない、あらがうだけ無駄だろう。
六月は両目を閉じる。
無言でライは小狐丸を振り上げた。
「六月!」
ライを止めようとするウリエ、だが才子は手首を離さない、その顔は真顔。
振り下ろされる小狐丸。唐竹割り、六月が真ん中で真っ二つになる。
に見えたが、ライの振り下ろした小狐丸は六月の頭の、ぎりぎりのところで止まっていた。ほんの数センチの所で。
六月自身、切られて真っ二つにされたと思った、そう感じた。
「君にはいい家族がいるじゃないか、二度と失わないようにしろよ、それだけの力があるのだから」
ちぃん、小狐丸を鞘に納め、立ち去る。入れ替わりにウリエと才子が駆けつけてきた。
ライとすれ違う時、
「ありがとうな、美形」
才子が呟く。
「六月、ケガはないか」
ちょつぴり放心状態の六月をウリエは揺さぶった。
「俺、生きている。斬られたはずなのに……」
斬られたと感じたにもかかわらず、その形跡すらない。
ウリエも真っ二つにされたように見えた。
どういうことなんだとウリエと六月が首を傾げていると、
「美形はむっちゃんを斬ったんだよ」
才子の言った言葉に、ますます首を傾げる。
「刀や剣術の極みは“心”を斬ることなのじゃよ。美形はむっちゃんの悪い心を斬って“殺して”くれた、もうむっちゃんは新しく生まれ変わったんじゃ」
言われて自覚する。心の中にあったドロドロと淀んだモノが消えて無くなり、何か晴れ晴れとした爽快感さえも。
これが、一度死に生まれ変わったということ。
「“心”を斬る……か」
ウリエもそんな話は聞いたことがある。
(しかし、それを本当にやっちまうなんて、なんて奴なんだ)
ライが歌っているのはマザーグースの『ハエを飲んだおばあさん』です。
歌詞と状況があっている気がしたので。