今回、ライくんの出番は少ないです。
いくつかの関節を外し、出来た隙間に赫子を通して拘束衣を脱いだハジメ。
攻撃を受け、横たわっている喰種の府河、フカ。2人の仲間は仕留められて、拘束室の床に転がっいていた。
脳震盪を起こしているので動けず、フカは回復までの時間を会話で稼ごうと試みる。
「幼稚園のときにさ、歯列矯正して整たんだ。両親とも医者だったから、気にかけていろいろ与えてくれた」
自慢の歯を見せる。
「歯が痛むときは、母さんが食べやすいものを作ってくれて、将来どんな医学的メリットがあるか、父さんが話してくれた」
淡々と両親の思い出を話す。
「まぁ、2人とも喰種に殺されたんだけど、病院で出た肉を提供しろと脅されたとか、それを拒否したら、そうなった」
両親を殺された後、CCGに保護されたハジメは20区支部に連れてこられた、あの頃のハジメの目は死んだ魚の様。
「最後は顔を見せてもらえ何った。損傷が激しすぎて」
喰種への復讐心でオッガイとなり、ここまで来た。
「歯並び、治療してあげるよ」
赫子をフカの口に捻じ込む。
「お喋りで、隙なんか見せないよ、お馬鹿さん」
拘束室から出ていくハジメに、
『着いたよ、ハジメ』
体の中仕掛けておいた通信機に、仲間からの連絡が入る。
「オッケー、すぐ行く」
ずらっと高台に並ぶオッガイたち。
「隠れて」
とっさにトーカは子供たちを逃がす。
クインケ片手に、一斉に飛び降り、襲撃。たちまち、地下にいた喰種たちの悲鳴が上がる。
「20番地下道に避難して、戦えない人は優先してあげて」
避難指示をするトーカ、そこへ襲い掛かるオッガイを羽赫を飛ばして、串刺し。
無抵抗な子供の喰種に襲い掛かろうとしたオッガイをヨモが殴り飛ばす。
「……ヨモおじさん……」
「トーカのところへ」
トーカの所へ逃がす。
「オラァ、白スーツだ、ガキども!」
ナキと白スーツの集団が駆けつけたきた、さらにミザも参戦。
全部のオッガイが倒された。これで決着かと思われた時、六月と晋三平が現れる。
「アイツ」
六月と晋三平とは面識のあるトーカ。
「寝んな」
六月のその一言で、死に至る致命傷を受けたはずのオッガイたちが、ゆらりと、全員、起き上がる。
「あいあいあいや――」
「うーうー、おかあさんおかあさんおかあさん」
「なんで殺したんだなんでなんでなんでしたんだなんでなんで」
「死にたくない死にたくない死に死にい死にたい死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない」
「いやだいやだああいやだよおおいやだやだしだい」
頭を壁に打ち付けたり、頭を押さえて自傷、もがき苦しむ。
「殺す殺せ」
「壊れる壊れる壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れる壊れろれろるえいえ壊れる壊れろれろおれえあり壊れる壊れろ」
「どうして僕を置いて行ってどうしてこうなるの」
「いやだああああああいやだあああああああああああああああああ」
オッガイたちの赫子が暴れ回る。
「カレーにしちまえ」
嬉しそうに微笑む六月。
フレームアウト、リミッターが外れ喰種化する。
暴走する赫子に切り刻まれる喰種たち。
「オッガイ! すべては【王】が戻る前に済ませる、キタロー分けの女を殺せ、【隻眼の王】の急所だ!」
叫ぶ六月。
「蕩けた頭で理解できたなら、行け!」
そこには歪んだ愛と嫉妬があった。
襲い掛かってきた喰種を六月と晋三平は刻む。
「今日は逃がしません、ここで絶対に死ね」
カミソリ型のクインケを取り出す。
前に出るヨモ。
「先に行け」
「ヨモさん」
「行けトーカ、お前は、ただ見ているわけでも、何も出来ないわけでもない。守るべきものが他にあるだけだ……、そうだろ」
めったに見せない微笑みを見せた。
「だから行け」
覚悟を決めたものの笑顔。
「お姉ちゃん」
ヒナミに袖を引かれる。
「行こう」
トーカも覚悟を決めた、戦えない喰種を引き連れ、走り出す。
見送るヨモ。
「強そうだよ、安浦くん」
誰もここを通させるつもりはヨモにはない、命がけで。
「全力で逝かそう」
「ええ」
睨みあうヨモと六月、晋三平、1対2の戦い。
トーカとヒナミは喰種の子供たちを引き連れ、地下通路を逃げていた。
「あ~~、行き止まりでーす」
ハジメがとおせんぼ、蠢く赫子が喰種を貪り回っている。
こいつは強い上に危険、トーカとヒナミは自分たちが戦い、その間に子供たちを逃がそうとした時、そこへ平子と0番隊が現れた。
「進め」
ハジメが邪魔できない立ち位置を取る。
「ここは俺たちが防ぐ」
以前は敵対していた捜査官たちの助け、『20区の梟討伐戦』の時は『あんていく』の面々と戦った相手。
複雑な思いはあるが、トーカたちは逃げ知ることに決めた。
「ユダ、地味な顔して、頭おかしいんじゃねぇの。自分が何をやっていねのか理解してます?」
何も答えない平子。
「ねぇ~、何か言ってよ、オジサン」
挑発には乗らない、平子と0番隊。
CCGから離脱した捜査官たちが、ハジメに加わる。
ヨモ、平子の足止めのおかけで逃げ出すことのできたトーカ一行。
いきなり突きかかってきた赫子を、間一髪、トーカは自分の赫子で防御。
「お久しぶりです、先輩」
そこ居たのはロマ率いるオッガイたち。
ニヤニヤ笑っているロマ、トーカとヒナミは赫子を出し、臨戦態勢を取り、非戦闘員の喰種たちを下がらせる。
後ろに控えていた旧多の、
「みなさん、よろしく、お願いします」
合図でロマとオッガイたちが、一気に襲い掛かってきた。
見た目に反してヒナミの戦闘力は高い、特に赫子はレアな二種持ち。上から襲い掛かってきたオッガイを返り討ち、トーカも負けじと戦う。
それでも次から次へと襲い掛かってくるオッガイ、それらを倒していくトーカとヒナミ。
「やだ、怖いですよ、先輩」
と口で言いながら、後方で小ばかにしている。
「頑張っても、でも、む・だ。あなたたちはエサにななるんですから」
旧多も後方の安全なところで勝ちを誇る。
戦力差は圧倒的、【黒山羊】で戦えるのはトーカとヒナミのみ。
人海戦術、あまつさえ主戦力であるロマと旧多は攻撃してこない、ニヤニヤしながら、トーカとヒナミが力尽きるのを待っている。
このままでは全滅してしまう。
「行ってお姉ちゃん」
この状況で逃げるように促す。
「子供たちを守らないと」
ヒナミは笑顔であった、とっても優しくて輝いていた。
ヒナミの言うことは正しい、このままここで立ち止まっていたら、トーカとヒナミどころか、非戦闘員の喰種たちも、みんな殺されてしまう。
トーカのもっともやらなくてはいけないことは、非戦闘員の喰種たちを無事に逃がすこと。そして、お腹の子供を守ること。
唇を噛みしめ、トーカは逃げ出す。
ヒナミは戦った、がんばって戦った。少しでもトーカの逃げる時間を稼ぐため。
赫子が強力な分、消費も激しい、それを狙って敵も攻撃。
「隙あり」
ロマの不意打ち、疲労しているところへ奇襲を避けきれず、まともに喰らう、千切れる赫子。
「!」
それでも倒れずに持ちこたえたヒナミ。
「へー、頑張るんだ。でも次でおしまいだぞ」
次の一撃は耐えきれない、それはヒナミにも解っていた。
(お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん、わたしきれいになれたかな、傍にいられるぐらい強くなれたかな、あなたと弱さと分かちあえたかな、ねぇ、お兄ちゃん、お兄ちゃん)
瞳を閉じる。
「これでお終い」
止めを刺しに来たロマ、その時、大きな赫子がヒナミを包み込み、守る。
どよめくオッガイの中、旧多がニヤリと笑う。
「V」
「わーい、カネキ先輩だ!」
憧れのカネキ相手に、ニコニコしながら攻撃。
簡単に攻撃を弾くカネキ、【隻眼の王】の名前は伊達ではない。
「行ってヒナミちゃん」
躊躇していると、
「すぐに行く」
さっきまでのトーカと同じく、心苦しい思いを持ちながらも疲労困憊の自分は足手まとい、“すぐに行く”の言葉を希望に逃げていく。
「カネキ先輩相手に、ふざけてはいられないね」
ロマの体が膨れ上がり、巨大化、赫者の力を解放。
「よっしゃ、オニツネのときみたいにゃ、行かないぞ~」
幼く見えるロマは、実は50才を越えている。SSSレート【うろんの母】。ロマを捕らえた現役時代の和修常吉はオバQと呼んでいた、そんな外見。
カネキも赫者の力を解放した。
「うろんなボディが……」
血塗れで肩で息をしているロマ、その傍らには引き裂かれたうろんなボディ。
だるま状態で倒れているカネキ、瀕死と言っても差し障りがない状態で声も出せない。
「鬼神の様でしたよ、カネキ先輩。うろんなボディを犠牲にした一撃がヒットしていなかったら、負けていたのは私でした」
いつものような愚弄ではなく、本心で讃えている。ロマにとって、それほどの相手だった。
うろんなボディを犠牲にしたロマの決死の一撃の命中、そこを付いたオッガイの集中攻撃。
ほんの少し、ほんの少しタイミングがずれていたら負けていたのはオッガイたちの方だっただろう。
ハジメと戦っていた0番隊のリカイとシオもやられ、カネキの近くに転がっている。
旧多はCCGを離脱した捜査官とともに、去って行った。
“GAME OVER カネキの完全敗北”
「憧れいたのに、本当に無様な姿になっちゃったね」
真面に動けないカネキの頬を叩き、嘲笑うハジメ。
周囲のロマとオッガイたちも勝利の余韻に浸っていた。
カブッ、いきなり飛び上がったカネキがハジメの顔を喰い千切る。
「ハジメ」
「隊長ッ」
慌てて駆け寄ってくるオッガイたち。
「顔、どうなっている? イケメンの顔……」
顔を喰われ、オロオロするハジメの顔面を赫子が貫く。
縦横無尽に暴れ回る赫子に引き裂かれ、喰われるオッガイたち。
「ち、ちょっと、タンマ、カネキ先輩!」
負傷で素早く動けないロマの元へ、大口を開けたカネキが迫ってきた。
虐殺と捕食、引き裂かれたうろんなボディさえも、残さずにたいらげた。
東京ドームで紅茶を飲んでいたライ。
政や丸手は準備のために局へ戻って行った。
ここにいるのはライ、ウリエ、才子、シャオ、髯丸のクインクス、月山を代表代行にした、松前、ニシキ、万丈、ハイル、【黒山羊】たち。
宇井、黒磐、暁、ジューゾーも残って待機していた。
とても大きな音が外で響き渡る。
「あの音は何です、ガス爆発でもしたのですか」
お菓子を食べているジューゾー。
誰が反応するよりも早く、ライは外へ飛び出した。途中で見かけたゴミ箱に紙コップを捨てて。
外へ出た時、目に映ったのは巨大な化け物、正しく怪獣、その姿を例えるなら“竜”。
「ワーム」
ライの言ったワームはミミズのことではなく、ヨーロッパの伝説に出てくるドラゴンのこと。
『ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ』
轟く怪物の絶叫。
「あれは何だ、喰種なのか?」
飛び出してきた黒磐も“竜”を見上げた。あれに比べれば、果って死闘を繰り広げた【隻眼の梟】が可愛く見える。
続々と飛び出してくる捜査官たちは、天へと鎌首を持ち上げている“竜”に戦慄を覚え、膝を笑わせた。
「カネキだ、あれは」
「カネキ? あれがハイセだというのか、あの怪物が」
ライの呟きにウリエは、改めて“竜”を仰ぎ見る。どう見てもハイセ、自分たちのメンターをしてくれたカネキの欠片さえ、あの“竜”には見当たらない。それどころか、人間や喰種にさえ、見えない姿。
「あの声は、間違いなくカネキケンのものだよ」
断言する。
「あの怪獣がママン……」
それ以上の言葉が出てこない才子。
「これか、これが旧多の目的だったのか……」
旧多が地下で何かをやろうとしていたことは読んでいたが、ライもここまでも読めなかった。
「なるほど、鳥籠をぶっ壊す、蟻の一穴か……」
戦慄も恐れもライは抱いてはいない、あるのは微笑み。
これで販売されている東京喰種:re13巻を消化いたしました。次章からは1月19日に発売される14巻の話になりますね。
ライくんの言っているワームと、カネキの変化した“竜”はよく似ています。