原作では喰種とCCGの協力体制が築かれましたね。
その日、CCGに現れた人物を見た誰もが騒然となる。ル島で死んだはずの丸手だったからだ。
堂々と正面玄関から入局、ぞろぞろと馬淵をはじめ部下を引き連れて。
「生きていたのか」
黒磐が応対、後を追ってウリエも玄関へ。
「燻ぶっているのも飽きたんでな」
丸手の帰還を見ていたライ、突然、振り返り、向かってきた日本刀を指先だけで白刃取り。
刀身を捻って相手のバランスを崩させ、投げ飛ばす。
相手の身体能力も高く、床に叩きつけられる前に無事着地。
「俺がいない間に、随分、勝手なことをしてくれたな」
「それでいきなり、斬りかかってきたんですか、和修政特等」
体制を立て直した政が日本刀を鞘に納めた。
「噂通りの手練れだな」
シャツだけのラフな服装で顎髭も伸び、額に縫い目。
丸手が近づいてきた、後に黒磐とウリエも。
「瓜江、また会えたな」
やってきたウリエに挨拶。
「詳しい話は部屋でだ、ライ、お前も来い」
丸手に促され、ライと黒磐、政のたっての希望でウリエを伴い。局長室へ。
局長室に入った政は、ちらりと局長の椅子を見ただけで座ろうとはしなかった。
「丸手、今まで何をしていた」
「いろいろ嗅ぎ回っていたら、旧多がCCG(ここ)を乗っ取ろうとしている計画を知ったんでな、対策を練ってたんだが――、俺が出てくる前にひっくり返しやがった。大した奴だよ、お前は」
視線をライに向ける。
「おまけに喰種との協力関係なんて、とんでもねぇ爆弾を投げやがって」
喰種を絶対的な敵と教えるアカデミーで学んだものでは、思いつかない発想。
「本来、喰種との協力関係なぞ、真っ当な捜査官なら受けいられないだろう」
局長の椅子に座らなかった政は壁に凭れ、両腕を組む。
「ところが旧多がCCGを喰種の協力者、裏切り者に仕立て上げ、オッガイを正義の味方に仕立て上げた。さぞかし捜査官たちは誇りはズタズタされ、悔しかっただろうな」
政の言う通り、今まで信じていてたものを踏みにじられたショックは大きい。
「それさえもお前はひっくり返した」
睨んでいるわけではないが、顔が顔だけに睨んでいるように見える。
「普段の状況なら、捜査官たちも納得できなかっただろうが、名誉を回復したタイミングで自分たちを貶めた旧多とオッガイを凶悪な悪役に仕立て上げ、奴らを倒すためには喰種との協力も必要と印象付ける。その効果は大。本当に恐ろしい奴だ、お前は」
怒っているのかどうか政の感情は、よく読めない、素人には。
「一言言っておく」
黒磐に怯みはない、正当な和修家の跡取りを前にしても。
「協力関係は特等全体で決めたことだ。責任は私たち全員にある」
真摯な立ち振る舞い。
「攻めるつもりはない」
少し雰囲気が穏やかになった感じは気のせいだろうか。
「祖父と一族を皆殺ししたのは旧多だ。借りを返すには手段を選ぶつもりはない」
和修家襲撃の赫子痕が完全に一致している、それ以前から政は旧多を疑っていた。
「ライ、お前のような人材を見落としていたのは、和修家の落ち度だ」
素直にライの実力を認める。先ほどの一刀も見極めるたるのテスト。
「それでこれからどうする」
問うウリエ。
これからのことが肝心、喰種との協力体制となれば、混乱も生じるだろうし、納得できないものも出てくる。
何より、必ず旧多は何かを仕掛けてくるはず。CCG側、喰種側のいずれかに。
「さて、どう動く?」
丸手がドアの方を向く、いつの間にかそこにはへのへのもへじのかかしのようないで立ちの人物が立っていた。
「なんだ、貴様は!」
ウリエは警戒心を露にした。無理もない怪しすぎる。
へのへのもへはスケッチブックを出す。
『俺は永近ヒデヨシ 力をかしてくれ うりえ らい』
スケッチブックには、そう書かれていた。
永近英良(ながちか ひでよし)、カネキの幼馴染の親友と同じ名前。
話しが終わり、政、丸手、黒磐、ウリエが局長室を出ていく。
永近に肩を叩かれたライ、
『らい 話がある』
2人で誰もいない部屋へ。
「何か用かな」
尋ねるとスケッチブックに文字を書く。
『俺は きょうだんのメンバー もしかして らいもメンバー?』
きょうだん=嚮団、普通なら意味の解らない言葉。
「新人だけどね」
あっさりと認めた。永近は喋れないけど、やっぱりと言ったのは解る。
『俺は 末端だけど らいは?』
再度、スケッチブックに文字を書く。
「僕はメンバーといっても、ほったらかして好き勝手にやっている。実質、何にもしてないもん」
嚮団、【V】が鳥籠の王なら、嚮団は鳥籠の外から見守る、もしくは監視していると言われる組織。
ほとんど、見ているだけだが、時折、干渉してくるとされ、干渉が起これば歴史が変わるとも。
和修家も探ったものの、存在しているらしいとしか確認出来なかった。その全容は用として知れず。
末端となれば、大した任務も与えられず、好きに行動ができる反面、大した情報も貰えない。
ただ嚮団に無関係者に比べれば、豊富な情報を知ることができる。
東京の地下、24区。
地下と言っても広く深く、ちゃんと電気、水道、ガスなどライフラインも通っていて、ネットワークも完備。
過去に地下に潜った喰種たちが、長い時間をかけ、この空間を作り出した。
24区、その深淵は謎に包まれている。
オッガイによって地上を追われた喰種たちは、この24区に逃げ込んで来ていた。
先日、ナキに連れてこられた甲がオッガイの班長、葉月ハジメであったことが発覚、すなわちスパイ。0番隊とは顔見知りでもあった。
あっさりと降伏、捕虜となり、ただいま監禁中。
ちなみにカネキに憧れているらしい。
ブルーライトカットの眼鏡を掛けたカネキはパソコンの前で、難しい顔をしていた。
「どうしたんだい、カネキくん」
習が話し掛けきた、いつものように松前も控えている。
「月山さん、これを見てください」
画面には『黒山羊さんへ 白山羊ならぬ、L.Sより』とCCGのウェブサイトに出ていた。
「やめまえ、碌なことにはならない」
以前、月山も開いて痛い目を見た。
「でも気になるんです、ココ見てください」
指示した先には『開くために必要な呪文は、弟子とL.Sに渡したクリスマスプレゼントと以前のバイト』と書かれていた。
「これは僕に宛てられたものだ。そして、このL.Sはライ・サクラマ」
ライ・サクラマ、桜間ライ。ライなら自信を持って信頼できると言える。
「その御方は……」
ルナ・エクリプスで助けてくれた人物。松前も信頼に値する人物と判断。
松前が信頼できる人物なら月山も同じ。
カネキはワードを打ち始める。イヤフォン、例のゲーム、バイクの模型、アイパッチ、水晶の数珠、家庭教師。
ページ開が開いた。
『【黒山羊】さんへ、旧多とオッガイと戦うために協力関係を築きたい。また今後、凶悪な喰種との戦うためにも協力関係を維持したい。見返りに十分な量の柘榴の提供と喰種の市民権、ライ・サクラマ』
美味しすぎる見返り、本来なら罠以外の何物でないと判断できる内容。だが相手がライなら話は別。
地上から持ち込んだ【柘榴】の数も心持なくなってきている。
「……」
考えるカネキ、のるかそるか……。この判断は地下にいる喰種の全てに関わること、喰種の今後にも大きく関係すること。
「カネキくん、どんな判断をしても僕は君の判断を支持するよ」
月山以外の喰種も支持するだろう、それだけカネキはここでは信頼されている。
それ故、判断は重大な責任が伴う。
決断したカネキは返事を打ち込む。
自宅のマンションに帰る途中のライ。
「発見発見」
「コイツの所為で、俺たち悪者にされちゃったし」
「仕返し仕返し」
「根暗班長の言う通り、いい香りだ」
「本当に奇麗な顔してるね」
「これで男なんて、女の人が自信を無くしちゃうよ」
曲がり角から、ゾロゾロとオッガイが現れる。
「桜間ライさんですね、ご存知でしょうがオッガイデース」
1人のオッガイが前に出る。彼がリーダー格。
「こんばんわ」
恐れも怯えもなく、挨拶、ただ普通に挨拶。
「こんばんわ、そしてサヨウナラ」
リーダー格が笑顔で赫子を出した。それを合図にオッガイたちは、次々と赫子を出す。
踵を返し、逃げ出すライ。
「逃げたぞ」
「ウサギ狩りだ」
「美人狩りだ」
「嬲り殺し」
「見せしめ見せしめ
「どこへ行こうというのかね」
逃げるライを楽しそうに、追いかける。
追いかけるオッガイは意気揚々。
工事現場に追い詰められたライ。どこにも逃げ場所は、もう無い。
「はい、行き止まり~」
「どん詰まり」
「鬼ごっこ終了」
「人生も終了」
「GAME OVER」
「BAD END」
はははははははははっ、オッガイは勝ちを誇って笑う。
抵抗されてもこの人数差、自分たちには負けが無いとの自信。
さらに旧多からはライが得意なのは防御で、攻撃は大したことないと聞いている。
オッガイにあるのはどう嬲り殺すかのみ。
喰種を始末したときと同じように、全員、ニヤニヤ。
そんなオッガイに対して、おくびにもビビらず、ライは建築機材の隙間に隠しておいたアタッシェケースを掴みだした。
オッガイたちの笑い声が止まる。全員、こう思った、なぜ、こんなところにアタッシェケースがあるのかと。
アタッシェケースを開き、中にあった歪な槍のようなクインケを展開。
オッガイたちの得ている情報には無いクインケ。ライ専用のクインケは扇型の《夜桜》のみだったはず。
それでも人数的には圧倒的に有利、赫子をうねらせ、一斉に襲い掛かる。
「もえろよ もえろよ 炎よ もえろ 火のこを 巻き上げ天まで こがせ」
クインケからは四千℃にも達する高温の炎が噴き出し、オッガイたちを一気に覆いつくす。
たちまち上がる悲鳴と絶叫。
タタラの赫包より作られたクインケ《レーヴァテイン》尾赫 Rate:SS+。
四千℃もの炎に包まれたオッガイたち、逃げ場がなくなったのは彼らの方。
「照らせよ 照らせよ 真昼の ごとく 炎よ うずまき やみ夜を 照らせ もえろよ 照らせよ 明るく あつく 光と 熱との もとなる 炎」
ピタリと炎が止まる。
「あれ?」
今まで、轟々と噴き出していた炎が出なくなる。
「ガス欠だ」
「ざまみろっ」
「チャンス到来」
少しの間、警戒していた生き残っていたオッガイの3人。もう炎を噴き出さなくなったと知り、余裕を取り戻す。
クインケ《レーヴァテイン》の吹き出す、四千℃にの炎は強力だが燃費が悪い。
《ハイアーマインド(高次元精神領域)もしくは[天使の羽ばたき(エンジェルビート)》の様にエネルギーパックを付けることが出来れば、長時間の使用も可能だが、まだ《レーヴァテイン》には、その機能はついていない。
《レーヴァテイン》が使えなくなった。今だどばかり、1人が一直線に攻撃を仕掛ける。
残りの2人も攻撃。遠隔攻撃のクインケは距離を詰められると弱い、用心のために間合いを詰めての襲撃。
1人目の赫子が到達するよりも早く、踏み込みで放った《レーヴァテイン》の一突きがオッガイの体を貫く。
1人目がやられても残りの2人は攻撃を止めない、《レーヴァテイン》が刺さっている、今なら動けないはず。
柄の部分が伸びて鞭のしなり、2人のオッガイをぶん殴って地面に叩きつけた。
体制を立て直すよりも早く、引き抜いた《レーヴァテイン》で1人を斬り、最後の1人に突き立てる。
《レーヴァテイン》は燃料が切れても十分に使用できる。火炎放射の遠隔、柄の鞭状鈍器での中距離、槍の近距離、三距離で戦えるクインケ。
片手でスマホを取り出すライ。
「終わりました、作戦通りです」
オッガイが襲撃してくることは予測済み。
敢えてライはおとりになり、オッガイを誘い出し、逃げるように見せかけ、クインケ《レーヴァテイン》を仕込んでおいた、この場所に誘導。
罠にかかったふりをして、逆に罠にかけた。ここなら、一般市民に迷惑は掛からない。
「解せない……」
襲撃は予想していた。だが予想していたよりもオッガイの数が少ない。
あの旧多がこれだけの人数で襲撃をかけてくるとは考えにくく、またピエロのメンバーが1人もいなかったことにも違和感を覚える。
ライくんの新クインケの登場。レーヴァテインは北欧神話に出てくる武器で、時折、炎の魔神スルトの魔剣と同一視されることも。
《レーヴァテイン》の柄の部分が鞭のように伸びるのは、原作でタタラがそのように赫子を使っていたことがあるからです、