東京喰種:re 皇と王   作:マチカネ

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 原作では悪役の旧多が謝罪したり、嘉納が自殺したり、すごい展開になってきています。


第19章 風向き

 山中にある、リオと亜門が暮らしている別荘。

 オッガイの手はここまでは及んではいない、今は……。

 

 ジェレミアは淹れたてのコーヒーをリオと亜門の前に置く。

 熱々のコーヒーを飲む、リオと亜門。

 悪くはないというより、芳村店長の淹れたコーヒーと比較するのはあんまりである。芳村店長や『あんていく』の人たちの淹れるコーヒーはプロフェッショナル中のプロフェッショナル。

 コーヒーを飲み干し、一息。

「私はあなたたちに、絶対に安全な場所へ案内することができます」

 オッガイの追跡は厳しい、いずれここも見つかるであろう。

「僕は逃げない、もう二度と」

 即答。『20区の梟討伐戦』の時、リオは逃げることを選択し、無事に生き延びることができて『:re』を店員として働けることができた。

 その反面、カネキが犠牲に……。もう逃げるのはごめんだ。

「俺だけが逃げるわけには行かない」

 亜門も同じ答え。大切な人や果っての同僚たちを置きざれにして自分だけ逃げる選択などは出来はしない。

「御2人なら、そう答えると思っていました。試すような真似をして失礼いたしました」

 ペコリ、ジェレミアは謝る。

「問題はどうやって、反撃に出るかだね」

 とリオ。ここでじっとしていても埒が明かないとはいえ、無謀に出て行っても返り討ちに合うだけ。

「そうだな、何とか反撃のチャンスを掴まなくては……」

 自分の力不足は十分に解っている亜門。

 四種持ちのリオは強いけど、それでもオッガイとやりあうには戦力不足。

「このジェレミア・ゴットバルトも協力させていただきます」

 3人ともオッガイと戦う覚悟は決まった。

 

 

 

 

「旧多はCCGと喰種と協力関係にあると言っていましたがね、それは人間と共存を願っている喰種のことだよ」

 テレビに喰種研究家の小倉久志(おぐら ひさし)が出ていた。

「え、そんな喰種がいるんですか?」

 驚いたように女性アナウンサーが聞く。

「人間の中にも悪い奴がいるように、喰種の中にも善良な奴らいてもおかしくないでしょう」

 最もらしく言う。

「表沙汰していなかったが、前々からCCGは善良な喰種と協力して『アオギリの樹』などの凶悪な喰種と戦っていたんですよ」

「そう言えば最近、ほぼ『アオギリの樹』は壊滅したと発表されましたね」

「ええ、旧多のやり方は、そんな善良な喰種も始末している。さて、それで旧多の言うような平和が本当に来ると言えるでしょうか?」

 と疑問を投げかける。

「さらなる問題がオッガイにはある」

 急に姿勢を正し、カメラ目線。

「それはオッガイは人間も殺している可能性があるといことだ」

 とんでもない発言に、

「それは本当のことなんですか!」

 女性アナウンサーは素で驚く。

「確かに東京には数多くの喰種が潜んでいるが、それでも短期間に駆逐される喰種の数が多すぎる、人間も殺害して水増ししている可能性は低くないでしょう」

「そういえば駆逐された喰種の中には女性も子供もいましたね」

「そこなんですよ、オッガイに殺された喰種の中には、全く抵抗せず、命乞いまでしているのに殺された者も少なくない。これは数多くの目撃者がいる上、防犯カメラにも、しっかり映っている。果たして凶暴なはずの喰種が何の抵抗も見せず、黙って殺されると思いますかな?」

 いつものような見下したような感じではなく、真剣な言い方が真実ぽい印象を与える。

「事実だとしたら、恐ろしいですね」

 信じているのか女性アナウンサーの顔色は良くない。

「現に旧多は喰種の協力したものに対しても、喰種と同じに扱うという法律を押し通そうとしている。すなわち喰種を穏健に扱ったものを殺しても構わないという法律を。これは“水増し”がバレた時の対策でしょうな」

 ここで嘆息。

「こんなことを話した私も他人ごとではない、旧多とオッガイに命を狙われるかもしれません。もし私が不審死したり、行方不明になったら旧多とオッガイの仕業と考えて間違いないでしょう」

 と締めくくる。

 

 

 喰種研究家の小倉の放った、一撃は大きな衝撃となった。

 元々喰種研究家として名を知らしめていた小倉の発言。『王のビレイク』が旧多を後押しした事と同じことが起こった。

 また『王のビレイク』のヒットによって高まっていた喰種との権利保護の動きが追い風となる。

 この背景にはライの予想通り、反対勢力がいつでも動きだせるように機会を伺っていたこともある。

 

 

 風向きが変わった。

 

 

 

 

 CCGに強く吹いていた風当たりはオッガイへと向き始めていた。

「街中で暴れたことが災いとなりましたね」

 しんみりと法寺。オッガイの活動と力をアピールし、CCGとの違いを見せつける計画だったのだろうが、それが裏目となった。

「オッガイのメンバーは喰種被害者の遺族だから、喰種に対する憎しみはのっぴきならない。で、安易に“力”を手に入れたことで鏨が外れちゃったんだね」

 今回の立役者のライも、当然のごとく特等会議に呼ばれている。

「子供ゆえの残虐性か……」

 と宇井。子供たちの喰種への恨み憎しみを利用した旧多、それを逆手に取ったライ。

 止めに小倉に旧多とオッガイが人を殺して、喰種の駆逐数を“水増し”していると言わせたこと。また狙われていると言わせて、彼を守る盾とする。

 公の場であんなことを言われてしまったら、おいそれとは手を出せないだろう。

「ライくん、あなたはここまで計算して、この計画を立てたんですか?」

 問いには答えないが、答えは明白。

「ライボーイ、CCGと穏健派喰種が協力関係にあるという嘘はやり過ぎではないのかな? いくら旧多のデマをひっくり返すためとはいえ」

 あまり嘘は好きではない田村丸。

「嘘が嫌なら、嘘じゃなくしてしまえばいい」

 ライの発言は特等たちを騒然とさせた。会議に参加している者なら、言葉の意味は理解できる。

「ライくん、君は喰種と協力するというのか、冗談じゃない!」

 いの一番に宇井は反応しめす。

「悪いことじゃないと思うよ、実際、穏健派の喰種もいる。何より【黒山羊】の助太刀が無かったら、今頃、22区は壊滅していたと思うよ」

 その通りである、いまだに22区は感謝の気持ちは忘れはいない。【黒山羊】が現れなかったら、本局特殊捜査官は現れなかった可能性は高い。奴らが目的は22区を助けるのではなく、【黒山羊】の殲滅であったのだから。

 その証拠に【黒山羊】の現れた22区以外、本局特殊捜査官は現れてはいない。

「だったら、またハイセと仲良くできるんですね」

 ハイセ(カネキ)と仲の良かったジューゾーは乗り気も乗り気。

「たが喰種には捕食の問題がある」

 尚も納得できない宇井。喰種は人肉とコーヒーしか食べられない。これがある限り、協力関係を築くのは困難。

「それなんだが……」

 おずおずと黒磐が右手を上げる。

「8区を中心に【柘榴】という赤いカプセルが出回っているという噂があってな。なんでもそれを服用していれば人間を捕食しないでいいらしい」

 『そんな馬鹿』と言ったのは誰だろう。ただそれは捜査官なら誰でも思うこと。

「最初、私もそう思ったよ。だが喰種の隠れ家に踏み込んだ時、まーもぬけの殻だったんだが、そこには赤いカプセルが5つほど残されていたんで地行博士に調べてもらったところ」

 スーツのポケットからビニールに入った赤いカプセルを1つ出してテーブルの上に置く。

「人工的に作られたRc細胞に間違いないそうだ」

 ジューゾーを除く特等の全員が驚く。ここにクインクスの初期メンバーがいたならば心当たりがあっただろう。

「これがどこで作られたかは解らんが、地行博士の話しではラボで量産は可能らしい」

 その時の地行博士の様子が思い浮かぶ。人工Rc細胞の量産が可能なら、様々な応用が期待できる。特にクインケの保管保存の問題は一気に解消する。

「ならば穏健派の喰種との協力は悪くないかもしれませんね」

 法寺も前向きに語りだす。

「ラボで【柘榴】の量産が可能ならばイニシアティブは私たちが握ることが出来るでしょう。それにいずれは旧多とオッガイとは決着を付けなくてはならなくなります。またピエロのような凶悪な喰種も見逃しはいけない。その際【黒山羊】の協力を得れれば大きな戦力となると思いますよ」

 喰種の食糧供給を握る、これならCCG側が有利に事を進められる。CCGの供給する【柘榴】を公式の品とすればなおさら。

「これはひょっとすると、喰種との百余年にも及ぶ、戦いに終止符を打てるきっかけになるかもしれん」

 田村丸も悪くはないと判断。

「……」

 悪くないと宇井にも頭では解っている、ただ感情が燻っていた。特にハイセ(カネキ)には有馬を殺されているのだから。

 ハイハーイと手を上げるジューゾー。

「一度、ハイセたちと話せばいいんじゃないですか、向こうには平子さんもいることですし~」

 確かに、一度は話し合いの席を設けるのが得策だろう。

「……そうですね、まずは【黒山羊】との話し合いを前提に考えましょう」

 何とか自分を納得させ、宇井は会議を締めくくった。

 

 

 【黒山羊】との話し合い、その結果次第では喰種との協力体制構築の可能性もありとの話は、瞬く間にCCGに駆け巡り、捜査官たちに巻き起こるのは賛否両論の嵐。

 

 

 CCG内部でも影響が大きかったのはクインクス。クインクスの初期メンバーはハイセ(カネキ)の教え子なのだ。

「本当にママンが帰ってくるのか!」

 隠しもせず、大歓迎なのは才子。

「アイツは敵だ! 駆逐すべき喰種だ!」

 激しく拒否を示す晋三平。

 ガルルルルッ才子と晋三平は睨みあう。

(ハイセと話し合い……。話し合いの結果では、ひょっとして、ここに戻ってくるのか? また一緒に暮らすのか? そうなったら家事全般はどうなる?)

 ブツブツとウリエは呟いている。

「ピエロや旧多と戦うとなると戦力の強化は必要でしょう。ならば【黒山羊】は申し分ないかと」

 シャオの視線は才子に向いている。

「巨悪と戦うために、果っての敵と手を取り合う。燃えるシチュエーションじゃあないか、かっこいい!」

 斜め上だけど髯丸も賛同。

 1人、無言の六月、何を何を考えているのか誰にも解らない。

 

 

 

 

「滅びの瞬間に立ち会えるなんて、最高って思っていたんだけど……」

 面白おかしそうに喋っていたピエロのイトリは、

「してやられちゃったわね、旧多ちゃん」

 旧多を横目で見る。

 正義の味方から一転、世間の目はオッガイを悪の組織と見始めている。

 このままではバックについている勢力が、旧多に全てをひっ被せて切り捨ててしまう。

 CCGの局長の机と椅子を模した椅子に座っている旧多。誰にしてやられたのかは調べるでもない。

「折角、ロマが鼻を利かせて【黒山羊】が24区にいるって突き止めてくれたのに」

 24区とは地下のこと、地上で行き場を無くした喰種が最後にたどり着く場所。

「ワンワン」

 ピエロのロマは犬真似。

「次は見捨てるから」

 ル島戦でロマはニシキたちに捕まり、つい先日まで閉じ込められていた。

「報いは与えるつもりですよ、“最終敵”ラスボスの登場のプレリュードにはちょうどいいですからね」

 ニンマリと旧多は笑う。

 

 

 




 喰種研究家の小倉さんが出てきました。最近、本編でも活躍していますし。
 今回は戦闘機はありませんでした。

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