結婚式から4日目の朝、俺たちは新婚旅行へ行くべく、準備の最終点検を行っていた。
「着替えよし、お金よし、日用品よし、その他よし!おれの方は点検終わったよー。」
俺は自分の荷物が入ったカバンの口を閉め、クレアにそう言った。
「私も今終わったよー。」
クレアもそう言って自分のカバンの口を閉めた。
俺たちが行くのは国内最大級のリゾート地、『アプロルオ』だ。アプロルオはこの国、『レクセンドリア王国』の南に位置する地域で、世界でも五本の指に入るほどの人気のリゾート地だ。
「出発の時間まであと1時間ぐらいだしそろそろ出発しようか。」
今回俺たちは汽車に乗ってアプロルオへ向かう予定だ。すでに席の予約は済ましてある。
「そうだね。早いことに越したことはないしね。」
クレアはそう言って立ち上がると、旅の荷物が入ったバッグを担いだ。俺も立ち上がり、自分のカバンを担いだ。
宿舎を出た俺たちは30分掛けて駅に到着した。俺たちが乗る汽車はすでに到着しており、何人かの人がすでに乗車していた。俺たちは予約した席へと向かった。
「おー、やっぱり国内最大級の汽車はいいね。広いし綺麗だしね。」
クレアはそう言いながら車内を興味深く見回している。俺たちが乗る汽車は国内でも最高クラスの高級汽車だ。今回、クレアが専属していた騎士団の副隊長のディオスさんが、反対する騎士団長を押し切って、騎士団に多額の援助金というか、旅費代の大半を負担してもらったのだ。まったくあの人には頭が上がらないぜ。帰りはさすがにと普通の汽車に乗るけどな。
しばらく奥へ進むと俺たちが予約した席に到着した。目の前には綺麗な装飾が施された木製の扉があった。俺はその扉を開けて中へ入る。するとそこは、最大10人は座れるであろう二つの座席とその間に大きなテーブルがあった。
俺は荷物を専用の棚に入れて席に座った。その後にクレアも荷物を置いて俺の反対側の席に座った。
「いい個室だね。窓も大きくて景色を楽しめそうだよ。」
クレアは窓の外を見ながらそう言った。
「ああ、個室にして正解だったよ。これなら他のお客さんの目も気にならないし。」
俺が部屋の中を見渡していると、先ほど俺たちが入ってきた扉がガチャリと音を立てて開いて人が入ってきた。
「よっ!お二人さん、俺が来たぜ。」
そう言って入ってきたのは、見慣れた顔をした長身の男、アルバートだ。
「やほー。私とクォーツも一緒だよー。」
そう言ってアルバートの足元からひょこっと出てきたのはシェリナだ。
「おはようございますオルト、クレア。今回は我々を旅行にお招きいただき感謝する。」
被っていた帽子を外し、深々とお辞儀をしてそう言った男はクォーツだ。
「そんなにかしこまらなくてもいいよ、クォーツ。俺たちが全額負担してるわけじゃないしさ。」
俺は見慣れた3人組に会えて少し心が緩んだのか、微笑みながらそう言った。
3人はすぐに棚に荷物を置いて席に座った。俺の横にはアルバートとクォーツが座り、クレアの隣にはシェリナが座った。
「いやー。それにしても、新婚旅行に友人を連れてくなんて聞いたことがないぜ。ま、オルトとクレアらしいけどな。」
アルバートは大きく笑いながらそう言った。今回の新婚旅行にみんなを連れて行こうと提案したのはクレアだ。最初は俺も反対したが、クレアがどうしてもとせがんでくるので二日間だけならと了承したのだ。正直俺もみんなといると楽しいから少し嬉しいわけだが。二人だけの時間というのも時には大切なのだ。
「そろそろ出発の時間だけど、あの二人はまだなのか?」
俺はシェリナと楽しそうに話しているクレアに聞いた。
「あー、どうだろう。多分時間通りには来ると思うけどなー。」
クレアは少し不安そうにそう言った。あの二人はこういう日にもブレないなあ。
俺がそう思っていると、扉が勢いよく開いた。
「ぜえ、はあ……。みんな、遅くなって…ごめん…はぁ…。」
息を乱して部屋に入って来たのは騎士団のメンバーであり、クレアの親友のルーシーだ。
「やあ、今日も爽やかな朝だね。」
清々しい顔でそう言いながら入って来たのは、同じく騎士団のメンバーのダリオだ。
「いったい何があったんだ?」
俺は対照的な様子の二人を交互に見ながらそう言った。
「ゲホッ。こいつが駅までの道を教えてくれたんだけど、それがかなりの遠回りで、時間に間に合わないと思って走って来たらこいつ、清々しい笑顔で駅のホームで待ってたんだよ…。」
少し落ち着いたルーシーはダリオを睨みつけながらそう言った。
ダリオがルーシーにイタズラをして困らせているのは日常茶飯事なことで、俺たちはなんとなく察しがついていた。
「いやー。ルーシーってすげー走るのはえーんだな。思ってたよりも五分早く来たぜ。」
そして、この男はまったく反省しない。
『それでは、間も無く出発します。大きな揺れにご注意してください。』
出発のアナウンスが流れてようやく汽車が出発するようだ。ルーシーはシェリナの隣に、ダリオはクォーツの隣にそれぞれ座った。
そして、豪快な汽笛とともに汽車がゆっくりと動き始めた。汽車は徐々にスピードを上げていき、駅から遠ざかっていく。汽車のスピードは思っていたよりも速くはなく、あまり揺れを感じない快適なスピードだ。
「見て。街がどんどん小さくなっていくよ。」
窓から外を眺めていたクレアがそう言った。俺も窓から外を見見ると、確かに街が遠ざかっているのが確認できる。それは、少し寂しさを感じるが、旅に対する期待や楽しみな気持ちも同時に自分こみ上げてくる。
汽車が出発してからしばらく俺たちは雑談を交わしていた。
「この前の討伐でねー。オオトマトバケが襲いかかってきたから反撃したら身体中がベトベトになって大変だったんだけど。」
「あー、あいつは体が柔いから物理攻撃すると体液が飛び散るんだ。特に害はねーけど、シミになるからなるべく魔法で攻撃した方がいいらしいぜ。」
シェリナとアルバートがモンスターについての雑談をしている。
「それか、全裸で戦うかだな。」
すると、ダリオがそんな冗談を言ってきた。しかも真顔で。
「あんたはまたそーやって変なこと言ってんじゃないわよ。」
ルーシーが睨みながらダリオに言った。隣ではシェリナとクレアがまあまあとなだめている。
しばらくその話は続いたが、さすがにこの話題のまま目的地に向かうのは気がひけるので俺は話題を変えることにした。
「そ、そういえばさ。みんなはアプロルオに着いたら何かやりたいこととかある?」
「ん?俺は思いっきり海で泳ぎたいかな。確かあそこは水質が綺麗でサンゴ礁や熱帯魚なんかが生息しているらしいから、それも見てみたいな。」
アルバートはテーブルに広げてあるお菓子を食べながらそう言った。こいつ意外にロマンチストだな。
「あー!私もそれ見たい!綺麗なお魚さん!」
シェリナもどうやら海水浴をしたいらしい。
「他にも色々なレジャーやアトラクションがあるけど……。例えば、洞窟探索とか?」
この洞窟探索はあくまで一般人も楽しめる安全なものだ。洞窟内にある鉱石や化石を見つける人気のアトラクションだ。
「お、いいねえ。私たち騎士団には探索の任務が少ないからこういうのはやってみたいなあ。」
意外にもルーシーが食いついた。
「今日あっちに着くのは夕方頃だから海水浴は明日がいいかな?洞窟探索は夜もやってるみたいだし、今日はみんなで洞窟探索に行くのはどうかな?」
俺は一応自分の中でまとめた案を出してみた。
「おー、それいいねえ。やろやろ。」
「俺も賛成だぜ。」
「私もー!」
「異論ありません。」
「私も賛成よ。」
「楽しそうだから同意。」
と、みんなは賛成のようだ。
「なら、先に場所と時間帯をパンフレットで調べて……、あと、夕食の時間も考えないと………。」
俺は旅行先のパンフレットを見ながら黙々と計画を立て始めた。
「なんというか、彼イキイキしてるわね。」
ルーシーが興味深そうにこっちを見ながらそう言った。
「ああ、オルトは段取りっつーか、こういう計画立てたりするのが得意なんだよ。遠征の時とかもこいつのおかげで毎回成功してるしな。」
アルバートが横目で俺を見ながらそう言った。俺はそんな二人の言葉にありがたみを感じながら着々と計画を立てていく。
時刻は午後0時30分、昼食の時間だ。
「そろそろお昼にしましょうか。私作ってきたからみんなで食べましょう。」
クレアはそう言い、荷物をしまった棚から大きな包みを取り出してテーブルに置いた。汽車内のランチを頼むこともできたが折角なので、クレアが弁当を作ってきてくれたのだ。
「私もー、頑張って作ってきたよー。我ながら完璧な出来だったぜー。」
そう言ってシェリナも棚から大きな包みを取り出した。シェリナが料理をするところとか考えられないんだが、少し楽しみでもある。
「あれれ、ルーシーは?」
ダリオが挑発でもするかのような口ぶりでルーシーにそう言った。
「あんた私が料理できないの知ってるでしょ。」
ルーシーはそう言ってダリオを睨んだ。これで今日三度目だ。
ルーシーが料理ができないのはクレアからすでに聞いている。なんでも、騎士団で料理当番のときにルーシーが作った料理が人知を超えた不味さだったとか。それから何度も料理の練習をしたらしいが、腕が上達することはなかったようだ。
「まあ、人には得意不得意がありますし、気になさらない方がいいですよ。」
クォーツがルーシーをなだめるようにそう言った。
「そんな話はさておき、飯だ飯。」
アルバートはいかにも待ちきれない様子でそう言った。
「それじゃあ、開けるね。あ、オルト。みんなの分の食器用意して。」
クレアが包みの結び目ほどきながらそう言った。俺は返事をしてクレアのカバンの中にある食器と飲み物を取り出した。そして、それを持って自分の席に戻り、みんなにそれらを配った。準備ができたのを確認すると、クレアは包みの中に入っていた二段の大きな箱の蓋を開けた。すると、そこに入っていたのは、見ただけでその美味しさが伝わってくるような鮮やかな彩りの料理だった。
「私も開けるねー。」
そう言ってシェリナも自分が持ってきた弁当の箱を開けた。というか、弁当箱お揃いなんだな。
シェリナが開けた弁当箱の中身は沢山のサンドイッチが入っていた。具の種類は豊富で、見ただけで6つぐらいはあるだろう。
「どっちも美味そーだな。てか、シェリナ料理できたんか?」
アルバートがシェリナに向かって聞いた。
「うん、よく自分で作って食べてる。レシピとかは雑誌見たやつをアレンジしてる。」
シェリナは自慢げに薄い胸を張りながらそう言った。
「それじゃあ、食べましょうか。」
クレアがそう言って手を合わせた。俺たちもそれにつられて手を合わせた。
「「いただきます。」」
昼食を終え、俺たちは後片付けをしている。クレアの料理は相変わらず絶品だったが、シェリナの料理もクレアに負けないくらい美味しかった。
「いやー、食った食ったー!」
アルバートは自分の腹を軽く叩いてそう言った。
「ああ、クレアの料理は相変わらず美味しかったけど、シェリナのサンドイッチも特製のソースが効いてて美味しかったな。」
俺はみんなの食器を重ねながらそう言った。
昼食の後片付けを終えると、再び俺たちは雑談をした。
「そういえば、この時期になると海でクラーケンが活発になるんだっけ。」
ルーシーが唐突にそう言った。クラーケンとは主に深い海に住む海洋モンスターで、スミには強力な毒が含まれていて、とても危険なモンスターだ。
「あー、あの巨大モンスターか。確か餌を求めて浅瀬まで来るケースがあるらしいな。」
続けてダリオがそう言った。ダリオはモンスター学に関してはかなりの知識の持ち主だ。
「まあ、深海の悪魔って呼ばれてるからね。もし遭遇したら逃げた方が得策だな。」
ダリオは次々とモンスターの知識を出して来る。
「ねーねー、あとどれぐらいで着くのかなあ?」
ダリオの話に飽きたのか、シェリナが俺に聞いてきた。
「んー、そうだな。今が午後の2時頃だから…。あと3時間くらいかな。」
「んー、そっかー。じゃあ、ゲームしよゲーム。」
シェリナはそう言って自分のカバンの中からトランプを取り出した。
「お。用意がいいじゃねえか。みんなでババ抜きやろうぜ。」
こうして、俺たちはトランプをして到着までの時間を潰すことにした。
時刻は4時50分。もうすぐ目的地へ着くということで、俺たちは荷物の整理に取り掛かっていた。
「忘れ物は無いな。よし、これでいつでも降りれるぜ。」
俺は自分の荷物の確認を終えてそう言った。どうやら他のみんなも終わったようで席に座っていた。
「あー、もうすぐだね。ワクワクしてきたー!」
シェリナが子供のようにはしゃぎながらそう言った。
「そうだね。私も楽しみだよ。」
クレアが微笑みながらそう言った。
景色はだんだん砂浜に変わっていき、海も見えるようになってきた。その海は太陽の光を反射して眩く輝いている。
「あ、海が見えてきた。綺麗だよ。」
クレアが窓に張り付きながらそう言った。俺たちは大きな窓から綺麗な浜辺と海を眺めながら目的地への到着を待った。
『間も無くアプロルオに到着します。お客様は席に座ってお待ちください。』
アナウンスが鳴り、目的地到着を知らせる。
『汽車が止まります。多少の揺れにお気をつけてください。』
汽車のスピードがだんだん遅くなっていき、完全に停車した。
『それでは皆様、足元にお気をつけてお降りください。』
そのアナウンスが鳴ると同時に俺たちは席を立ち、汽車の出入り口へと向かう。乗客が流れるように移動していて、俺たちはその流れについていく。しばらくして、出口を通って汽車を降り、駅のホームに足をついた。そして、そのまま改札へと向かい、駅員にチケットを渡して改札を通る。開けたところに出て、とりあえず止まった。周りを見渡すと、南国のリゾート地を感じさせるような装飾や造りが目立つ。
「よし!とりあえずホテルに荷物を置いてこよう。」
俺たちはまず自分たちが泊まるホテルに向かうことにした。
外に出ると、熱い日差しが差しているが、乾いた空気がどこか心地よさを感じる。俺たちは初めての景色を楽しみながらホテルへと足を進めた。
今回は汽車内メインというかほとんどですね。今回の話は自分的にあまり良い出来ではなかったです。が!次回から改善できるように頑張ります!