私立幻想学園   作:黒鉄球

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6話 : 己が信念は貫くが漢なり

逃亡戦、歴史にはよくある光景である。例えば三国志。曹操が敵の罠に引っかかり、そこに同行していた悪来典韋が主人を逃がすために戦い、戦死するという話があったり、長板において、劉備が曹操から逃れるために諸葛亮が策を弄し、張飛が橋の前にて仁王立し、一兵足りとも通さなかったり、趙雲が劉備の息子の阿斗を救い出して、生還したりいろんなものがある。今のこの状況においては曹操の例が1番当てはまるだろう。敵の城内にて主人を守りながら逃げる。これが今の俺の状況だ。さて、では問題だ。………どうやって逃げる?

 

「なんでもうメイドにバレてんのよ!貴女があんな大きな音だしたからでしょ!?」

 

「だぁもううるせぇな!鍵かかってて開ける方法もなかったからああやってドアノブ破壊するしかなかったんだよ!」

 

ただいま絶賛メイド達に追い回され中な俺とレミリア。ドアノブを破壊した時の音が思ったほど大きかったらしく、すぐに勘付かれて今紅魔館内の廊下を全力疾走。レミリアはお姫様抱っこで連れている。理由はこの方が速いからである。羞恥心なんて知らん。今は逃げることが先決。

 

「お嬢様を離しなさい!さもないとメイド長に殺されるわよ!」

 

「お前らは何もしねぇのかよ!」

 

などと心配の声と罵倒とただの返しを延々と繰り返している。そんなこんなで最初のロビーに戻って来た。この速度で行ったら飛び降りしかない。よし、飛び降りよう。

 

「よっと!!」

 

「え!?ちょっと待って……きゃあ!」

 

そして、見事着地………というわけにもいかず、足が痺れた。それはそうだ。2人分の体重を支えたのだからそうなって当然だ。くそ、アニメや漫画ならこのまま走って行けるのに。まぁ行けても突破は無理そうだけどな。

 

「よく来たな小僧………いや、武御劉斗」

 

そこにはディオラ・スカーレットがいた。まるで俺たちが来るのを待っていたかのように。……なるほど、このメイド達はこのおっさんの指示で誘導してたのか。やられたな。こうなりゃ正面切らにゃならんくなった。

 

「おいおいいきなりラスボスかよ困ったぞ。つか、なんでおっさんがここにいんだよ」

 

「我が愛娘の部屋から音が聞こえたからな。もしかしてと思ったのだ」

 

耳良すぎだろこのおっさん。しかしバレたのなら仕方ない。ここは一先ず親子で話をさせるか。

 

「レミリア、お前の気持ちをぶつけろよ。でなきゃ進まないからな」

 

「えぇ、そうね。お父様、私は……ここを出るわ。理由も分からないままあんな教育を受けさせられているなんてもう嫌よ。私は自由に、学園生活を、人生を送りたいの」

 

レミリアは言った。自分の気持ちを素直に、正直に。ディオラ・スカーレットは……表情を変えず、淡々と語りだした。

 

「ダメだ、お前は時期スカーレット家の当主だ。その為にはより良い教育を施し、人の上に立てる逸材でなければならん。それをいい加減自覚しろ」

 

真っ向から否定した。この否定の中にはある意味があった。それは自分の娘なのだからこうあって当然だ、従え、と。俺にはもう、そんな感覚わからねぇしもう味わうこともないのだろうが一つだけ、たった一つだけ分かるのはこの男、ディオラがどうしようもない人間であるということだ。

 

「いい加減に自覚しろだと?ふざけんなよ。お前、自分の娘をなんだと思ってんだ?レミリア・スカーレットはテメェの道具じゃねぇよ。財閥のための道具じゃねぇんだよ。レミリアはレミリアだ」

 

俺の言葉に嘘はない。俺本来の言葉、虚言ではない。これは俺の意思であり、ある種の宣戦布告。必ずここから連れ出すという意思そのもの。俺は今、スカーレット財閥当主に喧嘩を売った。

 

「………やはり面白いな君は。一目見た時から面白い男だと思っていた。君がなぜ、我が娘の元にいるのかは問わん。男なら拳で語りたまえ」

 

そう言ってディオラは二本の木刀を出した。一刀を俺の足元に、もう一刀は構えられていた。急展開すぎてついて行けないがここでこいつをねじ伏せりゃそれで終わり。戦う理由は既にある。ならば俺は俺個人の怒りでねじふせよう。

 

「後悔してもしらねぇぞおっさん」

 

武器を手に取り、構えた。対峙してわかったがかなりの威圧感があった。少し懐かしささえある。木刀もいつぶりに手に取っただろう。そんなことを思いながら俺は、ディオラに突っ込んで行っていた。

 

「おらぁ!」

 

「甘いな小僧!ぬぅ!」

 

左から右に振るがこれをいなされ、その遠心力で蹴り放つ。俺はそれを咄嗟に左腕でガードしたが、飛ばされた。

 

「………ってぇな。なんつー蹴りだよ」

 

「これは驚いた。まさか無傷とはな」

 

無傷、な訳あるか。腕がミシッつったわ。このおっさん年寄りも全然動けてるぞ。だが怯んでるわけにもいかねぇから構えるしかない。

 

「ふっ、今度はこちらから行くぞ!」

 

ディオラは何度も木刀を打ち付けては俺はそれを受け止めた。反撃は出来ず、防戦一方となった。だが俺はMではない。スキは必ずできる。それまで受け切ってやる。

 

「お父様やめて!劉斗は関係ないわ!劉斗は私を逃がそうと……!」

 

「ふん。レミリア、お前を逃がそうとした男を見逃すわけないだろう。この男もそれくらいの覚悟はできている」

 

剣戟を出しながら話す余裕があるのかよこいつ。でも、それがテメェの慢心だ。ほら、右足が前に出過ぎてるぜ?

 

「よっと!!」

 

「ぬぅ?!」

 

俺は出た右足を払って一歩引いた。ディオラは尻餅をつき、驚いたような顔をしていた。たかが高校生に尻餅をつかされるなんて、と言いたげな顔だった。

 

「どうしたよおっさん。まさか俺に倒されるなんてとか思ってたんだろ。生憎だが喧嘩慣れはしている。来いよ、全霊をもってあんたを倒して、レミリアをここから、あんたの呪縛から解く」

 

「小僧………後悔するなよ」

 

ディオラの雰囲気が変わった。恐らく本気になったという事だろう。威圧感がまるで違う。鋭い眼光、ちらりと見えた犬歯、そして白い肌、吸血鬼と対峙している感覚に陥った。いや、恐らくはその血筋、その伝承を祖先に持っているのかもしれない。俺も本腰入れないと多分………かすり傷じゃ済まなくなる。俺は一度だけ深呼吸をしてディオラと対峙した。そして一瞬だけ瞬きをした。その瞬間、目の前にその男がいた。

 

「!?」

 

「捉えたわ」

 

咄嗟に反応するも間に合わず、右脇腹に木刀が食い込んで行った。ミシミシと音を立て、そして勢いよく吹き飛ばされた。

 

「ぐあっ!……ゴホッ……」

 

口の中に鉄の味が広がる。今、俺は血を吐いたのか……。視界もぼやけてきやがった……。背中もいてぇし………壁か……ヤベェかもな………このまま戦い続けたら多分、肋骨だけじゃすまねぇな。でもやらねぇと………依頼は…………遂行しねぇと。

 

「やはりこの程度か。面白い男だと思っていたのだが見込み違いだったようだな」

 

ディオラが何か言っている。聞こえない。何を言っているんだ。くそっ、意識を、保たねぇと………。

 

「劉斗!劉斗!起きてよ!お願い………」

 

甲高い声が聞こえる。わからない。言葉が分からない。分からないがこれだけは分かる。今、レミリアは………泣いている。泣かせたままじゃ終われねぇ。決めたじゃねぇかよ武御劉斗!俺はあいつの………!!

 

「ハァ………ハァ………」

 

何とか立ち上がれた……でも、戦えるかどうかは別だ。視界は霞むし、左腕には力も入らない。それどころか右の肋骨が何本かイってる。それでも俺は、立ち上がらなきゃならねぇ。ここで漢を通さなきゃ、外で待ってる十六夜が本音を漏らした意味がねぇ!

 

「ふふふ、フハハハハ!!!あれを食らって立つとはな!良い、良いぞ!それでこそ奥義の打ち甲斐があるというものだ!」

 

ディオラは愉しそうに口上を述べた。恐らく、何か来るのだろう。だが今の俺には受けられるほどの余力はない。だから絶対に躱さにゃならん。躱せねば俺は死ぬかもしれない。それでも俺は、目の前の、俺に課したものを達成する。だから持ってくれよ、俺。気を失うな、目を見開け、切っ先を向けているのは見えている。だから、ギリギリで、躱す!!

 

「紅魔神槍!」

 

「!!?」

 

体が、折れた……?!……そうか、意識が、疎らだったから、ラグが、発生……した…の………か。ヤバイ、このままじゃ、おれは……!

 

「劉斗ぉ!!!!」

 

「!!」

 

「!?」

 

理由は定かではない。なぜ、こうなったのかも分からないが俺はディオラの木刀をがっしり掴んでいた。いや、予想はできる。あの声、あいつの声が聞こえたから、掴めたのだ。意識を保てたのだ。なんだ、俺もまだまだ捨てたもんじゃねぇな。

 

「ハァ………ハァ…………」

 

「なぜ………なぜ君は、そこまで。何が、君をそこまで駆り立てる……!!」

 

なぜ?なんでだ?なんでだろう?理由は?ワケは?reason?why?

 

『いいのよ咲夜。どちらにしろ……私に自由なんてないから』

 

『私を……自由にして?』

 

『………ええ、お願い、劉斗』

 

そうだ、俺はあの時………。レミリアが笑った時から……俺は………!!

 

「なぁ………おっさん、知ってるか?………あいつさ、笑ってなかったんだよ。学校にいる時も………十六夜と一緒にいる時も………笑ってなかったんだよ」

 

「…………」

 

ディオラは答えない。それでも俺は言葉を紡ぎ出した。

 

「でも……俺って友達が出来て……外に出てきて…………あいつ、笑ったんだよ。あんたは……最近見てねぇだろ?………あいつの…………笑顔」

 

「………」

 

「それなのにあんたらは……仕事ばかり…………自分の理想を……押し付け、あいつから笑顔を……奪っちまった」

 

「…………!」

 

「あんたさっき聞いたよな………「なぜ立ち上がる」って。俺の答えは………一つだけだ」

 

俺は紡ぎ出す、己に課した、最大の役目を。

 

「俺は………あいつの笑顔を………守りてぇ」

 

「え!?」//////

 

「!?」

 

「だから、俺はあんたに立ち向かう。何度だって立ち上がる。あんたが守れなかったもんを守る為に……!!」

 

俺のこの一言はディオラに衝撃を与えた。目を見開き、3歩ほど後ずさった。これで気付かせることは出来た……かね?あとは……お前次第だぜ……レミリア。

 

「りゅ、劉斗!?あんたなんでそんなボロボロなワケ!?」

 

「お、おおお!!?やばくねぇかあれ!おい、早く救急車呼ばねぇと!」

 

「劉斗さん!?」

 

「劉斗!」

 

霊夢と魔理沙、美鈴に十六夜まで……。そうか、何かしら聞こえてきたのか………。ふはっ、カッコ………つかねぇなぁ……。やべぇ……もう……立てねぇや。

 

俺はそのまま座り込んだ。限界だった。意識を保つのがやっとだった。そんな俺の姿に駆け寄る4人+レミリア。霊夢は何かを叫んで、魔理沙は泣いていて、美鈴と十六夜は俺の名を叫んでいた。レミリアは目の前にいるディオラと対峙していた。

 

「どけレミリア!その男は……!!」

 

「どかないわ!退けばあなたは彼を殺しかねない!そんなこと、させると思う?!」

 

「!!」

 

多分、レミリアの初めての反抗だろう。それを証拠にディオラは驚きを隠せていない。でも、ディオラが強行に出れば俺はやられる。万事休すなのには変わりはない。

 

「もういいではありませんかあなた。もう、十分でしょう?」

 

「「誰?」」

 

廊下の奥から金髪の長い髪をした麗しき女性が現れた。見るからに彼女は多分レミリアの………。

 

「「お母様(ジョーラ)!!」」

 

「もう、貴方ったら若い子をこんなになるまで痛ぶって。其れ相応の覚悟はありますわよね?」

 

「ま、まてジョーラ!こ、この男は……!」

 

ディオラが狼狽えた。畏怖している……のか?まさかマジで?尻に敷かれてるの?あの男が?まさかのとんでも夫人か。

 

「ええ、分かっています。私達の教育に異議を唱えた殿方でしょう?でも、間違っているのは彼ではなく、私達のほうだった、そうでしょうあなた?」

 

「………ぬぅ」

 

ジョーラなる人物は敵ではなくこっち側のようだった。多分俺たちの戦いを見ていたのだろう、こっそりと。趣味が悪いとしか思えん。口に出すと本気で殺されそうだから言わないけど。

 

「お母様……」

 

「レミリア、ごめんなさいね。あなたにあんな無理をさせて。彼が異論を唱えなければ、私達は間違ったままだったわ。本当に………ごめんなさい」

 

レミリアの母ちゃんは泣いていた。反省の涙、というべきだろう。俺の目から見てもわかる。微笑ましい光景じゃねぇか。母が娘を抱きしめて、心から謝ってる。俺が命を張った甲斐があったってもんだぜ。

 

「いっつ……」

 

「大丈夫!?」

 

俺の傷が痛んだことに霊夢が反応した。本気で心配している顔だ。まったく……。

 

「俺は平気だ、肋が何本かヒビ入ってて、左腕の感覚が微妙だし、正直視界もぼやけてるけど平気だ」

 

「平気じゃないじゃないですか!?今すぐ救護班を呼びます!」

 

傷だらけの俺に容赦なくツッコミを入れ、救護班を呼ぶ美鈴。可愛い。気がきく。

 

「……………」

 

「………お父様」

 

レミリアとディオラは対峙していた。これで、この2人が和解できりゃ、終わりだ。あとは、2人に任せようと霊夢と魔理沙に視線を送った。2人は頷き、黙って俺を支えていた。こういう時は気が利くんだよなこいつら。

 

「…………済まなかったな。お前の気持ちまで頭が回っていなかった。私の過失だ。頭を下げてどうこうなる度を超えている。殴ってくれても……構わん」

 

「………そう、じゃあ」

 

レミリアは右手を振りかぶった。ディオラは目を瞑って全てを受け入れようとしていた。だが聞こえたのは破裂音ではなく、レミリアのすすり泣く声だった。ビンタどころか首に手を回して抱き締めていた。

 

「ごめんなさい……!私も………お父様に………!」

 

ふぅ………これは、和解でいいのかな?美しき親子だ。これから先、俺では手に入れられない関係性だ。今の俺には眩しくて目も開けられない………あれ?もう、むり……かも。

 

「劉斗!?」

 

「このタイミングで落ちたぞ!?おい!早く治療してくれ!」

 

 

 

 

 


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