私立幻想学園   作:黒鉄球

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新記伝を差し置いてとか思ってる人いるかもですけどこっちの方が最近楽しくなって来た黒鉄球です。


5話 : 依頼の内容とやるべきこと

絶望的状況とは一体どういうことを言うのだろうか?自分のお気に入りのおもちゃが壊れた時?最後の一口を奪われた時?銃口を向けられた時?様々だろうが俺にとっての今の絶望的状況はどれにも該当しない。なぜなら………。

 

「…………君」

 

「は、はい………」

 

俺の目の前にいる長身のおっさんが、この悪魔みてぇなおっさんが、ディオラ・スカーレットが俺の元にきていると言うのが今の俺にとっての絶望的な状況だからだ。十六夜のやつ、何が1番安全なルートだよ1番危険なルートだったじゃねぇか。

 

 

 

 

ー------20分程前------ー

 

 

 

 

「と、言うわけで協力者の武御劉斗君よ」

 

「………うっす」

 

門を入った所でその影に隠れていた(寝ていた)赤髪の子に挨拶をした。どうやらお嬢様の友達らしく、今回の作戦にも協力してくれている。他にも館内に一人いるらしいが喘息持ちの為出てこれないそうな。

 

「待ってましたよ!いやぁ、咲夜さんが男性を連れて来たときは驚きましたけど確かに彼ならうってつけですね!」

 

満面の笑みで話す赤髪の門番。武器を持っていないところを見ると素手で戦うタイプの門番のようだ。赤髪、武闘家、長髪というとユダを思い出すな。なんかこう、「お前の血で化粧がしたい!」とか言いそう。そんなタイプには見えないが。

 

「今なんか失礼なこと考えてませんでしたか?」

 

こいつは覚かなにかか?まぁ無用な問題は御免被るので首を横に振る。

 

「っと、そんなことしてる場合じゃなかった。咲夜さん、パチュリー様から偽造の書類です。これで彼がいきなり来ても少なくともメイド達にはバレませんよ」

 

「ご苦労様美鈴。事が済んだらパチュリー様にもお礼を言わないとね」

 

十六夜が受け取ったのはどうやら俺が紅魔館で働くための偽造の書類らしい。この用意周到さを見ると十六夜のお嬢様に対する忠誠心が見て取れる。思いすぎて重いんじゃないかと思えるレベルで。つーかいつの間に作ったんだこれ。手が早すぎるだろパチュリーとやら。

 

「はい!それではえーっと……」

 

「………武御劉斗だ」

 

「はい!では劉斗さん、お嬢様をお願いします!」

 

美鈴とやらの言葉を背に、俺は改めて身を引き締めて紅魔館内に入った。

 

 

 

 

 

 

 

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「と、言うわけで今日からここで働く武御劉斗君よ」

 

「………ども」

 

先ほど美鈴とやらに紹介したようにメイド達に紹介された。つか理由おかしいからな。昔からスカーレット家に憧れてて意を決して十六夜に土下座したとか真面目にやめてほしい。ほら見ろよ、一部引いてるじゃねぇか。まぁあまり関係ねぇな。少なくともレミリアお嬢様を救い出した後は少なくともこのメイド達とは関わらねぇからな。

 

「はい、では各自持ち場について」

 

十六夜の一言で散会するメイド達。十六夜自身も外へ出た。後はあいつの指示通りに動くだけだ。

 

「んじゃあ、まぁ、始めますか」

 

 

 

 

 

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そして十六夜の指示通りに歩いていたら最重要人物にして会ってはならない人物、ディオラ・スカーレットに出会ってしまった。ふっ、詰んだな。おい、インカム越しで笑ってんじゃねぇぞ魔理沙この野郎。いつの間にか合流しやがって。

 

「君、見ない顔だが新入りか?」

 

「え、あ、そうっすけど……」

 

咄嗟に敬語が出た。目の前のダンディーなおっさんはそんな俺をマジマジと見て軽く口角を上げた。

 

「ふむ……面白そうな小僧だ。いや、すまんな。従者の雇用はメイド長か妻に任せているので誰がいつ入って来たのか分からんのだよ」

 

ディオラ・スカーレットは表情を変えず、雰囲気を変えず、話した。おい待ておっさんあんた主人だろ把握してろよ。いや、今に関しては助かったけど。

 

「仕事の邪魔をしたな、失礼する」

 

ほっ、どうにか躱せたか。インカム越しでも三人共安堵の声が聞こえてきた。バレなくてほんとよかったわ。

 

「あぁそうだ」

 

「?なんすか?」

 

いきなり話しかけらた為だろう心臓が跳ね上がった。今の声聞かれたのか?

 

「君の名前はなんだ?」

 

なんだよ名前かよ驚かせんなよ。だがここで答えなければ変に怪しまれそうだ。だからおれは堂々と答えた。

 

「武御劉斗」

 

「成る程、劉斗か。覚えておこう。君とは色んなことを語り合いたいものだ」

 

「……そうっすね。俺もそう思いますよ」

 

ディオラ・スカーレットは俺の元を去り、姿が見えなくなったところを確認した上で踵を返し、レミリア・スカーレットのいる部屋へと向かった。

 

 

 

 

 

 

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嵐が過ぎ去ってまた嵐、台風の目とも言える場所、今回の依頼のターゲットたるレミリアお嬢様の自室の前。十六夜によると自力では出られないらしい。何がどうなってそうなっているのかは十六夜自身も不明らしい。

 

「さて、蛇が出るか蛇が出るか分からんがやって見ますかね」

 

俺は三度ノックをして反応を待った。一拍おいて「誰?」と返ってきた。誰、ときたか。落ち着け、落ち着くんだ俺。ここは執事に徹しろ。

 

「新入りの執事っす。お部屋の掃除にあがりました」

 

うむ、我ながら見事な敬語だ素晴らしい。だから笑うな十六夜この野郎。

 

「嫌よ、咲夜を呼んだちょうだい」

 

いきなり断られたよ泣いちゃうよ俺?と言っても分かりきってはいたがな。まぁテキトーにやるか。

 

「メイド長は今別の仕事で手一杯なんだ、ひとまず開けてくれ。じゃないと入れん」

 

しまったタメ語が出ちまった。

 

『何やってんですか劉斗!』

 

「うるせぇなやっちまったもんはしょうがねぇだろ」

 

「あなたは今誰と話してるのかしら?」

 

またまたやっちまった。インカムに話しちまった。………仕方ねぇ。俺一人で勝手に立てたプランBを使うしかねぇ。そうと決まればインカムを外さねぇとな。十六夜にバレたら面倒臭いからな。

 

「なんでもねぇから開けろ。掃除ができん」

 

「あなた、さっきから執事の癖にタメ口なのね。一応私令嬢なのだけれど」

 

やはり突っ込んできたな。でももうこのスタンスは変えん。正面切って話してやる。

 

「知ってる。知ってて使ってる。つかそもそも俺は正式な執事じゃねぇからな」

 

「え?」

 

「俺は十六夜咲夜からの依頼でお前をここから連れ出しにきたただの一生徒だ」

 

俺の作戦、それは単純明快でタダのネタバラシだ。ネタバラシで揺さぶって、論破して、納得させて連れ出す。それがプランB。俺は早速行動に移った。

 

「お前がここに閉じ込められて勉強を強要されてんのは知ってる。理由までは謎だが一先ず助けに来た。だからここを開けろ」

 

「………無理よ。お父様からは逃げられない。ここには監視カメラがあるのよ?自由なんてないの。与えられないの。だから帰ってもらって結構よ」

 

レミリア・スカーレットが語ったのは十六夜と逆の言葉。「救わなくていい」とそう告げるものだった。だが俺は聞き逃さなかった。今こいつは「逃げられない」と言った。これは諦めの言葉だ。つまり、少なからず自由になりたいと思っているという事。ならば俺はとことんそこをつくまでだ。

 

「帰れってそりゃ無理だ。こっちにはこっちの事情があるからな。ここまで来るのに十六夜や美鈴、パチュリーとやらの手を借りてる。だからタダで引き下がるわけにゃいかねぇんだ」

 

「………そんなの知ったことではないわ。あなた達が勝手にやったことよ?私がそこに乗る道理がないわ」

 

成る程正論だ。確かにあいつらが勝手にやったのならそうだ。いい迷惑だ。だがお前の心は逃れたいと、自由になりたいと、お前の口からそう出て来たんだ。だから俺はさらに言葉を繋げる。

 

「そうか、ならお前の話を聞かせろよ」

 

「は?」

 

「いや、だからお前の話を聞かせろよ。逃げるとかじゃなくて単なる世間話。友達がどうとか学校がどうとかの話」

 

「…………ないわよそんなの。私、友達いないし」

 

声のトーンをが変わっていた。落胆するような、すでに諦めてますという声色。間違いなくこいつはここから出たかってる。そして、学園生活を謳歌したいと思ってることも察しがつく。

 

「なら、俺がなってやるよ。友達に。安心しろ、俺は従者じゃねぇから主なんていねぇ。だからお前が[十六夜達に言えなかったことをそのまま言ってもいいぞ?]」

 

だから俺は救いの糸を垂らす。友として、救いの手を出して、その為の手段を取らせる。要は俺を使えと、そう言った。

 

「そう、なら………友達としてお願いするわ」

 

すぅ……っと一呼吸置いて彼女は告げた。

 

「私を……自由にして?」

 

だから俺は力一杯答えた。[腕に巻きつけたロープを振りかざして]。

 

「任せろお嬢様!!」

 

その瞬間、腕を振り下ろし、ドアノブを破壊した。そして、扉の向こうには、すみれ色の髪をした小さな女の子、レミリア・スカーレットが立っていた。

 

「さて、友達たる武御劉斗が来たからにゃお前を全力でこっから出してやる」

 

「………ええ、お願い、劉斗」

 

俺の言葉に、呼応してニコッと微笑むレミリア・スカーレット。その笑顔は何か棘が取れたような、何時ぞやか見た表情とは比べ物にならないくらいの眩しい笑顔がそこにはあった。

 

 

 

 

 


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